テレビ派

コーナー紹介

俳句道場

放送日:2017年11月10日(金)

第73回 お題「牡蠣雑炊・牡蠣を食べる美女(馬場アナウンサー)(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
<谷村秀格(たにむらしゅうかく)プロフィール>

句の「スケール感」や句の背後の「詩情の広がりや深さ」を重要視する『宇宙流俳句』のパイオニア。『宇宙流俳句会』主宰。1976年広島県東広島市安芸津町木谷生まれ、同町在住。句歴26年

総評

今回のテーマは「牡蠣雑炊・牡蠣を食べる美女(馬場アナウンサー)(映像を見て)」。
今回の映像の特長は何と言っても「馬場アナの笑顔」でしょう。
今回の選句では、同じようなレベルの句の場合、馬場アナの雰囲気がよく伝わる句を優先してとらせていただきました。
皆さんがおなじみの馬場アナをどうとらえているのか、とても楽しい選句でした。

この俳句道場で、映像から詠む場合のポイントは原則3つあります。
1. 映像から安易に飛躍せず、作者と映像が一体となって詠まれていること。
2. 映像の気分が出ていること。
3. 作者の解説や映像なしに句を詠んでも、詩として成立(自立)していること。

大賞句は、馬場アナの特長(笑顔・人柄のよさ)を的確にところが見事でした。
入賞句は、馬場アナのユニークさを大胆に表現したもので納得の句でした。

特選は原則、映像の気分を上手くとらえたもの・飛躍しつつも句として芸術性の高いもの。
入選Aは原則、映像の気分を伝えるような句。
入選Bは原則、思いがやや先行しすぎた句、句の自立「上記3」が弱い句。
選外は、飛躍のしずぎ、気分に乏しいもの、などとしました。

前回「句はそれだけを詠んでも通じることが大事」と重ねて書かせていただいたのですが、皆さんそのアドバイスをよく踏まえていただいており、「馬場アナ」など固有名詞(名前)を入れた句が少なかったこともうれしく思いました。

ご投句いただいた皆さま、放送をご覧いただいた皆さま、どうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の感性を磨く機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。
どなた様も「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからお気軽にご応募ください!

大賞

「牡蠣かおる空いっぱいの恵比須顔」(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 37歳)

「牡蠣」は冬の季語。
「恵比寿顔」は恵比寿様のようににこにこした顔。
「牡蠣雑炊」を食べている馬場アナウンサーの幸福感を「空いっぱいの恵比寿顔」であますところなく伝えてあるところが見事。
馬場アナのうれしそうな表情を「笑顔」と詠んだ句は多くあったが、「恵比寿顔」と詠んだのはこの句だけ。
こう詠むことで、笑顔以上に福福しいおめでたい感じもイメージされてきて、喜びが存分に伝わる。
句だけを鑑賞したとしても、その豊かな冬の味覚の喜びが景気よく感じ取れてくる。
映像の気分を上手く伝えた一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
直接的表現(笑顔)をさけ、味わいのある表現(恵比寿顔)を。

入賞

「美女アナの海ごとすくう牡蠣雑炊」(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

しっかりした句で、句だけを鑑賞したとしても成立している。
何より「海ごとすくう」の大胆さがいい。
当然のことながら「レンゲですくう」ではあたり前で詩にならない。
馬場アナウンサーの美貌・笑顔からは想像もつかないおおらかなキャラクターを、「海ごとすくう」で見事に伝えており、見事である。
「美女」が「牡蠣」を夢中で頬張るそのギャップ。
そうさせてしまう「牡蠣雑炊」のおいしさ。
大賞句と同様、映像の気分をよく伝える一句である。
ただし馬場アナが「美女」なのは違いないのだが、句で直接言われると色が濃く出すぎた写真のように感じるので、ここは「女子アナ」くらいにしておきたい。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
あたり前を詠まない。大胆に詠む。

広島俳句名人詠(無鑑査) ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメント(※印)とともにご紹介(→は選者評)。

・冬めくや美女の頬張る漁師飯(ペンネーム「あや」さん)
※少し早い季語だけど寒い方が雑炊は美味しいから。
→「冬めく・美女」の取り合わせがよく合っていて美しい。また「冬めくや」の切れもキレイにひびいている。「美女・頬張る」というギャップを印象的に詠んでいる一句。

・フツフツとみなぎる空や鍋の牡蠣(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
※牡蠣雑炊を囲みフツフツと湧く鍋と気持ちを句に込めました。
→こう詠むからこそあたり一面が湧き上がるような気分が出てきて詩になるのである。「鍋が湧く」のではあたり前で詩にならないということが分かっている上手い一句。

入選句

特選

・鍋ひらく湯気の向こうに牡蠣美人(ペンネーム「コンスタンチン」さん 11歳)
→馬場アナを詠んだ句。湯気にゆらめく美人とは気分の出たいい句である。ただし「牡蠣美人」は造語と思われるので、「女子アナや湯気の向こうの牡蠣雑炊」など、誰にでも伝わる表現にしたい。次回も挑戦を!

・牡蠣雑炊鼻腔漂う瀬戸の海(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
→「牡蠣雑炊」の匂いを味わっている先に海が感じられたきたという句。大きく詠んでいて気分がよく出ている。この方向で!

・牡蠣鍋や潮の香満ちる山の家(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
→山あいの地域で食べる牡蠣鍋の気分を詠んだ句。「海・山」と対比がやや直接的過ぎるので、「牡蠣鍋や潮の香満ちる里の家」などでは。次回はさらに映像の特長を掴んだ句を期待したい。

・牡蠣の香や母の柔らかき曲線(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→母親としての馬場アナを詠んだ句であろう。色気のある句である。惜しいのは全体的に散文的(中途半端な省略)なリズムであるところ。「牡蠣の香の柔らかなりし母の影」など、まずは定型に即してしっかりと詠みたい。次回も挑戦を!

・カキ雑炊鍋の底から勝ち上がり(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→下五が独特の面白い把握である。煮えたぎる「カキ雑炊」の気分の句と思われる。このような自分の世界を詠ってほしい方である。

・牡蠣雑炊ひとりじめするお母さん(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→馬場アナがおいしそうに食べる様子を詠んだ句であろう。お母さんの「やさしさ・食欲」という反する気分を一句の中で上手く詠んだ。

・カキ雑炊飲み込むほどに小春かな(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→「カキ雑炊」を食べるほどに「小春日和」を感じるという句でる。「カキ雑炊」によって幸福感が広がる様子を「小春」に託して上手く伝えている。

・牡蠣雑炊湯気から覗く笑顔かな(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
→意外に目に入らない「湯気」に着目したところがいい。「湯気」の向こうに浮かぶ「笑顔」、あたたかな鍋の気分が伝わってくる。

・立ち昇る牡蠣雑炊の湯気旨し(ペンネーム「⑦パパ」さん 61歳)
→「湯気」を味わったのがお見事。たしかに「湯気」までおいしそうな映像である。どことなく食す前の臨場感というものも感じ取れる。ただし俳句は寄物陳思(モノに寄せて思いを述べる)なので、「旨し」など気持ちを直接のべる表現は原則さけたい。「牡蠣雑炊湯気のはりつく鼻の先」など。次回も挑戦を!

・牡蠣雑炊世界を平和にする笑顔(ペンネーム「是多」さん 63歳)
→映像の気分を大きくとらえたのびやかな気分の感じられる句である。中七は少し観念的なのでモノに託して詠むようにしたい。次回も挑戦を!

・大鍋の牡蠣は膨やかなりにけり(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
→映像の大きな「牡蠣」を詠んだ句。「牡蠣」にポイントを絞ったゆったりとした詠み方に、のびやかな気分がよく出ている。

・乳白の牡蠣に映りし安芸の海(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→「牡蠣」の色に着目した句。大きな把握がのびやかな句である。「~に~する」という詠み方が説明的で惜しいので「乳色の牡蠣ふるえだす安芸の海」くらいに。次回も挑戦を!

・牡蠣雑炊箸でまさぐる少女かな(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→馬場アナの若々しさを詠んだ句。「少女」という把握が大胆な一方、「雑炊・箸」の関係が平凡で惜しかった。「牡蠣雑炊海をまさぐる少女かな」くらい飛躍したい。次回も挑戦を!

・ほろ酔いの牡蠣雑炊や写楽顔(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→馬場アナが「牡蠣」を熱がる様子を詠んだ句であろう。「ほろ酔い」と「写楽顔」の対比が面白い。この方向で。

入選A ※下線部が感情・心情・説明・演説・直接、などの惜しい表現。

・ひと呼吸牡蠣を丸ごといただきます(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・ふっくらと浮かんで見える牡蠣雑炊(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
口福に浸る磯の香カキ雑炊(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)
・鍋底の牡蠣刮ぎ取る蓮華かな(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・牡蠣鍋の湯気濛々と支度部屋(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
・女子アナもお目々無くなる牡蠣おじや(ペンネーム「日向ぼっこ」さん 47歳)
・女子アナの目尻物言う牡蠣雑炊(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 52歳)
・休日の天女ほころぶ牡蠣の鍋(ペンネーム「クローバー」さん 53歳)
ふうふうとレンゲの牡蠣とにらめっこ(ペンネーム「「雅」みやび」さん 54歳)
・熱々の牡蠣鍋食べてぽっかぽか(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 55歳)
・鍋食らひイルミのごとく点灯る顔(ペンネーム「ダメじゃろ」さん 56歳)
・牡蠣船や遠きあの日の宇宙船(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・背を丸め馴染みし海の牡蠣雑炊(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・妻の盛る舌にも熱き牡蠣雑炊(ペンネーム「安田蝸牛」さん 61歳)
・牡蠣鍋でほかほか笑顔冬の夜(ペンネーム「バーガーとうちゃん」さん 62歳)
・雑炊やはひはひはひと牡蠣を食ふ(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・牡蠣鍋に冬将軍も舌づつみ(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
美味しさに満面の笑みカキ雑炊(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・熱熱の笑顔笑顔やカキ雑炊(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・鍋囲む一家団欒日曜日(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
・女子アナの覗く雑炊かき筏(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・牡蠣食らう湯気の向こうに冷たき手(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・なべ物のふたあけ笑顔食いざかり(ペンネーム「田島」さん 81歳)
・牡蠣雑炊出され女子アナ声をあぐ(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)

入選B ※下線部が感情・心情・説明・演説・直接、などの惜しい表現。

・牡蠣鍋や寒さ吹き飛ぶおいしさよ(ペンネーム「you」さん 10歳)
・寄せ鍋のつみれ頬張る熱さかな(ペンネーム「きたぴい」さん 33歳)
雑炊だ五臓六腑に染み渡る(ペンネーム「武相乱」さん 42歳)
・鍋囲み心も体も温まる(ペンネーム「叔父ちゃん」さん 44歳)
年忘れ宴の後の牡蠣雑炊(ペンネーム「山きよ」さん 54歳)
・牡蠣雑炊湯気幸せに頬包む(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・かき小屋で笑みレポ映える食の秋(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
声も出ず至福のひとときかき雑炊(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
水菜去り美女が見えると牡蠣がいう(ペンネーム「ひなじいさん」さん 63歳)
・秋の夜ナベをかこんであたたまる(ペンネーム「DIYじじ」さん 65歳)
・北海道古希の祝いは牡蠣鍋で(ペンネーム「八重桜」さん 67歳)
・立冬や牡蠣鍋準備子らを待つ(ペンネーム「さくら」さん 68歳)
・一人鍋テレビに突っ込む猫膝に(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・カキ舟に鍋音見合ふ老夫婦(ペンネーム「おちえもん」さん 70歳)
・孫たちと古希の祝い牡蠣鍋(ペンネーム「キートン」さん 70歳)
・子だくさん虎視眈々と鍋囲む(ペンネーム「明生」さん 71歳)
・おかえりと牡蠣雑炊の我が家かな(ペンネーム「めがねバーバ」さん 72歳)
・ふうふうとカキ雑炊を啜りけり(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・かき雑炊郷愁そそる夕餉かな(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
目瞑れば牡蠣雑炊の熱き声(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・ボランティア独居の人らと牡蠣雑炊(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・湯気の中雪娘喰う名物の鍋(ペンネーム「ワイ」さん)

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

・牡蠣食へば金がなくなり号泣し(ペンネーム「かすくん」さん 45歳)
→やられたという感じの句。かの有名な句のパロディか。ここまで意図的にユニー句をつくられるとは。。。俳句でははじめから面
白く詠もうとしないこと。面白味は結果としてついてくるものと心得たいところ。

・牡蠣鍋や湯気立ち上る玉手箱(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→「湯気・玉手箱」の連想の句。鍋蓋をとるだけで一気に年を取ってしまっては、これまた困ったものである。まさしくユニーク。

・君いずこしめの雑炊牡蠣さがす(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
→相手を探す様子と牡蠣を探す様子をかけたものか。素朴なユニー句である。

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年11月3日(金)

第72回 お題「呉の出店(期間限定カフェテリア・KURE TERIA)(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
<谷村秀格(たにむらしゅうかく)プロフィール>

句の「スケール感」や句の背後の「詩情の広がりや深さ」を重要視する『宇宙流俳句』のパイオニア。『宇宙流俳句会』主宰。1976年広島県東広島市安芸津町木谷生まれ、同町在住。句歴26年

総評

今回のテーマは「呉の出店(期間限定カフェテリア・「KURE TERIA」)(映像を見て)」。
「KURE TERIA」は誰もが集い憩え楽しめるをテーマに、10月15日~1月12日(10:00~20:00)、楓橋周辺に移動式店舗が出店されるもの。
実際には週末の出店が多いようです。
今回は、お題の映像のポイントが絞られていないため、少し詠みにくく苦戦されたようですが、皆さんなかなか頑張って下さいました。

この俳句道場で、映像から詠む場合のポイントは原則3つあります。
1. 映像から安易に飛躍せず、作者と映像が一体となって詠まれていること。
2. 映像の気分が出ていること。
3. 作者の解説や映像なしに句を詠んでも、詩として成立(自立)していること。

大賞句は、クレ・テリアの魅力をコマーシャルのように端的にあますところなく伝えているところがお見事でした。
入賞句は、今回のお題に初めて音の情報が入っていることに着目して、その映像の雰囲気を親しみやすく伝えているところがお見事でした。

特選は原則、映像の気分を上手くとらえたもの・飛躍しつつも句として芸術性の高いもの。
入選Aは原則、映像の気分を伝えるような句。
入選Bは原則、思いがやや先行しすぎた句、句の自立「上記3」が弱い句。
選外は、飛躍のしすぎ、気分に乏しいもの、などとしました。

今回はそこまで厳しくはしていませんが、上記3にもありますように、句はそれだけを詠んでも通じることが大事ですから、その土地でしか通用しない「クレ・テリア」などの固有名詞は、できればさけて「カフェテリア」などと詠むほうがいいでしょう。
今後の参考にしてください。

ご投句いただいた皆さま、放送をご覧いただいた皆さま、どうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の感性を磨く機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。
どなた様も「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからお気軽にご応募ください!

大賞

「冬凪や星と語らうクレテリア」(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)

実際の「クレテリア」の営業時間は、いわゆるラーメンの屋台のように夕方~深夜の営業ではなく20:00までとのこと。
お題が夜の映像であったので、そう詠まれたのであろう。
日没以降の句と解釈すれば違和感はない。
実際仕事帰りなどに寄って帰られる人も多かろう。
この句のよさは「クレテリア」の開催時期・開催場所だけでなく、その魅力を美しくわかりやすく伝えているところ。
「冬凪」は、「風のやんだ冬の海の穏やかな時の様子」を表す季語であるが、これによって、「クレテリア」の開催時期や開催場所(海辺の街)などが自然とイメージされてくる。
「星と語らう」も、類想のありそうなメルヘンチックな表現であるが、これによって、食べるだけでなく、街や空の雰囲気も楽しめますよという「クレテリア」の魅力が詩的に伝わってくるし、オシャレな移動式店舗の雰囲気にもよく合っている。
さらに、「凪・語り合う」などから心理的な穏やかさ暖かさなども感じ取れてくる。
しいて言えば、「クレテリア」はその場所でしか伝わらない言葉なので、全世界の誰が読んでも伝わるように素直に「カフェテリア」としたい。
映像の気分のよく出た一句です。
大賞おめでとうございます。
次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
今・ここでしか通じないかもしれない言葉はできるだけ避ける。

入賞

「冬近しおやじバンドのテラス席」(ペンネーム「クローバー」さん 53歳)

幾度か映像のお題を出しているが、今回初めて音楽が流れた。
そこに見事に気づいていただき、そのクレテリアの気分を親しみやすく詠みあげた手腕に脱帽。
映像からは奏者がプロなのかアマチュアなのかまではわからないので、そこに他意はない。
「冬近し」という季節感も手伝って、クレ・テリアの時期もよくわかるし、その秋の輝きが失われてゆく季節感と、「おやじバンド」という元気いっぱいのイメージの対比が、句におかしさ・楽しさを生み出している。
映像と見事に一体となった、ジャズシーンの雰囲気のよく出た句で、さむいけれど、少し「クレ・テリア」に寄って帰ろうかなという気にさせてくれる一句である。
入賞おめでとうございます。
次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
季語のイメージにもたれず、対比を効かせる。

広島俳句名人詠(無鑑査) ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメント(※印)とともにご紹介(→は選者評)。

・傾国のトロンボーンが月を吐く(ペンネーム「あや」さん)
※映像のトロンボーンに何かこんな雰囲気を感じたので。奏者はみんなイケメンに見える罠。
→「~の~が~を~する」と説明的なところが少々惜しいが名人らしい詩的な世界。次回は映像の気分の伝わる句も期待したい。

入選句

特選

・月光に背中を押されくじ引きす(ペンネーム「you」さん 10歳)
→カフェテリアというよりも屋台の雰囲気で詠んだ句。上五中七の実感が魅力的。この調子で大胆に詠んでほしい。

・呉テリアペダル漕ぎ去る受験生(ペンネーム「ルビー」さん18歳)
→学校の多い呉のイメージがよくでている。しかし「受験生なのでクレテリアに寄らずに帰る」などと、すぐに意図が見えるのが惜しい。俳句は短く説明するものではなく「感じさせる」もの。次回はさらに映像の気分の出た句を期待したい。

・工廠の夜長色めくカフェテリア(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 37歳)
→「工廠(こうしょう)」とは、軍隊直属の軍需工場のこと。なんとなく呉っぽい句であるが、「工廠・カフェテリア」はどうも兄弟喧嘩である。カフェテリアの気分をもっと伝えるように詠んでみたい。次回も挑戦を!

・帰り道カフェにふわりと秋の蝶(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→俳句は何かを演説するものではないということが分かってきた方。しかしてこの句は上五が平凡で惜しい。類想もありそうであるが「カフェテリアかぶさるように秋の蝶」くらいか。次回はさらに映像の気分が感じられる句を期待したい。

・カフェテリア三百六十度秋飲み干せば(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→戸外のカフェテリアの気分を見事に伝える句である。これでよい。次回も映像の気分の感じられる句を期待したい。

・軍港の鉄の匂ひや牡蠣シチュー(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
→上手い。いわゆる他の句会などではもっと上位にきそうな方である。しかして私見では「軍と鉄」「鉄と匂」「匂と料理」など全体的につきすぎで惜しい。その分「理解」はしやすいが、芸術としてもっと「感じさせる」方向にシフトしてほしい。また仮名遣いであるが、私見では俳句は現在使われ将来も使われるであろう表記を採用して不足はないはずなので、できれば現代仮名遣いをお勧めしたい。

・パンプスに秋風抜けるカフェテリア(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「カフェテリア」の足元への着目。女性ならではの視点であろうか面白い。次回はさらに映像の気分の感じられる句を期待したい。

・軍港のいざなうジャズや星月夜(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→映像とともに味わえば気分のよく伝わる句なのであるが、句だけを詠むと「星月夜・軍港・ジャズ」の関連性が感じられず惜しい。そのあたりを攻めてほしい。「カフェテリアジャズのいざなう星月夜」など。

・帰り道 「枯葉」奏でる秋北斗(ペンネーム「西区のぺんぺん草」さん 54歳)
→なかなか上手い句である。「帰り道」は説明的なので避けたい。「カフェテリアジャズ溢れ出す秋北斗」など。この調子で。次回も挑戦を!

・移動カフェまどろむ釣瓶落としかな(ペンネーム「すずらん村。」さん 55歳)
→これでよい。俳句は何かを説明するものではないということが分かってきた方。次回はさらに気分の出た句を期待したい。

・口いっぱい海を頬張るかき小町(ペンネーム「(7)パパ」さん 61歳)
→「口いっぱい海を頬張る」が素晴らしい。「口いっぱい牡蠣を頬張る」では詩にならない。下五の品種名が全国的に伝わるかといわれば難しいところなので「口いっぱい海を頬張り牡蠣喰らう」「口いっぱい海を頬張り安芸の牡蠣」くらいか。後者だと海中の牡蠣ともとれるが句にはなっている。いずれにしてもこの詩心を大切に。次回も挑戦を!

・欄干にもたれ出店の温め酒(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→カフェテリアというよりも屋台のイメージで詠んだ句のようである。惜しいのはやはり少し平凡になってしまったところ。次回も挑戦を!次回はそのあたりを気をつけたい。

・ほろ酔いの屋台の客や冬隣(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→こちらも屋台の気分で詠まれた句。惜しいのはこちらもやはり少し平凡になってしまったところ。次回も挑戦を!

・立ち食いの足元見れば秋の星(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「足元見れば秋の星」これが素晴らしい。カフェテリアの楽しさや明るさがあちこちに広がっているようである。こういう実感を大切にしたい。「~すれば」と説明的なところは気をつけたい。次回も挑戦を!

・秋灯の汽笛紛れるカフェテリア(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→全体的にどうも平凡で大人しいところが惜しいが、「カフェテリア」の人々の声に紛れる「汽笛」という聴覚情報と、周辺のイメージと思われる「秋灯」という視覚情報が醸し出す夜のムードが満点である。この方向で。

・舌に牡蠣転がす呉のカフェテリア(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→「舌・牡蠣」の関係性が平凡なところが惜しいが上手い詠み方である。地名の入れ方が直接的であるが旅行時に詠んだ句のようで悪くはない。

・カフェテリア会社帰りの新酒かな(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)
→一杯ひっかけてという感じの句で面白い。しかしこうなるとカフェテリアより屋台を詠んだほうが気分が出そうでもある。次回はもっと映像の気分の出た句を期待したい。

入選A

・サラリーマン屋台楽しむ暮れの秋(ペンネーム「叔父ちゃん」さん 44歳)
・秋の夜に人集い街暖める(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)
・嬢ちゃんがパパを手伝う文化の日(ペンネーム「かすくん」さん 45歳)
・ジヤズ色の香ばしき風冬隣(ペンネーム「日向ぼっこ」さん 47歳)
・みのむし揺れる北風のクラリネット(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・月煙りネクタイゆるむ屋台席(ペンネーム「雅「みやび」」さん 54歳)
・秋の夜に静かに集うクレテリア(ペンネーム「山きよ」さん 54歳)
・秋深しコーヒー香るカフェテリア(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・サックスの深き味しむおでん食ふ(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・軍港の栄華を偲ぶ呉テリア(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
・夜店の灯言葉やり取り牡蠣を買う(ペンネーム「さくら」さん 68歳)
・寒空に空腹満たす夜店かな(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・カフェテラスおでんコーヒー潮の香と(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・寒月夜おでん片手にジャズに揺れ(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
・さそわれて灯かりに集う秋の暮れ(ペンネーム「めがねバーバ」さん 72歳)
・海軍のカレー楽しむカフェテラス(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・妻の味カフェテリアに集う秋(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・霜月やぬくもり度増す呉テリア(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・クレテリア試食つまむやかき小町(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

入選B

・おいしいカフェテリアはみんなが大勢、集まるよ(ペンネーム「あーちゃん」さん 16歳)
・暗やみに浮かぶ灯りはホタルかな(ペンネーム「やすから」さん 37歳)
・暗がりのトランペットや牡蠣爆ぜる(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・真夜中に歌う旅人店を出る(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・ラーメンの出店が並ぶ街の影(ペンネーム「武相乱」さん 42歳)
・山眠るラストオーダーたづぬかな(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・より道を誘う焼がき港の灯(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
・木枯らしの屋台の灯々の温かさ(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 52歳)
・出店にはついつい財布の紐緩む(^o^)(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・灯も映えて人肌恋し暮れる秋(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・ハフハフと食べる広島牡蠣旨し(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
・一等は大和の模型秋祭(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・なんにでも七味振りたりそぞろ寒(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・晩秋に屋台恋しや 人集う(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・孫連れて思いも掛けずカフェテリア(ペンネーム「ひなじいさん」さん 63歳)
・すがる虫試食をせぶる浜訛り(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
・秋の旬 足を止めさす 呉の町(ペンネーム「DIYじじ」さん 65歳)
・くれの秋笑顔いっぱいのおもてなし(ペンネーム「くればあ」さん 65歳)
・肌寒やつめて寄つてよ呉屋台(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・売れ残り出店の声や天高し(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・寒風に博多の屋台末席そっと(ペンネーム「グラングラン」さん 69歳)
・秋日和うまいでがんす海自カレー(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・夫誘ふ人出恋しき秋の暮れ(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
・秋の呉音と臭いに吸い込まれ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・ファンファーレ夕べの友は牡蠣の声(ペンネーム「ワイ」さん)
・したわしや踊り屋台の火灯し(ペンネーム「賀茂の鶴より」さん)

放送日:2017年10月27日(金)

第71回 お題「雨の球場で応援するカープファン(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「雨の球場で応援するカープファン(映像を見て)」。
クライマックスシリーズは、カープのファンの方々にとっては残念な結果でしたが、これからも皆さんで変わらず熱く応援してまいりましょう。

さて俳句ですが、道場の「映像をみて句を詠む」というスタンスが大変な好評をいただき、最近毎回のように新しい方からの投句を頂いていますが、今回は前回に増して新しい方からのご応募をいただき、当然句数も多くうれしい悲鳴でした。
広島の皆さま方に、回を重ねるごとに俳句に興味をもってもらえ、うれしく思います。
一方で俳句は「奥深いもの」ですから、年季がいります。
思い立ったが吉日、この道場のように毎週のように選評がもらえる場は非常に少ないので、目先の結果に一喜一憂することなく、この場をぜひ活かしていただければ幸いです。
上位に来た皆さんも惜しかった皆さんも、特選以上の句を選評とともに味わっていただけば、参考にろうかと思います。

この俳句道場で、映像から詠む場合のポイントは原則3つあります。
1. 映像から安易に飛躍せず、作者と映像が一体となって詠まれていること。
2. 映像の気分が出ていること。
3. 作者の解説や映像なしに句を詠んでも、詩として成立(自立)していること。

今回の大賞句は、他の多くの句がファンの皆さんの背中側からの風景を詠んでいる中、選手目線でファンの皆さんの顔を見て詠んでいるという視点が秀逸でした。
いわば、ファンの先にいる選手の気分になり、選手と一体となって詠んだという「上記1」を体現した点が光りました。
入賞句は、映像を多くの人とは少し違った解釈で受け止めた明るさが心地よい句でした。

特選は原則、映像の気分を上手くとらえたもの・飛躍しつつも句として芸術性の高いもの。
入選Aは原則、映像の気分を伝えるような句。
入選Bは原則、思いがやや先行しすぎた句、句の自立「上記3」が弱い句。
選外は、飛躍のしずぎ、気分に乏しいもの、などとしました。
なお今回は大変気持ちのこもった句が多かったため、選外を少なくし、入選A・Bの句をやや多めにとりました。

ご投句いただいた皆さま、放送をご覧いただいた皆さま、どうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の感性を磨く機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。
どなた様も「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからお気軽にご応募ください!

大賞

「秋雨やエース見上げる赤合羽」(ペンネーム「クローバー」さん 53歳)

作者によると、カープの薮田投手がインタビューで「全国どこの球場に行っても、まるでホームかと思う応援ありがとうございます」と言われたのを聞いて、「選手も客席をよく見ているのだな」と思い詠んだ句とのこと。
総評でも書いたが、多くがファンの皆さんの背中側からの風景を詠んでいる中、その先にいる投手と一体となり、投手の気持ちになって、投手の目線で句を詠んだところがとにかく光った一句である。
秋雨の球場にもかかわらず、三万人のファンが赤の合羽を纏って一心に応援する様子。
秋雨はどこかもの悲しい気分でもあるので、思い通りに運ばない試合ともイメージされる。
句からは、選手・ファンが一体となって戦っているという球場の臨場感がありありと伝わってくる。
多くのファンを直接詠むのではなく、ファンの目線(心)が集中しているエースを象徴的に詠むことで、映像全てと一体になるという詠み方。
映像を見ないで句だけを味ったとしても、季節だけでなくマツダスタジアムという場所・状況・気分などが過不足なく伝わってくる見事に自立した句である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
視点を変える。

入賞

「秋黴雨真っ赤にけぶる野球場」(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)

「秋黴雨(あきついり)」とは、秋の長雨に入ること。
梅雨のように長く降り続く秋の雨のことを言う。
時間性・持続性を感じさせる秋の季語にからめて、やや俯瞰的な立ち位置で赤い球場を詠むことで、目先の結果にとらわれず末永くチームを応援しているという、カープファンたちの「炭火のような情熱のようなもの」が、句の気分から感じ取れてきて共感を誘う。
この句の上手さは、上記のように、直接的な表現をさけ、一歩引いて抑制的に詠んであるところ。灯台下暗しの反対ではないが、そういう立ち位置で詠むことで、逆にその全体像や本質をつかむことができたよい例である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
時間性を生かす。抑制を効かせる。少し対象と距離をとる。

広島俳句名人詠(無鑑査) ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメント(※印)とともにご紹介(→は選者評)。

・秋雨の球場照らすカープファン(ペンネーム「あや」さん 49歳)
※雨のせいで雨具の赤一色。スタンドが発光しているようにみえました。
→「照らす」が効いている。これによって主役は選手だけでもカープファンだけでもない。すべてが主役というような気分が伝わってきて楽しい。気分の出た一句である。

・秋雨やうたれて耐えるカープファン(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
※雨に耐えながら再開を待つカープファンの姿が、打たれても逆転のカープを信じて耐えるカープファンと重ねて句にしました。
→「秋雨」にモノ悲しさのイメージがあるので「耐える」まで言ってしまうとやや重たいか。しかしながら「うたれて」があちらこちらに響く作り、すなわち言葉が働いたおり、さすがである。

入選句

特選

・カープファン色なき風に声嗄らす(ペンネーム「コンスタンチン」さん 11歳)
→中七あたりの心情表出が見事な句である。この方向でよい。

・秋雨や打たれ佇むカープ女子(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→負け試合であろうか。もの悲しい気分はよく出ている上手い句であるが、すべて同じような陰のイメージで構成され、飛躍に乏しいのが惜しい。

・秋雨や土の香孕む野球場(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→負けて土を握りしめるようなイメージであろうか。「土・野球場」の関係がややつきすぎで惜しいが、雨の試合の気分は出ている。

・雨の中胸張りて飛ぶ赤とんぼ(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)
→映像から飛躍しているのが惜しい。「胸張りて飛ぶ赤とんぼ」などの句について、擬人法だの比喩だのを持ち出さないと落ち着かない先生や大人も多いが、そんなものを持ち出さなくても胸を張っているものは張っているのである。もの悲しいイメージが強い秋に、いきいきとした詩情を吹き込んだ楽しい句である。次回は映像の気分の出た句を期待したい。

・カープファン雨の向こうに星月夜(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→雨の向こうは見えないだけで美しい世界が広がっているという少し説明的・理屈っぽいところが惜しいが、ファンの願いや心境を上手くとらえた一句。

・八回裏二死満塁や冬隣(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
→試合に比して「冬隣」とはあまり想像したくないさむざむとしたイメージである。世の中には句に書かれた出来事に共感できるかどうかで評価する向きもあるが、大事なのは句表面の言葉がどういう効果をもたらしているかである。その意味で試合の緊迫感や緊張感がよく伝わる上手い一句。

・秋霖へ三万人の応援歌(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→スケールの大きな映像の気分の出た句で上手い。この方向で。

・どしゃぶりに声加速するスタジアム(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→「ごはんが進む」「土俵は時間」も素直に読み取ればおかしな表現だが、それが示している事情は誰にでも理解できる。掲句も語と語の関係性が奇妙であるが、試合の事情や気分がよく伝わる。これでいいのである。無意識からの実感を大切に。

・秋色の不夜城と化すスタジアム(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 52歳)
→「化す」と説明してしまって惜しかったが個性的な把握をかう。盛り上がっているだけでなく思い通りならない試合展開に、球場全体が不穏な空気に包まれているような気分も感じ取れる。この方向で。

・球音と声援響く秋の雨(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→「声援・響く」が少々直接的というかイメージの重なりで惜しい。しかし映像の気分が素直に出ている無理のない句である。「秋の雨声援しみる野球場」などとすると「しみる」がいろいろに解釈できて言葉が働き、句の象徴性が増しそうである。

・球場に降る歓声と秋雨と(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→「降る・秋雨」が少々つきすぎであるが素材はそこまで悪くない。舌頭千転。「秋雨や歓声の降る野球場」などのほうが座りがよさそうである。

・秋雨に咲く紅のユニホーム(ペンネーム「イブババ」さん 62歳)
→映像の気分のよくでた詩情のある美しい句で見事。この方向で。新しいお名前の方であるが期待したい。

・どしゃぶりの球場真赤に燃える秋(ペンネーム「益田さん」さん 62歳)
→「雨・燃える」の対比が面白く詩情を醸し出している。惜しいのは少し表現が直接的過ぎること。もう少し抑制を効かせて詠んでみたい。「ファンの熱烈な気分がよく出ている。この方向で。

・秋霖やにわかの友とハイタッチ(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
→映像の気分というには少し飛躍しているが、「秋霖」という秋の長雨の少し寂し気なイメージと、「ハイタッチ」という明るいイメージの陰陽の対比がいい。映像を必要以上に深刻にとらえず、軽やかに解釈したあかぬけた一句である。

・球審の挙げた右手や白驟雨(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→映像からやや飛躍してはいるが象徴的なうまい句である。「挙げた」より「挙げる」と現在形を選択するほうが臨場感が出そうである。次回はもう少し映像寄りの句を期待したい。

入選A

・秋雨や蒼ざめてゆく赤合羽(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
・秋雨に負けぬ真っ赤なカープ愛(ペンネーム「くろみつきなこ」さん 30歳)
・雨降って絆深まる鯉酒場(ペンネーム「ねーぽん」さん 37歳)
・秋の波ズムスタ赤く大アーチ(ペンネーム「べーさん」さん 38歳)
・鯉跳ねて霞まぬ声援秋の雨(ペンネーム「かなせのせなか」さん 40歳)
・鯉泳ぐ豪雨と共にカープファン(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・秋雨の中の応援霞たつ(ペンネーム「りかぽんた」さん 43歳)
・秋の大風止む前の試合果つ(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・打ち上げてナイター照明に時雨(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・秋の暮照明濡れるスタジアム(ペンネーム「雅「みやび」」さん 54歳)
・雨将軍馳せ参じたる秋の陣(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・秋雨の音の匂いやカープ球場(ペンネーム「すずらん村。」さん 55歳)
・秋時雨赤い坩堝のスタジアム(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・あきの暮れ浜はいっきに たそがれる(ペンネーム「タコおやじ」さん 61歳)
・秋雨の夜に浮かんだスタジアム(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・秋雨の夜祭りと化すマツダスタ(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
・雨ふれどまっかにそまるスタジアム(ペンネーム「DIYじじ」さん 65歳)
・秋雨に声も震える応援歌(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
・歓声が冷たき雨を打ち返す(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・秋深し応援あふるカープ球場(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
・赤合羽球場揺れる秋つづく(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・秋雨や熱い応援カープファン(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・声援をバットに乗せて秋時雨(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・腹いっぱい染めるスタンド紅葉雨(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・カ−プ女子の真っ赤に染める夏合羽(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・赤ヘルのエールに秋の雨光る(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)

入選B

・秋雨や燃える赤ヘル負けぬ汗(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・雨の試合中止になった後悔よ。(ペンネーム「柿澤仁誠」さん 15歳)
・鯉の白荼赤火は雨にも煙らぬ(ペンネーム「鯉に恋する乙女」さん 18歳)
・秋雨や降れど消せぬは赤い火よ(ペンネーム「やすから」さん 37歳)
・秋雨や燃ゆる紅葉はユニフォーム(ペンネーム「チャタロウ」さん 39歳)
・取り出す合羽赤赤カープ戦(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・秋雨の強さに勝る赤き声(ペンネーム「紫音」さん 39歳)
・秋雨の真っ赤に染まる勝利のシャワー(ペンネーム「かえでちゃん」さん 40歳)
・球場に無情の雨が降りしきり(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・秋雨と汗と涙と嬉し泣き(ペンネーム「なっほー♪」さん 41歳)
・食欲の秋勝欲の赤熱い(ペンネーム「ねずみ」さん 41歳)
・かかってこい雨も雷も敵じゃない(ペンネーム「ベーキングパウダー」さん 41歳)
・熱気が雨跳ね返すパワー紅葉山(ペンネーム「メカニズム」さん 41歳)
・雨降れど紅葉も鯉も変わらない(ペンネーム「レーサー」さん 41歳)
・天候に左右されない熱い鯉(ペンネーム「往復はがき」さん 41歳)
・鳴り響く轟音と共にカープファン(ペンネーム「武相乱」さん 42歳)
・秋深し雨の応援、日本一(ペンネーム「叔父ちゃん。」さん 44歳)
・星隠す秋の雨得て鯉跳ねる(ペンネーム「かすくん」さん 45歳)
・秋雨も熱き想いに弾け飛ぶ(ペンネーム「桃色リボン」さん 45歳)
・カープ愛雨に咲く花優勝へ(ペンネーム「過保護のまみ」さん 49歳)
・雨にも負けず届けナインに大声援(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・秋雨もカープファンか赤い苑(ペンネーム「マダム悦子」さん 55歳)
・豊年の神事に似たり赤の舞い(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
・雨つぶも熱気で弾く赤軍団(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・激雨中選手もファンも激力中(ペンネーム「どんママ」さん 58歳)
・赤河童球場ひしめき猛応援(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・降る雨を熱湯に変える燃える赤(ペンネーム「バーガーとうちゃん」さん 61歳)
・秋雨で逆転勝ちにファン歓喜(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・秋雨に赤咲き乱れ青ひとつ(ペンネーム「ひなじいさん」さん 63歳)
・どしゃ降りの赤くそまるよひろしまCS(ペンネーム「秀くんと智ちゃんの母さん」さん 64歳)
・赤一色驟雨も我に味方せり(ペンネーム「くればあ」さん 65歳)
・球場に八入の雨よ血潮湧く(ペンネーム「てる」さん 65歳)
・スタンドのグランドの熱秋の雨(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・父がいる負け続けても応援す(ペンネーム「さくら」さん 68歳)
・カープ戦雨にも負けず熱烈応援(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・風船で燃える赤ヘル天を突く(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・すすき梅雨真っ赤な人波マグマへと(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・秋の雨声援はじけてまっ赤か(ペンネーム「呉のおばさん」さん 69歳)
・逆転に秋雨も昇るスタジアム(ペンネーム「おちえもん」さん 70歳)
・秋雨や応援団を置き去りに(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・秋雨の球場揺らす赤い波(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
・雨中流はい苦にはせぬカープ愛(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・秋波や真っ赤に揺れる鯉の群れ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・応援や赤いカッパが踊るかな(ペンネーム「古志清右衛門」さん 77歳)
・ペナントに生命吹き込む鯉ファン(ペンネーム「不細句」さん 85歳)
・赤合羽も選手も燃える覇気力舞吼(ペンネーム「のぼる」さん)
・涙雨赤きポンチョの宮島さん(ペンネーム「ワイ」さん)
・のるは天染める列島朱の鱗(ペンネーム「國田明治」さん)

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

・秋雨に負けずにおらぶ大応援(ペンネーム「山きよ」さん 54歳)
→方言が効果的で、赤を言わなくてもカープと伝わりそう。よい発見である。次回も挑戦を!

・秋雨に打たれどカープ打ち勝てり(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
→ダジャレの効いたユニークでファンなら納得であろう。

・秋の雨背番号0の出番です(ペンネーム「⑦パパ」さん 61歳)
→面白い視点で詠んでいる。まさしくユニー句。

・どしゃ降りの雨と涙でまず一勝(ペンネーム「くにたん」さん 66歳)
→とにかく勝ってほしいカープファンの気持ちがよく伝わる一句。

・雨よりもツキを味方に星拾う(ペンネーム「八重桜」さん 67歳)
→野球というより相撲の気分の句になったのが惜しいが、これまたシャレの効いた句である。

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年10月20日(金)

第70回 お題「カープの優勝トロフィーを見ている人々(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「カープの優勝トロフィーを見ている人々(映像を見て)」。
最近、毎回のように新しい方からの投句があり、俳句に興味をもってもらえうれしく思います。
一方で「俳句は奥深いもの」、ですから年季がいります。
なので思い立ったが吉日、毎週のように選評がもらえる場は非常に少ないので、この機会をぜひ活かしていただければ幸いです。

この俳句道場で、映像から詠む場合のポイントは原則3つあります。
1. 映像から安易に飛躍せず、作者と映像が一体となって詠まれていること。
2. 映像の気分が出ていること。
3. 作者の解説や映像なしに句を詠んでも、詩として成立(自立)していること。

俳句ではよく「吟行」が行われます。
仲間と旧跡や各所を訪れ、俳句を詠みあうものです。
同じモノを詠みあうことで、いろいろな人の感性の違いに触れることができます。
映像から詠むというのはその疑似体験のようなものでしょう。
優勝トロフィーを中心にして、いろいろな観点から集まった句の数々。
ご自身の句だけでなく、ぜひ道場の句友の句とともに味わっていただけば幸いです。
そうすることでいろいろな気づきや発見があり、感性も磨かれることでしょう。

今回の選句でも、映像から安易に飛躍することなく、映像と一体となって詠まれたと感じられる句を大賞にしました。
大賞句は素朴な実感の句ですが、無理のない詠法で、どこかトロフィーと作者が一体となってよまれたような気分が感じ取れ、お見事でした。
入賞句は、大賞句の堂々たる実感にはもう一歩でしたが、俳句として言葉の働いた上手い詠みぶりでした。

特選は原則、映像の気分を上手くとらえたもの・飛躍しつつも俳句として芸術性の高いもの。
入選Aは原則、映像の気分を伝えるような句。
入選Bは原則、映像から飛躍しているが、カープ優勝の気分の感じられる句。
選外は、飛躍のしずぎ、気分に乏しいもの、などとしました。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「秋深し優勝カップ胸をはり」(ペンネーム「雅」さん 55歳)

堂々たる句で、句意も明瞭。
今回の応募句の中で、最も映像との一体感、すなわち「優勝カップ」との一体感が感じられた句で迷わず大賞にした。
まずもって、「秋深し」により、一シーズン終え優勝を勝ち取ったという安堵感や喜びが季節感とともによく感じられてくる。
「秋深し」は文字どおり「秋が深まりもの悲しさが感じられてくる様子」で、実感としては11月に入ってからであるが、一般には十一月になると冬の季語となるので、今頃の時期によく使われる。
この句のミソはなんといっても「優勝カップ胸を張り」。
「優勝カップ」を傍観し、その見た目の輝きや美しさを述べている句がほとんどであったが、この句は「優勝カップ」そのものの「動き」を述べているところがいい。
「優勝カップが胸を張っている」という無意識からの実感、(そんな気がする)を上手くつかんだ。
「優勝カップ」そのものの息遣いに託して詠むことで、作者と「優勝カップ」が一体となった気分が強く感じ取れるし、ひいてはカープファンである作者、そしてカープファン全員が「優勝カップ」と一体となって「胸を張っている」気分が感じ取れてきて、深く共感を誘う。
「胸を張れる」のは、ここにいたるまで、市民や選手が一体となって正々堂々の戦いを繰り広げてきたからであろう。
その一挙手一投足をつぶさに見守ってきた熱いファンならではの素直な実感の句である。
飾らない素朴な表現であるが故に、「市民に根差した市民球団の優勝の気分」が余計に伝わってくる。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
実感(真実・そんな気がする)を何より優先する。

入賞

「トロフィーに映る勇者や紅葉晴れ」(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)

トロフィーに勇者が見えたという実感(そんな気がする)を上手く捉えた。
トロフィーを見ている市民の方々もその輝きの中に、今年のドラマ、そしてまさに勇者を見たにちがいない。
また、実感としてはまだ少し早いが「紅葉晴れ」という季語をもってきているところも、季節感やカープの赤・広がる高揚感の気分が上手く引き出せているようである。
映像を脇においておいて、独立した句として眺めてみてもしっかりと成立している。
いわゆる映像の気分を季語をからめながらうまく醸し出した一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
モノに気分を託す。

広島俳句名人詠(無鑑査) ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメント(※印)とともにご紹介(→は選者評)。

・トロフィーの色づく秋の人の群れ(ペンネーム「あや」さん 49歳)
※トロフィーも群衆も高揚し秋色に染まってゆく。その光景です。
→映像全体の気分を見事に捉えた句である。「色づく」が「トロフィ」「秋」の両方にかかるような詠み方が働いている。応募句の中で最も美しい詩情を醸し出したさすが名人という一句。

・賞杯の艶酔いしれる望の月(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
※優勝トロフィーの艶やかさがキレイな満月を眺めているように感じ句にしました。
→映像からやや飛躍して幻想性を詠んだ。「望の月」あたりに高揚感を託すところはさすがである。

入選句

特選

・賞杯の眩しく照らす今日の月(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「賞杯・眩しい・照る・月」とイメージが重なってありきたりな関係になっているのが惜しい。詩情をだそうとしているところはよい。夜に飛躍したが次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・トロフィーに曇りはあらず天高し(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
→トロフィーと天高しは少し近しいが釣り合った関係である。惜しいのは中七の断定表現。断定してしまうと読者は、それ以外に解釈できなくなってしまい読者の自由な解釈をさまたげ惜しい。まだ「トロフィーの磨きぬかれて天高し」などのほうが、どんな美しさだろうかなどと想像の余地が生まれいいのである。味を残して詠むようにしたい。

・受験生、カープの次はオレの番。(ペンネーム「殿様」さん 44歳)
→トロフィーを見ている受験生と一体となった句であろう。新しいお名前であるがあまりにも強い実感に圧倒され採った。スポーツから頑張りがもらえるのもえるのもその魅力でもある。細かいことだが俳句に句読点は必要ないので次回はそのように。まずは575のリズムでどんどん詠んでみていただきたい方である。次回もぜひご投句を!

