ANNOUNCER
私は1年に1度、母を連れて故郷・福井に帰省していました。
自分の都合で母を広島に呼び寄せた以上、福井にいる母のきょうだいに
定期的に会わせてあげることが使命だと思っていたからです。
また、福井に帰ると、母の表情が良くなり、言葉もよく出るようになるという実感も
ありました。
とはいえ、帰省はプレッシャーでもありました。
車いすでの駅の移動、そして電車の乗り降りはスムーズにできるか。
電車の中で体が動かなくなり、トイレに間に合わなかったらどうしよう。
電車の中で急に歩きたい!とか降りたい!と言いだしたら…など不安だらけです。
そのため、トイレや出口に近い席を確保するのはもちろん、
利用する駅に、車いすでの移動であることを前もって伝えるなど、
準備は念入りにしていました。
JRの対応は手厚く、電車の中では車掌が「何かあったらいつでも声をかけてください」と
気遣ってくださり、乗り換えの駅では駅員が私たちの乗る車両の出口で待っていて、
車いすを下ろすのを手伝ってくださいました。
人の親切のありがたさを身に染みて感じました。
一度だけ、横浜にいる姉と日を合わせて帰省したことがあります。
母を温泉に連れて行くためです。
元気な頃、母は温泉が大好きでしたが、
病気になってからは転倒する危険や周りの目を気にして諦めていました。
久しぶりに大きなお風呂に入れてあげたいけれど、私一人の力では難しい。
そこで、母娘3人で入れる大きな家族風呂がある、芦原温泉の宿に泊まることにしたのです。
しかし、いざお風呂に入ろうとすると、母は妄想の症状が強く出てしまい、
「絶対に入りたくない!」と拒絶。
仕方なく、部屋にある小さな風呂場で、姉と二人、シャワーで母の体を洗ってあげました。
介護は子育て同様、思い通りにいかないものですね。
ものすごく残念だったけれど、今となってはいい思い出です。