・新月やトロフィーだけが光りおり(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「新月・トロフィー・光る」が「すべて「光」つながりでイメージの重なり、ありきたりな表現でおしい。読み方はさっぱりとしていてよい。次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・金杯や三万人の後の月(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
→映像の気分というよりは、多くの人々の高揚感が詠みぶりから詩的に感じ取られてきて美しい句である。いわゆる抑制のきいた伝統的な詠み方をされるタイプなのであるが、ここは道場であるから、思い切った表現も見てみたい楽しみな方である。

・紅葉燃ゆ街真ん中に金の杯(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→カープファンの中心に据えられたトロフィーという気分がよく出てる。これくらい読めれば十分であろう。次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・トロフィーに刻まれてゆく秋の空(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→何より「トロフィーに刻まれてゆく→秋の空」という意外性がよい。普通は「トロフィーに刻まれてゆく→チーム名」である。そのようなありきたりの関係を引っ込めて、「秋の空」の美しさ・広がりに、優勝の季節感・高揚感・喜びを託したところが見事。この方向で。

・オリンポスの丘紅葉す優勝杯(ペンネーム「クローバー」さん 53歳)
→映像から飛躍した句であるが、高揚感がよく出ている。次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・栄光のトロフィーかざす夏の空(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→「栄光・トロフィー」もイメージの重なり・ありきたりな関係なのであるが、一番は大賞句のような一体感にとぼしいのが惜しい。「栄光のトロフィー揺れる夏の空」などもう少し自分に引き寄せて詠みたい。詠み方そのものは上手い。

・瀬戸の海金色に輝く優勝杯(ペンネーム「ひなじいさん」さん 63歳)
→中七が上下にかかる詠み方で言葉を働かせた上手い詠み方であるが、傍観の句で大賞句のような強い実感に乏しいのが惜しい。次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・豊の秋トロフィー見つめをる鯉城(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
→大きな詠み方で上手い句。喜びの気分もモノにじっくり託した。次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・トロフィーの耀き眩し西日さす(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
→「トロフィ・輝き・眩し・西日」と「光」のイメージが重なりありきたりな関係が惜しい。しかし「トロフィー・西日」の対比はほどよい。映像の気分というようは句の気分寄りだが「トロフィーの立ちつづけたる西日かな」など。次回は映像とさらに一体となった気分の感じ取れる句を期待したい。

・花紅葉写すカップや日本一(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→少し飛躍している感じだが、気分の出た句で美しい。やはり対象を傍観で詠んでいるのが惜しい。次回は対象とさらに一体となって詠みたい。

・トロフィーの天辺に沸く爽やかさ(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→「爽やか」を秋の季語として詠んだのであろうがどうも中途半端である。素直に「トロフィーの天辺に沸くカープ女子」などと詠んでみたい。実感をどうつかまえるかが課題であろう。次回は対象とさらに一体となって詠みたい。

・秋空や勝ち星溢る優勝杯(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→気分が出た句である。優勝杯から勝ち星があふれ出るという実感がいい。ただしこういう詠み方は観念的になるのでモノに託したい。「秋空の溢れてきたる優勝杯」など。このような詠み方でも気分は出るのではなかろうか。次回も挑戦を!

・セリーグのトロフィー覗く赤い羽根(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)
→観察の句で映像の中に「赤い羽根」をつけた人を見つけたのであろうか。あるいは「そんな気がした」実感の句であろうか。いずれにしてもはっとした瞬間を上手くモノに託した。この方向で。

入選A

・フラッシュに金色弾けるVトロフィー(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・秋雨やマダムも続く勇者の杯(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
・トロフィーに映る笑顔が列を成す(ペンネーム「かなせのせなか」さん 40歳)
・トロフィーが光り輝くカープV(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・トロフィーや広島の空に実りおり(ペンネーム「叔父ちゃん」さん 44歳)
・人の手を渡るトロフィー秋収め(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・トロフィーになみなみ注ぐや赤ワイン(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・秋晴や航海果てぬ金の杯(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 52歳)
・トロフィーや選手らの汗清々し(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
・トロフィーに映るもみじも赤くなり(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・トロフィに真っ赤な紅葉舞い踊る(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・セリーグのトロフィーに酌む新走り(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・秋晴れに原爆ドームとトロフィーと(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・トロフィーに喜怒哀楽や燕立つ(ペンネーム「さくら」さん 68歳)
・トロフィーを掲げてみたき紅葉山(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
・秋の日や優勝トロフィー歓喜の輪(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・感涙を集めて重し大トロフィー(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・トロフィーやカ−プ監督紅葉す(ペンネーム「みなと」さん 74歳)

入選B

・トロフィーはトランプタワーのティファニー製(ペンネーム「コンスタンチン」さん 11歳)
・赤と金秋を呼んだ セ界一(ペンネーム「鯉に恋する乙女」さん 18歳)
・17年待ってよかったV連覇(ペンネーム「せなまる」さん 19歳)
・生徒いう遊んでみたいトロフィーで(ペンネーム「優子先生」さん 34歳)
・腕高く熱き闘い杯掲げ(ペンネーム「みれりさママ」さん 35歳)
・ビールかけ誉れの杯を肴にす(ペンネーム「チャタロウ」さん 39歳)
・待ちわびたカープチケット手に入る(ペンネーム「ミミ」さん 40歳)
・カープ団ずっしり胸へとトロフィーが(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
・待っていた笑顔満開日本一(ペンネーム「天然さん」さん 42歳)
・セ界一次の目標日本一(ペンネーム「カープが一番」さん 43歳)
・歴史あるトロフィーを見て知る努力(ペンネーム「ようちゃん」さん 43歳)
・豊想い熱きおもいで皆えがお(ペンネーム「考え中」さん 46歳)
・Vトロフィー駅ビル群に競い勝つ(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・栄光の陰に光る努力(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・いぶし銀磨き切ったる優勝杯(ペンネーム「すずらん村。」さん 55歳)
・ティファニーで乾杯カープV8(ペンネーム「マダム悦子」さん 55歳)
・真っ赤に燃えるプライド大回復(ペンネーム「よいとこ」さん 57歳)
・優勝杯広島秋の風物詩(ペンネーム「⑦パパ」さん 61歳)
・歓喜のさま紅葉谷にも似たりかな(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・秋色の天までとどけ鯉の華(ペンネーム「くればあ」さん 65歳)
・日々精進大衆前でトロフィ−が(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・トロフィーの赤の歓声金の月(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
・大空へおかえりなさい千手の力(りき)(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・広島は歓喜に燃へり曼珠沙華(ペンネーム「おちえもん」さん 70歳)
・爽やかに女神見つめる緋鯉かな(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・秋の夜の勝利の雄叫び赤き武者(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
・トロフィーも歓喜も天に舞いに舞う(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・秋晴れや白球ドラマ完結す(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
・トロフィーの上下関係夜長かな(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・黄金のトロフィバットで高々と(ペンネーム「古志清右衛門」さん 77歳)
・大盃のビールに跳ねる緋鯉かな(ペンネーム「呆人」さん 77歳)
・セ界の光導く七戦の勝(ペンネーム「ワイ」さん)
・赤鯉が金杯に誉れ酔い(ペンネーム「鯉子」さん)

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「祝杯に映る瞳は星のよう」
(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)

「トロフィーの重みを背負ってCSへ!」
(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)

「秋の日に輝くトロフィーもうひとつ」
(ペンネーム「バーガーとうちゃん」さん 61歳)

「鯉に恋日本一を取って来い」
(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年10月13日(金)

第69回 お題「さつまいも掘りをする園児たち(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「さつまいも掘りをする園児たち(映像を見て)」。
今回ははじめてお見受けする名前も多くありました。
新しいチャレンジをありがとうございます。

まず、「芋」と書かれた句がいくつかありましたが、俳句で単に「芋」といえば「里芋」のことになりますので、「里芋」ともとれそうな句については、「藷」「甘藷」「おいも」など「さつまいも」ととれるように事前に改めさせていただきました。
また、「藷掘り・掘る」の「掘」が「堀」になったものもいくつかありましたが、動作を表す場合は手偏の「掘」になりますので、これも事前に改めさせていただきました。
今回はその上で選句し、コーナーでの句の紹介、ホームページ上の掲載とさせていただきましたのでご了承下さい。

映像から詠む場合のポイントは原則3つあります。
1. 作者の解説や映像なしに句を詠んでも、詩として成立(自立)していること。
2. 映像から安易に飛躍せず、作者と映像が一体となって詠まれていること。
3. 映像の気分が出ていること。

大賞句と入賞句の差は、「映像との一体感が感じられる句」か「映像を見て詠んだ句」かの違いです。
大賞句は、応募句の中でも数少ない作者がさつまいもと一体となって詠まれたあたたかな句でした。
入賞の句は、詠み方は上手いものの「映像を見て詠んだ句」の域を出ていないのが、やや物足りなく感じました。

入選Bの句はユニー句なものも多いのですが、最初からそれが全面に出てしまっては、言葉遊びになってしまい詩情になりませんので、注意頂きたいところです。
入選B・選外あたりの方は、過去などの特選句以上の句を何度も詠み直して、俳句の「感じ」を掴んでいただければ、上位が狙えて来るかと思います。

「実感」について少し書いておこうと思います。
俳句ではよく「実感」ということが言われるのですが、私のいう「実感」は少しちがっていて、モノの本質を把握した感覚のことを言います。
例えば先日山を散歩しているときにふいに感じたのですが、「野の石仏は柔らかい」というような感覚です。
対して「野の石仏は硬い」というのは単なる「現象」です。
これは石仏の表情について言っているのではなく、あくまでその「本質」について述べています。
このあたりの感覚(そんな気がする)を逃さず句にして頂きたいのです。
特選以上の句などこのような実感がある句が多くあります。
探してみられるのもいいでしょう。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「さつまいも見つかるまでのかくれんぼ」(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)

この句の「かくれんぼ」は、いわゆるゲーム的な「かくれんぼ」というよりは、単にかくれているという気分を楽しんでいる雰囲気ととれる。
映像を元に解釈するなら「さつまいもの私は園児に掘り出されるまで楽しく隠れてますよ」という句、句だけから解釈するなら「さつまいもの私はだれかに掘り出されるまで楽しく隠れてますよ」という感じになろう。
この句が優れているのは、作者と「さつまいも」との一体感。
「園児たちが藷掘りをしている様子」やその延長で詠まれた句が多かった中、映像中の「さつまいも」と一体となって、その立場で詠みあげたように感じられるところが優れている。
映像を傍観したり、映像を客観的にとらえていては、このような句は生まれない。
「藷掘り」は、大人にとっては普通の作業であっても、小さな園児たちにとっては大仕事。
「さつまいも」がそれをよく理解しているかのように、「僕はすぐに見つかるよ。がんばってね。」と言っているかのような、おおらかさでやさしい気分が感じ取れてきて共感を誘う。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
モノと一体となる。

入賞

「園児抱く空いっぱいのサツマイモ」(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)

「園児を抱く」「園児が抱く」両方にとれるが、どちらにとっても気分の出た句になっている。
映像の題からだと「園児が抱く・・・・サツマイモ」であろう。
これが「腕いっぱい」ではあたりまえで詩にならない。
「空いっぱい」だから詩になった。
大きな澄んだ秋空を引き込んでのびやかで楽しい収獲の秋の気分が出た一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい。
<作句のポイント>
あたりまえを引っ込める。

広島俳句名人詠(無鑑査) ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・サツマイモ掘り起こしてく子の素顔(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
→サツマイモを掘り出している子どもの様子が普段見る事のできないような笑顔であり、たくましさを感じたため、句にしました。

・小鳥来る花の色した園児帽(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→たんぽぽ組さんとうめ組さんでしょうか。小鳥のよって来そうな可愛い子たちです。

・掌へ地球染み込むおいも掘り(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→掌が土で汚れたらしい子が両手を擦り合わせているのを見て浮かんだ句です。

入選句

特選

・おいも掘り深く巡らす地下鉄路(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
→映像との一体感にやや欠けるのが惜しいが、句としては上手く面白い。目に見えない世界の実感を上手くモノに託して詠んである。次回は映像の気分が感じられる句を目指したい。

・さつまいも臙脂色なる半ズボン(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
→半ズボンに象徴させたり色に託したり、句が分かってきた方。映像の気分も出ている。この方向で。

・さつまいも繋がっていく平和かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→詠み方は上手いが今回は少し飛躍しすぎのようである。モノに託して詠みたい。

・さつまいも紫の月欠けていく(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→映像の気分というには飛躍しすぎで惜しかったが、句としては詩情豊かな句で好句である。「むらさきの月欠けてゆくさつまいも」のほうが座りがよさそう。舌頭千転である。

・黄帽子を縦一列に甘藷かな(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
→映像の気分も出ているし着眼や詠み方もモノに託して上手く、どうとでも詠める器用な方なのであるが、それ故に惜しいのである。つまりテクニックが先だって実感が置いてけぼりになるのである。贅沢な悩みであるがそこが次への課題であろう。

・園児らの声うらがえす甘藷畑(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→「うらがえす」が意図的・主張の強い表現で惜しい。この場合は「うらがえる」としたい。舌頭千転である。しかし楽しい気分はよく出ている。この方向で。

・園児らのラッパのごとく甘藷掘(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→中七がやや中途半端で惜しいが、映像の楽しそうな気分はよく出ている。この方向で。

・さつまいも重なる笑顔ピラミッド(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→少し盛り込み過ぎのようであるが、気分はよく出ている。「園児らの笑顔重なる藷の山」などでは。

・山積みの藷崩れゆく秋の山(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→映像の気分という点では弱く惜しい。全体的に「山」のイメージが強すぎるので、「さつまいも荷崩れてゆく秋の山」くらいか。しかし句そのものの魅力としてはなかなか面白い。

・園児らがそっくり返るおいもほり(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→全体的にやや平凡なのが惜しいが、園児らが藷蔓を引っ張る様子をなかなかよく捉えていると同時に、おかしさやほほえましさまで伝わってくる俳味のある句である。観察の利いた一句。この方向で。

・藷肥ゆる大地にスクスク子供たち(ペンネーム「是多」さん 63歳)
→少し詠みが甘いのが惜しい。スクスクが安易である。「藷肥ゆる大地に育つ園児かな」くらいか。藷と子どもの気分の出た句である。

・園児たち土をかきわけさつまいも(ペンネーム「DIYじじ」さん 65歳)
→中七が平凡で惜しかった。「土・さつまいも」がつきすぎ。「園児たち明日をかきわけおいも掘り」くらいに詠んでいただけるとさらに詩になる印象である。次回はさらに飛躍したい。

・広き空はしゃぐ園児の甘藷畑(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→「園児の甘藷畑」ですべて伝わる印象である。「大空や園児飛び込む甘藷畑」などでは。映像の気分はよく出ている。

・藷掘りや空に飛び交う子等の声(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→映像はよく詠んであるモノ句なのであるが、大事なのはやや平凡で感動が伝わってこないこと。「そんな気がする」実感をとらえたい。

・藷畑葉と黄帽でおおわれる(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
→短歌の上の句のような詠み方であるが気分は出ている。葉と帽子の対比が面白い。

・園児等の藷とじゃれ合う昼の月(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→映像の気分というには少し弱そう。しかし句そのものはなかなかの俳味がある。

入選A

・先生に藷を貢げる子供かな(ペンネーム「みぞはる」さん 17歳)
→まだ「先生に藷見せに行く園児かな」などのほうがしっかりしているのだがどうも平凡。ということは全体的に説明的なのである。次回は実感をもう少しモノに「象徴」させて詠みたい。

・澄んだ空声高らかに湧く甘藷(ペンネーム「かなせのせなか」さん 40歳)
→映像の気分というには少し惜しい。もう少し整理したい。しかしなかなかきれいで詩心を感じる。

・力こぶ自慢片手にさつまいも(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
→気分がよく伝わらない。「さつまいも盛り上がりたる力こぶ」くらいか。説明ではなく象徴的に詠むようにしてみたい。

・甘藷掘の果てに小人の寝顔かな(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→「果てに」が言い過ぎで惜しいし全体的に説明的である。大賞経験者であるが、出来事に寄らず、モノに託して象徴的に詠むようにしたい。

・さつまいも引いて大地を揺るがす子(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→やや言い過ぎ・説明的で惜しい。映像の気分ではばいか句としては「藷蔓をめくりあげたる大地かな」くらいにしたい。把握の仕方は見事である。

・ぬくもりを土に残すやさつま芋(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→すべて「さつまいも」に収斂される詠み方で惜しい。「掘り終えし藷あたたかき土のいろ」くらいか。モノに託して映像の気分が感じられるように詠んでみたい

・甘藷掘りや土の布団にゴーロゴロ(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→放り出したような詠み方がユニークだが少しやりすぎであろうか。「藷掘りの土に寝そべる園児かな」くらいか。

・豊作や園児の笑みといもの蔓(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→「豊作」は言いたい事なので不要なようである。「園児らの笑みを繰り出す藷の蔓」くらいでは。

・真っ黒な手のひらの熱藷を掘る(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→気分が伝わらないのが惜しいが、何か自分の中に湧き上がるものをもっていることはよくわかる。それをモノに託して象徴してほしいのである。

・甘薯掘るや飛行機の護謨弛みだす(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
→また藷と護謨との対比ははやや離れすぎであろう。しかし方向性はよい。次回は映像の気分が感じられるように詠みたい。

・園児らの飛ぶ声澄みて甘藷畑(ペンネーム「おちえもん」さん 70歳)
→少し盛り込み過ぎで惜しい。「園児らの声澄み渡る甘藷畑」など整理したい。映像の気分はよく出ている。この方向で。

・藷掘りで連なる笑顔園児かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→原句は説明的で惜しい。少し語順を変えてみたい。「子ども等の笑顔連なるおいもほり」など。気分のよく出た句である。

・藷掘りて自慢をし合う園児かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→中七が言い過ぎで惜しい。「藷掘りの藷を見せ合う園児かな」くらいで詠みたい。映像の気分はよく出ていて面白い。

・天と地に連なる園児さつまいも(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→詠み方が追い付いておらず惜しい。「藷蔓の空かけあがる園児かな」くらいでは。映像の気分は出ている。

・わあわあと歓声そらへ甘藷掘る(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→上五が荒く惜しい。まだ素直に「園児らの歓声空へおいもほり」などのほうがよい。たのしい気分はよく出ている。

・ピラミッド童積み上ぐ甘藷畑(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→盛り込み過ぎて惜しい。句意からすると「園児らの積み上ぐ藷やピラミッド」くらいだが、ものたりない。映像の一部をよく観察している。

・袖まくり園児堀上ぐさつま芋(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)
→上五が言い過ぎで不要で惜しい。「園児らの影ごと掘るや藷畑」など。やるぞという気分は出ている。

入選B

・薩摩芋引き抜くときの空美味し(ペンネーム「鳥飼未来羽」さん 17歳)
・掘り起こせ今と未来と藷と夢(ペンネーム「広島ラブ」さん 20歳)
・にぎやかに掘ればほくほくさつまいも(ペンネーム「なつみかん」さん 35歳)
・藷抱え母へ土産と得意顔(ペンネーム「みれりさママ」さん 35歳)
・あんぐりと黄金色の彼女かな(ペンネーム「ハニーとまと」さん 38歳)
・収穫の喜びの声空高く(ペンネーム「チャタロウ」さん 39歳)
・負けまいと引っ張る藷つる綱引きに(ペンネーム「なお」さん 39歳)
・収穫に喜び溢るる秋の風情(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・甘藷掘るてこの原理に助けられ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 41歳)
・綱引きださつまいも掘る子供達(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・もみじの手爪に土の食べる秋(ペンネーム「エベレスト」さん 43歳)
・芋ふかし皆で分け合いナラ合唱(ペンネーム「彩の介」さん 44歳)
・さつま芋、ホクホク食べるホクホクと(ペンネーム「叔父ちゃん」さん 44歳)
・紅色の藷顔見せて頬紅潮(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)
・甘藷を掘りわらべの笑顔も宝物(ペンネーム「とうたん」さん 45歳)
・こちょこちょと腹よじらせて藷起こす(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・旨いなエレベーター避け階段に(ペンネーム「可楽」さん 49歳)
・さつま芋秋の喜び重い芋(ペンネーム「KARA man」さん 54歳)
・秋晴れの爽やかな日においも掘り(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・青い空ただ焼いただけのさつまいも(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・甘藷掘りはしゃぐ園児の踊る帽(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・闇を割き汽笛にさつまいもを食う(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・幼子が大地の恵みに満天笑み(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・さつま芋ゲットするぜとチビハンター(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・容赦なく天地もはしゃぐおいもほり(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・日を浴びて地べたは芋のパラダイス(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・藷掘りではしゃぎし子が嫁めとる(ペンネーム「バーガー とうちゃん」さん 61歳)
・金時とちから比べのわらべ舞う(ペンネーム「ジョウビタキ」さん 62歳)
・園児掘るさつまいも掘るさつまいも(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・地引き網藷のつる引き大漁だ(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
・青空や園児らの手に藷のれん(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
・手間要らず畑の中のサツマイモ(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・おさな児手大地を起こすおいもほり(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・甘藷掘りや比べ合う子の真剣さ(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・いもほりやショーキベタソバ鬼の顔(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
・掘るよりも後の焼き芋待つ園児(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
・園児らの挑みと笑顔芋掘り日(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・腰構え引きずり出すや薩摩芋(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・鈴なりのサツマイモ見て子らはしゃぐ(ペンネーム「古志清右衛門」さん 77歳)
・幼手が泥かき分けてふれる秋(ペンネーム「呆人」さん 77歳)
・もういいよ、戦時中は、藷だった(ペンネーム「なかちゃん」さん 82歳)
・児童(わらべ)らの夢よりでかいサツマイモ(ペンネーム「tokusann」さん 83歳)
・競う子ら芋の逃げたもご存知ない(ペンネーム「ワイ」さん)

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年10月6日(金)

第68回 お題「牛など(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「牛舎で牛乳を飲む有田アナウンサー(映像を見て)」。
今回もレベルの高いユニークな句を沢山いただきました。
どんな題の出し方であろうと、一句が自立していることが大事なのはいうまでもありませんが、ここ二回映像の題を出してみて思うことは「映像の気分」も大事にしてほしいということです。

選をする立場からすると、映像と一体となって生まれた句と飛躍した句とでは、印象が全く異なります。
映像をしっかり受け止めた句からは、映像と一体となっているなという実感を感じます。
反対に、飛躍した句(映像を部分的にとらえた句)は、句としては良くても、映像そのものとの一体感はどこにあるのか?ということになり、心ここにあらずではありませんが、ややもの足りません。

今まで出してきた「南瓜・秋刀魚」などの題では、題を自分なりに捉えてさまざまに飛躍したり、発想や可能性を広げたり、宇宙を広くとらえたりして詠んでいただいていました。
いわば感性の「横軸的展開」です。

一方、前回から始まった映像から詠む句というのは、作者全員が同じ映像を見ながら、如何にその映像と一体となって真実をくみ取るかという、感性の「縦軸的展開」の世界になります。

その意味で、今回の大賞の菊池さんは、「映像と一体となった、気分をよく伝える句」で見事でした。
しばらくは映像からお題を出してみようと思っていますので、皆さんもぜひ「映像と一体となって詠む」という点を意識してみていただければと思います。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「牛乳を飲み干す髭や竜田姫」(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)

「竜田姫」は秋をつかさどる女神で、春の佐保姫とともに知られている。
季語としては、秋の虹・台風などとともに「天文」に分類されているので、理論的には秋の天文・気象を示すものになるのであるが、イメージとしてはまさに「秋の象徴・秋の女神」である。
総評でも書いたが、今回の応募句の中で最も映像の気分がよく感じられ、迷わず大賞にした。
もちろん句としても自立している。
句だけを鑑賞するなら、若い女性が牛乳を飲み干している様子を竜田姫の女神のイメージと重ね見た句、あるいは、髭をはやした男が牛乳を飲み干している秋の一コマなどともとれようか。
映像を元に鑑賞するなら、牧場でかぶりものをして牛乳を飲んでる有田アナウンサーのかわいらしい様子と、秋の女神の印象を重ね見た句ということになろう。
いずれにしても、赤々とした紅葉に象徴される秋の神秘的で妖艶なイメージの「竜田姫」と、「牛乳を飲むときにつくられる髭」のイメージの対比(ギャップ)が面白く、期せずして俳味の出た面白味の感じられるユニーク(句)となっている。
有田アナウンサーとしても、秋の女神とイメージを重ねられて光栄であろう。
映像の気分を上手く詩に昇華できた一句である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
映像の気分を詩に昇華する。

入賞

「放牧の牛に連なる鱗雲」
(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)

広々とした土地に放たれた牛、そして大空に広がる鱗雲。
天地の空間の広がりが心地よく、秋ののびやかな気分が共感を誘う。
両者が遠景でとけあうようなところに自然との一体感が感じられるポエジーあふれる句である。
句としては全く問題ないのであるが、お題を出した道場主の立場からすれば「映像の気分」という点をもう少し反映していただきたかったというのが正直な感想である。
そのあたりがいわゆる普通のお題の出し方とは異なる点であろう。
大賞句のように映像を上手く反映した句があると、やむを得ず相対的に一段下がって感じられてしまい残念である。
いずれにしても、余計なことをいわずモノに託してのびやかな秋の気分を詠んであり上手い。
次回は映像の気分を醸し出したい。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい。
<作句のポイント>
天と地の対比。

入選句

特選

・満月を抱え生まれし子牛かな(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
→ポエジーの感じられる神秘的な句で美しい。月と子牛もよく合っている。課題は出来事・言葉の美・散文的表現から如何に脱するか。俳句は他の詩と違うのである。次回は映像の気分を詠むことにチャレンジを!

・コンビニの明かり冷たき牛舎かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→上手い句なのであるが、総評にも書いた通り「映像を見て」というお題を出した立場からすると、映像の気分を上手く詠んだ句が出てきた場合どうしても弱く感じられ不利である。しかし句は現代の象徴のようなコンビニと昔ながらの牛舎の対比が効いていて上手い。次回は映像の気分を詠むことにチャレンジを!

・飛行雲牛舎にねむる蹄かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→雲と蹄との対比、大小の対比など、いろいろな対比が効いて句の調和がとれていて上手い句である。随分と句が分かってこられた。この方向で。

・牛乳の真白き髭や鰯雲(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→大賞句と似ているのだが大きく違う。この句が惜しいのは「牛乳・真白き・雲」と白のイメージが重なってしまっているところ。その点、大賞句は「牛乳を飲み干す髭や竜田姫」と白のイメージの重なりを巧みに避け、紅葉との関連の深い竜田姫をもってくることで赤のイメージをぶつけて対比を生み出している。しかして映像の気分を句にしようとした意志には共感したい。上手い方である。この方向で。

・秋の暮乳房の並ぶ牛舎かな(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
→乳房・並ぶ・牛舎のあたりが少しイメージが近く平凡で惜しかったが、牛舎の気分が出た句で最近句のレベルが上がった方である。この方向で!

・乳牛の乳房に泊る秋の蝶(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→ポエジーの出た句で好きな句である。私見では「泊る」は少々言い過ぎ。言いたいことは句にならないので、ひらかなで「とまる」くらいにして意図をぼかすほうが象徴的でいいであろう。この方向で。

・青空に牛乳こぼし鰯雲(ペンネーム「是多」さん 63歳)
→なかなか面白いのであるが、ユニー句(俳味)は最初から出そうとするとどうしても作為的・意図的になってしまい成功しづらい。そこが惜しい。何かを言おうとせずじっくりモノに託して象徴的に詠むようにしたい。

・望の夜の牛舎に満つる深き息(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
→牛舎の気分がよく出た句である。俳句は散文ではなく韻文なので「~に~する」という散文表現が説明的で惜しい。しかしまずはこのようにモノに託す方向で。次回も期待したい。

・朝霧や子牛を載せて舟が出る(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
→幻想的な句である。後半が散文的・説明的で惜しいが、ポエジーをわすれずに次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。この方向で!

・秋の空牛舎の中の古時計(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→遠景からだんだん近景にポイントが絞られてゆくような詠み方が効果的である。モノに託す方向が分かってきた方。この句の方向で。

・月明かり静止画のごと牛の立つ(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
→「月光・牛」の対比で雰囲気の出た句である。中七は強い表現であるがこの句の場合あまり効いておらず惜しい。詩心をわすれずにこの方向で。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・朝霧を牛舎に運ぶ里の風(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→前半「~を~に~する」と散文的・説明的(コト句)で惜しいが、「朝霧・牛舎・里の風」となかなか気分の出たモノ同士である。「朝霧の包む牛舎や里の風」などモノ句にしたい。次回は映像の題の気分の感じられる句に挑戦してみてほしい。

・乳牛の風船ふたつ秋日和(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→「乳牛の」で軽く切れている句と取りたい。「風船」が胸のイメージで俳味の出た面白い句である。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。次回も挑戦を!

・もうひとつ夜空を仰ぐ牛祭(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→「もうひとつ」が「もうひとつの夜空」ともとれて面白い。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・晴るる日のサイロに届く秋の声(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)
→秋の声は、秋の様々な音が醸し出す秋の少しもの悲しい気分。空間を広くとって上手い一句である。次回は映像の題の気分を出すこと。これに挑戦してみてほしい。

入選A

・曇天の月夜に響く牛の声(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→夜の気分は出ているが、「曇天の月夜」はどうもイメージがちぐはぐで惜しい。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・柿の花横でモーっと牛の声(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
→後半が牛尽くしでイメージの重なりで惜しい。とにかく中七がいけない。風景としての「柿の花・牛の声」という対比はよい。「柿の花くすぐってゆく牛の声」などモノに託したい。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・牧場にて秋刀魚一匹焼いて喰う(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→あの映像から秋刀魚ではさすがに飛躍のし過ぎであろう。句だけをとってみても平凡。散文からの脱出・映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・逃げ惑う牛の影から月出たり(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→この方も上の方と同じで、ときどきはっとさせられる句が出るかと思えば、物足りない句も多い。この句もごちゃごちゃとして整理がついていない。ご自身の句を模索中なのであろう。句の表面の言葉の技法などで何かしよう、述べよう、説明しようとするのではなく、ポイントを絞ってモノをデンと据えて象徴的に詠むようにしたい。

・ゆっくりと反芻してる牛の秋(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→牛を牛らしく詠んだ句で平凡で惜しい。日常を詠むときにはそこに批評精神がなければタダゴト句である。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・牛乳をやかんで沸かす農夫かな(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→面白いシーンを切り取っているようだがやはり平凡で惜しい。日常を詠むときにはそこに批評精神がなければタダゴト句である。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・菊日和飲みほすグラス白き肌(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→映像に触発されて詠もうとした気分の良く感じられる句でその点を評価したい。次回も映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・牛舎より漏る咀嚼音秋深し(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→事実と真実は違うとテレビで話したのだが、事実寄りの句で物足りない。日常を詠むときにはそこに批評精神がなければ平凡である。映像の気分を出そうとされているところはよい。

・牛乳に草の匂いや秋の風(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→映像の気分を良く伝える句で共感できる。問題は「匂いがするというコト(出来事)」を詠むのではなく、いかにモノに託して詠めるかである。「秋風や草の香のする牛の乳」など。次回は映像の気分をモノに託して詠んでみてほしい。

・地平線カウベルの音爽やかに(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→下五ですべてを説明してしまって惜しかった。言いたい事は句にできない。「カウベルの音吸われゆく地平線」など。次回はもう少し映像の題の気分を出すこと。これに挑戦してみてほしい。

・牛の目に写る泣き顔ななかまど(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→中七が言い過ぎで惜しい。ここから句にもっていきたい。「牛の眼の少し重たきななかまど」など。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・月明かり牧場の赤い三輪車(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→盛り込み過ぎというか「牧場」が効いておらず惜しい。「月明り赤く塗られし三輪車」などとすると意味深でイメージの膨らむ句にはなるが「牧場」が、、、入らない。次回は映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・六白牛の乳飲んで冬支度(ペンネーム「あさぎ」さん 65歳)
→映像の気分を詠んでいて好感が持てる。句は出来事を詠んでいる印象なので、モノに託してモノをデンと据えて象徴的に詠むようにしたい。「六白牛の乳を飲み干す秋の空」など。次回も映像の気分の感じられる句を。

・仰ぎ見る牛舎の傍に萩の花(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
→上五が一番言いたい事なので不要。言いたい事を句にすると句が窮屈で説明的になる。それが超短詩の難しさ。「萩の花少しゆれたる牛舎かな」など。次回はもっと映像の題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・牧場に乳牛寝そべり秋日和(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→なんとなく映像の題の気分が出ているのだが、平凡で惜しかった。事実でなく真実を詠みたい。この方向で。

・のんびりと藁食む牛や息白し(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
→なんとなく映像の題の気分が出ているのだが、平凡で惜しかった。事実でなく真実を詠みたい。

・餌を食む乳牛並びて秋を弾く(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→なんとなく映像の題の気分が出ているのだが、下五が言い過ぎで惜しい。「餌を食む乳牛もいて秋の風」くらいか。次回も映像の
題の気分を出すことに挑戦してみてほしい。

・乳牛の利口ぶってる風の秋(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→上五中七が言いすぎで惜しい。言いたい事は句にならない。それをなんとなくモノに託すようにしたいのである。「乳牛のまなこ四角き秋の風」くらいか。映像の気分を詠もうとするところは共感できる。

・秋侘し乳吞み児抱いた難民母(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→侘しが言い過ぎで惜しい。言いたい事は句にならない。そのあたりの気分を如何にモノに託して伝えるかである。「乳飲み子を抱く難民や秋の声」など。しかし次回はもっと映像の気分の感じられる句を期待したい。

入選B

・雨の日の給食牛乳うそ寒し(ペンネーム「コンスタンチン」さん 11歳)
・触るなと言われた牛と悪い夏(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・牛乳は、コーヒーに入れてもおいしいね(ペンネーム「あーちゃん」さん 16歳)
・牛を背においしいミルクいただきます(ペンネーム「せなまる」さん 19歳)
・団子いろ飲み干す君は愛しきや(ペンネーム「娘は3ヶ月」さん 23歳)
・牧場で焼肉食べてモーたまらん(ペンネーム「やすよ」さん 34歳)
・決めポーズごくっと一本牛乳瓶(ペンネーム「なつみかん」さん 35歳)
・草を食む牛をバックに乳を飲む(ペンネーム「チャタロウ」さん 39歳)
・干し草は牛乳となる秋の朝(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・二連覇でセ界牛耳り一気飲み(ペンネーム「かなせのせなか」さん 40歳)
・牛乳を毎朝、飲めるありがたさ(ペンネーム「叔父ちゃん。」さん 44歳)
・夜半の月コーヒーに落つミルク泡(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・うそ寒や牛乳飲まむ手を腰に(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
・秋実りおっぱい薫る待合室(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・牛乳をごくごくのんで骨鍛え!(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・ラジオより牛歩戦術牧閉ずる(ペンネーム「稲穂」さん 56歳)
・牛小屋の匂い懐かし雲に乗り(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・柔らかき心に詰めたまきばの香(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・牛乳を飲みほしパーッと秋の空(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・干し草を食べて生まれしミルク美味(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・牛の群れ鍵盤のごとく上下揺れ(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・牛走りバギーが走り秋惜しむ(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
・青葉咬む黒牛からも白い乳(ペンネーム「八重桜」さん 67歳)
・干支写真牛を求めて牧場へ(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・高原に母を探して舞う子牛(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・日本晴れ草原ワイン青チーズ(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・きなくさい世も小春日和の牛舎かな(ペンネーム「のぶさん」さん 70歳)
・口ずさむ朝霧こもりの牧場かな(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
・仲秋が照らす厩舎牛二頭(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・搾りたての加熱なまちち旨きかな(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・放牧や上着一枚秋の風(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・牛乳で人よりも30センチ背丈伸び(ペンネーム「tokusann」さん 83歳)
・草を食むステーキが言う白い斑(ペンネーム「ワイ」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・廃牛の乳房に落ちる秋夕焼(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→ホルスタインと呼ばれたこともあったけど、今では肩が凝ってたまらん、という心境を廃牛に託して詠みました。

・列島を散りばめし背や秋の牛(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→牛の背中の柄を見るといろんなものに見えるので浮かんだ句です。

・牛乳を飲み込んでゆく秋の暮(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
→牛乳が勢いよく飲み込まれていくように秋の夕暮はあっという間にきてしまったという感情を句に込めました。

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年9月29日(金)

第67回 お題「梨(映像を見て)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「梨(映像を見て)」
新しい試みでしたが、皆さん創作意欲をくすぐられたようで、レベルの高い句がたくさん集まりました。
具体数は数えていませんが、いつもに比べ、特選・入選Aにあげられる句の数が若干多かった印象です。
特に特選以上の句は、単なる映像(写真的・動画的)の次元を超えた俳句形式を目一杯働かせた句が多く、とても頼もしくうれしく鑑賞させていただきました。

事実と真実は違います。
俳句は目に映った事実を事実らしく詩的に表現するだけの浅い世界ではありません。
いくら共感する事実でもそれが「=真実」とは限りません。
何を詠もうと、その奥に「何らかの真実」が感じられることが大事です。
俳句はそこまで行けるから奥深いのです。

もし、目に映った事実を事実らしく表現するだけならば、写真や動画、日記にしたためるほうがよく伝わるマシです。
俳句は、写真もどきでも動画もどきでも日記もどきでもない「何かの詩」なのです。
俳句は書かれてあることのさらに先(真実・大いなるもの)に行ける詩なのです。

今回は時間の都合で特選までしか評が書けなかった。
ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人様、5句程度まで。どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「ベネツィアの月欠けてゆく梨の皿」(ペンネーム「あや」さん 49歳)

今回の大賞受賞で見事3人目の俳句名人になられた。
まずは、心よりお祝いを申し上げます。
お題の映像で小野アナウンサーが手に持っていた「梨の皿」から実感を得た句であろうか。
ご存知のように「ベネツィア」は、イタリアの北東部にある水の都として有名な美しい街。
海外詠ともとれるが、現実には心象句であろう。
「ベネツィアの月」であるが、「皿に切って盛られた梨の形」との関係もあって、どことなく「三日月」がイメージされてくる。
この句の見どころは、ドラマのワンシーンのような幻想的で非日常的な雰囲気。
多くの句は、言葉を飾ったりして句の表面に強引に「非日常」を置きたがるのであるが、この作者は、句の表面では日常を詠みつつ、イメージされてくる世界(句の背後)に「非日常」を置いているので、句に窮屈さがなくのびやかである。
一人旅であろうか、水の都の夜景に浮かぶ「月」を眺めつつ、薄く切られた「梨」を味わう女性の様子がどことなく浮かんできて美しい。
この句の上手いところは、「句中の対比」が複雑・重層で句に自然と味わいをもたらしているところ。
イメージが膨らむ句には対比が効いている句が多いのだが、この句も例外ではない。
「月欠けてゆく」・「欠けてゆく梨」という大小の三日月形の対比。
そして、それらの三日月形と「皿」の円形との対比など、大小や一つの造形に偏ることなく、実に自然にちりばめられている。
また、ゆっくり欠けてゆく「月」と目の前で食べるリズムで欠けてゆく「梨」という時間の遅速の対比も一句の中にある。
このように、さまざまな視覚効果・時間の自在性などが混然一体となって、幻想的で美しい非日常的な雰囲気を醸し出しており見事である。
まさに「俳句は写真でも動画でも日記でもない何かの詩」、その見本のような句である。
以下は、俳句観の違いということになるが、このような成功している句において「月・梨」の季重なりを指摘する方はまさかおるまい。
また「季語の梨が主役になっていない」という方もおられようが、それもナンセンス。
芸術作品で大事なことは、素材の序列(主役脇役)ではなく全体の美。
そもそも季語を主役にしなければならないというルールなどないし、季語だけが他のモノのよりも優れていて、豊かなイメージを背負っているというわけでもない。
モーツァルトの交響曲のように、すべてが一体となって美の大波をつむぎ出しているところを感じたい。
女性特有の繊細な心情を、上手くモノに託して詠んだ透明感と色気のある一句です。
大賞おめでとうございます。
<作句のポイント>
句中の対比は、複雑なほうが味わいが深い。

入賞

「梨を剥く同心円の地球かな」
(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)

道場初期には立て続けに入賞を果たされていた高段者。
どちらかといえば写生口のおとなしい句風の方だが、それにあきたらず自分の世界を以後模索してこられた。
今回ようやく詩のバランスが取れてきて、久しぶりに存在感を示した。
意味も比較的拾いやすく、眼前の小さな梨を剥く動き、その動きを同心円にダイナミックに広げて行った先に、地球全体の自転があるという、わかりやすい句である。
この句の見どころは、水は命の源というが、果物の中でも特にみずみずしいイメージの「梨」と、水をたたえた青い「地球」の関係性を詠み込むことによって、イメージの先に「生命の輝き」を感じさせるところ。
さらに、「同心円」は、「梨→地球」に留まらず、→太陽系→銀河→・・・・・と宇宙全体につづいてゆくわけで、作者のびやかな気分も感じ取れてきて、共感をさそう。
眼前のモノに思いを馳せつつ、宇宙の壮大さや生命の輝きという真実を感じさせてくれる宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご覧下さい!
<作句のポイント>
同じ形状同士の対比でも、質の違いによって、イメージされてくる世界は変わる。

「梨狩や青年の歯の美しき」
(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)

「梨狩」で梨をおいしそうに頬張っている青年の歯の美しさを詠んだ句で意味は明瞭。
お題の映像中、小野アナウンサーが歯を見せて梨を頬張っているところに触発されて詠んだ句であろう。
この句の見どころは、「梨」のみずみずしさや「歯の美しさ」が象徴する、さわやかで健康的な生命力あふれるイメージ。
「梨狩」の大きな風景から「青年の歯」にカメラが寄ってゆくような詠み方、「歯の白」に焦点を絞った詠み方が成功している。
何かを言おうとせずただモノに託して象徴的に詠んであるので、いわゆるリズムの悪さや散文の切れはしのような見苦しさもなく、定型にすっきりとおさまって響きもよく、実に気持ちがいい一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご覧下さい!
<作句のポイント>
何かを言おうとせず、ひとつふたつのモノに託す。象徴する。

入選句

特選

・梨捥ぎてぽっかりと空くカレンダー(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「捥ぐ・空く」がイメージの重なりで惜しいところだが、「梨とカレンダー」の関係性は面白い。この方向で。

・梨ふたつ持て余したる乳房かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「ふたつ・乳房」がイメージの重なりで惜しいところだが、「梨・乳房」の関係性は面白い。この方向で。

・梨の花散る喜びは愛される(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→自身の俳句形式を模索中の方だが、「喜びは愛される」という表現が面白く、詩になっている。これからどう俳句を自分のものにするかである。

・月の水こぼれ落ちたる梨実る(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→「落ちて実る」と説明的で惜しい。「水・梨」もイメージが直接的すぎるようである。しかし自分の中の熱いものをなんとか詩にしようという思いの感じられる句である。意味ではなくモノに託すようにして、象徴的に詠みたい。

・東京の空に多めの梨送る(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→詩が分かってきた方である。「空に多めに」送ったので詩になった。これが「息子に多めに」送ったのでは詩にも何にもならない。俳句で大事なのは意味や事実ではなく真実を掴むことである。この方向で。

・梨香る風を追いぬく紅白帽(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→今回は全体的に素材が平凡で惜しかったが、キレイにモノに託して詠んであり、気分が見事に伝わる。この方向性で。期待大である。

・梨むくやせせらぎの音聞こえけり(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
→「や・けり」の切れの重なりが少々うるさいが、余計なことをいわずはっとした瞬間を上手くとらえた。この方向でよい。

・梨を剥く途切れ途切れの回顧録(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→「梨の皮」を剥くとき皮が切れぎれになる様子と、休みながら回顧録を書きあげてゆく様子が見事に重なり、秋の夜長の気分がよく出ている。このようにモノに託す方向で。

・家系図の左の端や梨を食う(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→上手い。このように象徴的に提示されると読者は引き込まれる。読者は「左の端」と「梨を食べる」ことの関係性を必死で探るのである。これがつかず離れずの関係性である。このバランスが崩れると想像力が刺激されない。この方向で。

・太陽と月の間に梨の色(ペンネーム「是多」さん 63歳)
→見事である。俳句形式をわが物にせんと格闘中なのであるが、俳句の常識に染まってないところがよいし、実に若々しい感性である。このようにまずは実感を詠んでほしいのである。この方向で。

・鈴なりの梨の実ゆれる耳飾り(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
→ぶらさがりつながりで、対比が露骨なのが惜しいのであるが、モノに託す方向がよい。俳句は何かを説明するものではないという、俳句形式が分かってきた方である。この方向で。

・透明の空にふんわり実る梨(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→全体的に平凡なのであるが、「ふんわり」という実感がすべてを救っていて詩になった。梨の実がふんわりとははじめて聞くが、言われてみれば納得。実感は詩の命である。

入選A

・梨ひんやり兄は帰ってきたばかり(ペンネーム「にゃんこのしっぽ」さん 17歳)
・梨狩やまた一つ取り戻す空(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
・秋晴れに梨をほおばりケ・セラ・セラ(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
・梨ざらり人差し指にある砂丘(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・梨実る潮引く月の裏側か(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・山深し羅宇の陋屋梨実る(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・天蓋のどこから梨の真っ二つ(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・童心の枝もたわわに梨の園(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
・冷水に半刻浸かり甘き梨(ペンネーム「歩櫓玉」さん 53歳)
・秋晴れの運動会に梨一個(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・水浸し肩を寄せあう皿の梨(ペンネーム「雅「みやび」」さん 54歳)
・梨を剥くネイルアートが映える夜(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・告白の行方みさだめ梨を剥く(ペンネーム「稲穂」さん 56歳)
・タッパーを開いて香る梨の水(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
・ひとつ梨ひとり食べつつひとり言(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・木曽駒や面皰が癒えぬ長十郎(ペンネーム「痺麻人」さん 64歳)
・梨畑笑顔たわわなハーベスト(ペンネーム「こんちかんママ」さん 65歳)
・丸く剥く伯耆因幡は梨の国(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・太陽の雫垂たる梨の園(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
・背伸びして梨をもぎ取る孫娘(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・風の音空を見上げて梨を食ふ(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・木漏れ日に梨持つ母の影くの字(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・阿保らしきタロット占い梨の芯(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・さりさりと梨の白さや歯の白さ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・曇天を引きずり下ろす梨の枝(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・両の手に地球回して梨を捥ぐ(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)
・梨の実くわえ射す光黒黒と(ペンネーム「わい」さん)

入選B

・梨狩りや頬張り果汁ふく無心(ペンネーム「コンスタンチン」さん 11歳)
・犬追われ子ら笑うなり梨の坂(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・ピカピカしている梨は甘くて美味しいね(ペンネーム「あーちゃん」さん 16歳)
・空の梨背伸びする君いとかなし(ペンネーム「カリフラ」さん 20歳)
・果汁満ち広がる痛み口の中(ペンネーム「まみどり」さん 23歳)
・のどごしと子の笑顔よし今日の梨(ペンネーム「優子先生」さん 34歳)
・梨狩る子支え微笑む父の背中(ペンネーム「なつみかん」さん 35歳)
・梨の精大人の事情で出れません(ペンネーム「ブラック松風」さん 36歳)
・実るのは梨だけにあらずファンの夢(ペンネーム「チャタロウ」さん 39歳)
・秋風が甘い香りで誘う世羅(ペンネーム「かなせのせなか」さん 40歳)
・梨を剥くマニキュアの色不透明(ペンネーム「夏川ゆう」さん 41歳)
・梨ひとつ冷蔵庫にて熟れてゆく(ペンネーム「露伴」さん 42歳)
・梨狩りやバスカタコトねむりおり。(ペンネーム「叔父ちゃん。」さん 44歳)
・梨食らい甘き果汁に頬緩む(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)
・梨剥くや軍配返り待ったなし(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
・ジューシーな梨の恋人笑みこぼれ(ペンネーム「西区のぺんぺん草」さん 54歳)
・薄日にもつぶてとやらがあるか梨(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・梨園で気取った男の絵画かな(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・梨狩りで孫の成長皮をむく(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・21世紀世界を駆ける新甘泉(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・取り寄せの秋の香満ちし四畳半(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・作り過ぎカレー持参し梨二つ(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
・初体験梨狩りドライブ満腹じゃ(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・梨の里スカイランタンハイタッチ(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・梨着いた笑顔重なるスマホかな(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・文机に二十世紀と肥後守(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・水枕梨すりおろす母ごころ(ペンネーム「コウちゃんのじいじ」さん 72歳)
・梨狩りも旅もビデオの中で行く(ペンネーム「コスモス」さん 74歳)
・リコリスやもぎたての梨供えけり(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・梨狩りの隣合わせでブドウ狩り(ペンネーム「tokusann」さん 83歳)

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「梨を買え父がしつこいまじかいな」
(ペンネーム「わた」さん 44歳)

「梨がぶり月の裏側大洪水」
(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)

「病室のお下がりの梨噛み砕く」
(ペンネーム「湯来玉」さん 53歳)

「梨売りのスマホいじるや風の道」
(ペンネーム「おちえもん」さん 70歳)

「がんばれえオー世羅大地!と梨齧る」
(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・梨の実や軸傾きたる金星(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→クイズ番組で見た金星が、家にあった梨と傾き加減も同じように似ていて梨が一つの惑星のように思えました。

・焦げついた空剥けてゆく梨の肌(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
→日焼け後が秋になり剥けて白くなる様子を句にしました。

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年9月22日(金)

第66回 お題「V(ブイ・ビクトリー)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「V(ブイ・ビクトリー)」。
抽象的なキーワードでしたが、皆さん実感を掬い取って詠もうとされており、頼もしかったです。
前回のカープ俳句のときにも少し申し上げましたが、俳句は、一句が独立した詩としてしっかり立っている(成立している)こと、つまり、句だけをいつどこで鑑賞しても、詩として通じるということが大事です。

作者のメッセージと一緒に詠まないと理解できない、今ここでしか理解できないという句は、原則さけなければなりません。
「カープのVのこと」を詠んでいると思われるもの句が多かったのですが、残念ながら、Vや鯉だけではそれは伝わりません。

カープのことがイメージできなくとも、なんらかのイメージが感じられる詩として成立していれば問題ないのですが、抽象的でイメージの立ち上がりにくい句もありました。

よって、選外や入選Bは、抽象的なもの、伝わりにくいもの、詩情に乏しいもの。
入選Aは、独立した詩として何らかのイメージをもっているもの。
特選以上は、さらに俳句形式を生かした詩情の感じられるもの、ということになります。
どんなキーワードであろうと、「句だけを鑑賞しても詩になっていること」。
これを先ずこころがけていただければと思います。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
また次回からお題を、2つのユニークなものとし、お一人様、それぞれ5句程度まで投句頂けるようにした。どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「カープV母はセールに走り出す」(ペンネーム「コンスタンチン」さん 11歳)

11歳の作者が今回の大賞。
小学生や中学生の句を拝見していると、先生方が「季語・定型」という前提条件から教えることが多いからか、お行儀がよくて面白くないものが意外に多い。
しかし、この句は季語や前提を気にせず、カープの優勝と母親のワンシーンとの関係を、自分の感覚で自分の言葉で捕らえていて見事である。

句意も光景も明瞭。
カープが優勝し、母親がセールに飛び出すところを詠んでいる。
ひいては、カープ優勝で盛り上がる街中の人込みを縫うようにして進む母親の様子なども容易に想像できる。
優勝で沸き立つ人々と、一直線にセールに向かう母親との対比が面白く、俳味が出ている。

この句の上手いところは「は」という助詞の使い方。
これが想像力を刺激する詠み方で、間接的にさまざまな人々の様子を浮き上がらせている。
・「母は」→セールへ走る。
・「街中の人々は」→カープVで沸き立つ。
・「作者は」→母や人々を一歩引いて眺めている。

カープ優勝に心躍る街中の人々、セール一直線の母親、そしてそれらをちょっと醒めた目で観察している作者という、三者三様の世界観が交錯するような詠み方の奥に、「人はそれぞれ」という達観の精神のようなものが感じとれてきて共感を誘う。
ユニー句というものは、詠もうとして詠むものではなく、結果としてついそうなるという見本のような句である。
大賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
ユニー句を最初から詠もうとしない。ユニー句は結果である。

入賞

「稲穂にも鳥にも告げるカープV」
(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)

カープV・稲穂とあるので、広島の農村部での光景であろう。
優勝の喜びを自然のあらゆるものと共有して歩いているという作者の高揚感がよく出ている。
また「稲穂」という季語をもってきたところも、収獲のイメージと優勝のプラスイメージを何気なくからめており上手い。
作者の言いたい事や意味はすべて狂いなく、うまく表現されているのだが、それ故少し説明的で窮屈な句である。
どこか、余白のない水墨画を見せられているかのような気分である。
それは、句の構造が「カープV(を)稲穂にも鳥にも告げている」という散文の倒置でできているからである。
なので、例えば私が句中の素材で詠むなら、「カープV告げつつ歩く稲穂波」くらいにしたい。
「稲穂波」は田一面に熟れた黄金色の稲穂の波が揺れる様子であるが、このような感じにすると、
広い田の風景と作者との大小の対比、色彩美などが効いて、広がる高揚感が美しく感じられる句になるのではなかろうか。
原句は告げる対象を稲穂・鳥と特定しているが、改作はそこをぼかして、イメージの幅を広げている。
そこが一番の味わい深さの違いとなっている。
言いたいことを言い切るのではなく、どうモノに託すかである。
入賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
「言いおおせて何かある。(上手く言いつくしたとしてそれがどうした)」芭蕉

「列島の色裏返るカープV」
(ペンネーム「あや」さん 49歳)

「列島の色/裏返るカープV」「列島の色裏返る/カープV」どちらでも詩になっているが、前の位置の切れだと、「裏返るカープV」になり、全く違った意味になるので、ここでは、後の位置に切れがある句と解釈する。
カープの優勝で、テレビやインターネットなど、目に入るあらゆるものが「赤」に染まり、日本全国が湧いた一日。
その気分を「列島の色裏返る」がよく伝えている。
「裏返る」のは色なのであるが、どことなく「列島そのもの」までも歓喜で「裏返る」かのような気分が感じとれてくるところが面白い。
こういうところが、意味や散文的な解釈・理解ではなく、「ただ感じる」という世界になってくる。
カープVというそれだけでは概念的な言葉を、「列島・色」と取りあわせることで、大きく詩にもっていった手腕に脱帽である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
日常裏返せないものを裏返す。

入選句

特選

・カープVどこまでも行く赤列車(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
→カープと赤のイメージの重なりが惜しいが、とてもいい把握である。余計なこと言わず列車に託してあるところがよい。この方向で。

・秋晴れや一年分のVサイン(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→カープのことしても何かのうれしい出来事として解釈しても詩になっている。中七が生の表現・甘い表現と取られそうで惜しいが、気分のよく出た句である。

・赤ヘルのV金木犀の香りかな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→上手い詠み方である。カープVではなく、赤ヘルのVとしたところがまず良い。やはりこのほうがヘルメットのイメージが立ち上がってきて印象的である。下五が金木犀に対してひどいつきすぎなのが惜しかった。このあたりを気をつけられたい。この方向で。

・カープVお好み焼きの宙返り(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→全体的やや散文的で甘い詠み方であるが、、楽しい気分を上手くモノに託した。この方向で。

・胴上げやVの字に飛ぶ渡り鳥(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
→カープVなどではなく風景としてのVに託して上手い。この方向で。

・V8背を押し上げる夕日かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→「V8」が今・広島だから通じる限定の表現で惜しい。中七下五には完全に脱帽。この方向で。

・金秋や日記に赤のVサイン(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→上手い。しかしどこかしら素材間(モノ同士)が平凡で惜しい。そのあたりが課題である。

・秋深し三段峡のV字谷(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→気分がよく出ていてVを風景として上手く使っている。惜しいのは景色が月並みなところ。日常風景を詠むときはそこに批判精神がほしいのである。

・秋の虫歓喜を詰めるVセール(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→気分はよく出ているし秋の虫との取り合わせも面白い。惜しいのは「詰める」。これが袋詰めのイメージで「セール」につきすぎになってしまったようである。

・秋づくや彼女が編んだVネック(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→綺麗な句である。Vの使い方も自然で嫌味がない。どこか物足りないのはどこからくるのか。「秋・女・編む・服」とやはり素材間の飛躍に乏しいことである。そこが課題。

入選A

・V8黄金に実る稲の波(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
→V8だけでカープはイメージできない。何より全体的にプラスイメージの重なりで惜しいが高揚感がよく出ている。

・読みかけの本見失うVセール(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→読みかけの本とセールはイメージが離れすぎで惜しいが何らかの屈折した気分よく出ている。

・Vロード秋空を走るカープ陣(ペンネーム「HK」さん 41歳)
→気分はよく出ているが全体的に平凡な印象で惜しい。

・ブイサイン野球のできる秋高し(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→できるできないに主観の出た出来事よりの句で惜しいしイメージが湧きづらい。まだ「秋高し野球小僧のVサイン」など素直に客観的に詠むほうがよい。

・V祈願靴擦り減らす石畳(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→全体的にモノのイメージが近いところが句を平凡にしていて惜しいが、気分がよく出ている。

・干し柿やVサインする白きしわ(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→どこか平凡なのは、宇宙は広いのに干し柿のことばかりに心奪われているからであろう。何らかの対比で詠みたい。

・秋の虹わし掴んでゆくビクトリー(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→なかなか実感の出た句だが後半が観念的になってしまって惜しい。「Vサインわしづかみゆく秋の虹」など。

・赤シャツの案山子軍手でヴィクトリー(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
→「赤シャツの案山子の胸やVサイン」など。

・野分晴れ足音高くVロード(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→全体的にイメージの重なりで惜しいが気分がよく出ている。

・稲稔るこぶし突き上げカープV(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
→豪放磊落な詠み方が面白い。

・柘榴赤の実割れて弾けてカーブV(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
→詠み方は詩的であるが柘榴・赤・カープとイメージが近く惜しい。

・カープV広島弁で生き生きと(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
→イキイキとは作者の主観なので不要。「カープV広島弁の少女かな」など。

・Vの字に寝る吾子いとし蟲しぐれ(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→「いとし」は主観なので不要。「Vの字に寝る吾子細き虫時雨」など。

・Vカープの熱に抗う秋の蝶(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→「抗う」は主観なので不要。「Vカープ熱病のごと秋の蝶」など。

・秋空やV一色のカープ主義(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→「V一色」はこの場合イメージしずらいし「カープ主義」は概念なのでモノに託すようにしたい。まだ「秋空にV字見つけるカープかな」などのほうがよさそう。

・Vの字が逆転カープに見える秋(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
→よくわかるのであるが、全体的に理屈でできているが惜しい。理性理屈ではなく、無意識からの実感のままに詠みたい。

・カープV歓喜に渦巻く瀬戸の秋(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
→「歓喜」が言い過ぎのようである。「カープV渦巻いている瀬戸の海」など。

・カープV称え合いたる虫時雨(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)
→中七が言い過ぎなのでモノに託したい。「カープV語り合いたる虫時雨」など。

入選B

・V目前帰る足取り雨もよう(ペンネーム「せなまる」さん 19歳)
・カープ坊や知るはVのみ1歳児(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
・デジャブかな田中掴んでビクトリー(ペンネーム「ふじくん」さん 30歳)
・あと一歩願いの先にヴィクトリー(ペンネーム「なつみかん」さん 35歳)
・Vサインウインク先は自撮り棒(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・かぶく赤松の葉片手にヴィクトリー(ペンネーム「かなせのせなか」さん 40歳)
・旅行先思い出重ねVサイン(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
・打って投げファンも息のむヴィクトリー(ペンネーム「一風変わった知識人」さん 41歳)
・V8が決まったその日は誕生日(ペンネーム「カープが一番」さん 43歳)
・赤白にカVて咲かす鯉の華(ペンネーム「Dr.でぶ」さん 45歳)
・大空の雁も祝うやVの文字(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・天球へ刻印Vや鳥渡る(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・広島が活気あふれるV8(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・球場でV2願うカープファン(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・胴上げと背中で咲いた小さなV(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・天高し赤つきぬけてヴィクトリー(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・日本一熱燗ひとりVと呑む(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
・カープV老若男女の合言葉(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・Vビール勇者もはしゃぐ爆発だ(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・台風に邪魔され悲願地元V(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・逆転V君を信じて待つ私(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・VVとカープ打線に秋の覇気(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・初鷹狩ファンと成し得るV両手(ペンネーム「痺麻人」さん 63歳)
・V二つ並べてワンダフルの秋(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・スタジアムビクトリーロードは鯉祭り(ペンネーム「八重桜」さん 67歳)
・V8チームメイトの努力魂(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・おあずけV美酒美食か妻肥ゆる(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・曼珠沙華ラインダンスでカープV(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・今夜こそビール常温Vカープ(ペンネーム「のぶさん」さん 70歳)
・やれ嬉し秋晴れ笑顔のVセール(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・秋風やVしてゴール転んだ児(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・広島の日本一へのVセール(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・vロード草木も生えない70年真赤っか(ペンネーム「tokusann」さん 83歳)
・Vロード走って泣いて200万(ペンネーム「ワイ」さん)

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「カープV新聞チラシ真っ赤っ赤」
(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)

「V8カープ優勝おめでとう」
(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)

「秋晴れに天まで上がるV預金」
(ペンネーム「キートン」さん 69歳)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・天高しカープロードへ続くV(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→台風が去って空も心も澄み切った日のカープの優勝が嬉しすぎて浮かんだ句です。

・V祝い血潮のたぎる天の川(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
→カープの優勝が決まり、赤い血が勢いよく循環するように本通りに入り乱れている様子を句にしました。

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年9月15日(金)

第65回 お題「カープ」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマはいよいよ優勝に大手がかかった「カープ」。
「カープ俳句」を詠んでいただくときは「カープ」という文字を入れていただくか、あるいは俳句だけからでも「カープ」のこととわかることがキーワード。
優勝シーン・カープ女子・応援の様子・街の様子・田舎の様子など、沢山の「カープ俳句」をいただき、うれしい悲鳴であった。
選外になった句は、句だけからだとカープのことと理解されないものが多かった。
カープを入れずに詠む場合、如何に誰もがカープをイメージできる句にするかが課題である。

また、今回は、入賞、特選、入選A、ユニー句、とさせていただき、ユニーク欄を増やした。
俳句のレベルは上記の並びの通りである。
意味もよくわかるものが多かったので、今回は選を味わっていただければ幸いです。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞・松本裕見子選

「カープ勝ち熱冷めやらぬ栗ご飯」(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)

入賞・秀格選

「秋空や紅引き締めるカープ女子」(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)

作者は「紅」を「あか」と詠んでほしいということであるが、普通に「べに」と詠んだほうが「口紅」のイメージがしっかり立ち上がってきて印象的なので、そう詠むことにする。
句意も明瞭。
「秋の青空の下、若いカープ女子が口紅をキリリと塗り直している様子」がイメージされる。
つまり、「秋の優勝にむけての試合前、応援する女子が、選手同様に気を引き締めている様子」を詠んだ句である。
上から詠んでいくと、恋愛の句かなと思えるのであるが、「カープ女子」が出てきたときに「ああ、紅を塗るのは恋愛のためではなくて、応援のためなんだな」と解される仕掛け、この意外性がよい。
あまたのモノの中から、「秋空・紅・カープ女子」を選択してきた、その無意識の働きが優れている。
「俳句は句の表面で何かをするものではない」という見本のような句である。
「紅引き締める」が、おかしな表現だという方もおられようが、そんなことはない。
前後関係から上記のようにしっかりと読み取れるし、「勝負にかける熱い思い」がよく伝わってくる。何かピントのバッチリあった写真を見せられているかのようである。
この実感を得たとき、言葉らしくあろう俳句らしくあろうとすることを優先して「紅塗り直す」などとしたら一気に実感から遠ざかり、ピントのずれた写真を見せられているようになってしまう。
大きな「秋空」と、小さな「紅」の対比。
透き通る「秋空」の青と、はっきりと描かれた「口紅」の赤との対比などのよく効いた「優勝・日本一への祈りの気分」がシャープに伝わってくる鮮やかな一句です。
大賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
大小・色彩の対比を生かし、調和を生み出す。

入賞・城みちる選

「たる募金今のカープの底力」(ペンネーム「さくらのママ」さん 70歳)

入賞・馬場のぶえ選

「カープ好き歴代続く茶の間かな」(ペンネーム「さくら」さん 67歳)

入賞・宮脇靖知選

「おはよーの挨拶前にカープ談~」(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)

特選

「カープV妻の位牌を連れ回す」
(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)

句意は明瞭。
亡くなられた奥様の位牌を抱いて、優勝イベントなどへ繰り出す作者の様子を詠んだ句である。
Vは単なる勝利ともとれるが、よっぽどのことがないと普通位牌を連れまわすことなどはしないので、単なる勝利ではななくて、優勝あるいは日本一のことだなと感じ取れてくる。
亡くなられた奥様も生前そうとうなカープファンであったのであろう。
季語はとくに入っているわけではないの無季の句ということになるのだが、優勝・日本一を暗示させることで、自然と秋の気分を引っ張ってきているところが逆説的で愉快でもある。
また、「位牌」などが出てくると、しんみりした句になる場合が多いのだが、この句はどこか俳味(おかしさ)が出ていてユニークである。
それは、下五の軽やかな言い方が、重い「位牌」に対して意外性があり、イメージの釣り合いが取れているからであろう。
「もうそんなにあちこち行かなくてもいいわよ。十分感動をもらったわよ(笑)」などと、作者に笑顔で語りかける奥様の声が聞こえてくるようである。
カープ愛・深い夫婦愛の感じられる一句です。
次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
意外性のある言葉の展開が詩を生む。

「秋の空カープの軌跡指で追う」
(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)

今シーズンのカープの試合を思い返している句である。
秋だけに、優勝あるいは日本一になった後から、過去をイメージして詠んだ心象句であろうか。
カレンダーか何かのメモを指でたどりながら、この日●●がヒットを打ったとか、逆転したとか、ハイライトシーンを思い返している様子がよく伝わる。
また、「空・軌跡」あたりから、「秋の空」に高く上がったボールの光景も、なんとなく浮かんできて記憶と映像が交錯するような詠み方も上手い。
いずれにしても、過去の思い出をたどって、一喜一憂している様子を「指」というモノに託して詠んであるところが見事でリアル。
「秋の空」の大と「指」の小の対比。
「秋の空」の静と「指」の動。
「秋の空」の今と「軌跡」の過去。など、句中の対比もよく効いた調和のとれた句である。
次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
指・肌など自分の肉体感覚で実感を把握する。

その他 特選

・カープレッド増殖中の秋列車(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
・流星を追ってカープのホームラン(ペンネーム「レンジ」さん 23歳)
・秋の色はみ出す空やカープファン(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
・カープ勝ち血潮の通う工場街(ペンネーム「メゾン松風」さん 36歳)
・稲刈りの賑わう空やカープ帽(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)
・にょきにょきと風船はえるカープ戦(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・隣人カープと共に夏過ぎて(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・秋高し躍るカープのユニフォーム(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・マウンドの影動きだすカープかな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
・カープめし線香の影張り付いて(ペンネーム「雅」さん 54歳)
・カープ燃え赤の溢れる良夜かな(ペンネーム「sora」さん 57歳)
・もののふの力舞吼カープや天高し(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
・群れ来たるカープフリーク赤とんぼ(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・引越しの荷にカ-プ応援Tシャツ(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・秋空も磨かれているカープ愛(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・紅葉やライトに映えるカープ女子(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・会えばすぐカープの話温め酒(ペンネーム「ありんす」さん 82歳)

入選A

・マジックの消えた星空カープ勝つ(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・実りの秋カープ優勝占えり(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・逆転のカープ念じて濁り酒(ペンネーム「とわ吉」さん 45歳)
・男泣きはだしのゲンよカープ勝つ(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・稲刈る手耳と心はカープかな(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・カープ戦高まってゆく木魚かな(ペンネーム「あや」さん 49歳)
・秋天を突く沸点のカープかな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・カープロードママチャリ飛びぬ秋の月(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
・ウェイブでカープの球も冠頭へ(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・球場の燃ゆる紅葉カープファン(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・満月の夜空にカープ舞上昇る(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 66歳)
・足ぶみもより歓喜へと行けカープ(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・秋の空真っ赤に広がるカープロード(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
・たる募金今のカープの底力ら(ペンネーム「さくらのママ」さん 70歳)
・カープ愛燃えて残暑は長くなり(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・燎原の火のごとしなりカープV(ペンネーム「東広島なそじい」さん 74歳)
・競り勝ちやカープマジック残りよん(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・実る秋カープ優勝あと幾日(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・チャンピオン成ってカープの秋来る(ペンネーム「ワイ」さん)

<ユニー句>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

カープ女子ユニー句

・呼ばれると恥じらいみせるカープ女子(ペンネーム「なつみかん」さん 35歳)
・カープ女子そこのけそこのけこい昇る(ペンネーム「ひらけ!ごまだれ」さん 37歳)
・道を行くわかり易いねカープ女子(ペンネーム「角森」さん 49歳)
◎恋よりも鯉に恋するカープ女子(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・秋夕焼老いも若きもカープ女子(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・カープ女子いえいえあたしはカープ女史(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・柿剥くや待ちきれぬ日々カープ女子(ペンネーム「痺麻人」さん 63歳)
・天高しメディア取合うカープ女子(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)

カープ愛ユニー句

・父の血をあたしが継ぐカープ愛(ペンネーム「りー」さん 49歳)
・チョモランマ雲突き抜けるカープ愛(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・カープ好き歴代続く茶の間かな(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
・ばんざーい秋晴れカープアア最高(ペンネーム「グラン グラン」さん 70歳)
・星明り最高ですのカープかな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
◎運動会赤を応援カープファン(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)

カープ観戦ユニー句

・年々と増えてく一方バカープファン(ペンネーム「観戦ルールは守りましょう」さん 30歳)
・マグレとは言わせぬ投打鯉魂(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
◎カープ戦気持ちは常にベンチ入り(ペンネーム「迷走亭一門」さん 45歳)
・今年も鯉、カープの季節は1年中(ペンネーム「うちのコ マロン」さん 45歳)
・カープ勝つ燃ゆる夏は終わらない(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・娘の嫁入り、カープも、絶好超(ペンネーム「きんきん」さん 58歳)
・覇気カープ逆転勝利最高です
・月の出や帰路足ばやにカープ戦(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・カープ戦チッケト取れずテレビ前で(ペンネーム「リュー」さん 68歳)

カープ坊やユニー句

◎星月夜カープ坊やの深き夢(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
・秋満タンカープ坊やの貯金箱(ペンネーム「是多」さん 63歳)

優勝セール・他ユニー句

・金秋のカープ優勝セールかな(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
・サヨナラへカープ案山子の仕事ぶり(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
◎今年またカープに感謝秋に宴(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)

<広島俳句名人詠>※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。

・カープロードママチャリ飛びぬ秋の月(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→自転車で通われているというエルドレッド選手の大ファンです。エルちゃんが自転車で秋の月の中を飛び抜けるようなイメージで浮かんできた句です。

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年9月8日(金)

第64回 お題「ビール」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「ビール」。
季語としては「夏」ですが、9月8日から広島テレビのイベントで秋のビール祭りが開かれるということで、このテーマにいたしました。

「選句について」
選句の作業は、ミカンの選別とは違います。
なにがしかの条件(季語・定型・文法・キャリア・うんぬん)でふるいにかけているわけではありません。
一句一句の詩としての生命・輝きを見せていただいているのです。
だからこそ、血の通ったどんな句に出会えるか毎回わくわくしています。

「俳句はにじみ出るもの」
世には「俳句を作る・作り方」という発想がありますが(私も「作句のポイント」などと便宜上述べるときもありますが)、違和感があります。
俳句は料理のように何かを何らかの条件で混ぜ合わせて作るというようなものではありません。
よくあるのは「つぶやきや日記の切れ端や言いたい事に季語を合わせて」仕立てるというものですが、それは俳句の短さを逆手にとった「俳句形式の恩寵にあずかる作句態度」で、私は全く関心できません。
こういうのを俳句入門として教える風潮もあるようですが、私は賛成できません。
俳句は詩であり、詩は芸術。
それはただ「心中より滲み出てくるもの」。
その無意識からの実感(そんな気がする)に形を与えるのが俳句です。

「無意識について」
無意識を考えるとき、夢をよく例にとります。
皆さんも夢を見られたことがあるでしょうが、論理やつじつまが合わないことばかりです。
しかし夢を見ている間は、どんなにおかしな世界でも、非常にリアルに受け止めています。
無意識からの実感(そんな気がする)も、本人にとっては夢と同じくリアルな体験です。
夢も無意識もその人の意識できないある一面の働きによるもの。
ばからしいと捨てたりせずにそこに「形を与えてほしい」。
それが俳句(詩)です。
だから、季語・定型・文法などにこだわる必要はありません。
初心者・ベテランもそこまで関係ありません。

「詩とエピファニー・至高体験」
ゲーテは「ファウスト」の最後で、「世界のあらゆるものは隠喩だ」と言っています。
芭蕉は「ものの見えたる光(三冊子)」と述べています。
神話学者のジョーゼフ・キャンベルは、『神話の力』の中で、「詩は通り抜けられる言語です。・・・(略)・・・暗示されているものは、当の語句を抜け出たところにある。語を通り抜けたところに光明があり、エピファニーがある。」と述べています。
これらは、句の表面そのものではなく、句からイメージされてくる世界のスケールや調和を大事にする私の「宇宙流の俳句観」ともかなり近いとらえ方です。

「詩(象徴)とレストランのメニュー(記号)」
詩(象徴)とレストランのメニュー(記号)は違います。
レストランのメニュー(記号)では「ビール」選ぶと、「ビール」が出てきますがこれは詩ではありません。
俳句(詩)が俳句(象徴)であるためには、「ビール」を詠みつつも、「ビール」を越えたなにがしかをイメージさせるものでなくてはなりません。
それが、神話学者のジョーゼフ・キャンベルのいう「詩は通り抜けられる言語」ということになります。

今回の大賞句などは、「ビール」を詠みつつ、「ビール」以外のイメージ(世界)を引っ張ってきているところ(象徴性)が見事です。
そのあたりを感じとっていただければ鑑賞は成功でしょう。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の感性を磨くこの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「缶ビール文字あふれだす置き手紙」(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)

「缶ビール」と「置手紙」という舞台装置。
これだけで世界がもう整ったという感じの句で、モノへの託し方がずいぶん分かってこられた。
これは「別れ」のシーンであろうか、「突然の旅立ち」のシーンであろうか。
1. 「缶ビール」を飲みつつ置き手紙を読んでいる様子」2. 「あふれだす」という実感から、「やむにやまれぬ別れ」のようなものがイメージされてくる。
それは、子どもの突然の自立・旅立ちなどであろうか。
俳句は中七で崩れる場合が多いが、見事な言葉のメタモルフォーゼ(変容・意外性)である。
「缶ビール→文字→あふれだす→置手紙」と→の前後の言葉の関係性がすべて意外である。
読者の期待を裏切りつつ詩は展開し、一句を詠み終わったときに立ち上がってくる「置き手紙」を書いた人の、作者に対する「あふれ出る」思い。
そして「置き手紙」を残していたった人に対する「さみしさ・かなしさ・思い出」など、作者のまだ「整理のつかぬ『あふれだす』気持ち」。
その複雑なもろもろの感情などが交錯している様子が、「モノとモノの関係性」からあぶりだしの絵のようによく伝わってくる。
これを理性的に受け止めて、「あふれだすのは『缶ビール』で、『文字』は『置き手紙』のことだから、そのあたりを続けて、『置き手紙文字あふれだす缶ビール』のほうがいいのでは?」などと発想するのは余計なこと。
「缶ビール」と「置き手紙」が交錯するような詠みぶりにこそ、無意識からの実感が強く感じられる。のである。
大賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
モノとモノの関係性で、それ以上の世界を伝える。

入賞

「夜行バス国の訛りの缶ビール」
(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)

シーンは明瞭で、気分のよく出た句である。
眠れぬ夜なのか目覚めた朝方なのか、「夜行バス」で、一期一会の偶然で座席が隣なった見知らぬ者同士が、会話をしている様子が眼に浮かぶ。
この句の上手さは、「国の訛りの缶ビール」。
ここに期せずして俳味が出た句で、これだけで、ビールを飲んでいるところが印象的な、地方に住むの豪放磊落などこか憎めない男性のイメージが立ち上がる。
「旅は出会いである」とはよく言うが、何を言うでもなく「夜行バス・国訛り・缶ビール」という心に止まった舞台装置を打ち出すことで、「旅や出張などでの、出会いの面白さ楽しさ」をよく伝えている
一句です。
入賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句は何かを語るものではない。
無理に盛り込もうとせず、心に留まったモノに託してみる。

「黒ビール飲み込んでゆく輸送船」
(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)

「実感を詠むこと、モノに託すこと、句の背後のイメージを大事にすること」、これらが分かってきた俳句名人に近い方である。
この句を、散文的に解釈しようとすると「黒ビールが輸送船を飲み込んでゆく」という印象になり、さっぱり理解できない。
しかし、俳句形式に基づいて味わえば実に魅力的である。
解釈としては、「輸送船」の中に輸出用の黒ビールの樽が次々と積み込まれてゆくイメージの句。
あるいは、「黒ビール/飲み込んでゆく輸送船」とここに切れがある句で、「黒ビールの独特の色彩やイメージと、輸送船が黒い荒波をもろともせず進んでゆくイメージを重ね見た句」などとなろう。
ここではより俳句形式を活かした後者ととっておく。
「黒ビール」と「海の色」との色彩の調和。
「目の前の黒ビール」と「大きな海という」大きさの対比。
いずれにしても、「黒ビール」と「海」のイメージとの重ね方が上手く、「つかずはなれず」の絶妙の関係性を保っているところを感じ・味わいたい一句である。
どこかしら「だまし絵」でも見ているような気分になる句で、「黒ビール」が「海」になってゆくような、「海」が「黒ビール」になるような、そんな気分を醸し出していて幻想的である。
「諸行無常」ではないが、この世の存在はすべて常に流動変化するということを思えば、このような表現や感覚も理解できるのではなかろうか。
句の背後のイメージが豊かな「宇宙流」らしい一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
モノとモノの醸し出すイメージの関係性を大事にする(楽しむ)。

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「天辺にカープ居座りビールかな」
(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

「たまに負けカープとビール苦さ増し」
(ペンネーム「tokusann」さん 83歳)

「小窓しめ老夫と風呂でビールかけ」
(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)

優勝街道まっしぐらのカープ。
「ビール」といえば、カープ観戦や優勝のビールかけのイメージ。
そんな句を多くいただきました。

入選句

特選

・煙突の白煙溢れし瓶ビール(ペンネーム「ルビー」さん 18歳)
→「煙突・瓶ビール」のイメージの重ね方が少々意図的なところが惜しいが、モノに託してあるところ、気分が出ているところがよい。テクニックではなく自分の実感ある世界を詠むようにしたい。

・瓶ビール空湧き上がる里帰り(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→どうも下五が安易な気がするが、気分のよく出た句である。モノに託すこの方向で。

・広島の空に歓喜の麦酒かな(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→少々抽象的なのでもう少し具体性がほしいが、カープのことだなと気分は伝わる。俳句形式を活かした詠み方が上手かった。

・ビール酌む胡座の上の胡座かな(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→ユニークな句は詠もうとして詠むものではなく、結果としてそうなるもの。その見本のような句であり、俳味がよく出ている。実感を上手く掬い取った一句である。この方向で。

・缶ビールプルの向こうに黄金の国(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→全体的に散文的なところが惜しいが、表現しようとしている世界は見事。実感を上手くとらえている。この方向で。

・缶ビールクシャッと潰し午睡かな(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
→軽みの句ともとれるが、「潰し」と意志や主観が働いているところがその分句を弱くしてしまい惜しかった。「クシャリと潰れ」くらいに軽く詠むほうが気分が出そう。

・教科書の茨木のり子麦酒飲む(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→やや粗い取りあわせではあるが、それなりに気分はでている。

・潮風に足ぶらさげてビールかな(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→これでいいのである。ただし「ぶらさげて〇〇」が説明的なので「ぶらさげる」などとしたい。のびやかな心境がよくでている好句である。

・ビール越し金色染まる瀬戸の海(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 65歳)
→全体的に詠みが甘いがセンスを感じる。「ビール・黄金」「黄金・染まる」などイメージの重複に気をつけてみたい。

・天と地の黄金豊かにビールかな(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
→「黄金・ビール」はイメージの重なりであるが、おおらかな詠み方が好感がもてる。

・ビール注ぐブルーグラスや旅の部屋(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→全体的に日常世界で月並みであるが、「ブルーグラス」のイメージが面白くよく効いている。散文を17音に引き算して句に入れ込もうとせず、実感から湧き出るままの17音を期待したい。

・朱の鳥居立つ屋上のビアガーデン(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→俳句は何かを直接のべるものではない。モノに託すこの方向でいいのである。「鳥居・ビアガーデン」のイメージの対比が面白い。

・星明り語りあかすや缶ビール(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→中七が甘く平凡で惜しい。しかして少々月並みながらも「星明り・缶ビール」は気分が出ていて共感を誘う。

・寮室の隅で指おる壜ビール(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→寮生のどこかしらさみしい気持ち・屈折した気分がよく伝わる。モノに託すこの方向で。

・しまなみの渦穏やかに生ビール(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→、「穏やかに」が少し甘く惜しい。その実感を「渦引き寄せる」など、さらに掬い取ってほしかった。しかし全体的には無理ないなかなかの句である。

入選A

・曇天を破る拳や生ビール(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→少々生で直接的な表現が惜しいが、カープ俳句的な気分の句としてはよくわかる。

・生ビール秋を眺めて空を待つ(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→「空を眺めて秋を待つ」では平凡。その一点でやや救われたが、そこが今度は作為が目立った。やはり俳句を散文的なセンスで捕らえているところが一番の問題。俳句形式(切れ・韻文)を活かして詠んでほしい。

・ビールから溢れ出る泡河になる(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「ビール・川」ともに液体であるのでイメージが近いところと全体的に説明的なところが惜しい。モノに託すこと、俳句形式(切れ・韻文)を自分のものにすること。これが課題であろう。

・ビール蹴る路地に横笛幽かなり(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→少し盛り込む過ぎのようで惜しい。「ビール缶蹴る路裏や笛の音」など。

・なで肩のノンアルビール風をきり(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→下五が安易で惜しい。しかし「なで肩のノンアルビール」という発見は手柄。俳句はなんとなく気分が伝わればいいものなでせめて「なで肩のノンアルビールや風の音」くらいか。

・地ビールの浮き沈みする雷魚かな(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→「地ビール・雷魚」の関係性が導くイメージが湧いてこない。すなわち「離れすぎ」で惜しい。「つかず離れず」の関係性を句にしたい。

・愛娘嫁ぐ前夜の瓶ビール(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→タダゴト句で惜しい。散文的表現から脱出して。それ以上のイメージが湧く句を詠むようにしたい。

・子午線を飛び散らせたるビールかな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→中七の詠み方が安易で惜しいが、いよいよモノ句の世界・宇宙流の世界に入ってきた方である。次回を期待したい。

・ビヤホール足泳ぎ出す宇宙浮遊(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→「中七」の実感が天才的に見事なのであるが、それを「下五」で説明してしまって惜しかった。「地平線」など、何かに飛躍してほしかった。

・ビールにも恋にも少しある苦味(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→言いたい事は見事に伝わるがそれ故惜しい。書かれてあること以上のイメージを伝えたい。俳句モノに託ようにしたい。

・夜勤明けスクランブルの缶ビール(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→中七が安易というか直接的で惜しい。実感あるところを詠もうとしているところはよい。

・火燃え尽きて泡も消えたるビールかな(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→主観・自我・主張が出すぎなようである。「墓石の四隅冷たきビールかな」など。素直にモノに託すように詠みたい。熱い詩心をそのまま出さずモノを通すようにしてほしい。

・訳ありの空家にビール瓶2本(ペンネーム「是多」さん 63歳)
→全体的に舌たらずな散文表現で惜しい。「上五」は言い過ぎである。「空家・ビール瓶」はなかなかの舞台装置なので「背の低き空き家居すわるビール瓶」など、モノに託すようにしたい。

・墓参り父の花立ビール瓶(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
→全体的に舌たらずな散文表現で惜しい。盛り込み過ぎなので少しモノを整理するようにしたい。

・立ち話松の影伸び缶ビール(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→全体的に舌たらずな散文表現で惜しい。「松の影伸びゆくままに缶ビール」くらいに楽に詠みたい。

・缶ビール在りの遊びのゆらめいて(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→中七が意図的で惜しい。無意識からの実感ある句を期待したい。

・ブラックホールへ呑み込まれゆくビールかな(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
→中七が上句下句に対して平凡で惜しいが、大胆で若々しい句である。この方向を期待したい。

・缶ビール分け合ひて野の句座楽し(ペンネーム「尾首美知子」さん 78歳)
→「楽し」が言い過ぎで惜しい。いいたいことは句にならないので、「吟行の分け合って飲む缶ビール」くらいであろうか。

入選B

・川風に薄柿着たるビール持ち(ペンネーム「真土」さん 28歳)
・漆黒の麦酒の苦味大人かな(ペンネーム「なつみかん」さん 35歳)
・祝い星赤い笑み咲くビールの輪(ペンネーム「キャオ」さん 36歳)
・不器用は父親譲りビール酌む(ペンネーム「村蛙」さん 36歳)
・黒麦酒泡の先に歴史みる(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・えだまめとはいビールですたちまちと(ペンネーム「ひらけ!ごまだれ」さん 37歳)
・ふつふつと泡たまりゆくビールかな(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・ビール飲む孫は大人の世界見る(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・行く夏を惜しみながらビール飲み(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・バーベキュー ビール囲んで(ペンネーム「ぐーるぐる よこたん」さん 41歳)
・若鯉が花火打ち上げビールかけ(ペンネーム「おいざぶろう」さん 44歳)
・疎遠ですクリス先生ビール好き(ペンネーム「わた」さん 44歳)
・産湯にも使う鉄管ビールかな(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・お酌する孫のビールは最高でーす(^o^)(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・百代の過客が交わす麦酒かな(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・泡の髭苦虫噛んだセピア色(ペンネーム「猫チュー」さん 57歳)
・四時からのテレビ相手にビール飲む(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・ビール泡量の加減に愛をみる(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 61歳)
・老夫婦昨日のビール今日も飲み(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・青春の高歌放吟瓶ビール(ペンネーム「小野山道山」さん 62歳)
・訳ありがストローで飲む缶ビール(ペンネーム「痺麻人」さん 63歳)
・このビ-ル貴方と飲むから美味しいの(ペンネーム「マイマイ」さん 66歳)
・楽しみだ優勝決定のビ-ル掛け(ペンネーム「彩の介」さん 66歳)
・ビール抜き我もコップに三センチ(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
・飲み放題ビール・ワイン等夜空の下(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・残業は会議も空ろ生ビール(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・孫の注ぐビールで乾杯鯉祭り(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・車座や今日のヒーロー缶ビール(ペンネーム「ヒロリン」さん 69歳)
・前祝いダム放流か瓶ビール(ペンネーム「グラン グラン」さん 70歳)
・検診を終え早速にビールかな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・一汗によびこまれしやビール腹(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・膝に猫テレビに入るや缶ビール(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・子がまねた白髭愛しわがビール(ペンネーム「かいちゃん」さん)
・割れかけたビールや空やノーゲーム(ペンネーム「ワイ」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・大洋の鯨跳ねゆくビアガール(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→頭の中に浮かんだもので特に意味はありません。

選者詠:谷村秀格

・缶ビールもぐりこんだる王の国

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年9月1日(金)

第63回 お題「葡萄」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「葡萄」。
今回も新しい方含め多くの句を賜りました。
世の中のほとんどを占める「現実を現実らしく詠む浅い俳句」ではなく、「モノを通して、その本質をあぶりだし、イメージの世界で、宇宙と一体となる宇宙流俳句」、その面白さや奥深さがいよいよ周知されてきたことをうれしく思います。
俳句を季語や常識・約束事・前提・文法などという狭く囲う方向(俳句らしさ)でとらえず、超短詩としての芸術性そのもの奥深さに挑戦していただきたく願う次第です。
その鍵は、言いたい事を直接述べるのではなく、モノにどう託すか。
今回の入賞3句はそのあたりが非常に見事なのが印象的でした。
その三句の解説を詠んでいただければ、その素晴らしさがご納得頂けるかと思います。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからご応募ください!

大賞

「三つ子抱くたわんだ空や葡萄狩り」(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)

今回は応募期間が長かったため、そのぶん投句も沢山いただいたが、一読したときから大賞候補として印象に残った。
「三つ子」は、三歳児、あるいは、多胎児として生まれた子供たちの両方にとれる。
作者は「三歳児」の我が子を詠んだようであるが、「多胎児」として生まれ出た「三つ子」と取るほうが、複数実をつける「葡萄」の気分に合っているので、ここではそうとる。
大事なことは、現実を現実らしく詠むことや、作者の意図通り鑑賞することではなく、詩の生命をどう見出すかである。
圧巻は言わずもがな「たわんだ空」。
「三つ子」ともなれば、一度に三人を抱く重さを正確に伝えるべく、思わず「三つ子抱く重たき空や葡萄狩り」などと詠みそうなところである。
これが「三人の子」の句ではなく、三歳児を詠んだ句であったとしても同様である。
その気持ち・意図をぐっと抑えて、「たわんだ空」と視覚化・触覚化したことで、句に一気に血が通った句である。
「たわむ」とは「弓なりに曲がる」というような意味であるが、固定された形ではなく、バネのような上下運動のイメージもある。
「しゃがんで」多くの子をかかえて「抱きあげる」というような動作や、「葡萄」を収獲する動作などとも見事に連動しており、イメージの釣り合いが上手くとれている。
ひいては、その上下運動のイメージから、「子育ての憂楽」の気分なども感じ取れてきて共感を誘う。
俳句という超短詩は「言いたいことをただ素直にいえばいいというものではない」ということを見事に示した手本のような句である。
大賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
言いたい事は直接言わない。モノに託す。

入賞

「黒葡萄色溢れ出す遊戯会」
(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 37歳)

「黒葡萄」は、古来より自生している(ヤマブドウ・エビヅル・エビカヅラ)を差しているともとれるが、句の気分としては、現在、贈答品などでよく頂く黒色種の葡萄のイメージであろう。
やはりこの句も「色溢れ出す」という中七の「時間性・意外性」がすぐれている。
「黒葡萄色溢れ出す」は、その地味な外見からは想像もできないジューシーで甘美的な味わいが広がってゆく様子を色彩になぞらえて感覚的に伝えているし、「色あふれだす遊戯会」は、「遊戯会(発表会)のシーンで、出だしは緊張していたが徐々に個性が表れてきた幼児たちの様子」を一瞥で象徴的に伝えている。
このように、「黒葡萄色溢れ出す」「色あふれだす遊戯会」のどちらも説明的表現ではないにもかかわらず、そのモノの本質(光)を的確にとらえているところが見事である。
芭蕉のいう「ものの見えたる光」というのは、こういう把握をいうのである。
そして最終的に、句の表面には書かれていないが、一句を通して感じ取れてくるフレッシュさ・のびやかさ・幸福感などが、自然と読者を楽しませる。
季語的な意味・辞書的な意味ではなく、自分の目でとらえた(実感)モノの本質(ものの見えたる光)を詠みあげた佳句です。
入賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
常識的な把握ではなく、実感(私はそう感じた)を大事にする。

「絵日記を開いて香る葡萄かな」
(ペンネーム「角森」さん 49歳)

作者は「絵日記の中の葡萄」を詩的に詠んだようであるが、それだと「絵の中の葡萄が香り立つようだ」という比喩の句になってしまい「葡萄・香」のモノとしての存在感が希薄である。
しかし、「絵日記を開いて/香る葡萄かな」とここに切れがある句と解釈すれば、「葡萄」そのものが眼前にある句になるので、ここではそうとる。
そうすると、「絵日記を開いた」とき、「葡萄」は本当の命(本質・輝き)を得た(香った)という詩的真実の句になり、イキイキしてくる。
つまりこの句も、芭蕉のいう「ものの見えたる光(モノの本質)」を詠んだ句ということになる。
「モノ(季語)の本質は、歳時記の記述ではなく、モノとモノ(素材)の関係性によってあぶり出される」というよいお手本である。
これは例えば、前の職場では生きがいが感じられなかった者が、転職してイキイキと生きているというような感覚と似ている。
人でさえ、その置かれた環境との関係によって、輝きも弱りもするのである。
「絵日記」が開かれたときこそが、「葡萄」が命を得た瞬間(輝く)なのである。
モノの本質を見事に把握した一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
「モノの本質は、モノとモノとの関係性によってあぶり出される」

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「にらみ合い肩こすり合い房葡萄」
(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)

「一房を孫と分け合う葡萄かな」
(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)

「甘やかに葡萄匂うや旅のバス」
(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

ユニークな句の中でも今回は少しレベルの高い句をご紹介。
どれも様子がよく思い浮かぶ納得の句ですが、惜しいのは、現実(A)を現実のまま(A)詠んでいいて、それ以上にイメージが広がらないこと。
現実のモノ(A)を詠みつつも、それ以上の何か(非A)が伝わってくるような句を目指しましょう。

入選句

特選

・太陽の歌吸い込みし黒葡萄(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→中七が少し甘いのが惜しいが、こういうオリジナルな把握を大切にしたい。この方向で。

・葡萄棚関羽張飛の胸あたり(ペンネーム「伊予吟会 宵嵐」さん 47歳)
→「棚・胸」が意図的で位置情報としてつきすぎであるが、時空を広くとってのびやかなところがよい。

・海賊船霧に顔だす葡萄かな(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→惜しいのは「霧・葡萄」の季重なりではなく「海賊」という意外性のある言葉を出しながら「船・霧・顔」と言葉の変容・展開が甘かったところ。しかして気分の出た句である。

・夜の雨重くなりゆく黒葡萄(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→応募句の中ではこれがよい。自身の内面を上手くモノに託した心情表出が充分な句である。中七が安易に流れたところが惜しまれるが、この方向を期待したい。

・掌に葡萄食い込む樹海かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→いよいよ「モノに託す・宇宙流」を掴んでこられたようである。実際の風景のようでもあるし、心象風景のようでもある。いずれにしても、心情表出が充分で、中七の把握と樹海の怪しげな気分がよくあっている。この方向を期待したい。

・掌の葡萄冷たく暖かい(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→物理的には冷たいが心理的には幸福であるという詩的真実の句である。その発見・実感が共感を誘う。

・葡萄吸う薄紫の目を伏せて(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→動詞に目が行くと「出来ゴト」を詠んだ「コト句」かなと思ってしまうが、全体としては、女性の繊細な内面をよんだ「モノ句」である。すべての言葉が静かに調和した青い世界を味わいたい。

・乳飲み子やまるまる太った葡萄かな(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→切れ字の重なりや中七の甘さは惜しいが、「乳飲み子・葡萄」がつかずはなれずで生命力の感じられるなかなかの取り合わせの句。

・早朝の霧の海から葡萄舟(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ」さん 65歳)
→惜しいのは早朝。これを入れたために説明的になり、幻想性が半減した。「霧・葡萄船」このあたりで句にもっていきたい。しかしてそのマイナスを充分カバーするくらいの気分の出た句である。実際の風景でも心象風景でも実感ある世界を形にすることが大事ということである。

・深海に触れて脈打つ葡萄棚(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→「~に~して~する」が説明的で惜しいが、広がる「葡萄棚・深海」の幻想性は離れているようでよく呼応している。詠みに気をつけてこの方向で。

・火星より風きて葡萄ゆさぶらる(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→この句も前句同様「~より~きて~される」と説明的で惜しいが、「火星・風・葡萄」の織りなす気分はなかなかである。詠みに気をつけてこの方向で。

入選A

・葡萄玉祖母の光りし黒電話(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→「葡萄・玉」は言葉の重複。応募句は理屈で作っていて惜しい。実感を優先したい。

・夕暮れと葡萄の深き残暑かな(ペンネーム「ルマンドだいすき」さん 27歳)
→「夕・残」などイメージの重なりが惜しいが、気分はよく出ている。中七の把握は天才的に素晴らしい。俳句形式になれてくれば末恐ろしい方である。この方向でよい。

・たわわなる葡萄真下より見上げる夜(ペンネーム「ままっち」さん 35歳)
→「上・下」と意図的に詠んであるのが惜しいが、「夜」の気分がよく効いているムードある句である。

・葡萄摘み食べながら聴くさだまさし(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
→現実をそのまま句にしてしいるところが惜しいが、気分はよく出ている。

・太陽の黒き葡萄が笑ってる(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→「の」が面白い。軽い「切れ」であろう。下五が散文的で甘いが、ユニークな取り合わせである。

・葡萄食う恋占いを始めたり(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→現実を現実らしく詠んでいるだけの句で、それ以上の広がりがなく惜しい。つまり俳句らしい詠み方だけでもっている句である。俳句を俳句枠でとらえず、芸術として何かを感じさせるよう詠んでほしい。

・団地裏一房下がる葡萄かな(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
→京都では道を説明するときに「上がる下がる」というが、どこかしらそのような気分の出た句で面白い。その意味では「房・葡萄」がつきすぎで惜しい。現実をそのまま詠もうとせず、ここから詩にもっていきたい。

・ブルームの漂う空や黒葡萄(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→今回は理屈でこしらえたという感じの句で惜しかったが、韻文というものを心得ている方である。

・葡萄狩り背伸びの子らに背負わるる(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→面白い把握の句である。下五からまた上五へはね返るような詠み方も効果的である。

・天高く青空の下葡萄狩り(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
→「天高く青空」このあたりは言葉の重複であるが、素直で気分の出た句である。

・青葡萄交互につまみ恋占い(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→「青葡萄」は未熟な葡萄を差すが、この句の場合は熟しても青い葡萄のようである。いずれにしても出来事をそのまま詠んだだけの句になっていて惜しい。何かを感じさせるよう詠んでほしい。

・ふるさとの風に広がる葡萄狩り(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→「ふるさと・風・葡萄狩り」と素材が平凡なところが惜しいが、「風に広がる葡萄棚」ではなく「葡萄狩り」という意外性がよかった。この把握を忘れずに。

・貴婦人よ古城の川風葡萄畑(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
→「~よ・~せよ」などの演説・命令調は、俳句としてはその時点でほぼおしまいである。あれこれ盛り込まずポイントを絞るとよくなりそうである。「川風の古城にのぼる葡萄畑」など。

・静寂の宇宙に葡萄の落つる音(ペンネーム「真夏のクリスマスローズ(改名)」さん 65歳)
→短歌の上の句というか、散文の切れはしのようになってしまい惜しい。ここから句にしたい。音への着目はなかなか面白い。

・初生りの葡萄七粒食卓へ(ペンネーム「さくらさん」さん 67歳)
→中七の具体的な数が効いているものの「上五・下五」ですべて種明かし(説明)してしまって惜しかった。「初生り・食卓」にとらわれず、中七のすばらしい実感を活かすべくここから句にしたい。

・お互いに顔を見つめ合う葡萄かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→「お互い・見つめあう」は言葉の重複であろう。しかして葡萄同士の見つめあい・人同士の見つめあいなどとダブルのイメージが湧いて楽しい句である。

・ピオーネや瞳濡らして見る夜空(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→中七以降の言葉の展開が平凡で惜しい。「瞳→濡れる→見る→夜空」この→の前後にほぼ飛躍がない。こういうところに気をつけてほしい。印象的な気分はよく出ている。

・房を持つ背伸びの影や葡萄棚(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→「影」を浮き上がらせたのは手柄で見事。このような把握を大事にしたい。

・地の匂い滲み出たれり黒葡萄(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→中七で少し崩れた句である。上五の発見把握はさすがでお見事。

・葡萄粒エデンの海を湛えおり(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→映画を彷彿とさせる。下五が完全な説明で惜しかった。「葡萄・エデン・海」はなかなか気分の出たキャスティングである。

・背伸びして三次盆地の葡萄棚(ペンネーム「ありんす」さん)
→散文的で惜しいが、素直な句で好感がもてる。

入選B

・ながら食い葡萄汁飛ぶ十一時(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・おいしい葡萄は何回食べてもあきないよ(ペンネーム「あーちゃん」さん 16歳)
・しんみりとワインで気づく葡萄かな(ペンネーム「俳句大好き和歌山県民」さん 17歳)
・紫の宝石光る葡萄園(ペンネーム「ルーピカ」さん 18歳)
・好物の葡萄で父を釣り上げる(ペンネーム「あまくん」さん 25歳)
・ケンカしつつ家族でつまむ葡萄かな(ペンネーム「あゆみっくす」さん 32歳)
・葡萄食べ満面の笑み母ヨダレ(ペンネーム「ゆいまま」さん 34歳)
・房をもぎくちにほおばりベタベタに(ペンネーム「りぃさん」さん 34歳)
・一房の蒲萄に掛ける祖父母の愛(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・肺胞の気体交換デラウエア(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・葡萄狩ひそひそ声で話す母(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・甘酸っぱい葡萄の旅に胸いっぱい(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
・ブドウ狩りひと房食べてギブアップ(ペンネーム「やすこさん」さん 43歳)
・しっとるけ葡萄皮ごといけますよ(ペンネーム「わた」さん 44歳)
・横たわる女の裸蒲萄かな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・つどう輪の卓に遠慮のぶどうかな(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・病室の父からメールピオーネを(ペンネーム「ふくさん」さん 48歳)
・言葉などいらぬ葡萄の甘さかな(ペンネーム「つぶあんこ」さん 54歳)
・白シャツに甘やかな染み葡萄狩(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・葡萄食べ銀河鉄道星は澄み(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・手ぬぐいと葡萄を一房そっと置く(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・腫物に葡萄の風の艶めきて(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・ひとしずくのどが喜ぶ葡萄の実(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・秋深し葡萄の味覚に舌鼓(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
・むらさきの熟れた巨峰の皮ぬがす(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・丘の上月の裏側葡萄の脱皮(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・こっそりとつまむ葡萄の厨かな(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
・読めるけど書くに書けない葡萄の字(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 60歳)
・太陽の恵うっすらマスカット(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・葡萄食ふ房の緊張崩れをり(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・あの日から嫌いになったぶどうっこ(ペンネーム「夢野すず」さん 65歳)
・赤ヘルの今日の乾杯葡萄酒で(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・ブドウから赤白ワイン名前変え(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・一房の葡萄粒毎味あそび(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・孫連れてババは背伸びの葡萄狩り(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・古希同窓ぶどうのスカーフピンヒール(ペンネーム「グラン グラン」さん 69歳)
・今年こそブドウ色の旗ねらえ(ペンネーム「のぶさん」さん 70歳)
・暗闇の舌で種選る葡萄かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・一房の葡萄と絡め余生論(ペンネーム「東広島のなぞじい」さん 74歳)
・伸びゆくや枝はしばられ葡萄棚(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・ルビーなる珠玉に重き銘ぶどう(ペンネーム「呆人」さん 76歳)
・溢れ出る葡萄の甘露伝い落つ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 77歳)
・今年も葡萄届きし姉想う。(ペンネーム「浜辺の天使」さん 77歳)
・葡萄一粒噛んで見つけた紫色の血(ペンネーム「ワイ」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・ぽきぽきと地軸傾けぶどう狩り(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→ぶどう狩りでお土産用にキロ単位で値段が付いているのを見た時の句です。地球上の全ての葡萄を集めたら 凄い数になって、それを一度に刈り取ったら地球が傾くのでは、、、と想像しました。

選者詠:谷村秀格

・大陸の拾われてゆく葡萄かな

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年8月11日(金)

第62回 お題「盂蘭盆会」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のテーマは「盂蘭盆会」。
はっきりしたモノではないので少し難しかったようである。
いろいろな句が送られてきたが、今回はこの季節としての「盆」が入っているか、そのあたりの句であればよいことにした。

この道場で鍛えていただきたいことは、感性であり、芸術性そのものなので、盂蘭盆会は行事の季語で、盆の月は天文の季語で、、、というような季語や知識の勉強ではないからである。
ちょっと調べればわかるようなことを、わざわざこの道場で学ぶ必要はない。

宇宙流俳句は、特に前提や常識にとらわれない自由な俳句観である。
俳句を詠むときは「実感・無意識」から。
俳句を鑑賞するときは「説明できなくとも、いいものはいいなーと、一句の芸術性をただ『感じる』」。
他に何が必要であろうか。
季語が中心に来ているとかいないとか、季重なりがどうだとか、まず前提や常識ありきというような浅く狭い俳句観ではないのである。
少々おかしくてもよい、あなたの感性・自分の感性を信じて、その実感をモノを通して詠んでほしいのである。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂するこなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからチャレンジください!

大賞

「盆休み両手広げる白道着」(ペンネーム「雅」さん 54歳)

「盆休み」で軽く切れている句。
句意としては「盆休みだな。白道着がのびのびと干されているな」という感じであろう。
休みなく活動していた剣道部などの部活動も、お盆でようやく一休みといったところであろうか。
「盆休み」とだけ聞くと、帰省や家族の集いや笑顔のイメージであるが、この句の見どころは、「白」の醸し出すイメージがよく効いていて、死に装束ではないが、どこかしら先祖を偲ぶ気分も感じとれてくるところ。
「盆休み」のほっとした気分を詠みつつ、「盆休み」をとりまく透明な空気感のようなものまでも伝えているところが上手い。
モノに託して詠まれた美しい一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい。
<作句のポイント>
モノの色の効果。

入賞

「送り盆色入れ替わる商店街」
(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)

一般に13日が迎え盆、16日が「送り盆」。
「送り盆」で切れている句で、句意としては「送り盆だな、商店街の色が入れ替わっているな」という感じであろう。
「お盆」の行事や遠方からの親戚演者との時間を終え、街を歩いているとき、夏から秋へ移行してゆく下町の「商店街」の気配を感じとったのであろう。
特に洋服店の服が夏物から秋物へ商品を入れ替わっている様子などがイメージされる。
この句のいいところは、頭で言語操作しておらず、ふいにできたような「実感」が感じられるところ。
この方、最近主張の激しい(言い過ぎ・直接的)表現が多かったのであるが、この度はしっかりとモノに託し、なおかつ肩の力の抜けた「自然流」の句で上手かった。
俳句になれてくると、17音で何か言おうとして、表現に身を削るような苦労をするのであるが、俳句はそもそも短歌などの他の詩と違って短いので、そうすればするほど、実感の表現から遠ざかり逆効果なのである。
最近よく、俳句と短歌など他の詩型との区別がついていないのではないか思われるような「文章を省略したような舌足らずな句」や、「安易な倒置の句」「リズムの悪い字余り字足らずの句」などが平気な顔をして歩いているが、困ったものである。
「上五」に対して「中七下五」がややつきすぎではあるが、気分のよく出た句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句という舟は、他の詩型と違って、皆さんが思っているより、はるかに脆弱。
気持ちを伝える・出来事を伝える・表現の技法を駆使する、など過重の荷は積めません。
肩の力を抜いて、自然流で。

「盂蘭盆会全てが魚に見えてくる」
(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)

「盂蘭盆会」は盂蘭盆やお盆ともいい、 先祖を供養したり偲んだりして仏法に遇う行事。
先祖の霊を祀る行事だけに、ある種神秘的というか、幻想的な気分も漂う。
句意はそのまま「盂蘭盆会だなー、すべてが魚に見えてくるなー」というもので、「盂蘭盆会」の時一瞬浮かんだ心象風景を無意識のままに表現した句である。
この句、表面的には「盂蘭盆会」の神秘的幻想的な気分を、水中の透明感に託して美しく詠んだ句であるが、思えば先祖は何も〇〇家何代だけとは限らない。
生物学にくわしくはないが、人類、哺乳類、ひいては、陸に上がる前の遥か何億年も前の魚として海で暮らしていた頃も、先祖といえば先祖であろう。
いわば、そのような遥か昔の祖先にまで思いを馳せる圧倒的な時空のスケール感・実感が感じ取れてくるのがこの句のよさで。
「全てが魚に見える」という表現だけでは、「祖先としての魚」をイメージすることは困難であるが、先祖を祀る行事である「盂蘭盆会」だけに、リアリティがある。
散文的で、「魚」のモノとしての存在感がやや希薄なのが少々惜しいが、無意識からの実感・表現を見事に掬い取った宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい。
<作句のポイント>
俳句は約束事や理屈、言語操作ではない。無意識からの表現こそを信じる。

<ユニーク>※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「前隠すお盆回して花火咲く」
(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)

「今年ムリラインで一言盆帰省」
(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 60歳)

「鯉祭りマジック数えて盆踊り」
(ペンネーム「ートン」さん 69歳)

今週は、今話題のアキラ100%さんを詠んだ句、若い人などに流行しているラインを詠んだ句、そしてまだお盆前なのにマジックがともったカープを詠んだ句と、今ドキな3句をご紹介。

入選句

特選

・盆過ぎて風に絡まるおもちゃ箱(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→全体的に説明的になってしまったのが惜しいが、盆過ぎの気分がよく伝わる。この方向で。

・町工場雨音の舞う盆休み(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→動物はどこにも出てこないのであるが、何かが集っているような神秘性の感じられる句で面白い。モノに託して詠むこの方向で。

・盆休み他県ナンバー並びおり(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→これはコト句で惜しいのであるが、詠み方が上手く「わかるわかる、いいところをついている」という句である。このような上手
いこという句ではなく、モノに即す句の方向にシフトしたい。

・盂蘭盆の水満ちてゆく祖父の喉(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→この句について「上手く説明できない」とのコメントであったが、それゆえこの句がいいのである。琴線に触れるとはこういうことで、説明できない感動なのである。「水・喉」がイメージの重なりでやや気になるのが惜しい。この方向で。

・盆の月厨にひびく総踊り(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→いわゆる俳句では「踊」は盆踊りのことになっているが、何より全体的にイメージが近いのが惜しい。モノに託す方向はよい。

・変わりゆく湖底のかたち盂蘭盆会(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→中七の尻切れ蜻蛉のような表現が惜しい。俳句は韻文なので、こういう散文の切れはしのような中途半端な表現は避けたい。どうしてそうなったかというと上五を言いたかったから。言いたい事は俳句にならない。ただし「湖底のかたち」は大手柄。世の中の浅く甘い俳句観に流されず、しっかりモノに託した深い世界を表現してほしい。「湖の底のかたちの盂蘭盆会」などとすればすっきりする。できる方である。

・初盆や白い便箋風を待つ(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
→少し散文的で惜しいが、「初・白」とよく調和していて気分がよく出ている。韻文となるよう心がければさらによくなる。

・盂蘭盆会時を刻まぬ腕時計(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→中七に対して下五はつきすぎで惜しいが、モノに託して詠む方向はよい。宇宙は調和なので、イメージが重ならないように気をつけていただければさらに良くなる。

・一切の運河飲み込む盆供かな(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→上五が少々主張が強すぎるのと、下五が合わないのが惜しい。「盆の月」などのほうが外の光景となって合いそうである。しかし「運河」「盆供」という飛躍を意識した詠み方は大変よい。課題はつかずはなれずの感覚を掴むことであろう。

・盆がねや空き家の井戸の地蔵さま(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
→「盆・家・井戸・地蔵」すべて家周辺のモノでつきすぎとなって惜しいのである。しかしカッチリした韻文を意識した詠み方がよい。この方向で。

・盆休みひたすら眠る深海魚(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「盆・深海魚」はよいキャスティングなのであるが、「休み・眠る」があたりまえでイメージの重なりで惜しいのである。イメージの重なりが分かるようになえばさらによくなる。

・家系図の何故か気になる盂蘭盆会(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→「家系図・盆」の類句が多そうなところと、中七が安易な心情吐露で惜しい。詠みは上手い。

・盆波や遠退いて行く石炭船(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→「波・舟」「船・遠退く」とややイメージの重なりが惜しいが、去ってゆく船と先祖を送る気分がよくマッチしていて気分のよく出た句である。モノに託すこの方向で。

・盂蘭盆や卒塔婆の文字の黒々と(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→「盆・卒塔婆」「卒塔婆・文字」「文字・黒」と飛躍が全くないのが惜しいが、しっかりした詠みが心地よい。宇宙は広いし5句応募できるので思い切って飛躍すればさらによくしてみたい。

入選A

・盆休みプリント雪崩る机かな(ペンネーム「スネイク」さん 14歳)
・いつになく声に張り出る盆の祖母(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
・輪の中に誰かを探す盆踊り(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
・漣のごとき鉦なり盂蘭盆会(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・盆休み炎天下まで続く道(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・手に闇を残し流灯離れ行き(ペンネーム「笑美子」さん 43歳)
・玄関のチャイム鳴りたる盂蘭盆会(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・献灯に揺れる大仏盂蘭盆会(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
・盂蘭盆会ほどく間のない旅鞄(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・パイプイス間を駆け抜ける盆会(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
・返事なき父母と語らう盆三日(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・ひとりごと猫に聞かせて盆休み(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
・名も知らぬ子がまた増えて盂蘭盆会(ペンネーム「有漏路」さん 60歳)
・満月や盆踊りするクジラの群れ(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・盆帰り語り明かせば白い月(ペンネーム「クリスマスローズ」さん 65歳)
・夕焼けの涅槃に帰る送り盆(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・仏にも序列のあるや盂蘭盆会(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・盆踊り三代そろい下駄の音(ペンネーム「のぶさん」さん 70歳)
・盆踊りしゃがんで休む子供かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・初盆や煙が繋ぐ天の道(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・橋架けて島引き寄せし盆の月(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・盂蘭盆や草木に埋もる無縁仏(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)

入選B

・盆休みは暑いから甘いかき氷を食べてすごす日々(ペンネーム「あーちゃん」さん 16歳)
・盆踊り秋の知らせかまた来年(ペンネーム「ちゃん」さん 26歳)
・会いたくて盆提灯の道しるべ(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・盆休み先祖の声が浸みた梁(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・盆休み何故か銀行に縁無し(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・盂蘭盆会だれか呼ばれる待合室(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・盆休み日本列島やじろべえ(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・お供えのゼリーに映す盂蘭盆会(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・初盆の母の口ぐせ真似てみる(ペンネーム「つぶあんこ」さん 54歳)
・盆楽し雑魚寝でワイワイかやの中(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・白灯篭弧を描き鳶初盆や(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・守りたき人の顔見て盆休み(ペンネーム「sora」さん 57歳)
・爆竹に心震えて盂蘭盆会(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・良妻とよい子に化ける盆帰省(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・初盆や高ぶる子らと室外機(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・カラフルにご先祖もてなす盆灯籠(ペンネーム「孫4人じぃじ」さん 60歳)
・ぐるぐるる昔を廻る盆燈籠(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・声しぐさ父似と住持墓参り(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・盆休み祖母の願いは孫の顔(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・盂蘭盆会義母想いおり茜雲(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・墓参り子供に託す盆期間(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・集う盆又一人欠け宴寂し(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・在りし日のよきことばかり盂蘭盆会(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・道直しより始まりし里の盆(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
・人ごみに声見つけてる盂蘭盆会(ペンネーム「ワイ」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・盆休み友の訛りも帰りおり(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→福山出身の友人は「自分は標準語で訛りが出ない」と、いつも言うのですが、私には標準語には聞こえませんし帰省の度に完璧に広島県民だなと感じます。。

選者詠:谷村秀格

・肩に降る街の匂いや精霊会

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年8月4日(金)

第61回 お題「折鶴」(選と評 谷村秀格先生)
総評

ご存知のように今週末6日は72年目の「原爆の日」。
この日だけが平和を祈る日というわけではありませんが、「折鶴」をテーマに「平和や祈りの感じられる句」ということで、皆さまに投句をお願いしました。
おかげ様で祈りや平和への祈りや希望がよくあらわれた句をたくさんいただきました。

強い思いのある句の中から、入選特選入賞大賞と選びだすのは大変でした。
また、句とともに寄せられた「句に込めた思い」を拝読させていただくと、こみ上げてくるものもありました。
今回は、(1)「折鶴」が詠まれてあること、(2)「平和や祈りが感じられる句」であること、(3)「句の芸術性」この3点を基準に、選ばせていただきました。

入賞句や特選あたりは、上記の3つの条件をクリアしているもの。
入選Aあたりは、(1)(2)(3)条件を大方クリアしているものの「句の芸術性」(モノ句としての質)をさらに高めていただきたいもの。
入選B・選外あたりは、(1)(2)条件をクリアしているものの「コト句」になってしまっているもので、気持ち・思い・心情・主張・出来事(コト)を直接述べずに、モノに託して詠んでほしいもの。ということになります。

今回は特選以下は選のみにしていますので、皆さんの句を平和や祈りを感じつつ、鑑賞いただければと思います。
評をいれていない分、句が一覧で詠みやすくもなっていますので、自分の句だけでなく、みなさんの句も味わっていただければと思います。
特選のみなさんも入選の皆さんも、特選一覧の句群と入選B一覧の句群などを詠み比べ、その差をキャッチしていただくことで、モノに託してイメージ豊かに詠む「宇宙流俳句」を感覚的につかんでいただければと思います。

ご投句いただいた皆様、放送をご覧いただいた皆さまどうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからチャレンジください!

大賞

「折鶴の顔前を向く原爆忌」(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)

作者のメッセージ「所属してるボランティア団体で千羽鶴を作りました。正式な折り方があって、その鶴の顔は真っ直ぐ前を向くそうです。平和を強く願う気持ちだと思いました。」

「原爆忌」は8月6日(広島)、と8月9日(長崎)の両日ある。
この句の見どころは、「未来に向けての非常に強い平和への決意」が感じられてくるところ。
「折鶴の顔が前を向く」という、「折鶴」に命を宿らせた表現が非常に効果的である。
「前を向いて」いるのは「折鶴」であり「作者」であろう。
ひいては我々鑑賞者も「折鶴」と一体となって詠んである作者の心境に共感し、前を向くのである。
世には「原爆忌と折鶴」の句も多くあるが、しっかりとモノに託され、なおかつ、ここまで実感・未来性・メッセージ性のよく出ている句はそうはない。見事である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
イメージが句を導き出すのではなく、句がイメージを導き出す。

入賞

「夏めくや折り鶴四羽舞い降りぬ」
(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

作者のメッセージ「昨年オバマ前大統領が、広島に来られた際に折り鶴を4羽持参され、その中の2羽が原爆資料館に展示されて、大きな反響を呼びました。」

「夏めく」は夏の兆しが服装や気候から感じとれてくる様子。
オバマ大統領が昨年折り鶴を4羽持参され、来広されたのが5月27日。
作者としては、印象的な出来事と同時に、夏の兆しを感じたのであろう。
この句の上手いところは、「折鶴四羽舞い降りぬ」という実感ある表現。
「折鶴・舞い降りる」の部分だけを見ると安易な表現にも思われるかもしれないが、一句全体を味わったとき、あたかも「天使が舞い降りてくる」かのようなイメージを醸し出しており、「夏めく」という夏本番・原爆の日などに向かう時間性の中、「平和に向けての明るさ・希望」のようなものを美しく伝えており、効果的である。
「折鶴四羽」がオバマ大統領来広の出来事を知らない人にはわからないのではないか、という方もおられようが、単なる「折鶴四羽」の句としても成立している。
「四苦八苦」などのイメージではないが、概念として少々マイナスイメージの「4」という数字に、「夏めく、折鶴、舞い降りぬ」というプラスイメージが重なることで、「平和への期待と不安の入り混じった複雑な心境」が感じ取れてくる。
「衝撃的な出来事の記憶と平和への期待」をモノに託して詠んだ美しい一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
部分・知識より大事なのは、一句全体の調和・芸術性。
部分的・知識的なことにとらわれず、全体の味わいを優先すること。

「折鶴に七つの川や秋立てり」

「秋立てり」が季語で、まだまだ暑いが、だいたい8月7日・8日頃。
同じような言葉に、立秋・秋に入る・秋来る・今朝の秋などがある。
「七つの川」は、現在の「猿猴川・京橋川・元安川・本川・天満川・太田川放水路」一帯、いわゆるデルタシティとしての広島の市街地を差したものであろう。
放水路ができるまでは山手川、福島川があり、まさしく「七つの川」があったという。
この句の見どころは、「折鶴」という平和を象徴するもの、「七つの川」という広島市街地を示す位置情報、原爆の日直後でもある「秋立てり」という日時情報によって、「祈りによって鎮まってゆくような街の気分」を印象的に表現しているところ。
特に上手いのは直接的なモノをさけ、少し離れたモノを取りあわせて託しているところ。
「平和を祈る(直接)」ではなく「折鶴」、「広島の街(直接)」ではなく「七つの川」、「原爆忌(直接)」ではなく「秋立てり」など。
そうすることで、「祈り」という方向性のもと、読者それぞれが「折鶴・川・秋」などから自由に美しく広島の祈りのイメージを作り上げることができ、効果的である。
「祈り・風景・時間」の調和のとれた、落ち着いた一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
気持ち・心情の直接表現<直接的なモノに託す<間接的なモノに託す

<作者のメッセージとともに読んでほしい祈りの俳句>
※メッセージは、選者が一部修正しています。

「世界から折鶴に希(こいねが)う平和」
(ペンネーム「鯉に恋する乙女」さん 18歳)

私は小学校の社会見学の時と、高校生の時の8月に、広島市を訪れました。
小学生の時は、栄えた広島市をみて、原爆が本当にあったこととは信じられず、原爆資料館を訪れたときも、あまりの生々しさに恐怖しか覚えませんでした。
その後歴史を学び、世界で最初に原爆を落とされた都市である広島が、凄惨な出来事から年を経るにつれてここまで復興でき、、平和を願い、声を上げていく都市である事が分かりました。
高校生になって広島を訪れた時は、世界中から人々が来ている事に感動しました。
そのとき、平和を願うのは世界共通なんだと実感しました。
折鶴を折るときであったり、平和記念公園に折鶴を供えに行くときであったり、世界のどこかで、それぞれの人々が、それぞれの形で平和な世界を強く願っているんだなと感じています。

「南風折鶴集う八時過ぎ」
(ペンネーム「雅」さん 54歳)

毎年南風に乗って、平和の象徴の折鶴たちに集まってきて欲しい。
この日の8時15分を忘れないように。
父は10歳の時に被爆しすでに他界しています。
俳句とは関係ありませんが、父から聞いた被爆体験は非常に貴重なものとなっています。

入選句

特選

・碧眼の友の折り鶴原爆忌(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
・折鶴や空埋め尽くす赤蜻蛉(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
・幾千の折鶴見上ぐ天の川(ペンネーム「御衣黄」さん 47歳)
・折り鶴や空に向けたる万華鏡(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・折鶴のラジオにとまるレノンの忌(ペンネーム「あや」さん 49歳)
・折鶴の深いまなざし冬終わる(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・折鶴の見上げる空や蝉時雨(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
・折り鶴に息吹き込める震災地(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・折鶴を折れぬ子の指夾竹桃(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・折鶴の光を抱きて原爆忌(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・折鶴の見上げる空や蓮の花(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・折鶴や空に生まれし夏の色(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・月明かり折鶴浮かぶ太田川(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・青空に折鶴の舞う広島忌(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・折り鶴や積乱雲まで届く鐘(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・折鶴や烽火の挙がる敗戦日(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・折鶴や水際遠き雲の峰(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)

入選A

・白壁の色折鶴やワシントン(ペンネーム「カンピロバクター」さん 24歳)
・折り鶴と大海渡るアブラセミ(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
・折鶴や朝焼空に風そよぐ(ペンネーム「たかちゃん」さん 34歳)
・ばあちゃんの折鶴つなぐ夏の空(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
・折鶴や鋭き羽の戦闘機(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
・夕凪の光折り鶴に添う煙(ペンネーム「あすやん」さん 41歳)
・折鶴を蹴ったお腹の赤子かな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・折鶴や羽を剥きたる夏蜜柑(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・折鶴や灯籠流しの嗄れ声(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
・折鶴の尾の突き抜ける大西日(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・折鶴や折り目正しく原爆忌(ペンネーム「つぶあんこ」さん 54歳)
・炎帝や折鶴つなぐ細き糸(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・病床の春を待ってる千羽鶴(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・広島の折鶴胸を張っており(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・夏の空折鶴飛べや核の国(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・元安川折りづる舞いし夕凪に(ペンネーム「夏子」さん 66歳)
・修学旅行折鶴掛かる原爆子の像(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・幾千の鶴折る子らに夏は来ぬ(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
・折鶴の原爆電車伝えゆく(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・折鶴に願う彩り消えぬ虹(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・折鶴や日除けの向こう老夫婦(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・折鶴の飛びたつ窓や天高く(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・折鶴を幼き子へと若き母

入選B

・折鶴よ主は何を想ったか(ペンネーム「芝桜」さん 16歳)
・折り鶴に子どもと託す青い空(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
・折鶴に染み込む愛は意志を持つ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・折り鶴に平和に込めて思う夏(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・折鶴に平和を込めて誓う声(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・女院で折り鶴聞かれ笑われた(ペンネーム「わた」さん 44歳)
・願い込め世界の折り鶴舞い降りる(ペンネーム「なあ」さん 46歳)
・折鶴や輪を作り出す魔法瓶(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・オバマ氏の折鶴来広忘れまい(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・ケーブルの光つながる折鶴や(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
・折鶴を折る手に「思い」気付かさる(ペンネーム「ぽこぴJake-E」さん 55歳)
・退官し折鶴と船のそばにいて(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・折鶴よ魂はじけて蝉しぐれ(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・折鶴十万夏雲突き抜け銀河群(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・願い込め折られた折鶴深まる絆(ペンネーム「孫4人じぃじ 60歳)
・折鶴が平和の川ゆく夏模様(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・折り鶴のはばたくそらよ熱帯夜(ペンネーム「クリスマスローズ」さん 65歳)
・折鶴に賭けた願いももう間近(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・梅雨空や青き折り鶴空に向け(ペンネーム「さくら」さん 67歳)
・ちっちゃな手汗かき折鶴畳あと(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・なぜ届かぬ折鶴の唄民の唄(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・折鶴やベッドサイドの訪問者(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・折鶴の一斉蜂起や原爆忌(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・空を行く幼き顔にも折鶴の声(ペンネーム「ワイ」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・折り鶴や知覧の空へ散りし花(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→戦後生まれの自分が戦争の句を作る事を未だに迷いつつ、子どもたちの世代に引き継がねばと思います。

選者詠:谷村秀格

・折鶴の胸のかたちの夏の空

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年7月28日(金)

第60回 お題「西瓜」(選と評 谷村秀格先生)
<谷村秀格(たにむらしゅうかく)プロフィール>

句の「スケール感」や句の背後の「詩情の広がりや深さ」を重要視する『宇宙流俳句』のパイオニア。『宇宙流俳句会』主宰。1976年広島県東広島市安芸津町木谷生まれ、同町在住。句歴26年

総評

今回のお題は「西瓜」。
今回も新しい方からの投句ふくめ、沢山の投句をいただきうれしい悲鳴であった。
特選以上の句を眺めていただければわかるが、なかなかどれも個性的でレベルの高い句であった。

皆さんずいぶんとモノに託して詠むモノ句というものを掴んできてくれておりうれしい。
俳句というものは、出来事(ストーリー)を詠んだり、言語操作や理屈、すなわち頭でこしらえるものではなく、無意識からの実感をモノに託して詠む世界なのである。
そして、句の表面ではなく、そこからイメージされる世界の雄大さであったり深さであったり調和の美を大事にするのが、私が言うところの「宇宙流俳句」なのである。

今後の課題としては、「主観の強い表現や、剥き出しの表現、安易な表現を避けるようにすること」であろう。
自分への評だけではなく、ぜひ皆さんへの評なども参考に、その感覚を掴んでいただければと願います。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
皆様目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからチャレンジください!

大賞

「岸壁に西瓜の揺れる硫黄島」(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

「硫黄島」は、小笠原諸島の南にある島で太平洋戦争末期の激戦地ともなったところ。
現在は自衛隊員などの関係者以外の上陸は禁止されているようである。
よって句は、かつての激戦地「硫黄島」の「岸壁」に、現在おだやかに「西瓜」が実っているという心象風景ということになろう。
句からはすぐに、争乱と平和の「対比」や平和な現在にまでいたる「時間性」などが感じ取れるが、
一番の見どころは、「現在の平和がぎりぎりのところで成立しているというような危うさを暗示しているところ」であろう。
それは「西瓜」に対して「岸壁」というある種危うい光景をもってきているところや、安定したイメージの「西瓜」に対して不安定なイメージを導く「揺れる」という動詞を使っているところなどから感じ取れてくる。
句の裏に感じ取れてくる「緊張感」が共感を誘う一句である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
大事なのはイメージされる世界なので、句の表に凝る必要はない。
「日常によって非日常を表現する」

入賞

「井戸水に手足を伸ばす西瓜かな」
(ペンネーム「角森」さん 49歳)

誰しもが共感できる句であろう。
冷たい「井戸水」に気持ちよさそうに浸かっている「西瓜」を詠んだ句である。
この句の見どころは、「西瓜」と一体となってその気持ちよさを感じている作者の心境。
「西瓜」と一体となって詠んだその強い実感が、てらいのない表現となり、一気に読者の深いところに突き刺さり、共感を生み出しているところが見事である。
また「手足を伸ばす西瓜」とはどこか滑稽でもあり「俳味」もよく効いている。
多少類句類想の嫌いもあるが、夏の透明感やみずみずしさ、のびやかさなどまで感じ取れてくる素朴ながら味わい深い一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句は詩、詩は芸術、芸術は実感。
俳句は頭や理屈(約束事・前提)でこしらえるものではなく「無意識からの芸術」

「絵手紙の雲ながれゆく大西瓜」
(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)

お中元か何かで「西瓜」が贈られてきて、そこに「絵手紙」が添えられていた時の句であろうか。
「雲がながれゆく」と実感できる見事な「絵手紙」、そしてその書き手が贈ってこられた「西瓜」だけに、その「西瓜」も相当に吟味されたものであろう。
単にサイズが大きい「西瓜」ということにとどまらず、その品質のよさや二人の人間関係の深さ、気持ちのこもり具合など、ありありと推察される。
この句の見どころは、絵手紙の空の雲が流れているのか、西瓜畑の空の雲が流れているのか、その両者が交錯するような詠み方が幻想的であり印象的なところ。
小さな「絵手紙」の中にらけている空間(宇宙)と、西瓜とともにある日常空間(宇宙)が、一つに溶け合うようなスケール感や非日常感が共感を誘う宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
二大宇宙を詠み込む。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「ポンポンと鳴るは西瓜と太鼓腹」
(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)

「西瓜振る塩を求めて三千里」
(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)

「西瓜食べ大の字になる鬼の留守」
(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)

今週も3句をご紹介。
どれも説明するまでもないまさしく西瓜のユニー句!!

入選句

特選

・西瓜切る夕焼け空の生まる時(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→文法だけを考えれば「生まるる時」なのであるが、この句の場合、もたもたしたリズムになるので、「生まる時」としたのであろう。作者のいうようにこのほうが、スパッと切る「西瓜」の気分に合うようである。大事なことは正しさよりも一句全体の気分である。この方向で。

・粉雪に笑われている西瓜かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→「粉雪・西瓜」という圧倒的な季節違いであるが、そこばかりに目が行ってしまうような条件優先型の俳句精神こそが問題である。句の気分としては「北風と太陽」のような関係が面白い。残念なのは中七の表現が熟しておらず甘いところ。散文ではなく韻文として句にもっていってほしい。この方向で。

・西瓜のおへそのびてゆくひつじ雲(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→「ひつじ雲」とだけ聞けば「鰯雲・鯖雲」などに類するイメージであるが、一句全体の気分からすれば、いわゆる普通の雲のことを言っているのであろう。「のびてゆく」のが「西瓜のおへそ」とも「ひつじ雲」ともとれ、その働いた詠みが面白い。夏の楽しい気分がよく出ている。この方向で。

・西瓜切る子午線薄き地球かな(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→「西瓜・地球」という、形は似ているが質の異なる大小のモノを取りあわせ、宇宙の雄大さを「感覚的」に伝える「宇宙流」を標榜する句である。しかし気分としては「子午線・地球」がイメージの重なりで惜しい。どちらかに絞りたい。「子午線のほとり分厚き西瓜かな」など。モノに託す姿勢はよい。この方向で。

・路地裏の海の傾く西瓜かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→港町の気分の句であろうか。どことなく静かな夕時のイメージで印象的である。句に陽も陰もないのであるが、やや実感に乏しいというか平凡なところが惜しい。モノに託す方向はよい。この方向で。

・西瓜食う球児の汗に洗われて(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→実感のまま無意識から生まれ出たようなてらいのないところがいい。散文的に言葉を追っていけば「西瓜食う」のは作者なのか「球児」なのか、「汗に洗われて」いるのは作者なのか球児なのか。はたまた「西瓜・汗」などの季重なりなど部分的な問題もあるが、何度も申し上げるように俳句は芸術なので一句全体の気分が大事。夏の元気のよさ・男っぽさ・生命力などが感じられる面白い句である。実感優先のこの方向で。

・すいか割り蛇行している偏西風(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→「蛇行している」のは「すいか割り」であり「偏西風」であろう。俳句形式を働かせた詠み方が上手い。「すいか割り」という眼の前の世界と「偏西風」という大きな世界の対比で、宇宙の広さを感覚的に伝えている「宇宙流」の句である。「すいか割り・偏西風」などとモノに託して詠めるようになると、「何かの出来事を17音に編集して詰め込む」というような出来事型の俳句観は物足りなくなってくるはずである。この方向に進みたい。

・理科室の人体模型西瓜切る(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→句の表面の出来事には関心はないのであるが、このような句を見せられると、どうにも「西瓜」を恐ろしく感じてしまう。何気なく包丁を入れている「西瓜」であるが、その本質にあるおぞましさのようなものを伝えているようで斬新である。いわば「日常を詠みつつ非日常を表現した句」とでも言えようか。モノに託すこの方向で。

・よちよちとスイカが歩く夏の海(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→「よちよちとスイカ(のような幼子が)歩く」という擬人法の句ではない。幼子が歩いたところで詩にはならない。「スイカが歩く」から詩になるのである。「よちよちと→歩く」「歩く→海」など、つきすぎというか当たり前の表現が多いところが残念である。そこを攻めてほしい。次回も挑戦を!

・孫よりも大きな顔の西瓜かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→実感の句である。何も俳句は季語だ切れだ表現だ文法だと難しく考える必要はない。実感ある世界を無意識からの表現で詠んでいけばいいのである。「ユングの共通無意識」の概念を持ち出すまでもなく、その先にちゃんと「共感」が生まれてくるのである。句を頭でこしらえようなどと思わないこと。無意識からのこの方向で。

・恐竜の卵畑の西瓜かな(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「卵・西瓜」を無理やりぶっつけたような粗さが惜しいが、出来事を17に何とか詰め込むような出来事型俳句ではなく、モノに託して楽しく詠んでいるところがよい。この方向で!

・でんすけすいかのほほんと夜汽車かな(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→しばらく低調であったが上がってこられた。一番の手柄は「すいか・夜」。昼のイメージが多い中なかなかの詩情を醸し出している。同時に人の名のような「すいか」が導いてくるおかしさもよく効いている。「のほほんと」は現代的だとか新しいと評される場合もあろうが、私見では言葉の美に溺れる傾向でお勧めしない。全体的にしっかりと熟した表現で詠みたい。次回も挑戦を。

・ゆっくりと島離れゆく西瓜船(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→大きな風景を引っ張ってきていて夏ののんびりとした気分がよく出ている。この方向で。

入選A

・空を舞うボールの先に西瓜かな(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
→モノに託して詠んでおり、のびやかな気分がよく出ている。この方向で。

・マンモスの眠る大地の西瓜かな(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→最近はどうも実感ではなく「理屈(頭・言語操作・言葉の美)」で句を作っている嫌いがありそこが惜しい。この句は「「マンモス・眠る」「眠る・大地」「大地・西瓜」とすべて、言葉の展開が平凡である。モノに託して実感ある世界を詠ってほしい。次回も挑戦を!

・和太鼓の胃袋染みる西瓜かな(ペンネーム「カンピロバクター」さん 24歳)
→どうも全体的に平凡で惜しい。例えば「和太鼓・西瓜」ともにおなじような大きさだからともいえよう。大胆に飛躍したい。次回も挑戦を!

・スイカ割りモールス信号読みほどく(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
→「モールス信号」という表現でもっている句だが、全体的に出来事を詠んだコト句で惜しい。宇宙は広いのに「西瓜割り」のコトばかりを詠んでいるのである。飛躍したい。次回も挑戦を!

・井戸端で冷やす西瓜の浮き沈み(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
→「井戸・冷・西瓜・浮き沈み」全体的につきすぎで惜しい。宇宙は広いのに井戸周辺ばかりを詠んでいるのである。「井戸水に浮かぶ西瓜や空の青」など、飛躍したい。次回も挑戦を!

・雷の影閉じ込める西瓜かな(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「雷・西瓜」は季重なりであるが大した傷ではない。「影閉じこめる」がやや熟していない表現で惜しい。モノに託すこの方向でよい。次回も挑戦を!

・ひと匙のほんのり甘い恋西瓜(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
→気分が出ているが、「甘い恋」という出来事をよんだコト句で惜しい。モノに託して詠むようにしたい。次回も挑戦を!

・腰反らせ西瓜を抱ふ三歳児(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
→「反らせ・抱ふ」と説明的であり、出来事をよんだコト句なのでやや弱くなり惜しい。モノに託して象徴的に詠むようにしたい。また俳句の表記は「現在使われ将来も使われるであろう表記を選択して何の不足もないはず」なので、「現代仮名遣い」をお勧めしたい。いろいろ述べたが共感を誘うほほえましい句である。次回も挑戦を!

・海月知る夏の西瓜に溶ける身を(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「海月・西瓜」の季重なりよりも、散文的なことや、安易な倒置「西瓜に溶ける身を海月知る」が惜しい。なんらかの「ストーリー」を、句の表面の言葉の美によって詠むのでなく、モノに託して実感ある世界を詠むようにしたい(キャスティング・かけ算)。次回も挑戦を!

・西瓜恋う遺骨となりき喉仏(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→この方も前の方と同様である。なんらかの「ストーリー」を、句の表面の言葉の美によって詠むのでなく、モノに託して実感ある世界を詠むようにしたい(キャスティング・かけ算)。美は句の表面ではなく、句からイメージされる世界においてほしいのである。次回も挑戦を!

・一片の西瓜燃え尽く海岸線(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→気分の出た句であるが、中七が主観の出すぎというかやや言い過ぎで惜しい。この方の他の句もそのような傾向なので、言葉の美に溺れないようにしたい。次回も挑戦を!

・西瓜割り丸い地球を真っ二つ(ペンネーム「つぶあんこ」さん 54歳)
→「地球を真っ二つ」は直接的過ぎる生な表現が惜しい。「西瓜・地球」も類想的であるが、こういうモノに託す詠み方はよい。次回も挑戦を!

・西瓜の三角青く海にほふ(ペンネーム「sora」さん 57歳)
→いろんな意味で句の表面の美ばかりにとらわれていて惜しい。一見美的詩的であるが、句が単なる省略や一般的な詩の手法の延長でできているので舌足らずである。また詩的な句の表面に比してイメージされてくる世界は平凡・日常である。詩的な短い散文の世界を抜けて、韻文の世界に入ってきてほしい。また俳句の表記は「現在使われ将来も使われるであろう表記を選択して何の不足もないはず」なので、「現代仮名遣い」をお勧めしたい。モノに託して気持ちを述べてほしいのである。次回も挑戦を!

・里の家西瓜ごろんと冷えている(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→全体的に平凡なのが惜しかったが実感のよく出た句である。次回も挑戦を!

・ワンルーム家主のごとき大西瓜(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→上五がやや安易で惜しいが、実感ある句である。この方向で。

・西瓜割り父やら子やら砂に消え(ペンネーム「黒郷希子」さん 68歳)
→出来事をよんだコト句で惜しいのであるが、実感がよく出ていて幻想的である。もう少し句を拝見してみたい方である。次回も挑戦を!

・見送りし後夜の終わりの西瓜切る(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→詠み方はいいのであるが、出来事(ストーリー)を詠もうとするところが惜しい。モノのキャスティングに軸足を置いてほしい。次回も挑戦を!

・角のなき大地は転ぶ西瓜かな(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→上五中七が言い過ぎ・主観の出すぎで惜しい。それを思えば道場初期のような写生的な句の方向がいいのであるが、、、多作が解決しそうである。次回も挑戦を!

・捨てられし西瓜啄む烏かな(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→かっちりした詠み方でいいのであるが、平凡というか、宇宙は広いのに「捨てられた西瓜」のことばかりを詠んでいて惜しい。後半「食い込む地軸かな」など、飛躍したい。

入選B

・小さな手走り抱えて初西瓜(ペンネーム「あかり」さん 12歳)
・おいしい果物と言えばきれいな西瓜(ペンネーム「あーちゃん」さん 16歳)
・窮屈で止まらぬ汗の西瓜かな(ペンネーム「あすん」さん 28歳)
・暑い夏西瓜のケ―キでお祝いだ(ペンネーム「となりのトトロ」さん 37歳)
・西瓜割り目隠しに住む大宇宙(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・一時の贅を西瓜で感じたり(ペンネーム「HK」さん 41歳)
・一周忌すぎて今年は買う西瓜(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・孫の声、はしゃぐ棒と、西瓜玉(ペンネーム「みうちゃんのパパ」さん 48歳)
・真っ赤だね切ったスイカがカープ色(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・子らの眼を釘づけにして西瓜切る(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
・西瓜割り青空ひびく笑い声(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)
・手をかけたスイカと子供甘くなる(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・弧を描き種を飛ばせば初西瓜(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・じじ号令西瓜頭よ背比べ(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・夏ひとり細切れ西瓜の味薄し(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
・実家では妻は西瓜をかぶりつく(ペンネーム「たけの子」さん 58歳)
・溶けた道ばあちゃんの西瓜生ぬるい(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・スイカ食べ思うは遠き夏越祭(ペンネーム「クリスマスローズ」さん 65歳)
・うやうやし座布団敷かれ大西瓜(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・誕生日年増えれど好物は西瓜(ペンネーム「夢野すず」さん 65歳)
・満月にカープ観戦西瓜喰う(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・里帰りぬれ縁ずらり冷すいか(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
・中元で夏を感じる西瓜かな(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・仏壇を仰ぐ西瓜や僧に似て(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・西瓜わり憎い上司の顔叩く(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・西瓜橋指で旅する五大陸(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・西瓜割り路の先には太平洋(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
・大空の席巻の雲西瓜かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・渓声や山河に遊ばれ食う西瓜(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・里帰り西瓜ほおばり父母の味(ペンネーム「とみこ」さん 74歳)
・口々に滝と洪水スイカ会(ペンネーム「東広島のなそじい」さん 74歳)
・大西瓜たたき撫でられ売られ行く(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・西瓜割り振りかざし見る世界かな(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・古里の西瓜の種に集う客(ペンネーム「ワイ」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・海行きの網棚揺れし西瓜かな(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→電車の網棚に荷物が乗っていると自分のものではなくても気になります。「忘れ物しなければいいけど」と。特にゴロゴロ揺れる西瓜の時はもっとずっと気になります。

選者詠:谷村秀格

・星間のたちまち育つ西瓜かな

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年7月21日(金)

第59回 お題「虹」(選と評 谷村秀格先生)
総評

俳句は何らかの出来事や風景や映像、言いたい事から余計なモノを引き算のように抜いていって「17音」になんとか収める「干物づくり」ではない。
また俳句の鑑賞も、「干物を湯でもどす」ように、何かの省略されたものを補っていって元の形に近づけて鑑賞するものでもない。

俳句はモノと一体となってその本質を詠み上げる芸術であり、17音が多いも少ないもないのである。
引き算に比していうのであれば、モノAとモノBの掛け算で、AでもBでもないXのイメージを導いてくるような世界である。
AやBという句の表面ではなく、Xという句の背後のイメージのスケールや深度・調和の美が大事なのである。

今回のお題は「虹」。
今回も新しい方からの投句ふくめ、沢山の投句をいただきうれしい悲鳴であった。
全体的にはどうも説明的・散文的な句が多かった。

皆さんとしては虹の思い出のようなものを「語りたい」のであろうが、俳句は言いたい事は句にならない世界。
それを補うために、字余りや字足らずや破調などにもっていきたがるのであるが、そうすればするほど散文的になり、定型詩としての俳句が有するパワーというものは落ちてゆく。
字余りや字足らずや破調にもっていきたくなるときは、句が出来事を詠んだ句・説明的な句・散文的な浅い句になっていないか注意が必要である。

その点入賞3句は、モノのキャスティングによって、句の表面に書かれてあること「以上」の世界をイメージさせる句群で魅力的であった。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
皆様目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからチャレンジください!

大賞

「病室に差し込む針や虹の空」(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

病室の扉が開いたときに、台車に乗せられた注射針が一番に目に飛び込んできたのであろう。
その強い不安感を説明することなく「病室に差し込む針」というモノに託して、的確に伝えているところ、そして回復への希望を「虹の空」に重ね見ているところなど見事である。
「虹」の「美しさ・はかなさ」「希望・幸運・夢」などのイメージを説明した句や、そのイメージにもたれて作った句が多い中、相反するイメージを取り込んで詩に仕立てたところも上手い。
句からは、治療を受ける作者の強い不安感、そして回復への希望がありありと伝わってきて共感を覚えるし、句の背後には、部屋の「内・外」、「針・虹」の「大・小」、「病・虹」の「不安・希望」などが織りなす「調和の美」も重層的に広がっていて、深い味わいが感じられる。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
季語を説明しない。

入賞

「夕虹や海の乗り込む路線バス」
(ペンネーム「大福ママ」さん 広島俳句名人)

入賞10回を獲得し俳句名人になられ、名人獲得後初の入賞である。
句は、雨上がりの夕方の海辺のバスでの実感を美しく詠みあげている。
説明するまでもなく「海がバスに乗り込んだ」実感を詠んだところが上手い。
こういう句を読んだときに、「海を人に見立てて詠んだ擬人法の句だ」という俳句観は9割以上であろう。
しかし、そうとると「バスに入ってくる海の風景や潮風」を詩的に詠んだだけの句ということになり浅い。
いつも申し上げているように句は書かれてあるままを受け取るべきである。
すると「空間的に小さいはずのバスの車内に、大きな海が乗り込んできた」というような光景になり、迫力・次元性・非日常性など、スケール感が全く変わってくる。
「夕虹の美しさ・はかなさ」という美と、バスの車内に乗り込んでゆく海の迫力という「美と力」の織りなす「非日常性」から、句の背後に「宇宙の美とダイナミズム」のようなものが感じ取れてきて共感を覚える。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
どんなにおかしな表現であってもまずは無意識からの表現を大切にする。

「房総の虹またがってゆく太平洋」
(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)

旅行されたときの句であろうか。
句の光景としてはありふれているのであるが、「房総・太平洋」という固有名詞がよく効いた句で面白い。
例えば「夕虹のまたがってゆく海の上」などと比べてみれば、固有名詞の引っ張ってくるイメージが句に「味わい・深み」を出しているのがよくわかるであろう。
犬吠埼・九十九里浜など、もろもろの「房総」がひっぱってくるイメージと、「太平洋」の広大な風景が織りなす大きな風景が実に雄大である。
また「またがる」ではなく「またがってゆく」と進行形になっているところもリアリティがあって、句の世界に引き込まれる。
のびやかな心境の感じ取れる宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
過去形や完了形よりも進行形のほうがリアリティがでる。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「夕虹や期待ふくらむ赤風船」
(ペンネーム「俵太くん」さん 45歳)

「七色の虹をくぐって夢の国~(^o^)」
(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)

「虹かかるイルカに乗った少年に」
(ペンネーム「ありんす」さん)

今週も3句をご紹介。
カープ俳句。ディズニーランドを詠んだ句。城みちるさんをリスペクトした句、と明るい句が集まりました。

入選句

特選

・団欒のエビフライにも虹かかる(ペンネーム「カンピロバクター」さん 24歳)
→全体的に散文的であるし表現も甘いのであるが、「エビフライ・虹」からかもしだされる素朴なぬくもりに惹かれた。もう少し切れや韻文であることを意識して作るようにしたい。次回も挑戦を!

・書きかけの手紙にかかる虹の空(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「かかる虹の空」が少し甘い表現で惜しい。しかし「書きかけの手紙・虹」のキャスティングは詩的でよい。「書きかけの手紙ふちどる夕の虹」など。次回も挑戦を!

・夕虹や出しっぱなしの三輪車(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「夕虹・三輪車」は悪くないキャスティングである。しかして「中七」がそれこそ出しっぱなしな表現(説明的)で惜しい。「夕虹のゆれつづけたる三輪車」など。次回も挑戦を!

・梅雨明けの虹が煌めく双子かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→季重なりや「虹・煌く」などの重なりもあるが、「虹・双子」のキャスティングがよかった。この取り合わせは神秘的で幻想的であろう。ここから詩にしてゆきたい。次回も挑戦を!

・虹たるる電池入れ替ふラジオかな(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→「虹たるる」気分と「電池入れ替ふ」がよくあっていると判断され、「たるる・入れ替う」という動詞の多さからくるもたつき感を承認されたのであろうが、私の感覚ではやはり少々つきすぎであるし、もたもた感が気になる。まだ「夕の虹」などのほうが句の骨格がすっきりしそうである。詠みは上手い。次回も挑戦を!

・虹匂う零番線を発車ベル(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
→作った句は何度も読み返したい。俳句は韻文なので国語的な文法などよりも、リズムであるとか口あたりが大事な場合もある。この句の場合その観点からいけば目をつむってでも「を→の」としたい。このほうが自然である。次回も挑戦を!

・夕虹や楽器の帰るグラウンド(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→応募句の中ではこれがよい。「夕・帰る」「楽器・グランウンド」などのイメージの重なりが惜しいが、気分はよく出ている。この方向で。

・朝虹や窓いっぱいの海の色(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→どことなく類句が多そうなのが惜しいが、モノに託して気分のよくでた句でよい。この方向で。

・ビル街の少しのびたる昼の虹(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→「ビル・昼」なのでサラリーマンが「のびる」とすぐに解されて惜しいのである。上手く詠んでいるようでいて、「昼」を説明しずぎなのである。宇宙は広いのでつきすぎを避けるようにしたい。

・老犬のリードの先に虹立ちぬ(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→「老犬・虹」が平凡で惜しいのであるが、気分のよく出た句で、余計なことを言わないところがいい。この方向で。

・ふるさとや左廻りの虹の道(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→応募句の中ではこれがよい。想像が読者にゆだねられていてイメージが膨らむ作りである。俳句は何かを言う芸術ではない。この方向で。

・夕虹や独り占めする長ベンチ(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→説明的で惜しい。説明ではなく感じてもらうように詠みたい「夕虹の少し重たきベンチかな」など。次回も挑戦を!

・すれちがう細きうなじや二重虹(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→意図がすぐ読みとれるところが惜しいが、虹の美しさ・はかなさと美人を重ね見た句で気分がよく出ている。この方向で。

入選A

・朝虹や水たまりには五百円(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
→嬉しさの出た句である。まずはこの方向で。

・夕虹や九回裏の逆転打(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→虹の気分が出ている句である。次回も挑戦を!

・夏虹や作品展に人あまた(ペンネーム「まりも」さん 18歳)
→「夏・虹」の重なりというよりも、晴れたから「人あまた」という説明で惜しい。どうも散文的なのである。俳句は出来事から余分なものを省略して作る「干物」ではないし、俳句の鑑賞は「干物」を湯につけてもどす作業でもない。モノに思いを凝らしモノを通して宇宙と一体となる掛け算のような世界である。「夏虹」程度はともかく、下五はせめて「の靴の音」くらいに象徴的にもっていきたい。次回も挑戦を!

・虹渡り狂騒の刻迫り来る(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
→少々観念的で惜しい。言葉は詩的だが「~して~が~する」と散文なのである。韻文にすること。そこを攻めていただきたい。次回も挑戦を!

・沈黙の車窓と虹の片端と(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
→詩の切れはしのような表現が惜しい。ただ詩的な言葉や表現を使うのではなく、ご自身の実感をモノを通して詠んでほしいのである。次回も挑戦を!

・夜泳ぐ魚になりて虹を待つ(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→少し観念的で惜しいが独特の世界観。散文的になるのは避けたい。次回も挑戦を!

・夕虹やばらまかれたる金平糖(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→中七が直接的で惜しいが「夕虹・金平糖」はなかなかのキャスティング。「金平糖拾われてゆく夕の虹」など。次回も挑戦を!

・夕虹や遠くで呼んでる母の声(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→全体的に平凡・つきすぎで惜しいが、気分の出た句である。次回も挑戦を!

・虹の橋砕け散ったる占い師(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→中七が言い過ぎで惜しい。「虹・占い師」はまずまずのキャスティングであろう。「虹の橋五指やわらかき占い師」など。象徴的に詠みたい。次回も挑戦を!

・虹の尾をつかまんとして踏むペダル(ペンネーム「鯉こころ」さん 54歳)
→「つかまんとして」が一番言いたいこと。しかし言いたいことは句にならず惜しい。「虹の尾を踏みつつ進むペダルかな」くらいに大胆に詠みたい。次回も挑戦を!

・虹仰ぎ地に突き刺さる黒き滝(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→「~ぎ~する」と説明的で散文的で惜しいが、独特の境地。「夕虹や地に突き刺さる滝の音」あたりでは。次回も挑戦を!

・雨上がり友の瞳の虹を追う(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
→散文的・説明的で惜しいが、何か熱いものを感じる。「夕虹や友の睫毛の上あたり」くらいか。次回も挑戦を!

・朝虹や上がり框の忘れ傘(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→句の素材がすべて近いものばかりせ世界が狭く平凡で惜しいが、詠み方がカッチリしていて心地よい。次回も挑戦を!

・夕虹やべりべり剥がすアスファルト(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→中七下五が観念的であるが、全体的には実感を詠んでおりこれでいいのである。この方向で。

・朝焼けの虹の彼方に夢の国(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
→全体的に散文的で説明的で惜しい。「朝虹や本の向こうの夢の国」くらいでは。次回も挑戦を!

・夕虹や自販機の音忙しく(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→散文的で説明的で惜しいがなかなかのキャスティング。「夕虹や人を吐き出す販売機」など大胆に詠みたい。次回も挑戦を!

・音たてて伊予から安芸へかかる虹(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→上五中七など少し言い過ぎで惜しいが、風景が印象的である。次回も挑戦を!

・朝虹のトンネルくぐる園児かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→「虹・トンネル」「朝・園児」とイメージの重なりが気になるのが惜しいが、気分の出た句である。次回も挑戦を!

・朝虹や天女が描く水彩画(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「虹・水彩画」は少しイメージが近く惜しいが、鮮やかな句である。次回も挑戦を!

・多島美や重き汽笛を跨ぐ虹(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→「島々をめぐる汽笛や夕の虹」など。次回も挑戦を!

・虹の上立てばとびしま羽広げ(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→「~すれば~する」は説明的であるし散文。韻文となるようにせめてみたい。次回も挑戦を!

・嫁ぐ娘の潤む瞳に虹の立つ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
→盛り込み過ぎであるので整理したい。「花嫁の瞳の奥や朝の虹」など。次回も挑戦を!

・軽トラのくぐり来るかな虹の橋(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→「くぐり抜けたる」などのほうが自然。気分が出ている。次回も挑戦を!

・甲子園涙の向こうの虹の色(ペンネーム「ワイ」さん)
→気分の出た句である。まずはどんどん詠むようにしたい。次回も挑戦を!

入選B

・虹見つけ空と同様笑む私(ペンネーム「真夏の塩」さん 21歳)
・キラキラと期待の眼差し虹と長靴(ペンネーム「あすか」さん 28歳)
・空よりも水で弧を書き虹発見(ペンネーム「チョコバナナ」さん 34歳)
・踊り手と奏者の熱気虹光る(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・二重虹神々すらも感動す(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・泣くほどに心にかかれ虹の橋(ペンネーム「ゆう」さん 41歳)
・雨上がり虹の服着て遊歩道(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
・虹かかるからくり知らず知りたいな(ペンネーム「わた」さん 44歳)
・水しぶき虹の架け橋はしゃぐ声(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・虹消えて色付き出した造花かな(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・虹近し高層マンション十五階(ペンネーム「つぶあんこ」さん 54歳)
・雨上がり大蛇駆け上がる虹の橋(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)
・仲直り水面に映る今朝の虹(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・明日からまた頑張ろう虹立ちぬ(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・海の果て虹の始まり砂漠の真ん中(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・二重虹あの世この世の逢瀬かな(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・空をみる時間をくれた虹の橋(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・虹の根に手ぐすね引いて流川(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・3歳児虹の色って7分のいくつ(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・夏の日の2才時ひるね虹の上(ペンネーム「廣子千枝子」さん 68歳)
・昔の記憶虹の造影余裕ナシ(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・天空の万華鏡なり午後の虹(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・いつ逢える虹に向かい飛ぶ成田発(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・上京の富士山またぐ虹の橋(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・来し方や曇晴雨ニ重虹(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
・あか、きいろひ孫が教えてくれる虹(ペンネーム「たけのこ」さん 81歳)
・三方の虹吐き人やカープ戦(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・夕虹や海の乗り込む路線バス(ペンネーム「大福ママ」さん 名人)
※海行きのバスや電車を見ると用もなく乗っていた学生時代。乗車してだんだん海が近くなって来ると海藻や干し魚や煮魚の匂いがして来て、まるで海ごと乗車しているんじゃないかと思います。

選者詠:谷村秀格

・心室のやや傾きて夕の虹

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年7月14日(金)

第58回 お題「向日葵」(選と評 谷村秀格先生)
<谷村秀格(たにむらしゅうかく)プロフィール>

句の「スケール感」や句の背後の「詩情の広がりや深さ」を重要視する『宇宙流俳句』のパイオニア。『宇宙流俳句会』主宰。1976年広島県東広島市安芸津町木谷生まれ、同町在住。句歴26年

総評

今回のお題は「向日葵」。
多くの投句や新しい方からの投句も多くいただきうれしい悲鳴であった。
また全体的なレベルもなかなかで楽しい選句であった。

囲碁のプロ棋士に、上達の秘訣聞くと「自分の打ちたい手を打ちなさい」と言われることが多い。
自分の実感のある手を選ぶことで、勝ち負けに関わらず、学びになるというのである。
一方誰かの真似や先入観・世間体や人目を気にして、優等生的な手ばかりを選んでいると、心ここにあらずではないが、学びにつながらない。

これは俳句も同じで「無意識からの実感」を大切に、詠みたいように詠むことが大事である。
誰かの真似だとか、流行の詠み方だとか、季語は一つだとか、切れ字はひとつだとか、文法は正しくなければならないだとか、映像がわかなければダメだとか、句またがりはむずかしいだとか、字余り・字足らずはできるだけさけるだとか、「無意識からの実感」よりも「前提条件」や「世間体・人目・俳句の常識のようなもの」を気にし優先して作っていると、いつまでたっても自分のものにならない。

そもそも俳句は奥深いのであって、その形式を最大限に生かそうとするのであれば、そのような国語的・知識的・理論的・常識的な側面(頭・理屈)で太刀打ちできるような代物ではないのである。
一部のするどい方は気づいてきておられるようであるが、俳句はなんらかの出来事や映像をたし算ひき算で編集して、17音で詩的に表現するというようなごく浅い世界だけではない。

飛行機は地を這うこともできるが大空も飛べる。
俳句形式も浅くあつかうこともできるが、そのよさを最大限にいかすこともできる。
出来事や気持ち・映像を美しく詠むだけの句ではなく、モノと一体となりモノの本質を詠み上げた、句の背後のイメージの豊かさや調和の感じられる句・宇宙流俳句を目指したい。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
皆様目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーからチャレンジください!

大賞

「向日葵や空駆けまわる参観日」

夏の参観日の句であろう。
「向日葵や」で切れている句で、「向日葵」と「空駆けまわる参観日」の2カットの句。
俳句というものは便利で、誰か示されていない場合は作者ということになる。
よって「空駆けまわる」のは作者であろう。
小学校に沢山兄弟がおられるのか、あちらの学年こちらの学年と、教室を楽しく移動しながらわが子たちの様子をたのしくほほえましく観察している作者の様子が目に浮かぶ。
この句の上手いところは「空駆けまわる」。
抜けるような空の青のイメージや大きな空間を句に引っ張ってきていて、実にさわやかでのびやかな作者の心境が伝わってくる。
黄色と青色の対比、植物の静と駆け回る作者の対比、向日葵・空という自然界と参観日という人間界の対比、句の背後でそのようなイメージの調和が重層的に重なってきて味わいを深くしている。
無意識からの実感ある表現が光った「宇宙流」の一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句の常識や人目より、無意識からの表現を優先する。

入賞

「向日葵の種黒焦げの夏休み」
(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)

最近一気に世界の開けてきた方で、ここのところ上位入選が多い。
このような句を詠んで「向日葵・夏休み」の季重なりであるとか、「向日葵が主役になっていない」という点が気になるとすれば、まずそのようなところを気にしてしまう感性・俳句精神のほうが問題である。
たしかに季重なりなどはないほうがいいが、「こうすれば俳句らしくなる」という「知識・知恵・前提」を先行させる作句態度や鑑賞態度こそが問題なのである。
何度も申し上げるが、俳句は約束事の上に成り立っているのではなく「芸術」なので、その芸術性、そしてそのベースである「実感」が何より大事なのである。
この句の見どころは、灼熱の夏の実感を「黒」に集約させているところ。
「黒焦げ」なのは「向日葵の種」であり、「夏休み」そのものであり、ひいては「子どもたち」であり、「作者自身」なのである。
季重なりに代表されるように一見あらゆるイメージが重なっている句のように見受けられるのであるが、この句の場合はそれが逆に効果的に働いている珍しい句である。
こういうところが俳句が理論で割り切れない不思議なところでもある。
俳句の常識より無意識からの実感を優先させた面白い一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句の常識や人目より、無意識からの表現を優先する。

「向日葵や屑籠にあるカレンダー」
(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)

「向日葵や」で切れており、「向日葵」と「屑籠にあるカレンダー」との2カットの句である。
明るいイメージの「向日葵」に比して、捨てられたのであろうか「屑籠にあるカレンダー」とはもの悲しい。
あるいは、6月から7月となったので、不要になり捨てられた6月のカレンダーをさしているのであろうか。
この句の見どころは、今を咲き誇る「向日葵」と、「屑籠にあるカレンダー」という過去が醸し出す時間性。
句からは、過去の自分を捨て去り、今を精一杯生きようとしている作者の前向きな気持ち、あるいは、過ぎた過去への未練のような気持ちが感じ取れてくるが、いずれにしても、陽のイメージのままに詠まれた句が多い中、陰と陽の対比を効かして、味わい深く象徴的に詠み上げたところが見事である。
実感をモノに託して詠んだ佳句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
季語を説明しない。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「太陽に憧れ見つめるひまわりの恋」
(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)

「向日葵のワードときたら咲子ちゃん」
(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)

「ひまわりで明日の天気観てみおー!」
(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)

今週はあかるくかわいらしい3句をご紹介。
向日葵といえば、太陽・恋。
向日葵といえば、「ひまわり娘」のヒット曲でおなじみ、歌手の伊藤咲子さん!
そして最後はテレビ派でおなじみの気象予報士の塚原さんのコーナーを詠んだ句!
どれも宇宙流とは言えませんが、ほのぼのと楽しいですね。

入選句

特選

・向日葵や期末テストの帰り道(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
→テストについて語っていないところがいい。言いたい事は句にならない。読者はこの風景から推察する。向日葵だけに結果は上々なのではないか。安心して夏休みが過ごせそうな気分がよく伝わってくる。この方向で。

・向日葵や巣立つ部室の鍵の音(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→モノに託して詠もうとしている姿勢はよい。ただしこの句は「向日葵・巣立つ部室」の季節のイメージがやや違和感があるのと、「巣立つ・部室」「部室・鍵」とイメージの重なりがあるところが惜しい。次回も挑戦を!

・軍服の祖父と向日葵並び行く(ペンネーム「カンピロバクター」さん 24歳)
→全体的に少し説明的なところが惜しいが、モノに託して詠まれてありなかなかの句である。この方向で。

・向日葵の群れ黒々と夜の畑(ペンネーム「ふくろう」さん 39歳)
→詠みが追い付いていないのであるが、独特の切り口で実感ある世界を詠もうとしているところがよい。この方向で。

・向日葵や真っ直ぐ延びる高速道(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→中七が上五下五に働くような詠み方をしたかったようであるが、そうであれば「や」で切らず「向日葵の」くらいにしてみたい。この方向で。

・向日葵の上に広がる水平線(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
→上だから感動し、下だから感動しないというものでなないので、この手の言い回しは説明的で惜しいのである。読者は説明してほしいのではなく「感じさせてほしい」のである。「向日葵の両手広がる水平線」など。次回も挑戦を!

・向日葵の波に拐わる遣唐使(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→「向日葵の波」が安易であるのと、「波・拐わる・遣唐使」がイメージの重なりで惜しい。その点を気をつけて、この方向で。

・絵日記の向日葵はみだす夏休み(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
→「向日葵」を入れて下さっているし、大事なのは一句の芸術性なので、その観点で評価した。類想が多そうなのが惜しいが、実感を堂々とモノに託して詠んでいる点がよい。この方向で。

・向日葵や見下ろされたる水平線(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→少々平凡なところが惜しい。また中七は「見下ろしている」などのほうが軽くていいであろう。いずれにしても景色と対峙するのではなく、もう少し一体となって詠んでみたい。次回も挑戦を!

・向日葵と遺影の並ぶ大広間(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→原句が少し平凡なところと、説明的なところが惜しい。すべて室内の風景だからであろう。こういうところは目をつむっても「向日葵や」と切りたい。読者は実際の出来事を説明してほしいのではなく、「感じさせてほしい」ものなのである。モノに託して詠む姿勢はよい。この方向で。

・向日葵や音せめぎ合うフラメンコ(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→スペインのイメージで全体的に近いといえば近いがそこまでではない。気分がよく出た句である。「音・フラメンコ」がややイメージの重なりで惜しいが、中七のこういう実感を大切にしてほしい。この方向で。

・向日葵や線路まぶしき雨上がり(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→雨上がりの風景が清々しい。このあたりは好みの問題かもしれぬが、私などだと「や」と強く切るより「の」とかるく切りたい。このほうが風景が溶け合う印象だからである。この方向で。

・向日葵やフェリー乗り場に続く道(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→後半にゆくにしたがって平凡になってゆくのが惜しいが、風景に気分を託して詠んだ句で美しい。この方向で。

・向日葵の白球を追う球児かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→夏の雰囲気の佳く出た句で詠み方もしっかりしていてよい。惜しいのはやはり類句の多そうなところであるが、まずはこの方向でいいのである。

・ゆらゆらと向日葵揺れる登校日(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→どうにも類想・平凡で惜しいが、登校日の児童の様子が浮かんでくるようである。詠みも軽くてよい。この方向で。

・向日葵は東京行きの列車かな(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)
→「会社に赤信号がともった」と同じような言い方の句であるが、赤信号の表現が、信号そのものではなく「危険」というイメージを伝えているように、この句も「向日葵・列車」という句の表面そのものではなく、そこから感じられる「なんらかのイメージ」を味わいたい。それは「希望・ドキドキ感」などであろうか。この方向の句を期待したい。

入選A

・向日葵の揺れや明日は誕生日(ペンネーム「まりも」さん 18歳)
→「明日は誕生日」という説明に季語をあわせだけのコト句(出来事句)で惜しい。「読者は明日が何の日だ」などと説明してほしいのではなく、感じさせてほしいのである。大事なのはモノの本質を詠んでいるか、対象と一体となっているか、イメージがイメージを呼び込む深い構造になっているか。総評などが参考になろう。これを機会に追及して頂きたい。次回も挑戦を!

・向日葵や見つめる先に父の顔(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「父の顔があるということ」を述べたコト句で惜しい。「見つめる先に」は不要であろう。「向日葵の影ちらちらと父の顔」「向日葵の揺れ続けたる父の顔」など。次回も挑戦を!

・向日葵や母の気にする首の皺(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→中七が言い過ぎで惜しい。読者は「母は首の皺を気にしているんですよ」と説明してほしいのではないのである。感じさせてほしいのである。「向日葵・首の皺」はなかなかのキャスティングなので「向日葵やひとつ増えたる首の皺」など。次回も挑戦を!

・向日葵や飲み干されたる炭酸水(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→「中七下五」が平凡な表現で惜しい。しかし気分の出た句である。次回も挑戦を!

・ひまわりやテニスコートに響く音(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「コートに・響く・音」がイメージの重なりで惜しい。「ひまわり・テニスコート」のキャスティングはよい。この方向で。

・向日葵の所々や戦地図(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→夏草や兵どもが夢の跡(芭蕉)をなぞったような句になってしまい惜しい。しかして句の雰囲気はよい。この方向で。

・ひまわりの迷路を走る少女かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→月並みな風景で惜しい。宇宙は広いので 「向日葵」から飛躍したかった。次回も挑戦を!

・向日葵の波受け止める天守閣(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→「向日葵の波」は安易な表現で惜しいが、天守閣とのキャスティングはなかなかである。この方向で。

・向日葵の遺影で出会う義理の父(ペンネーム「大福ママ(名人)」さん 53歳)
→今回は少々不調な様子。句は出来事を詠んだコト句で惜しかった。次回も挑戦を!

・向日葵やファインダー越しの片想い(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→「片思い」が言い過ぎで惜しい。「君の影」くらいにモノに託してイメージさせたい。次回も挑戦を!

・向日葵や暦滲んだ望遠鏡(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→「暦滲んだ望遠鏡」はカレンダーのことだそうだが、そうであれば「向日葵の丸めて覗くカレンダー」などと素直に詠んでほしかった。次回も挑戦を!

・向日葵の翻したき空を裏(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
→「中七」「が言い過ぎで惜しい。「向日葵の裏返したる空のいろ」くらいか。次回も挑戦を!

・向日葵の迷路で帽子かくれんぼ(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→素材が平凡月並みで類句が多く惜しい。宇宙は広いので 飛躍して詠みたい。次回も挑戦を!

・向日葵や昭和の庭の水遊び(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
→すべて庭の風景でイメージが近く惜しい。宇宙は広いので「向日葵」から飛躍して句にしたい。次回も挑戦を!

・向日葵の海に一輪夕陽かな(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→句の表面の言い回しはユニークであるが、イメージの世界が広がっておらず惜しい。言葉にとらわれてはいけない。「向日葵の海沈みゆく夕陽かな」などと素直に詠んでみたい。次回も挑戦を!

・向日葵や草と戦う耕耘機(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→「草と戦う」というコト(出来事)を詠んだ句で惜しい。また「向日葵・草・耕運機」とどれも畑のイメージでその重なりが気になる。ちなみに「耕運機」は春の季語であるが、そこまでの傷ではないのでせめて「向日葵や空へ漕ぎだす耕運機」など、大らかに詠みたい。読者は作者の思いや体験を知りたいのではなくて、単純に感じたいのである。そこを攻めてほしいのである。次回も挑戦を!

入選B

・1年後俺向日葵になれてるか?(ペンネーム「ミッシ〜」さん 14歳)
・きれいな向日葵はずっときれいなお花(ペンネーム「あーちゃん」さん 15歳)
・すくすくと天まで届け我が向日葵(ペンネーム「あすか」さん 28歳)
・向日葵やたてがみなびく夕の刻(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
・謎多き赤ちゃん目線の向日葵か(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
・満面のお囃子ひらく向日葵や(ペンネーム「柚葉」さん 34歳)
・向日葵を太陽向けて交信中(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・向日葵に雨の雫のマッサージ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・向日葵や天使舞い降り次世代へ(ペンネーム「よこたん」さん 41歳)
・伸び伸びと太陽に向かう向日葵かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・向日葵や百八十度折り曲げて(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・向日葵の見つめる先は未来かな(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・向日葵や前髪ぱっつん洗いたて(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・向日葵や特売もやし十八円(ペンネーム「洒落神戸」さん 50歳)
・猛暑にも耐える向日葵たくましや(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・向日葵とせいくらべして孫ざわわ(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・向日葵や津波を超えて七代目(ペンネーム「sora」さん 57歳)
・落日が向日葵ぶつかりコロナ散る(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・向日葵のうなだれし姿に母をみる(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・夜行バスひまわり畑缶コーヒー(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・向日葵にゴッホの黄色無かりけり(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・天仰ぐ孫の笑顔か向日葵か(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・裏の顔向日葵畑はただ緑(ペンネーム「ゆみこ」さん 66歳)
・ひまわりがスモールサイズでプランターに(ペンネーム「リュー」さん 68歳)
・子につられ背?ひまわり葉と迷路(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
・天を突く向日葵畑Vの字に(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・向日葵や身の丈ほどの暮らしぶり(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・向日葵の助言を受ける三輪車(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・向日葵の天に拘り無かりけり(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・向日葵群仰ぐドローン稜線に(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・向日葵や紙はみ出せりチビゴッホ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・向日葵や百万人の得意顔(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・向日葵も豪雨にも耐え陽に映える(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・ここにまた向日葵咲かせ漁師町(ペンネーム「ありんす」さん)
・はるかなるひまわり畑に我が浮く(ペンネーム「やっちゃん」さん)

広島俳句名人詠 ※入賞10回を経た俳句名人の句を本人のコメントとともにご紹介。入賞の場合は入賞欄でも紹介します。

・向日葵の遺影で出会う義理の父(ペンネーム「大福ママ(名人)」さん)
※結婚する前に亡くなった義父。花に囲まれた遺影を見る度に守られているような気がします。

選者詠:谷村秀格

・向日葵や空の重さの馬頭琴

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年7月7日(金)

第57回 お題「七夕」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回のお題は「七夕」。
「七夕」は歳時記では秋の季語となっている場合が多い。
現代の感覚で「七夕」は本日7月7日であるが、本来の「七夕」は旧暦の行事だからである。
いずれにしても知識ではなく、「七夕」の気分やイメージをどう扱うかが大事であろう。

今回は先入観の強いテーマであったので、いわゆる七夕を七夕らしく詠んだ句がほとんどで苦戦された様子であった。
また「七夕」という言葉そのもの美にひっぱられて、句の表面の出来事や言葉の美に溺れてしまったものも多かった。

どのような題でも、大事なのはイメージができるだけかぶらないようにすること。
そうすることで句から醸し出されてくるイメージ世界の調和をとるようにしたい。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
皆様目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーから投句にチャレンジください!

大賞

「七夕の雨に佇む子犬かな」(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)

大変熱心な方で、道場の初期から毎回のようにご応募下さっている方である。
今回で2回目の受賞だったと記憶している。
「モノに託しイメージされてくる世界の調和の美」を重視する「宇宙流の俳句観」を、最近体得されてきている方の一人で、さらなる活躍を期待したい方である。
「七夕」に降る雨は、「催涙雨・七夕雨」ともいわれる。
「七夕」にだけ会えるはずの織姫と彦星が雨で会えなかった悲しみの涙とも、会った後の別れを惜しむ涙ともいわれるようであるが、普通の感覚では前者であろう。
しかしこの句は、「七夕『の』雨」というふうに、「の」をはさんだ響きがよい意味で軽くて心地よく、どちらかというと季語的・知識的な意味をそこまで強調したものではない印象でもある。
句は「七夕の雨の中に仔犬が佇んでいる」というもので分かりやすい。
句の見どころは、捨て犬なのか、はぐれた犬なのか、「子犬」のさみしさ孤独感というものを「七夕の雨」という「織姫と彦星の悲しみの涙」のイメージに重ね合わせて、うまく引き出しているところ。
大きな時空である「七夕」から、とりまく「雨」、小さな「子犬」へと、カメラがズームアップしていくような詠み方が効果的で、心情表出も充分。
「子犬」に作者自身を重ね見ているように感じられるところに実感がよく出ている。
写生句の本質は、季語を入れ風景を客観的に詠むところにあるのではなく、この句のように「モノを通して対象とひとつになること・主客一体の世界」にこそあるのである。
こういうところが「日本文化の本質」なのであって、季語の知識や言葉の美や正しさなどといった表面的なところに本質があるのではない、ということを強く申し述べておきたい。
モノにしっかりと託して詠まれた象徴的な一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
言葉の美にまどわされず、対象と一体となって詠みあげる。

入賞

「七夕や解き放たれし籠の鳥」
(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

気分のよく出た句である。
織姫と彦星が手に手をとって再会を喜び合うシーンと、籠から解き放たれた鳥が自由に飛び回るシーンが、何かのテレビコマーシャルのように交互に現れてくるようなイメージの句である。
「七夕」と「放たれた鳥」がややつきずぎで、イメージされてくる世界が「プラスイメージ」ばかりでやや惜しいが、「七夕だけ」に「会える喜び」と、「籠の鳥」が「自由になった喜び」とが、うまくからみあった、とらわれのないのびやかな心境というものを上手く伝えていて上手い。
モノに託して詠まれた明るい一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
宇宙は調和なので、イメージが偏らないように象徴的に読む。

「七夕や夕陽の丘のハーモニカ」
(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)

「七夕」の行事は、ご存知のように一般的には笹の葉に願い事を書いた短冊を吊るし、夜に祈るというもの。
見どころは、「七夕の夜に向かう気分」を「夕陽の丘から聞こえてくるハーモニカ」に託して印象的に詠んでいるところ。
祭りの前の太鼓の音のように何かを告げているような句ともとれるし、もの悲しさのようなイメージでもあるし、一人で過ごす七夕の複雑な心情というようなものを詠み込んでいるようでもある。
いずれにしても、ふとした瞬間の気づきを「夕陽の赤」や「ハーモニカの音」といった「視覚」「聴覚」の情報で、美しく象徴的に詠みあげているところが美しい。
さまざまに読者の想像力をかきたて感じさせてくれる一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
ふと感じた実感を素直にモノに託す。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「七夕が八月にあるん?と九歳児」
(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)

「七夕やおみくじ吊るし神頼み」
(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)

「七夕に夢を託した鯉の詩」
(ペンネーム「キートン」さん 69歳)

今週の3句は、789と数字遊びの句、大変な願い事の句、そして絶好調のカープ俳句。
みなさんはどんな願い事をされましたか。

入選句

特選

・七夕や傘すれ違う通学路(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→テーマをそれらしく詠んだだけの句で新しい発見がないのが惜しいが、「七夕」の気分を日常の実感でよく表している。次回も挑戦を!

・七夕の風はらませて舟登る(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→下五がやや伝わりにくいのが惜しかったのと詠みが甘かったのが惜しいが、七夕のイメージから飛躍したところで句にしようとしたところがよい。この方向で。

・七夕の空遠きかな車椅子(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→中七に主観が強く出すぎていて惜しい。読者は説明してほしいのではなくて感じさせてほしいのである。「七夕・車椅子」のキャスティングは見事なので、せめて「七夕の空遠くなる車椅子」くらいに。次回も挑戦を!

・点滴に吊るす短冊星祭(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→詠みはなかなかなので特選であるが、「点滴・短冊(回復などへの願い)」「短冊・星祭(いわずもがな)」となってはイメージの重なりでどうにも惜しい。「点滴・星祭」までならなかなかなので「点滴の匂いひろがる星祭」など。宇宙は調和なのでイメージが偏らないように気をつけたい。次回も挑戦を!

・七夕や夜空見上げし盲導犬(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→「七夕」・「夜」、「見」「盲」がイメージの重なりで惜しい。モノに託して詠んであるところはよい。句の意味ではなく、モノとモノの掛け算によって生じるイメージの世界の調和の美を意識してみてほしい。次回も挑戦を!

・七夕に痺れる身体診察日(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→実感の句であるが、全体的に平凡で惜しい。そうさせているのはイメージの重なり。「痺れる・身体」「身体・診察」「痺れる・診察」などである。句は実感からでいいのであるが、作りぱなしにせず、イメージの重なりを避けるようにすることが大切である。次回も挑戦を!

・七夕や父母の介護の申請書(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→七夕のイメージから飛躍したモノを句に取り込んで上手い。しかし「父母・介護」「介護・申請書」
と少しイメージの重なり(つきすぎ)が気になる。そこを気をつけてほしい。次回も挑戦を!

・ぽろぽろと丸文字の降る星祭(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→少々観念的なところが惜しいがユニークな句である。「星祭」のさまざまな気分を上五中七が感覚的に伝えていて面白い。もうすこししっかりとした実体あるモノに託したほうがイメージが膨らみそうである。この方向で。

・娘といれば匂い濃く成る星祭(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→「いれば~なる」と説明的なのが惜しいが、強い実感と詩情が感じられよい。女性ならではの感覚の句であろう。次回も挑戦を!

・七夕や静かに地球包みおり(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→なかなか雰囲気のよい句である。私見では強く切るのではなく「七夕のつつまれてゆく地球かな」など軽く切る感じでよみたい。次回も挑戦を!

入選A

・七夕の乗り換えホームセブンスター(ペンネーム「カンピロバクター」さん 24歳)
→句が整理されてない印象で惜しい。「七夕の駅のホームのタバコかな」など。次回も挑戦を!

・七夕や気ままに旅する漂流ビン(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
→「気まま・漂流」がイメージの重なりで惜しい。「七夕の空しずみゆく漂流瓶」など大胆に詠みたい。次回も挑戦を!

・七夕や宇宙の河に飲み込まれ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→散文的なコト句で惜しい。次回も挑戦を!

・七夕に花火一発 ドンと鳴る(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→中七下五のような直接的な生の表現を避けたい。次回も挑戦を!

・七夕や地上の光りが屈折し(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「光・七夕」がつきすぎなところ、全体的に散文的・説明的で惜しい。次回も挑戦を!

・七夕や縫い目整う白布巾(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
→実感が感じられず惜しいが「七夕」から飛躍したモノを取りあわせたのはよい。次回も挑戦を!

・七夕や角のとがった豆腐浮く(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→実感が感じられず惜しいが「七夕」から飛躍したモノを取りあわせたのはよい。次回も挑戦を!

・七夕にタイムマシンのドアたたく(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→「マシン・ドア」「ドア・たたく」とイメージの重なりが惜しいが、個性的でよい。次回も挑戦を!

・七夕や世界平和を祈る鶴(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「七夕・祈る」「祈る・鶴」とイメージの重なりが惜しいが、詠み方が上手い。次回も挑戦を!

・七夕のしじまに香る墨絵かな(ペンネーム「カーブ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→「七夕・しじま」「香る・墨」とイメージの重なりが惜しいが、工夫のあとがうかがえる。次回も挑戦を!

・縁台の石鹸ほのか七夕夜(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→全体的にごちゃごちゃしてりうので整理したい。香りを取り込んだのはよい。次回も挑戦を!

・ふだん着で見上げる空や星祭(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→出来ゴトの句で惜しい。着眼はよい。次回も挑戦を!

・七夕や旧姓で呼ぶクラス会(ペンネーム「大福ママ(名人)」さん 53歳)
→平凡かつコト句で惜しい。飛躍したい。次回も挑戦を!

・七夕に妻と語らう未来絵図(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
→中七下五が熟しておらず惜しいが雰囲気がある。「七夕や妻と語らう水平線」など。次回も挑戦を!

・幸の一字七夕竹しなる(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→句の後半に意志が強く出すぎで重い。大事なのはイメージされててくる世界なので俳句の表面で演説しない事。「幸の一文字太き星祭り」など。次回も挑戦を!

・七夕や屋根のアンテナ東向く(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→七夕の様子を説明しているような句で惜しい。飛躍したい。次回も挑戦を!

・七夕や迷路の中の若き獅子(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→観念的で伝わりにくく惜しい。次回も挑戦を!

・七夕のバス停で遇う一日かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→「七夕・遇う・一日」がイメージの重なりで惜しい。「七夕・バス停」はなかなかである。次回も挑戦を!

・七夕や百の願に垂れる笹(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
→「七夕・願・笹」がイメージの重なりで惜しい。飛躍したい。次回も挑戦を!

・ようちえん金釘文字の星まつり(ペンネーム「呆人」さん 76歳)
→この句の場合「幼稚園」は不要。「釘文字のところどころに星祭」など。次回も挑戦を!

入選B

・七夕や騒ぐ車内は出発へ(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
・天の川笑える未来叶えてよ(ペンネーム「ミッシ〜」さん 14歳)
・七夕に入籍しはや22年(ペンネーム「天使の罠?」さん 45歳)
・波にのせ見上げて笑う七夕か(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・七夕や十七音の願い事(ペンネーム「洒落神戸」さん 50歳)
・七夕や砂漠越えゆくビッグベン(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・星眺め乙女にかえる七夕夜(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・無から萌芽あまねく数多なる銀河(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
・短冊に願いを込めるカープ優勝(ペンネーム「蓮子」さん 56歳)
・七夕や自分の機嫌とれぬまま(ペンネーム「sora」さん 57歳)
・七夕を ななゆうと読み笑われる(ペンネーム「わたしじゃないよ」さん 57歳)
・伝書鳩七夕の宵異世界へ(ペンネーム「ゆきんこ」さん 59歳)
・七夕やスマホで集める天の川(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・七夕にきっと晴れろと孫の顔(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・防人の遥かな恋や星今宵(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・七夕に孫の元気を祈る詩(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・七夕の短冊おちて星ライン(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
・七夕や曾孫と宇宙に喜寿祝う(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・七夕や三つ寝た娘の夢揺れて(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・七夕のモリババさんへ糸結ぶ(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
・七夕の夜油差したる蝶番(ペンネーム「ワイ」さん)
・七夕に俳句大賞花日(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)
・おり姫と一度会いたい夢の中(ペンネーム「湯浅博明」さん)

選者詠:谷村秀格

・消しゴムのまだ濡れている星祭

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年6月30日(金)

第56回 お題「風鈴」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回は「風鈴」という身近な素材。
新しい方からの応募も多く賑やかであった。
全体的に常識的な句が多かったが、特選以上の句はなかなか印象的な句が集まった。

新しい方も増えたので、改めて基本的なことを記しておくが、入選以下の方はテーマを説明しないよう心掛けることが大事である。
そして、「イメージの重なり」を避けることを心掛けたい。
「イメージの重なり」というのは宇宙は広いのに、そこばかりに心が向いている」という心の凝り形なので、心のストレッチを行い、宇宙のようにのびのび心を構えたい。

例えば「風鈴」であれば、すぐに連想される「音、透明感、小ささ、夏、涼しさ、ゆれる」などは、すでに「風鈴」のイメージの守備範囲なので、「風鈴」の力を信じて句にもちこまないことである。
そして、「風鈴」の守備範囲意外のモノを取り込んで、イメージの調和をとり宇宙を広くつかむようにしたい。
これは、どのテーマでも同じことなので、参考にされたい。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
皆様目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」トップ画面のバナーから投句にチャレンジください!

大賞

「風鈴や砂にまみれたる秒針」(ペンネーム「かつたろー」さん 41歳)

夏の終わりの砂浜の様子がイメージされる。
海の家か海辺の家であろうか、少しさみしげな「風鈴」の音が聞こえてくる。
砂浜を歩くと波に打ち寄せられた「小さな秒針」がある。
句からは、去りゆく夏のもの悲しい気分と、夏を思い返す作者の心境のようなものがありありと感じられてきて共感を誘う。
この句の上手いところは、「さみしげな気持ち」を直接的詠むのではなく、「風鈴・砂・秒針」というモノの織りなすイメージに託してつむぎだしているところ。
しっかりモノに託して詠んであるので、気持ちだけでなく、「夏の終わりの人のいない海辺の風景」までもひっぱってきていて、味わい深い。
さらにいえば、「風鈴(聴覚・透明感)」「砂(触覚・空間)」「秒針(時間)」の織りなす五感情報や時空の調和も大変美しい。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句は「モノの掛け算」によってイメージされる調和の美。

入賞

「風鈴やお見合いしてる潜水士」
(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)

「風鈴や」で切れているので、複数並んだ「風鈴」の様子と、「潜水ヘルメットをかぶって海でダイビングデートをしている男女の様子」を重ね見た句であろう。
この句の上手いところは、「風鈴」と「潜水ヘルメット」という、形は似ているが質の異なる両者を対比させている面白さ。
この両者のつかずはなれずの関係によって、「風鈴(モノ・風流さ・地上)・「潜水士(ヒト・豪快さ・海中)」の織りなすイメージが重層的に感じられてきて味わい深い。
また、「お見合いしてる」と口語調で軽く詠んであるところも、「風鈴」の軽やかな音色によく合っていて効果的で、「明るく楽しそうに過ごす二人の笑顔や様子」がよく伝わってくる。
俳句で大事なのは一句全体の気分なので、「潜水士」や「お見合い」を厳密に辞書的な意味で鑑賞する必要はなく、それらからイメージされてくる「明るく楽しい軽やかな夏の気分」というイメージの対岸にたどりつければそれで鑑賞は成功であろう。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句は国語ではなく芸術。言葉(意味・文法など)の厳密性ではなく、一句全体の気分が大事。

「風鈴や片隅にある時刻表」
(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)

「風鈴や」で切れている句で、「風鈴の聞こえてくる室内」と「部屋の隅に置かれた「時刻表」、それらのモノが醸し出す気分を味わいたい句である。
句からは、「一人旅へのふいの衝動に駆られる様子」や、「旅に出かけられずに終わっていきそうな夏を惜しむ様子」などがイメージされてきて想像力を刺激する。
この句の上手いところは「片隅」という位置情報。
「風鈴・時刻表」だけでも「作者の悩まし気な心情」が伝わるが、さらに普段気にとめない部屋の「片隅」という位置を詠み込むことで、「風鈴」のどことなくはかなげなイメージとあいまって、「作者の悩ましげな心情」がより一層伝わってきて、共感を誘う。
モノに託して気持ちを詠んだ象徴的な一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
ディテールを詠み込む。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「風鈴の響きアラブの石油王」
(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)

「風鈴の窓辺ミラノのチョコレート」
(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)

「風鈴を吊るし寝る夜やエベレスト」
(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

今回は、グローバルっぽい句を3句ご紹介。
このようなスケール感ある句が集まるのも、スケール大きいのびのび「宇宙流」の俳句観に学ぶ「俳句道場」ならではでしょう笑。

入選句

特選

・風鈴の色づく空の熱気球(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「風鈴・空」「空・熱気球」「色・熱気球」とイメージの重なりがあるところが惜しいが、「風鈴」と「熱気球」の相似形ながら異質なものを重ね見た句で、空の気分のよく出た句である。「イメージの重なり」というのは宇宙は広いのにそこばかりに心が向いている」という心の凝り形なので、のびのび心をかまえたい。この方向で。

・風鈴の伸びゆく影や日焼け顔(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「風鈴・日焼け」の夏のイメージの重なり、「影・日焼け」の光のイメージの重なりが気になるが、中七などに晩夏の気分がよく出ていて上手い。イメージの重なりというのはつまり「宇宙は広いのにそこばかりに心が向いている」という心の凝り形なので、その点に注意して、のびのび心をかまえたい。この方向で。

・風鈴やDNAもあくびする(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→「もあくびする」が説明してしまって惜しかった。これですべて出来事をよんだコトになったのである。しかし「風鈴・DNA」のキャスティングはよいのでここから「遺伝子の少し重たき江戸風鈴」など、モノに託して詠むようにしたい。次回も挑戦を!

・風鈴や我を貫くニュートリノ(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
→「風鈴・ニュートリノ」のキャスティングは問題ないが、中七で演説してしまたのが惜しい。ここからモノ句にしたい。「ニュートリノほとりあかるき江戸風鈴」など。次回も挑戦を!

・留守番の子の透きとおる石風鈴(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→「子の透き通る」はいいのだが「透き通る石風鈴」が中途半端。「石風鈴」ではなく音も見た目もすきとおる「ガラスの風鈴」のほうが気分が出そうである。「留守番の子の透き通る江戸風鈴」など。次回も挑戦を!

・風鈴やまた生まれたる銀河系(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→「宇宙流」とは単に大きいモノを取り込むことではなく、イメージされる世界の大きさや深さのことをいうのであるが、モノもイメージされる世界もなかなかの「宇宙流」である。中七が少し甘い表現ともいえるが、このように実感をモノに託して詠むようにしたい。次回も挑戦を!

・風鈴や波のうねりを閉じ込めて(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→見かけ上は「風鈴や」で切れているものの、実体としては「風鈴は波のうねりを閉じこめて」というような短歌の上の句のような句で、中七下五が「風鈴」をそのまま説明している「切れが効いていない句」で惜しい。「風鈴・波」はなかなかのキャスティングなのでここから句にもっていきたい。「一枚の海横抱きに江戸風鈴」など。次回も挑戦を!

・風鈴や雲へ杖つく遍路旅(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→気分の良く出た句である。「遍路(春)」というのは気にならないが、「遍路・旅・杖」はイメージの重なりで少し気になる。中七は名人らしい手慣れた詠みぶりでよい。この方向で。

・風鈴や雲の合間を走り抜け(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→少々観念的で伝わりにくい。が気分は出ている。中七下五は再考したほうがよさそうである。次回も挑戦を!

・風鈴や机の上の時刻表(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→入賞句に「風鈴や片隅にある時刻表」がある。表面の言葉はよく似ているが、イメージされる世界が全く違う。つまり別の句である。こちらの句は、「旅に行こう」と心がさだまっているストレートな明るい句で、その気分がすぐに読み取れる分少し惜しい。しかしキチンとしたモノ句でありこれでよい。この方向で。

・風鈴や画鋲の残る掲示板(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→なかなか印象的な句なのであるが、ややスケール感に乏しい。宇宙は広いのに「風鈴・掲示板」と駅などのイメージばかりでどうも世界が狭い。そこを攻めてほしい。モノに託す方向はよい。この方向で。

・風鈴や月にえくぼの跡のあり(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→今更「月(秋)」などの表面的なことを問題にする人はいないであろう。「風鈴・月」はなかなかのキャスティングなのであるが、「動かし方」が惜しかった。中七下五が月の説明になってしまっているので言わずもがななのである。そこを攻めてほしい。次回も挑戦を!

・風鈴や縄文の歯のむずがゆき(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→「縄文の歯のむずがゆき」と少し観念的でイメージが湧きづらいところが惜しかったが、俳句は何を詠んでもいいので、このようにモノに託してのびのび詠んでみてほしい。次回も挑戦を!

・風鈴や母の残せし俳句メモ(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→惜しいのは句の雰囲気が日常的というか月並みなことである。しかし母恋の気分がよくでた句で、聴覚と視覚で実感ある世界をつむぎだしていて上手い。まずはこのような実感ある世界をモノに託して詠むことである。この方向で。

入選A

・風鈴をあおぐ子どもの笑い声(ペンネーム「カンピロバクター」さん 25歳)
・風鈴にあの日の父を懐かしむ(ペンネーム「ウメ桃さくら饅頭」さん 37歳)
・風鈴や静かなる午後三時過ぎ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・啄木の風鈴が鳴る我が家かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・風鈴や自転車漕ぎ出す少年か(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・風鈴の吹き抜けてゆく摩天楼(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
・太古より紡ぐせせらぎ風鈴や(ペンネーム「すずらん村」さん 55歳)
・風鈴が奏でる戦後の物語(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・風鈴の音色変わらず墓参り(ペンネーム「ビーグル」さん 70歳)
・風鈴の窓飛び込んだ流れ星(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・風鈴や陽を残したる庭仕事(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・吊る前の風鈴ふっと吹いてみる(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・風鈴が一人風待つ三回忌(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・風鈴を喰ってしもうたみんみん蝉(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)

入選B

・水遊び風鈴ゆらら汗涼し(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
・風鈴や踵見られし大広間(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
・風流れ去る時の音や風鈴か(ペンネーム「のん」さん 22歳)
・吹きやまぬ鈴の音鳴らす鯉旋風(ペンネーム「きゅー」さん 30歳)
・宇宙から光輝く風鈴や(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
・風鈴の声に誘はれ夕涼み(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
・かぜあつめ鳴らぬ風鈴寂しげに(ペンネーム「三姉妹の母」さん 37歳)
・風鈴の音を知らない子どもたち(ペンネーム「ようちゃん」さん 43歳)
・波の音休まず風鈴ひと休み(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・風鈴や御構ひなしの選挙カー(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
・爆風に風鈴が消え私消え(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・風鈴の帯揺らしたる室外機(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・わが手には死せる風鈴あつまれり(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
・風鈴の音がかき鳴らす憂さ晴らし(ペンネーム「晴耕雨読」さん 51歳)
・留守がちな隣家の風鈴よく鳴りぬ(ペンネーム「ナギさん」さん 53歳)
・風鈴の音色に気持ちあらわれる。(ペンネーム「やまかぜファイブ」さん 54歳)
・夕風に吊るすと始まる風鈴奏(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)
・メトロノームト音記号にやや風鈴(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・風鈴や断の書かすれて力あり(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・打ち水に風鈴ゆれる昼下がり(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
・風鈴や蝶が寄りしか昼下がり(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
・荒れ庭の雨戸にカタカタ割れ風鈴(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・風鈴の短冊叩くふて娘(ペンネーム「猫またぎ65」さん 65歳)
・風鈴の音より高し燕の子(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・ディ工作手作り風鈴響かず(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・兄おくり軒下風鈴かきたてる(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
・風鈴や取り残されし崩れた巣(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・夜風立ち風鈴めざめ俄か雨(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・風鈴に夢を託して鯉の形(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・没落の家の風鈴錆し音(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・風鈴や飛び越え聞こゆ十二階(ペンネーム「ふーさん」さん 70歳)
・いろろはにほへと軒風鈴(ペンネーム「gojin」さん 70歳)
・風鈴の音色を運ぶ夏の風(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・風鈴のカラス鳴き止む夕間暮れ(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・風鈴や流れる雲の和声かな(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・風鈴の鳴りやまずなり貨物船(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・風鈴の音色が奏でる子守歌(ペンネーム「やっちゃん」さん)
・風鈴の影忘れたかトマホーク(ペンネーム「ワイ」さん)
・風鈴が濡れて駒指す海の家(ペンネーム「華みづき」さん)

選者詠:谷村秀格

・風鈴のほとりあかるき鬼の国

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年6月23日(金)

第55回 お題「海月」(選と評 谷村秀格先生)
総評

俳句は詩に含まれ、詩は「芸術」に含まれることは周知のとおり。

例えば、絵画において、人や犬が空をとんでいる絵や「抽象画」を見ても、誰も驚かない。
書道において、漢字や仮名のつづけ文字の作品・ひいては非文字性の「前衛書」などもあるが、何の不思議もない。
クラシック音楽においては、無調性で不協和音を多く用いた先進的な「現代音楽」もある。
彫刻においては、素材や空間を活かした幾何学的な「現代彫刻」が多数発表されている。
生け花においても、伝統的な形式によらない美を見出すものなども多い。
いろいろな芸術のジャンルでこのようなことはあたり前のことであるし、怪しむ人もいない。

しかし、俳句の空に人や犬を飛ばせたととたんに、ついてゆけない人がでるのはどうしたことか。
俳句道場過去入賞句においても、以下Aの句群なら分かるが、Bの句群になるとさっぱりという人が出るのはどうしたことか。

<A.~日常生活に置き換えられる句~>
「地球儀にとまる蛍や父帰る」(ペンネーム「角森」さん 49歳)
「塩焼きの鮎稜線に傾きぬ」(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
「廃校の庭の余白に花吹雪」(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
「春雨や左まわりの風見鶏」(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)

<B.~日常生活に置き換えられない句~>
「てんと虫長方形の海走る」(ペンネーム「雅」さん 54歳)
「宵闇に赤い浴衣を植えてゆく」(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
「蜆鳴く月深海に引き落とす」(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
「春雨や身体は3分の一魚」(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)

俳句以外の鑑賞者は、俳句の鑑賞者より大人ということか。
というよりも、芸術において大事なのは「素材そのものではなく表現」であり、「表現がどういう効果(イメージ)を上げているか」が大事ということを理解しているのである(以下(1)のような鑑賞プロセス)。
一方、作品についてゆけない人は、作品を日常生活・実体験と重ね見て、ありえるかありえないかというような判断をしている場合が多く、効果(イメージ)に無関心なのである(以下(2)のような鑑賞プロセス)。

(1)「作品 → ※イメージ → 作者の心 → 共感」
(2)「作品 → ※日常場面に置き換える → 共通体験 → 共感」

ここまで述べればお分かりのように、我々は「俳句の常識」を疑ってかからなければならない。
映像美・言葉美・出来事の良否で句の優劣が決まるのであれば、病床にいる人や国語の知識が少ない人・仕事が多忙で旅行などにあまりいけない人には良句が作れないことになってしまう。
芸術の世界においてそんなおかしな話はないのであって、大事なのは句で映像美や出来事の報告をすることではなく、一句にどのような効果(イメージの広がり・深度)をもたせるかなのである。
よって、コト句(出来事句)ではなく「モノ句・フレーズの変容(意外性)」なのである。

この度「大福ママさん 53才」が、入賞10回となり、一人目の俳句名人となった。
心からお祝いを申し上げます。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」から投句チャレンジください!

大賞

「南洋の軍靴届く水母かな」(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)

「南洋」は、日本の南の熱帯海域やあたりの島々の総称。
「軍靴」の辞書的な読みは「ぐんか」だが、そうすると音が足りないので、作者の意図としては「ぐんくつ」であろう。
正式な読み方ではないがよく読まれ伝わる響きであるし、こう読むほうが響きからいわゆる「くつ」そのものの形・イメージが明確に連想されて、句の「気分」もよく出ているようである。
「水母」は諸説あるが、死後は溶けて海に消えてゆくクラゲのイメージからきたもので、「海月」はクラゲの姿が月に似ているという見た目のイメージからきたものと言われている。
句は、遥か「南洋」から届いた「軍靴」と「水母」を重ね見た印象的な句である。
海軍で戦死したご先祖の遺品を思わせるしっかりとした形のある「軍靴」に幻想的な「水母(死後に溶けて海に消えてゆくクラゲのイメージ)」が重ね合わさることによって、句の背後にご先祖に思いをはせる作者の祈りのような心境が感じ取れてきて、共感を誘う。
南洋(空間的広がり」・水母(透明感)と、モノにしっかり託して詠んであるので、句の背後で、宇宙全体に広がってゆく「命のきらめき」のようなものも感じ取れてきて美しい。
「南洋・水母」は共に海のイメージで近くもあるが、この句の場合そこまで気にならない。
大賞おめでとうございます!
また入賞10回の初代「俳句名人」おめでとうございます!次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
映像を詠むのではなくモノを詠む。

入賞

「水母去る古き写真の裏の文字」
(ペンネーム「あや」さん 49歳)

切れのない句で、「水母」の写った「古い写真の裏の文字」を詠んだ句であろうか。
あるいは「去る」で切れた句で、「水母去る」と「古き写真の裏の文字」の対比の句であろうか。
前者であれば「水母」の存在が希薄なので、「水母」の存在感が打ち出された後者と解釈したい。
とすれば、「裏の文字」とあるから、大掃除か何かの拍子に見つかった、箱の中に重ねてまとめてしまわれていた写真を、作者が一枚一枚懐かしみつつ整理している時の句であろう。
撮影も作者ではなく両親や祖父母などがしたもので、写真裏に日時や場所などをメモしておいたものであろう。
句からは、過去の写真の表裏を眺めつつ、戻りたくても戻れない過去を懐かしむ作者の心境が感じとれてきて共感を誘う。
「水母(透明感)」というモノに託してあるので、思い出も透き通っていて美しい。
この句が特に面白いのは、「水母」がどこか「古き写真の裏の文字」の中に消えてゆくように感じられる非日常性。
これは、句を上から読み進めていったときに、「古き写真の裏の文字」の中に「水母が去る」と、ハネ返るような調子を与えているところに起因しているのだが、「水母」の神秘性ともあいまって幻想的である。
「去る・古き」というような直接的(言い過ぎ的)で熟していない表現にやや甘さがあるものの、実感をモノに託して上手くう詠みあげた一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
写真の中の水母と実在の水母ではパワーが違う。

「賛美歌の色澄みわたる海月かな」
(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

「色澄みわたる」のは「賛美歌」であり「海月」であろう。
「賛美歌の色澄みわたる」では、美しい旋律とともにいろいろなパートの声が重層的に流れてくる
様子がイメージされるし、「色澄み渡る海月」からは、現実の海を吸い込んで悠々と浮かぶ「海月」の気分がイメージされる。
この「色澄みわたる讃美歌」と「色澄みわたる海月」のイメージが実にうまくとけあった美しい句である。
この句のよさは「色」。
「色」があることで、単なる音の透明感のみならず「様々なパートのハーモニー」がリアルに感じられてくるし、単なる透き通った「海月」ではなく、眼前の海の「色」をまとった「海月」というものの実感がよく伝わってくる。
さらに言えば、聴覚を刺激する「讃美歌」のハーモニーと視覚を刺激する「海月」という対比もよく効いているし、空に広がる「讃美歌」と海をたゆたう「海月」という空・海の空間的なスケール感も見事である。
イメージの世界のスケールと調和の美しい宇宙流の一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
ディテールを詠み込む

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「宇宙人月夜に集う海月かな」
(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)

「夏期講習くらげは気持ち良さそうだ」
(ペンネーム「角森」さん 49歳)

「海月見て娘が騒ぐコラーゲン」
(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)

今回は、いかにもクラゲらしい句をご紹介。
一句目はクラゲのビジュアル、二句目はクラゲの様子、三句目は家庭でこのような会話ありませんでしたか??クラゲは美容にいいのでしょうか??

入選句

特選

・雨の夜次々落ちる海月かな(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→少々観念的なところと「雨・海月」と水つながりなところが惜しいが、独特の視点で詩を生み出そうとしている姿勢がよい。次回も挑戦を!

・手紙あけ笑顔ひろがる海月かな(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
→「海月」から連想されるイメージはすべて「海月」に託し、「海月」のイメージから大きく飛躍ところから詩にもっていこうとしたところがよい。なかなか気分の出た句である。この方向で!

・ジェット機の影透けていくくらげかな(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→空と海の対比、「ジェット機」の速さ・「くらげ」のゆるさの対比などがよく効いたスケール感と調和の感じられる宇宙流の一句である。この方向で。

・海月群れスクランブルの交差点(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→散文の世界から随分と韻文の世界に入ってこられ進展がみられる。「海月の群れ」と「交差点の様子」を重ね見た句であろうか。気分がよく出ている。この方向で。

・タンカーの底すり抜ける海月かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→応募句の中ではこの句がよいが、「タンカー・底」「タンカー・すり抜ける」「タンカー・海月」「すり抜ける・海月」とイメージの重なりが多く惜しい。その点を気をつけられたい。次回も挑戦を!

・海月浮く図書館通いの夏休み(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「海月・夏休み」と季重なりであるが特に気にならない面白い実感のよく出た句である。次回も挑戦を!

・落書きの解き放たれる夕海月(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→少々観念的で惜しい。落書きが何の落書きなのかが明確になったほうがリアルであろう。中七などは上手い。次回も挑戦を!

・海月浮き街へと帰る蟻の群れ(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→「海月・蟻」の季重なりも何のその。このまま読み取れば面白いので特選にしたが、「蟻」が子どもの比喩ととられやすく惜しい。そう解釈されるとやけに浅い句になる。比喩ではなく実際のモノを読むようにしたい。次回も挑戦を!

・老人の手の透きとほる海月かな(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→「老人の手・海月」の対比はオリジナルで面白い。しかし「透きとほる」がどうにも「海月」に対してあたりまえで惜しい。しっかりとモノに託す姿勢はよい。この方向でいい。

・胎内に安らぎあるや水くらげ(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→中七に主観が出すぎというか説明をしてしまって惜しいが、「胎内・水くらげ」はなかなかのキャスティングである。次回も挑戦を!

・放課後の浜に居残りくらげかな(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→海辺の学校の風景か。面白い句である。「居残り/くらげかな」「居残りくらげ」両方にとれる。次回も挑戦を!

・海月舞うポニーテールの少女かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→「舞う」が言い過ぎで惜しかった。単に「水海月」などのほうが象徴性が高まりそうである。この方「少女」を詠んだ句が多いが新しい境地にもチャレンジしてみてほしい。次回も挑戦を!

・夕映の乾きかけたる海月かな(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→「乾きかけたる海月」は安易なフレーズで惜しいが、「夕映・海月」はなかなかのキャスティング。モノに託して詠むようにしたい。次回も挑戦を!

入選A

・海月達傘を広げて泳ぎきる(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→この方はとにかく散文的なので、そこを如何に抜け出すかである。そこを研究してほしい。次回も挑戦を!

・死神の鎌輝けし海月かな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→応募句ではこれがよい。少々観念的なのが惜しいのであるが、気分はなかなかである。「鎌の輝く」などのほうが座りがよさそう。次回も挑戦を!

・百数え上がる湯船や海月の子(ペンネーム「菊池洋勝」さん 46歳)
→出来ゴトを詠んだコト句であり、おまけに比喩の句なのでパワーが弱い。実際のモノをしっかりと詠んだモノ句にもっていきたい。次回も挑戦を!

・待ちぼうけ波止場の海月数えおり(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→出来事を詠んだコト句であるのが惜しい。ただし気分がよくでているところはよい。次回も挑戦を!

・海月観るステンドグラスの落とす影(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→少々観念的なところが惜しいが、モノに託して実感をよもうとしている姿勢はよい。この方向で。

・前世を置き去りにする海月かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→これはコト句であり、演説している句である。上五中七の気分をを如何にモノに託すか。それが大事なのである。「沈みゆくクラゲ前世の記憶かな」くらいか。次回も挑戦を!

・大くらげ夕焼け空に深呼吸(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→これもコト句で惜しい。出来ゴトではなくモノに託して詠むようにしたい。気分はよく出ている。次回も挑戦を!

・沈む陽に身を任せたる海月かな(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→これも出来ゴトを読んたコト句で惜しい。中七のように直接言わず、「太陽の傾いてゆく海月かな」などモノに託して詠みたい。次回も挑戦を!

・海月てふプロジェクションマッピング(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→「プロジェクションマッピング」は、コンピュータで作成したCGを、建物などに対して映像を映し出す技術のこと。「海月」の存在感が希薄なところが惜しい。現代仮名遣いをお勧めしたい。次回も挑戦を!

・朝焼けや赤い海月が棚田喰う(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→「朝焼け」の比喩に「赤い海月」が使われており、「海月」の存在感が希薄で惜しい。全体的な気分はよい。次回も挑戦を!

・ゆらゆらと夜景に沈む海月かな(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→全体的につきすぎで惜しい。すべては「海月」に収斂されるので、再考したい。次回も挑戦を!

・鞆の浦月夜に浮かぶ海月かな(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
→中七が下五に対して平凡で惜しいが、「鞆の浦・海月」はなかなか情緒のあるキャスティングである。この方向で。

・潮満ちて入り江に浮かぶ海月かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→全体的に説明的で惜しい。すべて「海月」に収斂されそうである。次回も挑戦を!

・大空にパラシュート咲く海月かな(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→「パラシュートのようだ」という比喩にとられて惜しい。比喩のパラシュートと比喩のパラシュートでは存在感が全然違うのである。実際のモノの取り合わせとして句にしてみたい。次回も挑戦を!

入選B

・潮騒や浮き輪神輿に海月かな(ペンネーム「だいさん」さん 4歳)
・舞い踊るライトアップの海月かな(ペンネーム「ひなたろー。」さん 11歳)
・影多したゆたう海月糸もつれ(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
・波行きてゆらゆら揺れるくらげかな(ペンネーム「櫻井翔の恋人」さん 14歳)
・海探せはぐれた海月何度でも(ペンネーム「すずらん」さん 23歳)
・ありのまま何故か惹かれるクラゲ女子(ペンネーム「おいちゃん」さん 26歳)
・海月の輪ゆらりゆらめき万華鏡(ペンネーム「三姉妹の母」さん 37歳)
・子海月の廻る水槽映る我(ペンネーム「ペイ」さん 43歳)
・くらげさん何をか思い生きている(ペンネーム「わた」さん 44歳)
・見上げるとクラゲの襲来地を濡らす(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・もつれ合う海月とくらげ午後三時(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
・忖度や裸の王様海月達(ペンネーム「普通にありちゃんが好きっきー」さん 47歳)
・バーボンの朱の封蝋や海月浮く(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
・ふわふわとはしゃぐ海底海月かな(ペンネーム「かざき屋」さん 51歳)
・失恋のグラス歪める海月かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・今日一日海月になつてみたいです(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
・澄み渡る青空泳ぐ海月雲(ペンネーム「わさび」さん 55歳)
・くらげ見てどう生きようかたおやかに(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・見上げると 白い輝き水母星(ペンネーム「ぷぷぷの男」さん 60歳)
・海月浮く月よりの使者気取りてか(ペンネーム「安田 蝸牛」さん 60歳)
・三陸の原子力とめる水くらげ(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・瀬戸内にクラゲワクワク高気圧(ペンネーム「是多」さん 63歳)
・大群で海を漂うクラゲかな(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・さあおひるね海月入ベッド瑞風に(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・透明なタクトに合せ海月舞ふ(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・日の本や産まれし神代くらげなす(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
・水母乗りならす足跡幟消え(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・売られゆくうら淋しげな海月かな(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・水際の集う水母やフラダンス(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・泳ぐ子に海月教える電飾で(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・旅衣野川飛び越す干し海月(ペンネーム「呆人」さん 76歳)
・くらげ見て遠い昔を思い出す。(ペンネーム「ラーメン75杯」さん)
・くらげの世生き苦しげに直方体(ペンネーム「ワイ」さん)
・異邦人着く度海月フラ踊る(ペンネーム「華みづき」さん)
・幾万の海月浮かれる今宵月(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

選者詠:谷村秀格

・耳かきのまっすぐ沈むクラゲかな

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年6月16日(金)

第54回 お題「梅雨」(選と評 谷村秀格先生)
総評

パーリ仏典経蔵中部に収録されている第22経「蛇喩経」の中に「筏の譬え」がある。
これは、「対岸に渡るために筏はあるものであって、渡ってからも大事にとっておくようなものではない。同じように教えは真理の世界へゆくためのものあって、真理の世界へ行ったならば教えにさえも執着してはいけない。」というような内容である。
これはまさしく俳句であって、「筏」を「句の表面の言葉」、「対岸」を「イメージの世界」に置き換えてみればわかりやすい。
これは私の俳句の先生も言っていた「言葉がイメージを導き出すのであって、普通人々が思っているようにイメージが言葉を導くのではない」にも共通する考えである。

今回は新しい方の名前も多くみられとてもうれしかった。
ぜひ新しい習い事として「俳句道場」の「宇宙流の俳句観」をわが物としていただければと願います。
ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
何より習い事ですから、目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」から投句チャレンジください!

大賞

「梅の雨色を失う救急車」(ペンネーム「あや」さん 49歳)

諸説あるが、梅が実る頃の雨ということで「梅の雨・梅雨」というようになったという。
「色を失う」のは「梅の雨」か「救急車」か両方か、さまざまに解釈できるが、最大公約数としては、「色を失う」のは「救急車」であろう。
このような句において、「色を失う救急車などありえない」という方もおられようが、そうとらえればそこで鑑賞は終わりで、それ以上にこの句の背後にもぐれない。
俳句は国語の授業でも一般常識の講座でもなく「宇宙と一体となる術」なので、句の表面のモノゴトがあり得るありえない、分かる分からないではなく、まずは書かれたとおりに受け取り、「作者の心に映ったこと(句の背後)」を感じようとすることが大事である。
句は「色を失う救急車」に見られる心情表出が充分。
近所までやってきた救急車が、人を載せて、雨の向こうの病院に向かう様子、その不安定なざわざわした心情というものを、直接表現することなく、モノに託して伝えているのが上手い。
ふりつづく雨の音を聞きながら、広い室内で独りで救急車を眺めつづける作者、その心にぽっかりと穴の開いたような様子が見事に表現されており共感を誘う。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
固定概念にしばられない。ふと浮かんだ実感あるフレーズを大切にする。

入賞

「長梅雨に半分沈む角砂糖」
(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

まず「長梅雨に」とあるが、「長梅雨」は「長く続く梅雨」という時間性のイメージが強いので、ここは目をつぶっても「長梅雨や」と切りたい。
すると、「コーヒーか紅茶かのカップの中に角砂糖が沈んでゆく、長梅雨だな」という句になって、句の気分がよく出るであろう。
この句の見どころは、梅雨がつづくその退屈げな気分を、眼の前に沈んでゆく角砂糖に託して表現してあるところ。
沈んでゆくのは気分ではなくて、あくまで角砂糖なのであるが、普段なら気づかないような日常の一コマをありありと意識してしまうのは、長引く梅雨によって作者の行動が室内に制限されているから。
モノに託して梅雨の気分を上手く表出した一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句形式の大きな特徴は切れ。
俳句を散文的にする代表助詞は「に」。

「開演のベル階段の梅雨湿り」
(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)

実感の句である。
劇場か何かの開演真際、急いでいるにも関わらず、劇場の階段に湿りを意識したというのである。
古い劇場なのか、梅雨の雨を受けた人々がたくさん劇場に入場したので、階段のカーぺートが湿り気を帯びていたのかなど、読者の想像力を刺激する。
この句のよさ面白さは、急いでいるにもかかわらず、あくまで一歩引いた目線で、周囲を観察しているという余裕がかもし出す滑稽さ。
開演という一点だけに心が向くのではなく、常に心を広く構えているようなおおらかさが共感を誘う。
世の中を手玉にとっているような大きな一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
心情であれ、滑稽さであれ、実感をモノに託して表現すること。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「梅雨休み体力温存赤ヘルよ」
(ペンネーム「えみか大好き」さん 31歳)

「空梅雨に天も味方かカープ勝つ」
(ペンネーム「キートン」さん 69歳」さん)

「梅雨空に節句忘れの鯉のぼり」
(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)

今季も絶好調のカープ。梅雨だからとって勢いが衰えることを知らないですね。すごい!

入選句

特選

・独り身の肌を擽る梅雨豪雨(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→「独り見・豪雨」と少し言い過ぎなのであるが、なんとも言えない気分を中七が上手く表出している。そこが手柄である。

・かじか鳴く三段滝の梅雨晴れ間(ペンネーム「ペイ」さん 43歳)
→まずはこのような写生的な詠み方でいいのである。三段滝の気分がよくでている。この方向で。

・梅雨に入る中南米の爬虫類(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→少々強引に「梅雨の入り」と「爬虫類」をぶっつけたような荒さが少し惜しいが、日本と世界の対比、人間生活と自然界の調和、我々のしらない生命活動などのイメージの織りなす美が、重層的感じられ共感を誘う宇宙流の佳句です。この方向で。

・エムアールアイの穴入る梅雨寒し(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→「エムアールアイの穴入る」と「寒し」はどうもつきすぎなのであるが、モノに託して詠んでいるところと、無理に盛り込もうとしていないところがよい。伝統的な詠み方の人なので思っている以上に日常よりでつきすぎになりやすい点を留意されたい。その意味では「梅雨の蝶」くらいを入れてほしいものなのである。この方向で

・梅雨入りのICUの電子音(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
→「梅雨入りの」の「の」がどうも合わないので「梅雨入りや」と切りたい。日常を詠みつつもイメージされる世界には緊張感というか非日常性が出ていて上手い。気分のよく出た句でこの方向でよい。

・梅雨空に放りなげたるルアーかな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→今回は風景が日常でものたりないのが惜しいが、中七下五の軽く詠む感じはいかにも慣れてきて上手い。

・ベランダのシーツ船出す梅雨晴れ間(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→全体的にモノが多く整理されてない印象が惜しいが、晴れ間の気分をモノに託して詠んでいて上手い。このような実感ある世界の方向がよい。

・梅雨空に同化しているビルの群れ(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→風景がやや平凡だったのが惜しいが、措辞の斡旋になれてきて中七などさすがである。この方向で。

・知恵の輪のするりと抜けし走り梅雨(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→知恵の輪に対してするりと抜けるが意味の変容や飛躍がなく惜しいが、「走り」そのもののイメージを上手く生かした詠み方と軽さが上手い。この方向で。

・空梅雨や夾竹桃の雲の影(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→空梅雨・雲が共に空のイメージでつきすぎで惜しいがモノに託してカッチリと詠んであり好ましい。この方向で。

・梅雨入りやプール掃除の子らし吹く(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
→モノに託するというようりは、少々出来事を詠んでしまっているように感じるところが惜しいが、写生的な視点で無理なく詠んであるところがよい。まずはこの方向で取り組まれたい。

・梅の雨地球を廻す水車かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→地球が良くも悪くもである。スケール感はあるのであるがざっくり安易に詠みすぎている印象で今回は惜しい。しかし原則このような大胆。飛躍の方向でよいのである。

・母逝きて影折れちぢむ野辺の梅雨(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
→「野辺の梅雨」が少し伝わりにくいといういか中途半端なので、たとえば「梅雨の蝶」などとしたい。だが中七の気分表出は抜群、このような実感ある世界を期待したい。

・梅雨晴や吹奏楽部乗り込める(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→気分の良く出た句である。この方向で。

入選A

・また一人休む教室梅の雨(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
・空梅雨の太陽揺れるラムネ瓶(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
・荒梅雨やキャッチボールの重き音(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
・男梅雨また繰り返し涙かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・梅雨の月砂の靴流れ着くドア(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・梅雨晴れ間旋律ぶつかる合唱祭(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
・梅雨空や下から上に生える草(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・梅雨晴間ピアスの揺れる司書教諭(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
・梅雨月夜まだ帰り道続きけり(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
・梅雨晴れ間三枚見つけた五円玉(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
・バス待ちのスマホも濡らす梅雨の雨(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・にがき薬飲み干したるや梅雨寒し(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
・長梅雨や森羅万象しずみをり(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・梅雨夕焼妊婦は威風堂々と(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・梅雨空に傘一列の園児かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・梅雨の雲穴を穿ちて覗き見る(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・梅雨空やアラビア文字の小昼どき(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・梅雨晴れ間老いの言葉の擦れ違ひ(ペンネーム「藤後卓也」さん 81歳)

入選B

・梅雨の雨かみなり様のお中元(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・恋でもしてみようかね梅雨晴れ間(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・空梅雨に天も味方かカープ勝つ(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・ティーマーク移動させたい梅雨マーク(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・また成功梅雨前線操作法(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)
・けんかして空笑うなり青い梅雨(ペンネーム「スネイク」さん 13歳)
・二人きりこだまする音梅雨の傘(ペンネーム「おいちゃん」さん 26歳)
・梅雨入りを赤子抱えて追いかける(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
・降りしきる梅雨の休みに虹が差す(ペンネーム「三姉妹の母」さん 37歳)
・しとしとと雨降る日々だ楽しいな(ペンネーム「わた」さん 44歳)
・目覚めの演奏聞けず梅雨晴れか(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・梅雨空の見守る燕低く飛ぶ(ペンネーム「くろね」さん 50歳)
・梅雨晴れや耳を横切るデリバリー(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
・ドップラー効果の梅雨へ滑走路(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・梅雨寒に濡れ羽休めし月隠れ(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・正直に生きて爽やか梅雨の朝(ペンネーム「やんちゃん」さん 56歳)
・梅雨雲紅蓮に染める溶岩流(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・梅雨空に節句忘れの鯉のぼり(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・空梅雨にドライブ買い物軽快ダ(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・空梅雨で庭の飛び石熱中症(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・児はガリバア跨ぐ梅雨道インド洋(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・天仰ぎ梅雨の向こうを待ち焦がる(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・五月雨やダム満ち満ちて憂いなし(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・梅雨空やいがぐり一つ観覧車(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・梅雨になりゲコも喜ぶ季節かな。(ペンネーム「よもぎ」さん)
・梅雨の空ダイヤグラムの低飛行(ペンネーム「ワイ」さん)
・梅雨前に家の片づけ間に合わず(ペンネーム「若づくりさん」さん)

選者詠:谷村秀格

・蒔絵師の胸もつれあう梅雨の蝶

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年6月9日(金)

第53回 お題「蛍」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回の全体のレベルはなかなかのもの。
新しい方からのご応募もあり賑やかであった。
また皆さん頑張ってモノに託して詠もうとした跡がうかがえ頼もしかった。
モノに託すことで象徴性が高まり、句の背後(句からイメージされる世界)の詩情が豊かになるのである。
句の表面の17音の限られた世界でなんとか物を言うように「足し算引き算」で苦心するよりも、モノに託すること(掛け算)によって、17音に限定されない句の背後の豊かな宇宙に飛躍し、その豊かな詩情の中で心をのびのびたゆたわせてほしいものである。
そこが単なる俳句・昨日までの俳句と、「宇宙流俳句」との大きな違いである。

また表記についてであるが、わざわざ旧仮名づかいをされる方がいるが、現代仮名づかいをお勧めしたい。
私は、俳句の未来をしっかり見据えるならば、現在使われ、50年先100年先も使われるであろう表記を選択するのは、当たり前のことと思うからである。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただき、徐々に「宇宙流俳句」をわが物としていただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」からチャレンジください!

大賞

「地球儀にとまる蛍や父帰る」(ペンネーム「角森」さん 49歳)

窓辺に迷い込んできた蛍の光景だろうか。
この句の見どころは、「地球儀にとまった蛍」に、旅行か出張かに行った「父」の様子を重ね見ていたところ、その「父がふいに帰宅してきた」といううれしさ。
それをいちいち説明することなく、モノのキャスティングで伝えているところが上手い。
なかでも、世界を飛び回る「父親」のいつ戻るとも読みきれない不確定な様子を「地球儀にとまる蛍」に託した詠み方が面白い。
「蛍」の句というと、「亡くなった人・母親・悲しさ・はかなさ」などというのがステレオタイプであるが、実在の人物、そして「父親」という切り口から詩にもっていったところが見事である。
これも実感のなせるわざであろう。
また、小さな「蛍」と大きな「地球儀」の「大小の対比」もよく効いているし、「地球儀」だけに実際の大きさよりもさらに大きく感じられ、イメージの世界のスケールが大きい「宇宙流の一句」でもある。
大賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください!
<作句のポイント>
気持ちは直接表現しない。モノに託す。

入賞

「はつ蛍座敷を抜ける少女かな」
(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)

「はつ蛍」は今年初めて見る蛍のこと。
「はつ蛍」をみつけた「少女」が「座敷」から駆け出していったという句であろうか、あるいは「はつ蛍」のあとに軽い切れがあるとして、「はつ蛍」と「座敷を駆けまわる少女」の様子を重ね見た句であろうか。
いずれにしても「はつ蛍」と「座敷を抜ける少女」の初々しいイメージがつかずはなれずのよい関係にあり、イメージされてくる世界が幻想的で透明感があり美しい。
俳句において、句の表面の言葉で何かを言わなければ気が済まないという人たちには全くもって物足りない句であろうが、そもそも俳句はものをいう芸術ではなく、「感じてもらう芸術」なのである。
日常で非日常的を表現した好句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
非日常は句の表面ではなくイメージされる世界に置く。

「蛍火や方程式のもつれゆく」
(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)

夜の勉強部屋あたりの句であろうか。
「蛍火」の飛び回る様子と、「方程式」を解いてゆく様子を重ね見た句ととれる。
句の表面に書かれてあることは、上記のとおりであるが、俳句は書かれてあることそのものよりも、それがどういう効果を上げているか、そこからどんなイメージが膨らむ構造になっているかが圧倒的に大事である。
この句一枚めくると、それは恋の「方程式」のようであり、なんらかの人生の課題を詠み込んだ句のようにも読み取れる。
恋愛・人間関係、いずれにしても一筋縄ではいかない人生というものを「蛍火・方程式」に託して印象的に伝えてあり、共感を誘う。
少々モダンな言葉のチョイスが光った一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句にならない言葉はない。俳句にならない関係があるだけである。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「蛍火やオセロ楽しむスマホかな」
(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)

「夜遊びのピリオドとする蛍とす」
(ペンネーム「ワイ」さん)

「婚活でほたるの灯りで美女に見え」
(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)

最初の句は花より団子ならぬ「蛍よりスマホ」、現代を投影してますね。
次の句は「夜遊びやめる宣言の句」。
最後の句は、何と言ったらいいのやら。。。

入選句

特選

・夕蛍空回りする観覧車(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→夕景を詠んだものか。中七が少々中途半端で惜しいが、なかなかの取り合わせで気分がよく出ていて上手い。次回もこの方向で。

・蛍火に言葉の端がついてゆく(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
→面白い句である。少々観念的であるのが惜しい所であるが、実感が感じられてよい。次回も実感を大事に詠みたい。

・ほたる火の空すれ違う通学路(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→なかなか雰囲気のよい句なのであるが、私見では「通学路」は「朝から夕のあかるいイメージ」
でこの場合はイメージの世界のバランスが少しちぐはぐな感じである。モノに託して詠む方向はよいので次回もこの方向で。

・ほうたるや乗り遅れたる最終便(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→蛍を見すぎて乗り遅れたという句だろうか。少しコト句(出来事)寄りな印象であるところが惜しいので中七は再考したいが、気分はよく出ている。次回も挑戦を!

・蛍つまみに時間の水割り甘く(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→バーの風景が思い起こされる。ユニークであるが少し観念的なところが惜しい。次回は句の表面の言葉ではなく言葉からイメージされる世界の美で勝負したい。

・蛍火の飲み干してゆく大樹かな(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→「大樹が蛍火で燃えている」と言えば普通だが、「沢山の蛍火を一つの生き物としてとらえている」ところがよい。その瞬間を詠み込んだ実感の句である。「蛍・樹」と少しつきすぎなのが惜しいと言えば惜しいが、そこまでの傷ではない。この方向で。

・蛍火のひとつ抜けたる鏡かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→手鏡の裏あたりからひとつの蛍火がさまよい出る様子を詠んだ句であろうか。「蛍・鏡」すなわち「女性」というステレオタイプなところが惜しいが、モノに託して詠もうとしているところがよい。この方向で。

・蛍狩りとぷんと脈を打つ大河(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→大きな河での「蛍狩り」の様子の句だろうか。「蛍・河」がつきすぎで惜しいが、中七の詠み方が気分を上手く伝えている。この方向で。

・この蛍まことに父に似てをりぬ(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→一匹の蛍が目の前に来たとき詠んだ句であろう。亡くなった父親の様子を重ね見ているのか、蛍が点滅しつつ彷徨う様を自由な父親の生き様と重ね見ているのか。いずれにしてもそこまでのモノ悲しさはなく、ほとんど実感で出来上がっているところが面白い。ともすればこの方向は説明調・説教調・ことわざくずれ・心情吐露などにつながりやすいので、次回はモノに託して詠むことを強く心掛けたい。

・湯上りの髪に消えゆく夕蛍(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→温泉街などでの一句であろうか。ステレオタイプすなわち「蛍・女性」がよくありそうな設定で惜しいが、気分が良く出た句で美しい。次回はもう少しモノとモノの関係性に飛躍をもたらして詩情が広がげて詠んでみたい。

・蛍火や回転木馬置き去りに(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 69歳)
→地方の遊園地あたりの光景か心象風景か。モノのキャスティングがなかなか上手く気分がよく出ているが下五が安易に流れたのが惜しい。「回転木馬」は閉演すれば「置き去り」になるので当たり前なのである。次回はそのあたりを留意されたい。

・ユトリロの森とし吊るす蛍籠(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→「ユトリロの森・蛍籠」とキャスティングは最高なのであるが、「とし吊るす」ですべて台無しになった。「ユトリロの森」でないものを「ユトリロの森」にするのではなく、そもそも「ユトリロの森」に詩情を感じたのであるからそのまま詠みたい。また「籠」は「吊るす」ものであるからイメージの重複なので避けたい。「ユトリロの森まっすぐに蛍籠」など。次回も挑戦を!

入選A

・ほたる火のまぶたの裏の父の顔(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「ほたる火の」の「の」は軽い切れとしての「の」であろう。句の世界がよくあるパターンというかステレオ
タイプであるところが惜しいが、詠み方は上手い。この方向で。

・蛍狩ダイヤモンドを手の平に(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→「蛍」「ダイヤモンド」とどちらもキラキラしたものでイメージの重なりで惜しい。また中七下五が散文的で安易である。取りあわせならもっと飛躍したものを取り込みたい。次回も挑戦を!

・ほうたるや病室に浮く常夜灯(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→意味はよく分かるが「ほうたる・常夜灯」も光るものつながりでイメージの重なり。宇宙は広いのに「光」ばかりに心が向いて窮屈である。次回はもっとのびやかに世界をとらえるようにしたい。

・夜道行く蛍が導く滑走路(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
→「夜・蛍」、「蛍・滑走路」、がそれそれイメージの重なりで惜しい。イメージの重なりがあるとそれだけ意味は採りやすくなるが、表現される世界が眼前に限定されてきて心が窮屈なのである。次回はそういうところを留意されたい。

・手の中の光らぬ蛍の重みかな(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→「外を飛ぶ蛍(普通の光景)・手の中の蛍(句の光景)」、「光る蛍(普通の光景)・光らぬ蛍(句の方形)」、「軽さ(常識)・重み(句の感触)」と、工夫をされているのであるが、「手の中の→光らぬ蛍の→重み」と「→」の前後の「フレーズの変容(言葉の意外性)」が全くないので、平凡に陥ってしまっていて惜しい。次回は「フレーズの変容(言葉の意外性)」を気を付けてみたい。

・灯台の色うつりゆく蛍かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→最近宇宙流俳句をよく理解され力をつけてこられている方である。この句もモノにしっかり託されてあり心強い。惜しいのは「灯台・色・蛍」と、宇宙は広いのに光のイメージが重なってしまっているところ。次回はそのあたりを留意したい。

・蛍火や持て余したる缶ビール(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→蛍狩りの光景であろう。「蛍火・缶ビール」は少しイメージが近いが悪くないキャスティング。惜しいのは中七で種明かしをしてしまったこと。蛍火の傷の匂いや缶ビール」など。間違っても「缶ビール」も夏の季語だからいけないということではない。次回はそのあたりを留意されたい。

・ほうたるや流れに台詞奪われて(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→少し観念的であるが、何かを表現しようともがいておられるあり方がよい。後半やや観念的なので、次回はモノに託して詠むようにしたい。

・横たわる歴史に灯る蛍かな(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→「横たわる歴史」はモノというには不十分。「横たわる川の記憶や初蛍」など。次回はしっかりモノに託して詠みたい。

・四万十の夜空と見まがう群れほたる(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→「見まがう」と控えめに正直にいうのではなくて、「四万十の空りんりんと群れほたる」などそのまま表現した方がパワーが出そう。次回も挑戦を!

・故郷の花火打ち上げ蛍舞う(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
→「花火」との季重なりが惜しいのではなく「故郷・花火・蛍」と宇宙は広いのに「故郷」の眼前の出来事にとらわれているところが惜しいのである。次回はイメージが重ならないように留意したい。

・集まりて天に散りゆく蛍かな(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→すべて「蛍」に収斂される。つまり「蛍」のイメージを説明しただけの句で惜しい。次回はもっと飛躍したモノとモノの関係で詠みたい。

・蛍狩りヘッドライトにさらわれし(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→「蛍・ヘッドライト」と宇宙は広いのに光るところばかりに心が奪われていて窮屈で惜しい。次回はそこを攻めてほしい。

・せせらぎの川面に揺れる蛍かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→すべて「蛍」に収斂される。つまり「蛍」のイメージを説明しただけの句で惜しい。次回はもっと飛躍したモノとモノの関係で詠みたい。

・群青の深海泳ぐ蛍かな(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→全体的にかなりよいものの「深海→泳ぐ」ですべて台無しにしてしまった。ここがいかにも当たり前で「フレーズの変容(意外性)」がないのである。こういうところはとにかく眼をつむっても飛躍しなければいけない。「群青の深海むせぶ蛍かな」など。詩の深さの違いは一目瞭然であろう。次回は「フレーズの変容(意外性)」を心掛けたい。

・万葉の鼓動となりて蛍飛ぶ(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→上五中七がとにかく主観の出すぎでよくない。次回は観念ではなくモノに託して詠みたい。

・密会の噂流れる蛍狩り(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→意味は詠んだ通りであろう。言葉は美しいのであるがよくありそうな設定で惜しい。要は句の表面の美にこだわりすぎなのである。句の美は表面ではなくイメージされる世界に置くと心得たい。次回はそこを攻めてほしい。

・アルファ波描くほたるの一行詩(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
→いろいろ表現されているがすべて「ほたる」に収斂される。要は「ほたる」を「ほたる」らしく詠んだだけの句で惜しい。次回は「テーマ」と他のものを取りあわせるなど飛躍して詠み込みたい。

入選B

・洞窟へ蛍誘う宇宙旅行(ペンネーム「なしりんご」さん 31歳)
・蛍火に帰らぬ人の声求め(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
・蛍舞う淡い光に酔いしれん(ペンネーム「三姉妹の母」さん 37歳)
・水面舞う蛍がこちらと涼勧め(ペンネーム「つっくん」さん 38歳)
・蛍の夜昔話に引き込まれ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・清流に森の奥から蛍火が(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・蛍火を追いし愛子の声探す(ペンネーム「ペイ」さん 43歳)
・指し指の蛍の光の柔らかさ(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・ほうたるの命を包む深き皺(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
・月明かり偲ぶあの日よ蛍舞い(ペンネーム「ぺぴん」さん 49歳)
・公園のマリンバ奏者蛍の夜(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
・愛しきみほたるの光になりにけり(ペンネーム「こてつ」さん 55歳)
・竹ぼうきかつぎ唄いてほたる火や(ペンネーム「綾乃」さん 55歳)
・あっ蛍ぎゅっと手で返事する(ペンネーム「sora」さん 57歳)
・螢火が点いては消えてジグザグに(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・言霊の声か蛍のせせらぎか(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・川蛍打って灯せし竹箒(ペンネーム「あんこ」さん 64歳)
・ただ一人ホタルの乱舞所作稽古(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・温暖化愁ふ蛍の冷火かな(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・天仰ぐ北朝鮮の蛍かな(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・指触れて蛍火をつけ言葉消す(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・螢となりて添ひたき恋もあり(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・蛍火やオセロ楽しむスマホかな(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・亡親友蛍になりて飛んだ夜(ペンネーム「児玉恭子」さん 74歳)
・ほうたるの川面に作る北斗星(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・廿日の恋蛍合戦身を焦がす(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・ナイターや風船放つ蛍降る(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・婚活でほたるの灯りで美女に見え(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・夜遊びのピリオドとする蛍とす(ペンネーム「ワイ」さん)
・関ケ原と聞いて色めく蛍かな(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

選者詠:谷村秀格

・蛍籠月の引きずる護衛艦
・耳かきのしずかに沈む蛍籠

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年6月2日(金)

第52回 お題「浴衣」(選と評 谷村秀格先生)
総評

ある人たちは「俳句は季語を主役にすべきもの」と思っている。
俳句は、何かの組織図のように季語が主役で他のモノが脇役となるものではない。
モーツァルトの交響曲のように、寄せては返す大きな美の波の上にそれぞれのモノがたゆたっているようなあり方・イメージとしてとらえたい。

ある人たちは「季語=俳句」と思っている。
時代的な蓄積というものもあるが、少し考えればおわかりのように、季語は、歳時記に入った瞬間から、それがいきなりパワーや季節感をもち出すというものではない。
季語の問題は重要ではあるが、季語を過信・盲信する立場には賛成できない。

芭蕉は「ものの見えたる光(三冊子)」と述べているし、弘法大師・空海も「森羅万象はすべて大日如来である」という考えであるが、モノの本質に踏み込もうとせず、俳句にあるはずもない前提を与え、それを金科玉条のごとく「季語だ否だ、主だ従だ、キレイだ詩的だ」というあり方は、一瞥で宇宙をもとらえられることもできる奥深い俳句形式を狭く浅く囲う大衆路線の方向で感心できない。

俳句で大切なのは実感であって、季語であろうとなかろうと、また季語と他のモノの主従など意識せず、自然体でそのモノと一体となって詠みあげるということが大事である。
俳句はそもそも芸術なので、句の表面に書かれてある物事自体よりも、一句全体がどのような効果を上げているか、句の表現の「背後」に何があるかが圧倒的に大事なのである。

さて応募句であるが今回は全体的に低調。
特選も多くは採れなかった。
テーマが「浴衣」だけに、思い出などの目の前の出来事を詠んだコト句が多かった。
どのようなテーマであっても、目先の出来事にとらわれず、テーマから飛躍したイメージを取り込んで世界を大きくとらえたいものである。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
結果に喜ばれた方がっかりされた方いろいろでしょうが、目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただき、徐々に「宇宙流俳句」をわが物としていただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」からチャレンジください!

大賞

「宵闇に赤い浴衣を植えてゆく」(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)

この句を比喩(暗喩、~のごとき・ようだを使わないたとえ)として解釈するか、素直に書かれたままを読み取るかによって句の生命力は大きく異なる。
例えばこの句を暗喩(隠喩)として解釈すると、「何かの集いに子どもたちの赤い浴衣姿がだんだん増えてゆく様子を例えた句」となり、日常的な光景を少し印象的に詠んだだけの句で浅い。
一方この句を、書かれたまま受け取り解釈すると、「宵闇に真っ赤な血の色を纏った浴衣が何者かによって植えられてゆく様子」となり、女性の並々ならぬ情念、鬼気迫る心境のようなものを詠み込んだ句として圧倒される。
一般の読者のみならず多くの俳人においても、少し奇妙な非日常的な表現があると、上記のように何らかの日常を例えたもの(比喩)として安心したがる人は多いが、そもそも俳句にはそのようなルールや前提があるわけでもなく、まずはそのまま読み取るところからはじめたいし、そのほうが強い詩情が感じられることが多い。
この句も例外ではなく、直接解釈するすることで、モノの力が全面に打ち出された圧倒的な詩情磁場を放っている。
ちなみに「宵闇」は秋の季語でもあるが、そのような点を指摘するより、一句全体がこのように優れた効果を醸し出しているところを評価したい。
明るいイメージの「浴衣」の句が圧倒的に多い中、女性の深い生きざまのようなものを詠み上げた好句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
モノを「動かすこと(フレーズの変容・意外性」によって、モノの固定概念から解き放たれ、モノの本質に迫れる。
・赤い浴衣→植える など。

入賞

「初浴衣2つ並んだ桟敷席」
(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)

まず「2つ」と算用数字で書いているが、俳句は縦書きなので漢数字「二」としたい。
「桟敷席」は劇場などの観客席の左右に一段高く作られた板敷きの見物席。
「初浴衣2つ並んだ/桟敷席」と、ここに軽い切れがある句だろう。
作者が「初浴衣」のうちの一人なのか、作者が舞台あるいは他の観客席などから「桟敷席の初浴衣の二人」を見てる句なのか両方に解釈できるが、ここでは後者ととっておく。
時期や着こなしから「初浴衣」とわかるような女性二人組の様子が初々しい。
またその二人が上等な「桟敷席」に座っているというのであるが、「桟敷席」もはじめてなのであろうか、一段高く作られた席だけにまわりからの視線を感じてどこか落ち着かない印象である。
この句の見どころは、鮮やかで堂々とした印象の浴衣のデザインに比して、二人の着こなしが追い付いていないことや席に慣れないそわそわした様子の対比が、ある種のおかしさや俳味を醸し出して伝わってくること。
中七が「二人並んだ」なら圧倒的に平凡だし、「落ち着きのない」などでは直接的・説明的。
「2つ並んだ」と人をモノのように詠んでいるところが上手く、他の観客の中で二人だけが浮き上がっている様子がよく伝わる。
実感に従って「二人」ではなく「二つ」と表現したところが光った面白い句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
さりげないところに実感はあらわれる。

「瓶詰めの帆船空へ初浴衣」
(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

「瓶詰の帆船」は応接間などによく飾られる瓶の中の細工の施された船の飾り物のことで、「初浴衣」は今年初めて袖を通す浴衣のこと。
この句の見どころは、じっとして動かぬはずの「瓶詰めの帆船」が部屋を飛び出して「空へ」漕ぎだしてゆくという風景が、「今年初めて袖を通す浴衣」のウキウキわくわくとした気分をよく伝えているところ。
「初浴衣」の気分を直接語る(説明)することなく、しっかりとモノ(瓶詰めの帆船空へ)に託して伝えることで、「ウキウキ・ワクワク」など直接的な気分の説明だけではカバーしきれない「透明感・空間的広がり・のびやかさ」などの豊かなイメージを引っ張ってきて、読者の想像力を重層的に刺激して楽しませているところが上手い。
この句、「瓶詰めの帆船空へ」この表現を「瓶詰めの帆船が空へ漕ぎだしてゆく『ような』」と比喩的に捉える人や俳人が圧倒的に多いであろうが、比喩(たとえ)と捉えるといかにも浅い。
そもそも俳句は書かれてある通り受け取ればいいものであるし、「ように」などとも書かれていないわけであるから、実際の風景であろうと心象風景であろうと、とにかく「作者の心に映った風景」として感じることが肝要である。
そうすることで、このようにその心境や背景のようなものがあぶりだされてくるのである。
しいて言えば、部分的に「空」が「帆」に対して、同じようなイメージ・月並み・安易な表現ともいえるところが難ではあるが、大事なことは全体的のバランスであり、そこまでの傷ではなかろう。
気分をモノに托して詠みあげたのびやかな宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください!
<作句のポイント>
気分は直接表現しない。モノに托す。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「ホームスティ初ゆかた下駄お買物」
(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

「汗落ちる砂漠で出会う浴衣人」
(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)

「浴衣から世界の足が顔を出す」
(ペンネーム「角森」さん 49歳)

今回は「グローバル」な三句をご紹介。
外国からの留学生や観光客の方など、日本の夏を浴衣で楽しまれる方も多いですね。

入選句

特選

・太鼓の音浴衣の足に宿る海(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
→祭りの風景だろうか。後半に作者の何らかの実感が表れていること。モノに託して句を詠もうとしているところがよい。しかし役者(モノ)が多くポイントが絞られていないところが惜しい。作者の意図ではなく句の中の素材(モノ)を活かして詠み直したい。「くるぶしに海からみつく浴衣かな」など。次回も挑戦を!

・浴衣の子するりと抜ける単語帳(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→電車内での光景であろうか。美しい浴衣の子を見て、単語帳が手を滑ったという感じの句である。出来事寄りなところが惜しいが、役者(モノ)のキャスティングはなかなかなのでモノに即して素直に詠み直したい。「単語帳抜け出してゆく浴衣かな」など。次回も挑戦を!

・昨日来し海の青さや湯帷子(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→「湯帷子」は岩盤浴やサウナなどに着て入る印象もあるので、いわゆる「浴衣」のイメージとは少し違う。たぶん「や」で切ったので「浴衣かな」とすると切れ字が二つになるところを気にされたのであろう。しかしてこの句の場合はやはり「浴衣」でなければ詩にならない。また「海→青」はフレーズの変容にさすがに乏しいので、「昨日来し海の深さや初浴衣」などでは。次回も挑戦を!

・遠ざかる祭囃子や浴衣干す(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→終わってゆく祭りの気分の良く出た句である。しかして上五中七に対して「浴衣干す」ではいかにもつきすぎである。こういうときこそ「遠ざかる祭囃子や初浴衣」など、「終・初」と対比を聞かせて詩にしたい。読者は「作者の経験や事実を知りたいのではなく、感じたい」のである。経験や事実を正しく詠むことよりも詩情のわくように舵を切りたい。次回も挑戦を

・遠き帆にふれるガラスや初浴衣(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→ここ最近「宇宙流俳句」をどんどん吸収してきている方である。この句もどことなくはかなげな少女の恋のようなものを詠み込んでいるようで気分がよく出ている。惜しいのは「ガラス」。この句の場合抽象的でイメージが湧きづらい。素材はいいので「初浴衣窓につめたき白帆かな」など詠み直したい。次回も挑戦を!

・欄干の錆剥がれゆく色浴衣(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→この方もしっかりとモノに託して詠もうとしている方であるが「色浴衣」がどうも惜しい。「色浴衣」とすると「色浴衣」でサビがはがれた」など理屈っぽくなる感じられてくるのである。なのでさらりと「浴衣かな」としたい。このほうが様々にイメージが膨らみそうである。次回も挑戦を!

・初浴衣青空区切るガードレール(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→応募句のなかではこの句がよいが、「初浴衣」と「青空区切るガードレール」のキャスティングがどうも中途半端でイメージが湧かず惜しい。なので少々素材(モノ)を代えて「空軋む海岸線や初浴衣」あたりで気分を出したい。またご質問の「観念的・作為的」の件であるが、句に込めた思いからではなく、句そのものからそう感じるのである。また読者は作者の実体験を短い音数で正しく伝えてほしいのでも、気持ちを正しく語ってほしいのでもなく、感じさせてほしいものなのである。俳句に行き詰まっておられるようであるが俳句はそれくらい深い。俳句は言葉の世界でも季語の世界でもない。無意識からの実感が命である。次回も挑戦を!

・電車待つ浴衣の君や風白し(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→大変気分の出た句でこれでよい。惜しいのはやはり風景が平凡なところ。次回も挑戦を!

入選A

・つないだ手歩幅狭まる浴衣かな(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
→いかにも見なれた光景なところが惜しいが、気分はよく出ている。次回も挑戦を!

・握った手胸の鼓動と浴衣姿(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
→「中七」がモノに託せるようになるといい。少し作為的だが「手を握る手の影うすき浴衣かな」など。次回も挑戦を!

・雨後の街浴衣の姉妹伸びる影(ペンネーム「なしりんご」さん 31歳)
→もう少しすっきりさせたい。入賞句など参考に俳句のリズムに慣れていただけたらと願う。「妹の影ののびゆく浴衣かな」「妹の浴衣の影や雨後の街」など。モノに託して詠もうという姿勢はよい。次回も挑戦を!

・藍浴衣見上げる君は頬を染め(ペンネーム「やよ」さん 34歳)
→「浴衣・君・頬」はイメージが近すぎで惜しい。宇宙は広いのに君周辺のことばかりに心が向いているのである。目先の出来事にとらわれるとどうしてもこうなるので、飛躍したモノとモノのキャスティングで宇宙を広くつかんで心を大きく構えて詩にしたい。なかなか気分は出ている。次回も挑戦を!

・伸びきった影を掠める花浴衣(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「伸びきった影」と「花浴衣」の関係がイメージが湧きづらく惜しい。「影・浴衣」とモノから句にもっていこうとする姿勢は大変よい。次回も挑戦を!

・艶浴衣カランコロンと夏の音(ペンネーム「とっちん」さん 38歳)
→宇宙は広いのに、「浴衣・夏・下駄の音」とすべて「浴衣」の守備範囲のモノのキャスティングで惜しい。句のリズムはよい。次回も挑戦を!

・白浴衣備長炭の赤き胴(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「白・赤」と作為的で惜しい。また「浴衣・備長炭」ではどうも今ひとつイメージが湧かない。モノに託して詠もうとする姿勢はよい。次回も挑戦を!

・喧騒の帯を解いて旅ゆかた(ペンネーム「ぺいちゃん」さん 43歳)
→「旅・浴衣・帯」はすべて、すべて「浴衣」の守備範囲のモノのキャスティングで惜しい。旅の雰囲気はよく出ている。次回も挑戦を!

・Tシャツの色を通すや宿浴衣(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→入賞経験者で記憶しているが、どうも伝統的な俳句観にすっぽりはまっているようである。それは否定しないが、出来事をなぞったような世界に安住するのではなく、モノの本質をとらえる方法に進まなければならない。これは伝統派であろうとなかろうと大事なことである。句は「Tシャツ・浴衣」「浴衣・宿」などと平凡月並み。このような浅い句の世界に満足せず、そこを突き抜けてほしいのである。過去の皆さんの入賞句や評を参考にされたい。次回も挑戦を!

・JKの手足は長し初浴衣(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→「JK」は女子高生の略称。このような言葉を論じるときこれはきちんとした日本語でないからだめだとか省略だからだめだという言い方がなされるが関係ない。大事なことは一句全体が詩として成立しているかどうかである。この句の場合なかなかのものであるが、「手足が長い」が出来事・説明調でおしい。説明ではなく感じさせるようにどう詠むか。「JKの手足昏れだす初浴衣」など。次回も挑戦を!

・つまづいた浴衣の君は人魚姫(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→入賞句に「比喩うんぬん」と書いたが、このように出来事を散文的に説明するとどうやっても「比喩」にとられる。すると「人を人魚にたとえただけの句」ということになり浅くなる。そうかと言って素材から詠み直そうとしても「人魚・浴衣」は女性的でイメージが近い。よって素材からの再考が必要になる。次回も挑戦を!

・藍浴衣萵苣のかたちのイヤリング(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→宇宙は広いのに目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しいのである。「浴衣・イヤリング」は眼の前の女性のこと。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。モノに託す方向はよい。次回も挑戦を!

・熱気球さらに弾める浴衣かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→こういう句を詠むと俳句は難しいなと思ってしまう。「気球・浴衣」のキャスティングはそこまで悪くなさそうであるが、「気球→弾む」は安易であり、「弾む」「浴衣」で、うれしい気分がすぐに読み取れて浅く惜しい。つまりフレーズ変容・意外性に乏しいのである。読者は作者がうれしかろうと悲しかろうとどちらでもよく、ただ句からイメージされる世界の深さを感じたいだけなので、気分が正しく伝わることにとらわれないことである。「熱気球着崩れてゆく浴衣かな」など。なんらかのムードを出したい。次回も挑戦を!

・宮太鼓音色香れる花浴衣(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→「音色香れる」がやや手柄であるが少し安易な表現でもある。素材はなかなかなので素材を活かして「少年の浴衣の袖や宮太鼓」「藍浴衣しんしんたまる宮太鼓」などとしてみたい。次回も挑戦を!

・老犬もちらっと見やる浴衣かな(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→全体的に平凡な風景で惜しい。宇宙は広いので目の前の風景ばかりでなく大きく取り込みたい。次回も挑戦を!

・浴衣着て団扇静かに夕端居(ペンネーム「安田 蝸牛」さん 60歳)
→全体的に「浴衣・団扇・夕端居」と季重なりというより、全体がありふれた風景で惜しい。すべて「夏の夕」に収斂される。宇宙は広いので目の前の出来事ばかりにとらわれずそこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。次回も挑戦を!

・藍浴衣灯下にはずむ片ピアス(ペンネーム「M」さん 66歳)
→宇宙は広いのに目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しい。「浴衣・ピアス」はすべて眼の前の女性のこと。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。次回も挑戦を!

・ビルの谷一鉢の花初浴衣(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→モノを並べただけの「タダモノ句」で惜しい。出来ゴトをモノを並べて伝えてあるだけで、モノの本質を詠む「モノ句」とは違う。いずれにしても句の焦点を整理したい。「ビル街の花鉢並ぶ初浴衣」など。こうすると「並ぶ」のが「花鉢」とも「浴衣」ともとれ少し気分が出そう。次回も挑戦を!

・老若のツアーガイドや藍浴衣(ペンネーム「夏みかん」さん 68歳)
→上五が一番いいたい事なのであろうが、俳句は言いたい事を盛り込もうとすると失敗してしまう。大事なことは事実を伝えることではなく、感じてもらえるかどうか。読者は事実かどうかを知りたいのではなく感じたいのである。「藍浴衣ツアーガイドのすきとおる」など。次回も挑戦を!

・湯煙に揺れる浴衣や結ひの宿(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→宇宙は広いのに「湯煙・宿・浴衣」と目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しい。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。次回も挑戦を!

・とうかさん色とりどりの浴衣かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→宇宙は広いのに「とうかさん・浴衣」と目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しい。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。次回も挑戦を!

・ビル風にふわり流れる藍浴衣(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「風」→「ふわり流れる」がフレーズの変容(意外性)がなく惜しいのである。そこを攻めてほしい。ムードはある。次回も挑戦を!

・浴衣着て路地裏駆ける少女かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→なかなかの句であるが、全体的に風景が平凡月並みで惜しい。宇宙は広いので目の前の出来事ばかりにとらわれず、そこから離れたモノを取り込んでのびやかにしたい。次回も挑戦を!

・十若く選ぶ浴衣や旅の宿(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→宇宙は広いのにすべて「宿」という目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しい。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。次回も挑戦を!

・夕映えに座す母の影藍浴衣(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→宇宙は広いのにすべて「縁側」という目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しい。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。ムードはある。次回も挑戦を!

・パリひんやり浴衣持参のホテルの灯(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→宇宙は広いのにすべて「ホテル」という目の前の出来事ばかりにとらわれていて惜しい。そこから離れたモノを取り込んでのびやかな句にしたい。パリなど目のつけどころはよい。次回も挑戦を!

入選B

・大花火浴衣も活きる涼しき夜(ペンネーム「かな」さん 21歳)
・天にドドン地にカラコロの浴衣星(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・母親の思い出着る浴衣かな(ペンネーム「マコたんビーム」さん 36歳)
・今年こそ、浴衣でいくよ、とうかさん(ペンネーム「青い鳥」さん 38歳)
・初浴衣疑問の答え宇宙に聞く(ペンネーム「伊藤亮太」さん 40歳)
・初夏の頃浴衣涼しげ 前向きに(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・習いたい着付け教室なかなかだ(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・浴衣から地面の中の抗夫達(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・外仕事道行く浴衣涼感じ(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・少女らの野望煽るや初浴衣(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
・下駄の音待ちわびていたゆかたさん(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)
・朝顔を浴衣に咲かせ初デート(ペンネーム「やんちゃん」さん 55歳)
・つなぐ手の浴衣の君の袖震え(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・流れ星そっとyの字藍浴衣(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・浴衣着て、バンジージャンプで、一等賞(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・夜祭に夢見る浴衣月笑う(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・スタジアム浴衣の孫も天高く(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・浴衣姿うなじに感ず女の色気(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・手をとって浴衣と帯と下駄にタップ(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・鯉祭り赤い浴衣でとうかさん(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・マグマ噴く地球が揺らぐ跳浴衣(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・ふりむけば目を引く浴衣と鮠の群れ(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・初浴衣駅舎のアート変わる街(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・浴衣の娘うちわ持つ手やピアス揺れ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・居酒屋浴衣姿で大サービス(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・びんづけの香りほのかに浴衣かな(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・縁日で浴衣のすそへ五月雨(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・母縫いしなつかし浴衣でとうかさん(ペンネーム「すずらん」さん)
・浴衣の日張り子の虎の花かんざし(ペンネーム「ワイ」さん)
・酔ひ心地糊付け浴衣に団扇風(ペンネーム「中川妙子」さん)

選者詠:谷村秀格

・すれ違う浴衣や星のうらおもて

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年5月26日(金)

第51回 お題「鮎」(選と評 谷村秀格先生)
総評

俳句には、物・対象を詠む「モノ句」と、出来事を詠む「コト句」がある。
しかし、「モノ句」「コト句」といっても厳密にはいろいろある。
例示してみるとだいたい以下のようになる。

<モノ句>
◎タダモノ(写真的)句
→モノを並べただけの句で、感動の理由や意図も不明な句。
◎客観写生の句
→見かけはモノ句で映像的だが、感動の理由づけが可能な句。
★無意識世界(命にこだわる・宇宙と一体)の句
→感動の理由づけが困難(説明しづらい)な句。

<コト句>
◎タダゴト(月並み・日常的)句
→単なる出来事を詠んだ句。感動の理由や意図も不明な句。
◎理屈(意識的な言語操作)の句
→頭で作った句・説明的な句・ことわざのような句。感動の理由づけが可能な句。
◎私意(多くは短歌的詠法・心情吐露)の句
→安易な倒置・リフレイン・命令調の句。寸詰まり・舌足らずな感動表現の句。
◎個性(私にこだわる世界)の句
→人間探求派や現代俳句の多く。存在・情念を押し出したような句。

「宇宙流俳句」は「モノ句」を追求する俳句観で、中でも「★無意識世界の句」に至らんとするのを目指す俳句観である。
しかして「★無意識世界の句」は、なかなか難しい境地である。
皆さんにおかれては、まずは以下の3か条を気にかけていただければと願う。

<モノ句への道3か条>
・「出来事(シナリオ)」を書かない(句中の素材を元にモノ句へひねり直す)こと。
・「モノ(テーマ)とモノのキャスティング」を心掛けること。
・「モノを動かす(フレーズの変容・意外性)」を大切にすること。

さて応募句であるが、今回は全体的に低調な一方、入賞句は圧倒的にレベルが高く驚いた。
また新しい参加者も見られうれしかった。
特選以下は、宇宙は広いのに「鮎」のイメージ周辺ばかりを詠んでいるものが多く残念であった。
野球のグラウンドを宇宙とすると、「鮎」が一塁なら、一塁あたりにばかりにモノを集めず、レフトやセンターにもモノを配置し宇宙を広く取り込みたい。

ご投句いただいた皆様どうもありがとうございます。
結果に喜ばれた方がっかりされた方いろいろでしょうが、目先の結果に一喜一憂することなく、毎週の学びの機会を楽しんでいただき、徐々に「宇宙流俳句」をわが物としていただければ幸いです。
お一人5句程度まで、どなた様もまずは気軽に「テレビ派ホームページ」からチャレンジください!

大賞

「少年の二つの空や鮎の影」(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)

今回の入賞二句が「写生」を切り口にしているのに対して、この句は「言葉(フレーズの変容・意外性)」を切り口にした句であり、私の立場にも近い。
俳句は芸術なので、表面に書かれてある物事自体よりも、句がどのような効果を上げているか、句の「背後」に何があるかが圧倒的に大事なのであるが、この句はそれを見事に具現している。
まず、「少年の二つの空」が意外性の主たる箇所であるが、多感な少年期、その夢と迷いのようなものを「二つの空」というモノに託して上手く象徴している。
そして、実像を仮象を漂うような「鮎の影」の存在が、それを慣れたキャッチャーのように絶妙に受け止めている。
一句が全体が姿を表したとき、思春期に向かって自我を模索してゆく少年特有の夢と悩みにみちた複雑な内面が過不足なく伝わってきて共感を覚える。
さらに「二つの空」と「一つの川」、「明るい空」と「影ある川」という風に、対比も絶妙に効き、空間のスケールの大きい宇宙流の一句でもある。
しかして、句の表面ばかりにとらわれてイメージの湧かない方には、「蝶々トンボも鳥のうち」なのだろうなと同情を申し上げる次第。
モノに托して心情表出が見事になされた素晴らしい句です。
大賞おめでとうございます!次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
夢・希望・愛・恋・迷いなどは直接表現しない。
モノのキャスティングで表現する。

入賞

「鮎跳ねてペダル踏み込む女学生」
(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)

「鮎」の元気よく跳ねる様子と、下校途中と思われる自転車に乗った「女学生」の様子を重ね見た句で、とてもよく気分が出ている。
この句の見どころは、一匹の「鮎が跳ねる」ところを目撃し、それに触発されて「ペダルを踏み込んだ」ところに強く感じられる「心境の変化」。
落ち込んでいた気分が、「鮎(自然)」の跳ねる様子に触発されて吹き飛んだ、という「作者の実感(陰から陽への気分の変化)」をしっかり「モノ(鮎・女学生)」を通して詠みあげているところが上手い。
しいて言えば、「~て~する」という言い方がやや説明的であるが、この句の場合そこまの傷ではない。
「鮎(水中)」と「女学生(地上)」という二大空間を上手く取り込んだ宇宙流の一句でもあります。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
気持ちは直接詠まない。
コト句になるようなら写生に徹してみる。

「塩焼きの鮎稜線に傾きぬ」
(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)

アユを釣って、夕方あたりに焼いて食べているときの句だろうか。
「塩焼きの鮎」が焼けてゆくにしたがって皮が縮み、向こうの山の稜線の方向にグーと反っていった」という句である。
この句の見どころは、「塩焼きの鮎」が焼きあがる待ち遠しさと、「稜線に傾きぬ」に象徴される一日の深い感慨のようなものを「モノに託して」上手く詠みあげているところ。
目の前の鮎の近景から、実にナチュラルに山々の遠景へと視線が移動し、ひいてはそのまま雄大なる大自然(宇宙)に溶けてゆくようなのびやかな心境が感じ取れてきて、共感を誘う。
いわゆる平面的なカメラ的な映像とも違い、そうかといってビデオ的な映像でもない。
優れた観察眼と実感からモノの本質に迫った写生句の見本のような句で、雄大な宇宙流の一句でもある。
「鮎の反り」と「稜線の形」が相似形なところも、つかず離れずの心地よい印象を与えている。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>。
「待ち遠しい・感慨」などの気持ちは直接詠まない。
また写生の本質は映像ではない、モノの本質に迫ることである。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「青空をほめて始まる囮鮎」
(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)

「年一度鮎と共に叔父が来る」
(ペンネーム「なる58」さん 46歳)

「ハーモニカ奏でるように香魚食む」
(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

今回は「鮎あるある」の三句をご紹介。
どれも、これからの時期ありそうな光景で、ほほえましいですね。
偶然ですが、この三句を順番に詠んでみると、まず空をほめて釣りをし、釣れた鮎を親戚に配り、おいしくムシャムシャ食べられてたという一連の話のようにもなってますね。
みなさんはもう鮎たべられましたか。

入選句

特選

・過去形の写真の匂い年魚かな(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→なかなかの句だが、詠み方が全体的に熟しておらず惜しい。「匂い」だどそこで切れてしまう感じで句がまとまらないので「匂う」としたい。「過去形の写真」も少しイメージが湧きづらい。次回も挑戦を!

・のぼり鮎空とび上がる野外フェス(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→気分の出た句で楽しい様子がよく伝わる。「とび上がる」は「鮎・フェス」の両方の素材に対して生に近いストレートすぎる表現なので少し意外性に欠ける印象で推敲の余地がありそう。この方向で。次回も挑戦を!

・鮎釣りや雲なき空の戦闘機(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→なかなか意味深で面白い。自然と人間社会の対比が効いている。この方向で。次回も挑戦を!

・若鮎や北アルプスの絹の道(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「若鮎」は春で「鮎」は夏になるが大事なことはテーマを詩にすることである。「アルプス」「絹の道」はイメージの兄弟喧嘩になるのでどちらかを引っ込めたい。モノに託そうとする姿勢はよい。この句の方向で。次回も挑戦を!

・鮎釣りやビルの引きたる白い雲(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→今回はどうも不調。考えすぎのようである。応募句の中ではこれがよいがどうも平凡。中七が「ビルの引き込む」などのほうが自然な印象。丁寧な感想を感謝。次回も挑戦を!

・鮎釣りの傍で口開く鍾乳洞(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「傍で口開く鍾乳洞」はすべて「鍾乳洞」に収斂される印象で惜しい。要は「鮎釣りの風景を説明したコト句」なのである。そこを攻めてほしい。次回も挑戦を!

・三日月のかけらを競う香魚かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→どうも観念的で作り物っぽく惜しい。句は言葉そのものの美を表現する世界ではなく、イメージされる世界に美を置くものなのである。ここから素材を活かして再考したい。「三日月の磨かれている香魚かな」など。次回も挑戦を!

・鮎骨や夕闇背負う渡月橋(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→どうも頭でこしらえていて実感に乏しい。「骨・闇・背・月」とイメージが重なっている印象である。俳句らしく詠もうとせず自分らしく詠んでみる。その先に無意識の世界が待っている。次回も挑戦を!

・恋文を書くやうに夫鮎を食ぶ(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→旧仮名を使わないことをお勧めしたい。俳句を愛しその将来を考えるなら、表記は現在使われ、これからも使われるであろう表記を選択することである。句は独特の比喩がひきつけて上手い。次回も挑戦を!

・鮎跳ねて風山空の動きけり(ペンネーム「呉子」さん 66歳)
→この方は頭(理屈・テクニック)で句を作っているのが惜しい。「~して~する」、「風山空」と意図的に並べたところなどにそれを感じる。基本的には詩心ある方なのだが、そのようなところにこだわると俳句を狭く囲う方向へ向かうので惜しいのである。そこを攻めていただければと願う。次回も挑戦を!

・家系図のツール訪ねる香魚かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→呼吸をするように句を作り、そのまま応募するところが惜しい。自分で五句にしぼること。前にものべたが他人に見せる前に自分で選ぶことも勉強なのである。この句は中七が生な表現で熟していないのが惜しいが、「家系図・香魚」はよいキャスティングである。次回も挑戦を!

・若鮎やジャングルジムに陣を取り(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→かなり感じの出た句である。「若鮎」「ジャングルジム」のキャスティングがいい。それに比してジャングルジムに」→「陣をとり」が平凡な表現で惜しかった。「をてなづける」などフレーズの変容(意外性)を出したい。この方向で!

入選A

・風かける笑顔の中の焼き鮎や(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
→韻文(調べ)になれること、盛り込みすぎないことである。「焼き鮎のかけぬけてゆく風のいろ」くらいか。次回も挑戦を!

・風はらみかみに舵切る鮎の群れ(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→「風・鮎の群れ」はよい。中七が熟し切れていないところが惜しい。何かを言おとせず素材を活かして軽く詠みたい。「鮎の群れ風のかたちの小舟かな」など。次回も挑戦を!

・鮎食べて口もと緩むめおとかな(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→出来事を詠んだ句で惜しい。意味は通るがそれまででそれ以上にイメージが膨らまないのである。モノに託して詠むようにしたい。次回も挑戦を!

・鮎を釣る川の名前をすぐ忘れ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→出来事を詠んだ句で惜しい。「すぐ忘れ」は余韻ではなく舌足らずな表現で惜しいのである。短歌の上の句のような句で、下に「地図をふただび開く父かな」などが省略されているような詠み方なのである。俳句は出来事の省略(引き算)ではなくモノのキャスティング(掛け算)ととらえていただきたく願う。次回も挑戦を!

・帆を待ちて垂らす竿先走る鮎(ペンネーム「ぺいちゃん」さん 43歳)
→初めての方であろうか。気分は出ている。少し盛り込みすぎなのでもう少し役者(モノ)を整理したほうがポイントが絞られてよさそうである。まずはモノのキャスティングに徹してみられることである。次回も挑戦を!

・鮎光る君ただ前見て前を見て(ペンネーム「ぎゅうちゃん」さん 44歳)
→初めての方であろうか。これくらい読めればいいであろう。気持ちはよくわかる。ただし俳句はモノのキャスティングなので、出来事や言いたい事を「伝える」のではなく、モノをデンと据えてイメージさせる「感じさせる」ことが大事なのである。今回や過去の入賞句が参考になろう。次回も挑戦を!

・頭から鮎食らう子ら背に琵琶湖(ペンネーム「はまのはの」さん 47歳)
→「琵琶湖背に子ら鮎を喰う真昼かな」など逆から詠んでリズムを整えたい。韻文(調べ)に慣れることである。今回や過去の入賞句が参考になろう。まずはこの方向で。次回も挑戦を!

・鮎好きの友よりポツとメールあり(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→「メールがあった」という出来事の句で惜しい。ここから素材を活かして句にしてゆきたい。「Eメール飛び交っている鮎のヒレ」など。次回も挑戦を!

・廃線に寄り添う流れにあゆ遊ぶ(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→出来事の句で惜しい。ここから素材を活かして句にしてゆきたい。「廃線に寄り添う川や鮎の群れ」など。次回も挑戦を!

・鈍色のマネークリップ跳ねる鮎(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→全体的に切れぎれで熟してない表現で惜しい。この場合素材から再考したい。次回も挑戦を!

・焼き串に貫かれてなほ鮎躍る(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→元気のよさがよく伝わるが出来事の句で惜しい。「焼き串のつらぬいている鮎の川」など。大胆に象徴的に詠みたい。また表記は現在使われ、これからも使われるであろう表記を選択することをお勧めしたい。 次回も挑戦を!

・黄金を腹に蓄え鮎逃げる(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→出来ゴトの句で惜しい。ここから素材を活かして句にしてゆきたい。「黄金の腹見せたる香魚かな」など。次回も挑戦を!

・鮎解禁川の流れの荒々し(ペンネーム「ハラペコ」さん 57歳)
→「荒々し」になかなか実感が出ている。少し句の世界が平凡なのが惜しいがこの方向で。次回も挑戦を!

・キラリ銀の川面に鮎のはみ跡(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→思いが先行しすぎて句に盛り込みすぎたようである。もう少しモノ・ポイントを絞りたい。そこを攻めてほしい。次回も挑戦を!

・香鮎や若中の鶏飛びはねる(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
思い切った取りあわせである。「若冲の鶏とびはねる香魚かな」くらに整えたい。この方向で。

・万屋の玻璃に大書の囮鮎(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→出来事の句で惜しい。ここから素材を活かして句にしてゆきたい。「よろずやの玻璃の厚さや囮鮎」など。次回も挑戦を!

・鮎釣りや悟りを開く修験者(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「鮎・修験者」はなかなかのキャスティングであるが、中七が生な表現で惜しい。「鮎釣りやとっぷり暮れる行者の眼」など。次回も挑戦を!

・追い星のぷるんと光る鮎の籠(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→少し苦戦されたようである。この句もどうも「鮎籠」に収斂される。素材間の飛躍に乏しかった。次回も挑戦を!

・鮎釣りや無口な父子日暮れなり(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
→出来事を盛り込んだ句で窮屈になっている。ここから素材を活かして句にしたい。「鮎釣りの暮れてゆきたる父の背ナ」など。次回も挑戦を!

・鰭ふりて堰飛びのぼり鮎光る(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→出来事の句で惜しい。すべて「鮎」に収斂されそう。素材から再考して詠みたい。次回も挑戦を!

入選B

・屋根靡く炭の薫りと鮎の焦げ(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
・琵琶湖の鮎激減我はエコ励む(ペンネーム「なしりんご」さん 31歳)
・川にいて釣るも釣らぬも知らぬ鮎(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
・鮎つりの竿にみるかげ夢のよう(ペンネーム「青い鳥」さん 38歳)
・鮎釣りて喜んでいたら鮎逃す(ペンネーム「犬蔵の王」さん 42歳)
・羽根落ちる鮎に捧げる愛の歌(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
・病床の真ん中に塩焼きの鮎(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
・年一度鮎と共に叔父が来る(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・渓谷でふたりにくれたあゆの宿(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)
・香魚見て今年の運気も上向きに(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・鮎釣りに出掛けた夫がマグロ釣る(笑)(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・釣り人の詐欺にかかるな若い鮎(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・鮎昇る太田川では鯉跳ねる(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・せせらぎに煙たなびき鮎集う(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・待ちわびてアユの甘露煮かみしめて(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・若鮎や技に見とれし投網漁(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・清流が無音となりて鮎はねる(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・年魚跳ねる運動会でババ踊る(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・夢五輪コーチの激飛ぶ鮎の群れ(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・ぴちぴちと跳ねる若鮎太田川(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・鮎釣りの水面飛びかう腕自慢(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
・鮎づくし好き者同士膳囲む(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・川のぼる仲間欺くおとり鮎(ペンネーム「やっちゃん」さん)
・ドッキリは自分の方と囮鮎(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

選者詠:谷村秀格

・天平の月沈みゆく香魚かな

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年5月19日(金)

第50回 お題「天道虫」(選と評 谷村秀格先生)
総評

新しいお名前も散見し、賑やかであった。
入賞三句などはかなりレベルが高く、どこへ出しても恥ずかしくない句群である。
特選以上の句はなかなかしっかりした句が多く頼もしかった。
入選Aはやはり甘いところもあるので、しっかりとモノに託し、フレーズの変容(大賞句の評参照)していただきたい。
そのようなところに配慮してゆくのが俳句の奥深さであり、生み出す楽しみであろう。
せっかく毎週の選評がある機会なので、宝くじのように考えず、長い目で毎回の自分や人へのアドバイスを参考に、宇宙流の俳句観をつかんでいただければと願う。

大賞

「てんと虫長方形の海走る」(ペンネーム「雅」さん 54歳)

作者によると「青いタオルにとまっていた『てんと虫』をみて詠んだ句」ということ。
この句「青いタオル」を実際の「海」そのものととらえて詠みあげたところが大変よい。
例えば目の前の出来事に引っ張られて、「てんと虫青きタオルの海泳ぐ」などと詠んでいれば実に安易な表現で、単なる入選止まりである。

芭蕉も「ものの見えたる光(三冊子)」と述べているが、詩において大事なのは、眼前の光景を詠むことでも、出来事を詠むことでもなく、心に映った感動・発見・モノの本質を詠むことである。
その意味で、野などとっくにはみ出し、大きな「海」を縦横無尽に「走り」まわり、「長方形」と実感できるほど狭く感じていると表現しているからこそ、「てんと虫」のその強い生命力や俊敏性というような本質が印象的に伝わってくるのである。

以前、仏教の唯識思想の例え話で「夜中に道を歩いていて蛇だと思ってよく見みると縄だった」という話をしたが、それとも近い。
夜という暗い環境が縄を蛇に見せるように、作者の「おおらかでのびやかな心境」が「青いタオル」を一瞬「海」に見せ、野にいるはずの「てんと虫」を「海に走らせた」のである。

テクニカルな観点から分析してみても実にうまくできた句であることが分かる。
われわれの住む宇宙は広いし調和なので、イメージが重ならないほうがいいのであるが、下記のように対比がキレイに効いていて「つかず離れず」の関係性を保っている。
・「まるい」てんと虫 ←→ 「長方形」の海。
・「小さい」てんと虫 ←→ 「大きい」海
・「赤い」てんと虫 ←→ 「青い」海
・「走る」てんと虫 ←→ 「不動の」海

また、「てんと虫」→「長方形の」→「海」→「走る」の「→」の前後の言葉の関係に見られる「フレーズの変容(意外性)」も見事である。
・まるい「てんと虫」から「長方形」への意外性。
・「長方形」の「海」という意外性。
・「海泳ぐ」でなく「海走る」という意外性。
言葉を飾り立てるでもなく、普通の言葉を用いつつ、その関係性(展開・変容)で詩情を出している。
これは定型韻文の詩として「言葉の美に惑わされないあり方」としてとても重要なポイントである。

モノの本質に迫った無意識からの佳句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
・句をフレーズの変容(意外性)という観点からひねり直してみる。

入賞

「てんとう虫なわとびの風聴きながら」
(ペンネーム「トミー」さん 33歳)

「てんとう虫が縄跳びの風の音を聞いている様子」と解釈できる。
大変実感あるところから生まれてきたのがよく伝わるが、一番のこの句の良さは「てんとう虫」と作者が一体となっているところであろう。
おかげで読者も「てんとう虫」目線で、子供たちの遊ぶ様子をほほえましく感じることができ、実にリアルである。
全体的にゆったりとした調べも効果的であるが、句の背後からはいわずもがな「てんとう虫」すなわち自然と一体となった「作者のゆとりある心境」が感じられてきて共感を誘う。
テクニカルな観点から言えば、まず「フレーズの変容(意外性)」として、「風」→「聴きながら」が救いであった。
これが「音」→「聴きながら」ではいたって平凡で詩にならない。
そして、下五からまた上五へはね返るような余韻のもたせ方が効果的で、繰り返される「なわとび」の雰囲気や、のびやかな雰囲気にもよくあっている。
ちなみに「なわとび」は冬の季語であるが、この句は詩として自立しており不問である。
対象と一体となって詠まれた佳句です。
入賞おめでとうございます次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
・対象になりきる。一体となる。

「新調のスーツ飛び立つてんとむし」
(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)

俳句道場が始まって一年と少し。
初期から毎回のように応募されてきた方であるが、今回初めてようやくの入賞のようでめでたい。
選句はあくまで、テーマごとに句の芸術性だけによる相対評価を貫き通しているので、このようなことも起こるのである。
逆に言えば、句に大きな進展があったということで、この感触を大事にされたい。
句であるが、これは大変気分がよく出た句である。
「飛び立つ」のは「新調のスーツ」ともあり「てんとうむし」であろう。
両方にとれる詠み方が働いている。
俳句は一瞥で大きな宇宙をとらえる(象徴する)芸術なので、このように言葉が働いているほうがいいのである。
また「新調のスーツ」と「モノに託して」あるところが成功していて、勢いよくジャンプして風に翻るスーツのベント(背中のスリット)の光景が眼に浮かぶようで印象的である。
例えばこれが「営業の社員飛び立つてんとうむし」など生の表現だと、その分イメージの楽しみ少し奪われて句が浅い。
紺かグレーながら、ぴかぴかの「スーツ」と光沢のある「てんとうむし」の羽を重ね見ているところも「つかずはなれず」でよく合っているし、社員かのイキイキとした様子と「てんとうむし」の明るいイメージも上手く重なりあっていて、その前向きな心境が共感を誘う。

「フレーズの変容(意外性)」の観点から言えば、「新調のスーツ」→「飛び立つ」→「てんとうむし」 と 後半がやや平凡であるが、前半の緊張感で押し切った先行逃げ切り型の詠み方であろうか。
後半の平凡さもそこまでの傷には感じないのが不思議なところである。
イメージの重ね方が光った一句でした。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
・直接的な表現をさけ、モノに託し、象徴的でイメージの湧く句にする。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「花柄のネクタイ映えるてんとむし」
(ペンネーム「キートン」さん 69歳)

「大草原ドットのブローチてんとう虫」
(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)

「てんとう虫社員章になりすます」
(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)

今回はファッション小物になった天道虫の句を3句をご紹介。
縁起のよいとされる天道虫、ふいに飛んできて我々を楽しませたりしますね。
ネクタイピンにブローチに社員章。
どれもかわいらしいですが、中でも「社員証になりすました天道虫」とは、いつもの素直そうなイメージの天道虫と違ってちょっとイタズラな感じで面白いですね。

入選句

特選

・ランドセル多種多様な天道虫(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
→しかして「ランドセル」と「天道虫」を上手く重ね見た句で気分がよく出ている。語順が少々惜しいので「天道虫多種多様なるランドセル」としてリズムを整えたい。この方向で。

・てんとむし足浮き上がる参観日(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→前半は「てんとむし」の様子を述べているように見せているが、下五が出てきた段階で、中七は「浮足立つ」のひねった言い方とわかる仕掛けで面白い。少し頭で作ってあるところが惜しいが、気分も詠みもなかなかの上手い句である。次回も期待したい。

・てんとむし正午の針の風に乗り(ペンネーム「ゆきんこ」さん 38歳)
→なかなか雰囲気がよく出ていて大変よい。「正午」→「針」、「風」→「乗る」などの少し平凡な表現を気を付ければさらによくなる。「てんとむし正午の都市の風の色」など。道場を機会に俳句をはじめられたそうであるが海外に行かれるとのこと。せっかくの縁なので今後も引き続きネットからでも参加いただければ幸いである。海外詠をお待ちしています。

・てんとむしデザイン画帳に穴ひとつ(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→こちらも雰囲気の佳く出た句である。「穴」→「ひとつ」が安易で少し惜しい。「てんとむしデザイン画帳の古き穴」など。このような象徴的な句を期待したい。

・てんとむしオーバーフォールの君の名を(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→応募句のなかではこれがよい。なんとなく映画的な雰囲気である。しかし応募句を拝見しているとどうもパズルのように言葉をあてはめて句を作っておられるように見受けられ残念である。俳句は短いので適当に言葉をはめ込んで季語をいれれば一応俳句らしくはなるが、それは本人の実力ではなく形式の恩寵によるもので身にならない。はっとしたことをモノを通して表現してほしいのである。できる人である。期待したい。

・エプロンのポッケ飛び立つ天道虫(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→類句がありそうであるが、素直な詠みがいい。気分の良く出た清潔感のある句である。この方向で。

・てんとむし地球半分支配せり(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→句の素材や世界観はなかなかなのであるが、表現が追い付いていないのが惜しい。俳句は表面の言葉ではなくイメージされる世界の勝負なので、最近多い命令調や安易なリフレインや強い断定の句などは真似しないことである。「半分の地球見えだす天道虫」など、しっかりとモノに即した表現で詠みたい。次回を期待したい。

・天道虫遺影の衿にとまりをり(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→ムードの佳く出た句で上手い。出来事を詠んでいるコト句のようであるが、「天道虫」に即したモノ句の方向の句でこれでよい。問題はやはり少々素材が月並みな感じで類句がありそうなところであろう。俳句は料理と一緒で素材が大事なのである。そのあたりを攻めていただけばと願う。期待したい。

・灰色の雨の匂いや天道虫(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→句は「天道虫」から離れたイメージで対比を作ろうとしているところが上手いが、実感ではなく少し作為的なところが惜しい。また「天道虫」と「雨」は両方野外のイメージだからからか「つきすぎ」のようである。もっとも名人に近い方であるが、名人以後も楽しんでいただけるよう考えていますので、引き続き思いっきり詠んでいただければと願います。期待しています。

・遊園地天道虫が孫運ぶ(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
→これは面白い。「天道虫」を見つけた「孫」がうれしそうに見せにきたという様子を詠んだ句であろう。少し詠み方が荒いが実感の感じられる句でこの方向でよい。次回も期待したい。

・てんと虫太陽西にころがりて(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→「太陽西にころがして」ならさらに上にいけた句であるが「太陽西にころがりて」では、どう読んでもあたりまえで惜しい。この一文字は大変大きかった。対象と一体となって詠んで頂ければと願います。次回に多いに期待したい。

・てんとむし新種ばかりのぬり絵かな(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→面白い句である。「天道虫の新種」と「子供たちが自由に描く天道虫」を重ね見ているのである。
このように実感ある世界をモノにしっかり託して詠んで頂ければと願います。この方向を多いに期待したい。

入選A

・天道虫赤い絨毯うごめいて(ペンネーム「にゃくりょう」さん 35歳)
→「天道虫」のかわいらしいイメージから離れ、少々地獄絵図的なムードを詠みあげているところが面白い。独特の世界を詠みあげていってほしい方である。期待したい。

・天道虫バスでゆらゆら一人占め(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→雰囲気はよく出ているが、このような散文的な世界にいる限りは特選以上は難しい。古今の名句に触れ、韻文の世界に入ってきてほしいと願います。

・てんとう虫空を見上げて自由になる(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→雰囲気が出た句である。しかし下五のような熟していない生の表現は控えたい。これも散文から離れられないことによるものであろう。古今の名句をよく味わって韻文の世界に入ってきてほしいと願います。

・白壁に頬染めてゆくてんとう虫(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→「壁・天道虫」は平凡であるが、中七の表現に作者なりの実感が出ていて好感がもてる。今後は素材の組み合わせを工夫したい。

・てんとむし刻銘辿る防災碑(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→シリアスな句で雰囲気はよく出ているが、全体的につきすぎで惜しい。せめて中七を「てんとむし足のくいこむ防災碑」などとして、説明ではなく感じさせるように詠みたかった。次回を期待したい。

・上り線影の行方やてんと虫(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→詠み方は上手いのであるが「上り線」の必然性が見えてこず惜しい。「枕木の影の行方やてんと虫」など、しっかりとモノに託して詠みたい。次回も期待したい。

・ソリストのつまびく弦や天道虫(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→音楽と「天道虫」の取り合わせのチャレンジであろうか。しかし「や」の前後が離れすぎでイメージが湧きづらく惜しい。また上五中七の展開は平凡である。「ソリスト・弦」という抽象的なモノより「天道虫置きわすれたるバイオリン」など具体的なモノに託したほうが印象的になりそうである。次回を期待したい。

・ひだまりを今年も連れてきたてんとむし(ペンネーム「綾乃」さん 55歳)
→自分の表現で詠もうとされているところがよい。詠みが熟していないが古今の名句や過去の入賞句や過去の選者詠など何度も読まれて韻文の雰囲気を掴んでいただければと願います。今後を期待したい。

・ともしびの闇に止まりぬ天道虫(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→もの悲しい印象の句だが、「天道虫と闇」が離れすぎのようで惜しい。まだ「蛍」のほうが合いそうである。素材間を工夫したい。

・小指から母指に急ぐや天道虫(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→出来事を詠んだ句(コト句)であること、「小指→母指」と作為的な展開が惜しい。俳句は出来事を詠むのでも頭で作るのでもない。無意識の産物である。実感をモノを通して表現したい。

・宇宙への標背負うや天道虫(ペンネーム「呉子」さん 66歳)
→どうも観念的で惜しい。俳句慣れした詠み方の方なので伝統的な写生口から作られるほうが合っているのかもしれない。いろいろな詠み方を試して自分に合った切り口を発見してほしい。複数句の応募も可です。期待したい。

・白壁に口紅ひくやてんと虫(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→どうも「白壁」が不要の印象。「紅をひく妊婦の影やてんと虫」など。素材を活かして印象的に詠みたい。次回を期待したい。

・てんとむしページをめくる風ふわり(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→下五がとにかく安易な生の表現で惜しい。俳句ではこのような散文的な表現は原則さけたい。「てんとむしページをめくる風のいろ」など。次回を期待したい。

・ドーム割れこぶし空突くてんと虫(ペンネーム「テレビ派」さん 72歳)
→野球の応援のイメージであろうか。なかなか力強い句であるが「割れ・突く」と動詞が二つ入っているから少し句がもたついていて惜しい。なかなか堂々としたセンスの方なので次回も期待したい。

・てんとむし少し豪華な昼の膳(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→素材が日常的で惜しいが気分がよく出ていて楽しい句である。俳味が感じられる。次回も期待したい。

・モナリザの都市伝説や天道虫(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→「都市伝説」」などといわず素直にモノに託したい。「モナリザの画布をはみ出す天道虫」など。次回を期待したい。

・待ち受けのてんとう虫やアラート鳴る(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→気分の良く出た句で面白い詠み方の句である。下五の字余りが心地よいが上五とつきすぎになるのが惜しい。なので上五をどうにかしたい。「右利きのてんとう虫やアラート鳴る」など。次回を期待したい。

・空深う届けて帰るてんと虫(ペンネーム「ありんす」さん)
→詠み方が面白い。やはり何をとどけたかモノに託したい。「空深う届ける影やてんとう虫」などでは。

・てんとう虫モンテカルロのレース風(ペンネーム「華みづき」さん)
→いよいよ俳句の世界に入ってこられた印象。ただし下五は「風」が不要。「レースかな」あたりで十分であろう。いきいきとした雰囲気の感じられる好句。次回も期待したい。

入選B

・てんとむしファッションモデルのごとき服(ペンネーム「ひなたろー。」さん 11歳)
・てんとう虫ヘリポート赤のランドセル(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・すべり台峰を捉えたてんとむし(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
・土香る吾子駆け寄りて天道虫(ペンネーム「なしりんご」さん 31歳)
・キラウエア満天を閉づてんとむし(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
・明けの空艶やか弾く天道虫(ペンネーム「柚葉」さん 34歳)
・てんとむしさわるとしるだすくさくなる(ペンネーム「にゃんこのひげ」さん 35歳)
・天道虫狭い世界に満足す(ペンネーム「伊藤亮太」さん 40歳)
・幸いは既に手の中てんとむし(ペンネーム「こうふく堂」さん 43歳)
・てのひらをかざしてとまる天道虫(ペンネーム「ぺいちゃん」さん 43歳)
・仲間です頼りにしているてんとうむし(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・茜空お先に失礼ひさごむし(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
・てんと虫高い所に上る癖(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
・よくころぶ、彼のあだなは、てんとむし(ペンネーム「なる58」さん 46歳)
・パチンコ屋路傍は静か天道虫(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
・てんとむし王子の慕う薔薇の花(ペンネーム「あや」さん 49歳)
・黒星を背負いてドスコイてんとむし(ペンネーム「メルモおばさん」さん 52歳)
・引き出しの服の中から天道虫(ペンネーム「ともこ」さん 53歳)
・トランプのピラミッドから天道虫(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・みぃつけたてんとう虫とかくれんぼ(ペンネーム「ぷぷぷ」さん 55歳)
・天道虫羽音よ宇宙無限大(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・天道虫生きやすいのはポジティブか(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・黒髪に天道虫もゆらゆらと(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・太陽はひとりぼっち天道虫(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・老眼鏡でフィギュアスケートてんとうむし(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・墓参り天道むしとそらの声(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・葉に止まる気にも留めない天道虫(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・のっぺらぼう今日で終わろか天道虫(ペンネーム「夏みかん」さん 68歳)
・友の背のピエロも笑ふてんとむし(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・絹さやの緑に映える天道虫(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・散歩道てんとう虫の羽音きく(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・白頭のてんとう虫ぞ道いそぐ(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
・文持って天まで届け天道虫(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・飛び立つや折畳翅の天道虫(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・雨上がり緑葉に映えるテント虫(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・ライバルや天道虫にダンゴ虫(ペンネーム「ネギマム」さん 68歳)
・金めっきピカソに集う天道虫(ペンネーム「ワイ」さん)
・UFOと交信している天道虫(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

選者詠:谷村秀格

・ちぎり絵のしずかにならぶ天道虫

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年5月12日(金)

第49回 お題「若葉」(選と評 谷村秀格先生)
総評

「『若葉』からイメージされるものは『若葉』の守備範囲なので、『若葉』から飛躍したモノをキャスティングしてみること」と前回放送でアドバイスしたのであるが、その影響か今回はかなりレベルが高い句が集まり、嬉しい悲鳴であった。
また連休明けからの忙しい時期であったにもかかわらず、新しい方からも投句を頂いて、改めてコーナーの人気と責任を痛感した次第である。
以下などに気をつけて出来上がった句を推敲いただくことで、句の気分は随分とよくなると思うので、参考にしていただければ幸いである。
・テーマからイメージされるモノは句に取り込まない。
・気持ちや心境などは直接的述べず「モノに託す」。
・直接的な表現・安易な表現・説明を避ける。
・イメージの重なりを避ける(部分的にも全体的にも)

大賞

「鍵付きの日記焦げつく若葉風」(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

このような句において「風景がよくわからない・意味が分からない」ということはよく言われるが、逆に言えば、風景や意味がよく分かればいいというものではないのである。
そのようなわかりやすい句は大衆受けはするであろうが、それ故にそれ以上入り込めず浅い句であるとも言えるのである。
「宇宙流の俳句観」において大事なことは、合わせ鏡のようにイメージがイメージを呼び込む深い作りになっているか、そのイメージの世界が豊かであるかということである。
その意味でこの句は、句の表面の直接的な意味から、句の奥のイメージの世界に深く潜り込める構造になっていて味わい深い。
「鍵付きの日記」とは自分だけしか見ることのできない厳重な日記であり、「若葉風」は「若葉を吹きわたる風」のことである。
表面的には「鍵つきの日記が焦げ付く若葉風だな」というちょっと不明の句であるが、それを一枚めくると、「思いのこもりすぎた日記から、『若葉風』という初夏の圧倒的な明るさ爽やかさに展開される様子」が読み取れてくるし、さらにめくると、十代特有の大きく揺れ動く心境の変化ようなものが読み取れてくる。
作者に巻き起こるさまざまな日常、そしてその思い出が「日記」に象徴されているわけであるが、「陰から陽へ」「内から外へ」「暖かく活動的な季節へ」向かって一気に解放されてゆく作者の心境の変化が、「焦げ付く」→「若葉風」間のフレーズの変容(飛躍・意外性)に見て取れる。
高校生の俳句イベントなどの影響もあるようであるが、私見では、若い作者の俳句には、言葉の美に溺れたもの、あるいは季語や形式べったりなものなどが多く、ものたりない。
その点、この作者は十代の女性であるが、どちらの傾向の句でもなく、しっかりとモノに託して心境を詠みあげていて頼もしい。
私の十代の頃の句に、「鎌月はなめられて今傷である」「能面の砕けし音がすわりこむ」「手を切ることいずれにしても大都会」「耳小骨てらてら泳ぐアニミズム」「ペンギンノツキヌケテユクニヒリズム」などがあるが、それらの句を思っても将来恐るべしの作家である。
意味や風景、周囲の雑音にとらわれず、イメージ豊かな実感ある世界を詠み上げていってほしいと願う。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
単に意味や風景がすぐにわかる句はそれ故に浅い。
イメージがいかに湧く句になっているかが大事。
伝わりやすさ・わかりやすさにとらわれないこと。

入賞

「若葉風電車入り込むサッカー部」
(リリーアルビデオ」さん 36歳)

作者によると、電車に乗っているとき、サッカー部と思われる若い人達が一斉に乗り込んできた様子を詠んだ句とのこと。
緑ほど近い駅、若い人達の熱気や汗や泥のニオイを伴って車内をさっと吹き抜けてゆく若葉風に、はっとした作者の瞬間の実感がよくとらえられている。
句からは、ほんのり匂いたつ初夏のさわやかな季節感やすがすがしさ生命力などが、上手く引き出されていて共感を誘う。
お気づきのように、単に「若葉風・サッカー部」では舞台が「グラウンド」になり平凡にすぎるのであるが、この句の場合「若葉風・サッカー部」を「電車」という舞台に上げてきており、それが「若葉風」とも「サッカー部」とも「つかず離れず」の関係性を生み出したことで詩になっている。
また、こういうところに、とてもリアリティが滲み出て臨場感がある。
中七は、「乗り込む」のほうがいいのではないかと言われる方もおられようが、それは常識的な言葉の選択であって、それでは圧倒的に平凡でつまらない。
「相手の陣地へ入り込む」などという言い方があるように、「入り込む」には「強引に中にはいって行く」というようなニュアンスがあり、その力強さが元気よく電車に乗り込むサッカー部の若者達の雰囲気、ひいては青春のムードにもよくあっているのである。
初夏の気分をモノに託して見事に詠み込んだ一句です。
入賞おめでとうございます次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
俳句は象徴芸術なのでモノのキャスティング(若葉風・サッカー部)が大事。
さらには、その舞台や役者の動かし方(電車入り込む)も大事。

「兵馬俑それぞれ懐く若葉かな」
(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)

「兵馬俑」は、古代中国で死者の埋葬する際の副葬品で兵士や馬をかたどったもののことである。
秦の始皇帝陵のものが有名であるが、何千体もの兵馬俑の出土品が並ぶ様子は大変なスケールで、始皇帝の圧倒的な権力を象徴している。
句であるが、その「兵馬俑」が「それぞれ若葉を懐いている」というのである。
俳句は書かれてある通りを受け取ればいいのであるが、「若葉」を抱いた「兵馬俑」が並ぶ心象風景は、非日常的であり幻想的であり美しい。
見どころは、「兵馬俑」が「若葉」を懐くことで息づき、心や思いを宿し、動き出さんとしている生命力であろう。
これも「若葉」のなせるわざである。
「兵馬俑」は、霊魂が生前のように生活できるようにと死者に使える「兵馬俑」を製作され埋められたそうであるが、それを思えば、リアリティをもって迫ってくる。
真言密教の開祖である弘法大師・空海は、「体あるものはまさに心識を含み、心あるものは必ず仏性を具す(動物・植物・石など形あるものすべては心の働きを持っており、心を持っているものは、仏と成る性質を持っている)」ということを言われているが、それを想起させる。
作者のかつての入賞句に「囀りにのたうちまわるホッチキス 」という句があったが、それと同じ方向性の句で、命がないと思われるモノに生命力を見出す「詩的真実」の詠法が得意な方のようである。
テクニカルなことを述べれば、「若葉」の「新鮮さ(時間)・やわらかさ(質感)・色彩(色彩)」と、「兵馬俑」の「古さ(時間)・硬さ(質感)・単色(色彩)」などの対比が上手く効いていて、シンプルでありながら味わい深い。
若葉の季節感と生命力といった詩的真実、そしてスケール感の感じられる味わい深い一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
日本のそれと趣が異なるだけで海外でも、海外の素材でも句は詠める。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「若葉風泣かぬ児泣かす泣き相撲」
(ペンネーム「呉子」さん 66歳)

「若葉風」の雰囲気と赤子の雰囲気がうまくマッチした句で意味も分かりやすく、中七から下五にかけての「泣く」の繰り返しのリズムも心地いい。
「泣き相撲」の雰囲気がよくつたってきてほほえましいですね!
俳句では意味がよくわかる句というのは、その分読者のイメージする楽しみがなくなりますので、惜しいところ。
モノに託して、さらに奥深い表現を目指して頑張りましょう!

入選句

特選

・五線譜の斜め上行く若葉風(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→さわやかで気分も良く出ており上手い。中七に上手く心境が反映されている。この方向で。次回も期待したい。

・若葉風新卒教諭の板書の字(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→教室の気分が良く出た句で上手い。しっかりとモノに託されていて好感がもてる。この方向で。次回も期待したい。

・若葉風まだ新しきユニフォーム(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→余計なことを言わずモノに託して詠んであり、イメージの膨らむ句である。「若葉風」に対して「新」は少々イメージの重なりで惜しいが、そこまでの傷ではない。この方向で。次回も期待したい。

・深海魚泣き続けたる若葉冷(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→なかなか印象的な句なのであるが、「中七」と「冷」が句を弱くしている。要は「冷えて泣いている」の倒置のような句で意味がすぐ読みとれるのである。素材としての「深海魚・若葉」はいいので「深海魚まさぐっている若葉風」など、再考したい。次回も期待したい。

・若葉して厨にひびく汽笛かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→なかなかの句であるのだが、少しイメージの世界がちぐはぐなのが惜しい。「厨・汽笛」とくれば夕方のイメージが強いが、そこに明るい「若葉」のイメージがどうにも合わない。また「ひびく・汽笛」もイメージの重なりである。そういうところに気づいてくれるようであれば嬉しい。次回も期待したい。

・若葉雨弦のもたつくヴァイオリン(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→なかなかの句である。中七下五の関係がややつきすぎで惜しい。実感ある世界をモノに託して詠む方向は素晴らしい。この方向で。次回も期待したい。

・脈々と大河流れる若葉かな(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→気分の出た句なのだが、「脈々と大河流れる」はすべて「大河」に収斂され惜しい。「大河・若葉」はなかなかの関係性なので、そのキャスティングを活かしてイメージが重ならないように詠んでみたい。「背の厚き大河いすわる若葉かな」など、もう一声である。余計なことを言わずモノに託して詠む方向は大変よい。次回も期待したい。

・ジャンケンの声こだまする若葉風(ペンネーム「やんちゃん」さん 55歳)
→明るい気分が共感を誘うが、宇宙は広いのに「若葉風」の雰囲気や明るさばかりを詠んだ句であるのが惜しい。上五中七は「若葉風」のイメージと違うところを詠んで宇宙を広く把握したい。「じゃんけんの影の重たき若葉風」など。なかなかの詠み手で次回も期待したい。

・万葉の藻塩煮詰まる若葉風(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→面白い句であるが、少し盛り込み過ぎのようでもある。「藻塩に詰まる」は平凡な言い回しである。「藻塩・若葉風」のキャスティングで再考したい。次回も期待したい。

・分度器の目盛弾ける若葉かな(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→雰囲気のよく出た句で好きな句である。句が出来上がったとき安易な表現や直接的な表現、イメージの重なりを避けるよう心掛けることである。その意味でこの句「弾ける」が惜しい。「若・弾ける」は当たり前だからである。そういう配慮ができるようになればさらに良くなる。この方向で。次回も期待したい。

・旅パンフひっくり返す若葉風(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
→「若葉風」の雰囲気のままに全体を詠んだことが良くも悪くもである。良さとすれば意味が分かるやすいこと。悪さとすればその分句のイメージの世界が浅くなることである。テーマの雰囲気のまま詠むことやテーマの雰囲気を説明するような方向性を改めればぐっとよくなるであろう。

・幼子と読む赤ずきん若葉風(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→全体的に平凡でつきすぎなのが惜しいがよく気分と実感が出ている。俳句を出す前に「平凡・つきすぎ」をチェックされるといいだろう。「幼子・赤ずきん・若葉風」はやはり同じイメージであるし、「幼子・読む・赤ずきん」もイメージの重なりである。こういうところが俳句の難しさであって、何かを詰め込んだり外したりすることに苦心するのが俳句の難しさではないのである。

・お遍路に大師飛び交う若葉かな(ペンネーム「華みづき」さん)
→中七下五はこれでいいのである。それに比して上五がイメージの重なりすぎなのである。「お遍路」も季語だからというのではなく「お遍路・大師」はあたりまえの関係だからである。そのあたりが分かってくると一段レベルアップ。中七など文句なしの表現。この方向で。次回も期待したい。

入選A

・灰色の壁に貼りつく若葉の日(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
→なかなか印象的な句で詠み方も上手いが、「若葉・壁」の関係が平凡で惜しかった。もう巣k粗衣飛躍した世界を詠み込みたい。 次回を期待したい。

・青空が映り込む若葉の露(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→「若葉」について説明・解説しただけの句で惜しい。すべては「若葉」に収斂される。「若葉」から飛躍したイメージを取り込みたい。読者は説明してほしいのでも解説してほしいのでもなく、感じさせてほしいのである。早く散文の世界から抜け出して韻文の世界に入られることを期待する。次回を期待したい。

・若葉雨夏が始まる予感かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→「若葉雨」について中七下五で解説しただけの句で惜しい。俳句らしいのが取り柄だが、それは本人の力ではなく俳句形式の恩寵によるもの。早く散文の世界から離れて韻文の世界に入って来てほしい。

・若葉かな南西進路開拓し(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→なかなか面白い詠み方であるが、進路・若葉はやはり少しイメージが近くて惜しい。テーマから飛躍した世界を取り込んでみたい。次回を期待したい。

・スクランブル交差点急く若葉風(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→「交差点・若葉」のキャスティングが平凡で惜しい。そして「交差点・急く」「急く・若葉風」はイメージの重なりなので避けなければならない。俳句は一瞥で宇宙と一体となる芸術なのでイメージの重なりに留意していただきたいところである。次回を期待したい。

・講堂の陰に逃れて若葉風(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 47歳)
→気分の出た素直な句である。最近のご応募の方とお見受けするが、直接気持ちを述べていないところがいい。この句は「逃れた」という出来事の句なので、モノの存在を打ち出した句にしたい。「講堂の陰の深さや若葉風」など。この違いが分かっていただければ嬉しい。次回も期待したい。

・地下街の求人募集や若葉風(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→どうもタダゴト句あり惜しい。「求人のポスター赤き若葉風」など、モノにしっかり託して詠みたい。次回も期待したい。

・引越の荷ほどき窓に染む若葉(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→出来事を詰め込んだ句で惜しい。このように何らかの詠みたいコトを句にしようとすると窮屈である。詠みたい衝動をモノに託すのが俳句なのである。「引っ越しの荷物ほどかれ若葉風」など。次回も期待したい。

・鯛網の船団送る若葉風(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
→「鯛網・船団」がイメージの重なりで惜しい。この句の場合「鯛網」は不要であろう。こういうところを気を付けていただければと願う。安易な中七にはなるが「船団を見送ってゆく若葉風」などのほうが軽やかである。次回も期待したい。

・山若葉望遠鏡で見る未来(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→気分の良く出た句であるが、最後の「未来」が生の表現で惜しかった。それをモノに託すのが俳句なのである。最近の句にこのように直接詠むものも多いが私はそのような安易な方向はお勧めしない。「山若葉磨かれている望遠鏡」など。次回も期待したい。

・病室の母の笑顔や若葉風(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→なかなか雰囲気の出た句で快方に向かうお母様の様子がよく伝わる。しかしてすぐによく伝わるということは俳句としては浅いということであり推敲が必要である。「笑顔・若葉」がどうにもイメージの重なりのようで惜しい。そこを攻めてほしい。次回も期待したい。

・若葉噛み想い果てなし文庫本(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→詰め込みすぎかつ思いを直接述べていて惜しい。「若葉噛む・文庫本」このキャスティングでさらりと詠み直すことである。「文庫本少年の噛む若葉かな」など。次回を期待したい。

・廃線の生きずく駅舎若葉風(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→今回の句の中ではこれがいいが、お分かりのように「廃線・駅舎」がイメージの重なりで惜しい。また「駅・若葉」も平凡である。呼吸するように句を作るのではなく、もう少しじっくりと腰を据えて作ることが大事である。次回を期待したい。

・若葉風この明るさは君のもの(ペンネーム「ばーばのひとり言」さん)
→気持ちはよくわかるが、中七下五のように俳句で演説をしてはいけない。モノに託して詠むのが俳句である。「少年の背中広がる若葉風」など。次回を期待したい。

入選B

・赤と白若葉手を振り応援す(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・若葉風海をすくっていつの日か(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
・若葉風月まで届き加齢臭(ペンネーム「マウン松風」さん 36歳)
・涼やかな若葉が芽吹く川の路(ペンネーム「きみどり」さん 38歳)
・亜土ちゃんの花チューオブジェや若葉風(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・セラミック製の鼓膜や若葉風(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
・広重を泳ぐ列島若葉風(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・若葉風また登り坂登り坂(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
・光差しプリズムこぼれ若葉風(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・入社した我が子へ若葉の便りする(ペンネーム「インゴット」さん 57歳)
・渓流の若葉釣り人隠したり(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
・草若葉横隔膜と無重力(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・北の空ロケット雲や若葉冷え(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・ほろ苦し若葉マークのあの頃は(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・切り枝に若葉芽生える来春に(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・背伸びして若葉原にダイビング(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・若葉影狸に譲る峠道(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・天を突く若葉の勢い孫の夢(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・山景色黄砂に負けず若葉かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・ステージに映える若葉と一年生(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・山動く空のブランコ若葉風(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・濃淡の若葉の森に深呼吸(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・ドライバー西日眩しや夕若葉(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・FFや塊肉けぶる若葉風(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・新緑の若葉の海で蕨摘む(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・明けぬ夜の灯なるやよき若葉(ペンネーム「ワイ」さん)
・崖っぷちだろうが憶せず伸びる若葉かな(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

選者詠:谷村秀格

・メルカトル図法はみだす若葉かな
・若葉風港までくる前世かな

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年5月5日(金)

第48回 お題「鯉幟」(選と評 谷村秀格先生)
総評

「野球のボードゲーム」ばかりして「野球を極めた」と嬉々としている人がいたら笑われるであろうが、それは俳句でも同様である。
読んで「風景がすぐ浮かぶ」とか、「すぐ意味が分かる」という句が好まれるようであるが、俳句は、写真・動画(風景・映像)」でも、「日記や短歌(意味が分かる)」でもない他の『何かの芸術』形式なので、そのような「浅い」世界のみに満足していてはいけない。

「良賈(りょうこ)は深く蔵して虚しきが如し(良い商人は品を奥深くしまっておくので、外からは何もないように見える。)」という言葉があるが、「作者の気持ち」や「共感」などという大事なものは、本来句の表面ではなく、句からイメージされる先にしまってあるものなのである。

今回は紙面のスペース上避けるが、この深さや豊かさを理論的にひもといてゆくには、ソシュール言語学の「シニフィアン」「シニフィエ」の概念や、ロラン・バルトが重視した概念「デノテーション(明示的意味)」「コノテーション(潜在的意味)」などにも触れる必要がある。

おわかりのように、従来の俳句周辺の概念の中ではどうにも片付かない奥深さを有しているのが俳句なのであって、「宇宙流俳句」はその深淵に何とか挑もうとしている積極的な俳句観なのである。

連休にも関わらず、変わらず多くの方からの投句や新しい方からの投句を沢山いただきうれしい悲鳴であった。
今回上位の句は無意識・実感の強く打ち出された句が上がった。
特選の方々は、そのあたりがやや弱いかややテクニック的であった。
入選Aの皆さまは、俳句にはなっているが、さらなる何かを期待したい。
入選Bの皆さまには、ぜひ過去の選評を詠んでいただいて、「宇宙流」とはどういう俳句観なのかを感覚的につかんでいただきたく願う。

他の習い事と一緒で一度や二度で上達するようなものではないので、長い目で考えていただき、テーマの如何によらず、投句継続されることを願う次第です。
私も皆さんの熱意にこたえられるよう全力でアドバイスさせていただければと思います。

大賞

「鯉幟腹一杯の握り飯」(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)

「鯉幟」が「握り飯」を食べて「腹一杯」なのか、「鯉幟」の季節に幼子が「握り飯」を食べて「腹一杯」なのか。
両方に解釈でき面白い。
句であるが、モノ(鯉幟・握り飯)のキャスティングが上手く、これによって、「金太郎のような幼子が両手に『握り飯』をもってムシャムシャと食べている様子」がなぜかイメージされてきて面白い。
子どもの力強さや生命力というものがありありと感じられてきて共鳴をおぼえるし、その様子はどことなく「花より団子」の風景に似ていて少々滑稽でもあり、見どころにもなっている。
この句のポイントは「握り飯」。
「鯉幟」のテーマに対して、男の子・元気・願いなどを生のまま直接持ち込むのは露骨に過ぎるが、「握り飯」というふうに、モノを一回通して象徴的に表現したのが上手かった。
また、「おにぎり」や「おむすび」といった柔らかい表現ではなく、「握り」飯という物理的な力の感じられるモノを選択したことで、屋根より高い「鯉幟」の迫力と「つかず離れず」の関係性が生まれ詩になった。
上記のように分析するればいろいろ理屈は見えてくるのであるが、何よりこの句は、頭・理屈・作為・世間体などからではなく、「無意識・実感」からの句であるところが優れている。
気分の良く出た一句でした。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
「おにぎり」「おむすび」「握り飯」それぞれイメージされる世界が違う。

入賞

「膨らみてなお膨らみぬ五月鯉」
(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)

「五月鯉が風を受けて思いっきり膨らんだ様子」を詠んだ句であり、気分の良く出た句である。
物理的には「五月鯉」が生物のように成長するわけはないのであるが、そこに子どもが成人したような状況、あるいはとても大きくなったというような感慨を重ね見ているわけであって、作者の喜びが見せる「詩的真実」が共感を誘う。
原句は「膨らみぬ/五月鯉」と「切れ」も感じられてカッチリとした作りでもあり、これはこれで一句なのであるが、まだ成長中の子どもの様子と重ね見、進行中・継続的なニュアンスをもたせて「ふくらんでふくらんでゆくこいのぼり」などとしても面白いであろう。
これは添削どうこうという話ではなくて、ネクタイの色違いのような例と考えていただければと思う。
いずれにしても、青空に膨らむ雄大な宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
限界以上を詠む。

「モノクロの空を飲み込む鯉のぼり」
(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)

明るいイメージの句が多い中、目を惹いた句である。
表面的な句意は書いてあるとおりであるが、象徴的な句なので少し句をめくる作業が必要である。
「モノクロの空」というのは、作者をとりまくなんらかの環境をさしているものであろうが、無表情で無機質な「空」である。
「鯉のぼり」は作者自身の象徴でもあろうが、生物ような生物ではないような「鯉のぼり」が無表情のまま、漫然と飲み込んでゆくという風景からは、作者の少し屈折した心境のようなものが感じ取れてくる。
句の深いところでは、なんらかの事情で虚無感のようなものを感じつつも、赤く色づき何とか頑張ろうとするような作者のけなげな心のようなものが感じ取れてきて共感を誘う。
この句のよさは「モノクロの空」。
これが「真っ青の空」だとあたりまえだし、「雲多き空」や「ビル街の」などでもタダゴトである。
「モノクロの空」が他に代えられない独自の表現になっているところに注目したい。
作者が「無意識の実感から救い上げた言葉」なのであろうが、そのオリジナリティが光った一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
ふいに言葉が浮かんだとき、常識にとらわれて直そうなどとせず、そのまま表現してみる。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「鯉のぼりカープ赤ヘル大躍進」
(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)

「カ-プ乗せ天まで上がれ鯉幟」
(ペンネーム「彩の介」さん 44歳)

「高みまで今年も昇るかこいのぼり」
(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)

今回も3句をご紹介。
「鯉のぼり」とくれば、やはり来ましたね、カープ俳句!
中でもわかりやすく景気のよい句を取り上げてみました!
カープの優勝と、三人の入賞をお祈りします!

入選句

特選

・真夜中に乳に吸い付く鯉のぼり(ペンネーム「トミー」さん 33歳)
→初めての方であろうか。お子さんの様子を重ね見た句で詠み方はぎこちないもののとにかくオリジナルな実感を詠っているのがよい。俳句は俳句である前に詩であり芸術なので、そこが何より優先されるのである。この方向で。

・鯉のぼり半分喰らう青い空(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「半分」とはなかなかいいところをついている。惜しいのは「喰らう」。やはりあの口をみたら「喰らう」は直接すぎるので原則避けなければいけない。よってそういうところを丁寧にやっていただければと願う。

・鯉のぼり魚の匂い届く街(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→短歌的センスが強い方であったと記憶しているが、この句はなかなかである。気になるのは「魚」。やはり「鯉」とイメージが近いところが句を少し浅くしているようである。そのような点に配慮していただければ独特の世界観を十分表現できる方とお見受けする。

・鯉のぼり風の形を閉じ込めて(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→綺麗であるが最近少々俳句になれた人にありがちな言葉に溺れる傾向にかたむいてきているようである。作者の過去の句に「口中に大地駆け行く人参葉 」があったが、比べてもらえればわかるように、最近の句は行儀よすぎてそれ故、実感があったとしても一度フィルターにかけられたように弱いのである。定石に安住しないこの方らしいのびのびした句を期待したい。

・家並みの鱗に紛れ鯉のぼり(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→「鱗」が言えるようで言えない表現である。またここによく実感が出ている。その一方「紛れ」が熟しきれていない生の表現で惜しい。「鯉のぼり」が「紛れる」のはあたりまえなのである。あと一歩。多いに期待したい。

・鯉のぼり少年野球のボール捕り(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
→モノに託して詠もうとしているところがよくセンスがいい。「鯉のぼり・少年野球」「野球・ボール」とイメージが重なっているところが惜しい。そこが分かるようになれば入賞も近い。期待したい。

・玄海の風をいなすや五月鯉(ペンネーム「呉子」さん 66歳)
→「玄海」は玄界灘のことか。省略しすぎの感じもするが多くの方にはわかるであろうし大した傷ではない。惜しいのは「や」。どうもこのように詠まれると「風をいなしたんだ、分かりなさい」と押し売りされているような印象で言い過ぎなのである。せめて「いなせる」などもう少し軽くよみたい。手慣れた印象の方なので、今後に多いに期待したい。

・鯉のぼり影を踏み踏み通園児(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→類想の嫌いはあるが大変気分の良く出た実感のある句である。オリジナルな世界を詠んでいるところがよい。この方向で。

・鯉のぼり空の溜息雲ふたつ(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→この句は観念的で惜しい。この方は視点がきちんとしているので、やはり伝統的な詠み方というか写生口が合っているように感じる。次回を期待したい。

・瀬戸内の風のかたちや鯉幟(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→「風・鯉幟」はやはり惜しいが、「瀬戸内」が救った。どことなく平凡なところが惜しいとが、無理に個性を出そうなどとしないことで、この方向でよい。

入選A

・鯉幟空を泳いで我が家まで(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→今回は少し観念的というか散文的で惜しい。いずれにしても素材間が平凡なので再考したい。

・鯉幟雲ふうわりと呼吸する(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→今回は素材間が平凡であり表現が平凡で惜しい。ぜひこの方らしい独自の境地を開いてほしい。

・鯉幟五臓六腑に染み渡る(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→句は一物仕立てでも取りあわせでも嘱目でも心象風景でもいいのであるが、実感ある世界をモノに託して詠むことである。句は下五が安易に流れたのが惜しまれる。素材はなかなかなので「鯉幟少し重たき五臓かな」など。次回を期待する。

・夢いっぱいすい込み泳ぐ鯉のぼり(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→実感もよくでているのであるが、やはり中学生あたりの句によくありそうで類想が気になるところが惜しい。また「~して~する」とシナリオを描こうとするより、モノのキャスティングを心掛け象徴的に詠みたい。

・五月鯉遠吠えひびく古き家(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→応募の中ではこれがよいが、平凡である。センスある方なので、落ち着いて自分の世界を表現していってほしい。次回に期待したい。

・黄緑の地球突き刺す鯉幟(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→上手いのだが少々観念的で惜しい。次回を期待したい。

・象のいぬ象舎の鎖鯉幟(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→全体的に平凡なところと、散文の切れはしのような中七が惜しい。素材を活かすなら「沈みゆく象の鎖や鯉幟」など。このように詠む方が実感が出てくると思うのだがいかがだろうか。次回を期待したい。

・爽風の鼻息荒らし五月鯉(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→どうにも「風・鼻・鯉」がつきすぎで惜しい。次回を期待したい。

・まっすぐの地軸打ち上げ鯉のぼり(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→無意識ではなく頭でこしらえた句であるところが惜しい。頭で作るとが句のパワーが弱くなるのである。実感を詠ってほしい。次回に期待したい。

・群れを成し天を流るる鯉のぼり(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→「鯉のぼり」のことを「鯉のぼり」らしく詠んだだけの句になってしまって惜しい。読者は作者の独自の観点に感動したいものなのでそこを攻めてほしい。

・鯉幟コペルニクスの地動説(ペンネーム「釣りキチおじさん」さん 62歳)
→面白いが、何が詠みたかったのかが伝わらず惜しい。少し観念の句なのであろう。実感をモノに託して詠むようにしたい。

・ギイギイと音巻きあげし初幟(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→大変実感があるのであるが、詠み方が追い付いておらず惜しい。擬音語はあまり使わず詠むようにしたい。次回に期待したい。

・初恋の岸の向こうにこいのぼり(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
→「初恋の岸」がよく伝わらず惜しい。句で説明しようとしたり無理な表現はさけて、モノのキャスティングに徹してイメージ豊かに詠むようにしたい。

・鯉のぼり揺れて川面の万華鏡(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→全体的につきすぎというか表現が直接的すぎて惜しい。「鯉のぼり川に沈める万華鏡」など。

・山間の川面に映る鯉のぼり(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
→「山・川・鯉のぼり」と平凡で惜しい。どこかにオリジナルな感動はさみたい。そこが勝負である。

・飛行機雲背にして泳ぐ鯉幟(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→ムードある句であるが、「雲・鯉のぼり」「泳ぐ・鯉幟」など全体的につきすぎで惜しい。次回に期待したい。

・風に乗り雲に食いつく鯉幟(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→どう詠むかに苦心されているのであるが、俳句は短いので詠み方などあまり関係ないのである。日本料理ではないが素材が7割なのである。次回に期待したい。

・悠々と地球ごと飲む鯉のぼり(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
→応募句の中ではこれがよい。料理は素材が7割ともいわれるが、俳句も同様である。モノのキャスティングを大事にしたい。

・矢車や誰も居らざる隣村(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→伝統的な詠み方をされる方は詠み方にこだわるからか平凡であることが多い。そこを攻めてほしい。次回に期待したい。

・吹き晴れて山を飲み込む鯉のぼり(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
→気分はよく出ているのだか、やはり平凡で惜しい。また「~して~する」と説明的。読者は説明してほしいのではなく、感じさせてほしいものなのである。次回に期待したい。

入選B

・鯉のぼり風がぴゅーぴゅーつかまえる(ペンネーム「かいせい」さん 4歳)
・敗けてなお紅の底コイノボリ(ペンネーム「ワイ」さん)
・五月鯉空き缶潰す銀の海(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
・畳まれし鯉幟見て我が子の笑み(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・雀の巣大地を揺るがす吹き流し(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
・ブロンドに慕情の児女や五月鯉(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
・おもちゃ買えいまなら通るこいのぼり(ペンネーム「西山舞」さん 34歳)
・空泳ぐ子供が描いたひごいかな(ペンネーム「たけぽん」さん 38歳)
・川風に吹かれ天見る鯉のぼり(ペンネーム「こうふく堂」さん 43歳)
・こいのぼり弟いるけどのぼらない(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・留守番の腹ぺこ兄弟鯉のぼり(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
・鯉幟富士の樹海の裏道を(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
・大志抱けベランダに舞う鯉幟(ペンネーム「たいのまこ」さん 50歳)
・セグウェイの登りきったる鯉のぼり(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
・色褪せし吾と同級の鯉のぼり(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
・鯉のぼり碧い風吹き雲の波(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・鯉幟出雲飛び越し夕日喰う(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・里山に恋の風吹け鯉幟(ペンネーム「是多」さん 62歳)
・鯉幟三十年ぶりの深呼吸(ペンネーム「俳句夢中おじさん」さん 63歳)
・鯉幟スケール小さく空に舞う(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・鯉のぼり晴天無風甲羅干し(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・見えかくれ屋根の波間や鯉のぼり(ペンネーム「やっちゃん」さん 69歳)
・跡取りのほっとする祖父鯉のぼり(ペンネーム「匿名じいさn」さん 72歳)
・尾を跳ねて泳ぎを競う鯉のぼり(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・雲飲みて身をくねらすや鯉のぼり(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・青空を突き抜けるかな鯉幟(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・薫風にはち切れそうな鯉のぼり(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・鯉幟薫風受けて空に舞う(ペンネーム「とも子」さん)
・五月鯉旗に負けじと空を泳ぐ(ペンネーム「やっちゃん」さん)
・母屋留守あくびも屁もする鯉のぼり(ペンネーム「華みづき」さん)

選者詠:谷村秀格

・鯉のぼり目の奥にある異国かな
・鯉のぼりみなぎっている磁力線
・液晶の角うつくしき鯉のぼり

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年4月28日(金)

第47回 お題「蜆」(選と評 谷村秀格先生)
総評

演歌や歌謡曲が好きであるが、歌手にもいろいろなタイプがある。
オリジナル曲を別の歌手が歌うことがあるが、そんな時皆さんも「これが同じ歌か」と驚かれることがあろう。
間違いなくオリジナルの歌手より上手いのであるが、味わいがなかったり、あるいはその逆だったり。
つまり、同じ曲といえども「歌の上手い人」と「歌を聴かせることのできる人」では世界観が異なるのである。
俳句も全く同様で、俳句の前提や常識のハードルをクリアしつつ「うまさ」で作る人と、俳句の常識(季語・切れ・文法)にとらわれず実感から詩そのものを詠い上げる人では、句の味わいが全く異なる。
もちろん私は、創作も指導も「聴かせる歌」の立場の代表格であるが、皆さんもそこを目指して頂きたいものである。
キーワードは「実感・無意識」であり、天敵は「理屈・理性・意識・常識・世間体」である。

今回も新しい方からのご応募を多くいただいたが、全体的に一人一句か二句の方が多かった。
また特選以上の句でも、今までのテーマと比べ、類想句や表現が熟していないものが多かった。
テーマが意外にも難しかったようである。
テーマを説明しようとしたり、体験や出来事があって、それを句にするというような方法で作句しようとすれば、日常「蜆」と関わる機会も少ないので、宍道湖などへの旅行の風景とか、しじみ汁を飲む風景ばかりになってしまうであろう。

俳句の基本は「寄物陳思(ものによせて思いをのべる)」。
あなたの経験や思いを17音の定型に省略して詰め込むのでは「なく」、衝動や実感を「モノを通して述べる」ことが他の詩との大きな違いなのである。
俳句はシナリオの引き算足し算ではなく、モノの掛け算や方程式(モノのキャスティング)のようなものである。
大賞句の「蜆鳴く」・入賞句の「親展」などには「寄物陳思」の良い方向が見える。
今回評が全体的に辛口になってしまっているのはご容赦願いたい。

大賞

「蜆鳴く月深海に引き落とす」(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)

俳句は詩であり、詩は芸術なので、俳句の常識(季重なり・切れ字の複数性・文法の正しさなど)や部分的なことよりも一句全体が芸術作品としてきちんと自立していることのほうが何より優先されるし大事である。
その観点から言えばこの句は、表現が熟し切れていないもどかしさ(「下五」の自己主張が強すぎる露骨な表現)や、やや類想の嫌いもあるものの、他の月並み・ただゴト句を寄せ付けないオリジナリティや実感、句から醸し出される非日常性などが勝っており、そこを評価したい。
ちなみにこの句の「蜆(春)」「月(秋)」の季語の点は、上記以前に不問である。
「蜆鳴く」は小さな「蜆」が水を吐くかすかな音のことであるが、それを「鳴く」と表現するところに日本に住む人の豊かな詩心を感じる。
芭蕉の「古池」の句を持ち出すまでもなくこの句も静寂の境地であるが、誰も知らない夜のしじまに、「蜆」に呼応するかのように大きな月が深海へと引き込まれる心象風景は、何とも幻想的であるが、一方でなぜかしらリアリティがある。
成長ホルモンなどの存在などを引きあいに出すまでもなく、「夜」は決して「無」的な存在ではなく、「ダイナミックな力が蠢いている」「力をためる」ことの象徴である。
ひとことで言ってしまえば句の奥に「宇宙そのものの生命力」のようなものが感じ取れてきて共感を誘う。
テクニカルな点から分析すれば、「蜆」と「月」という形の似たものの同士の大小の対比がよく効いている。
また、その形が単なる円形や三日月形ではなく「扇形」というところが何とも奥ゆかしい味わい深さを与えている。
そして、「湖」では「蜆」とイメージが「つきすぎ」になるのであるが、「深海」なので「つかずはなれず」の距離感をとっているところも上手い。
最初に述べたが「引き落とす」がどうにも強引・直接的な表現で惜しいところである。
例えば作者の意向とは違ってくるかもしれないが、素材を活かして少し客観的に「深海に月沈みゆく蜆かな」くらいにしてみたい。
いずれにしても「蜆」の常識から大きく飛躍したところで詩に仕立てたところが見事であった。
大賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください!
<作句のポイント>
テーマから飛躍する。

入賞

「宍道湖の夕陽を飲み干すしじみ汁」
(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)

この手の句は類句が多いのが難であるが、これはこれで実感と気分がよく出ており、また詠み方もなかなかしっかりしているので採った。
ある意味特選以下の句が少しものたりなかったともいえる。
ちなみに「夕陽」は季語ではないが「夕焼け」は夏の季語である。
聞くところによると「宍道湖」の夕方の風景は壮大で美しいらしい。
句であるが、「飲み干す」のは「しじみ汁」であり「宍道湖の夕陽」だという。
このような句の場合、頭・理屈・常識で句を作るなら「宍道湖の夕陽うつくし蜆汁」「宍道湖の夕陽を見つつ蜆汁」などとしたくなる。
しかしこのすると、「宍道湖の夕陽」と「しじみ汁を飲みほす作者」はあきらかに分かれており、対象との合一がない。
しかし原句のように「夕陽を飲み干す」と無意識からの実感を表現したことで、美しい自然の風景である「宍道湖の夕陽」と室内で「しじみ汁を飲み干す作者」という内外・主客が一体となった達観の境地が伝わってきて、味わい深い。
句の奥に感慨深い旅の喜びが伝わってきて共感を覚える。
それくらい印象的な景色であり「しじみ汁」であったのであろう。
ただし、この句も中七「夕陽を飲み干す」がやや熟し切れていない表現である。
「を」が説明的なので「宍道湖の夕陽飲み干すしじみ汁」としたい。
こちらのほうがより象徴的になり、「夕陽がしじみ汁を飲み干す」という解釈も生まれてきてイメージが豊かにある。
あるいは「飲み干す・汁」がつきすぎと考えるなら、意図は変わるが素材を活かして「宍道湖の夕陽飲み干すしじみかな」あたりでもよさそうである。
私の好みは後者である。
いずれにしても対象と一体となった無意識からの実感表現が光った一句でした。
入賞おめでとうござます。次回もぜひチャレンジください。
<作句のポイント>
「を・に」などの助詞は説明的になるので、気を付ける。

「親展の手紙ポストへ蜆喰む」
(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)

「親展」というのは「宛名となって いる人に封を切ってほしい」という意味であり、「喰む」というのは食べるという意味である。
「親展の手紙ポストへ」という緊張感のある出来事に対して、何の説明もなく日常の「蜆喰む」作者の食事風景しか提示されていないので、その関係性について、読者は一生懸命にその状況や心境を察しなければならない。
人生における緊張と緩和、緩急のコントラストがこの句の見どころであろう。
「親展の手紙」という打ち出しに対して、それに比例するような大きな物事をもってくると、句の意味は分かりやすくなるかもしれないが、芸術的には詩が死んでしまうのであって、作者はそのあたりのことをよく心得ているようである。
ただし、この句も前半部分が「親展・手紙・ポスト」とどうもつきすぎな印象で、もう少し練れる余地もありそうである。
いずれにしても発想のおもしろい一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください
<作句のポイント>
緊張と緩和。これも宇宙の一側面である。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「しみじみと飲んでと願う蜆かな」
(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

「しじみ汁体に染みるしみじみと」
(ペンネーム「カープボーイ」さん 17歳)

「シジミ汁しみじみ飲めばしみじみと」
(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)

今回は3句をご紹介。
どれも「しじみ」と「しみじみ」の響きを楽しんでいる句です。
最後の句「中七下五」などになると、八代亜紀さんの「舟唄」(阿久悠さん作詞)の一節そのものですね。
このような言葉遊びも楽しいものですが、さらに深い世界が俳句では表現できるので、その境地を目指して頑張りましょう。

入選句

特選

・朝靄の大あくびする蜆汁(ペンネーム「かぶきもの」さん 29歳)
→「朝靄・蜆舟」などならかなり平凡であるが、「蜆汁」で部屋の内外となり少し奥行きが出た。中七が安易な表現で惜しく全体的につきすぎであるが気分がよく出ている。

・黒鍵の浮かぶ夕日や蜆舟(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→全体的に整理されていないところが惜しいが、モノに託して自分らしく詠んでいるところが大変よい。この方向で。

・蜆貝銀河の音の時計かな(ペンネーム「あや」さん 49歳)
→どうも中七がマンガチックでおしい。厚みがほしい。この方向でいいのであるが、もう一歩突き抜けてほしい。どうアドバイスすればいいか私の課題でもある。

・防風林伸びゆく影や蜆汁(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→最近ぐんと力をつけてこられた。「モノに託す・イメージの重なりを避ける」に留意されている様子である。少し素材が平凡であったがなかなかでこの方向でよい。

・メレンゲのつの萎えている蜆貝(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→宇宙は広いのに「台所」の風景ばかりを熱心に詠んでしまい惜しい。しかし最近モノの世界に入ってきていて頼もしい方の一人である。次回は飛躍ある句を期待したい。

・高圧線吸い込まれゆく蜆川(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→なかなかの句。空と川の対比も効いているが中七で少し崩れた。実感に乏しいか表現が熟していないかのどちらかであろう。意図とは異なるであろうが素材はよいので「高圧線横抱きにして蜆川」など、しっかりと詩に昇華したい。

・銀河の底さらい続ける蜆船(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→「底さらい続ける蜆船」これはあたりまえのことである。何の底か「銀河」、つまり一ひねりの句なのである。言葉は美しく詩的で意味もよくわかるのであるがそれ故浅いのである。句の表面の美で勝負するのではなく、言いたい事をモノを通して詠みあげ、句からイメージされる世界で勝負したい。次回を期待したい。

・蜆漁はがね色なる鏡沼(ペンネーム「みなと」さん 女性 74歳)
→なかなか中七に実感が出ているが、「漁・沼」ではつきすぎであろう。そこを攻めてほしい。

・しじみ貝極彩色の陽明門(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→よく一物仕立てだとか取りあわせだとかいうが、俳句は実感ある世界が何より大事なのである。この句の場合、単に取りあわせたという以上のものを感じない。そこを攻めてほしい。

・宍道湖の色を吐き出すしじみかな(ペンネーム「テッちゃん」さん 男性 79歳)
→なかなかの句であるが、どうにも中七がもう少し。「吐き出す→しじみ」の関係があたりまえで弱くした。「宍道湖の色抱えたる蜆かな」などであれば、もう一段奥深さがでそう。

・蜆船天を横切る飛行雲(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん)
→「天・雲」がつきすぎであるが、「蜆舟・飛行雲」の素材は詩になりそうである。この方向で。

入選A

・しじみ汁奥歯で立てし風の音(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→出来事を詠んだ分弱くなり惜しい。言いたい事をいうのにモノを通すのが他の詩との違いである。そこを攻めてほしい。

・しじみ汁沸き立つ湯気は母の愛(ペンネーム「分数大好き」さん 34歳)
→「上五中七」を「下五」で種明かししてしまって惜しい。手品の仕掛けではないが「母の愛」などは、句の奥にしまっておく方がいい。直接表現をさけてモノのキャスティングを意識されたい。

・ふるさとの夜空を描くしじみかな(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→意味にとらわれて全体的に説明的になったのが惜しいが、気分がよく出ている。

・立ち昇る味噌の香りけふ蜆汁(ペンネーム「マコたんビーム」さん 36歳)
→出来事を省略して詰め込み窮屈になり惜しい。まだ「立ち上がる味噌の香りや蜆汁」などのほうがよい。また俳句では現在使われ将来も使われるであろう表記を選択したいので、現代仮名遣いをお勧めしたい。

・ばあちゃんの小さくうつるしじみ汁(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→全体的に甘く類想も多そうな点が惜しいが、何より実感が感じられてよい。それが詩の命である。次回はそれをオリジナルな観点にもっていきたい。

・首かざり潮の香りの蜆拾い(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→全体的に甘くつきすぎで惜しい。詠んで意味が分かる句はわかる故に浅いのである。素直な詠み方はよい。

・蜆汁人口が減るニュース聞く(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→この句もやはり出来事の句で惜しい。上五と後半の関連に実感がどうも乏しい。早くモノ句の世界に入ってきてほしい方である。

・オーディション通過した日や蜆汁(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→出来事の句で惜しい。モノに託して詠みたい。素材からの再考が必要。

・扇形艶やかな黒蜆汁(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→蜆を説明しただけでそれ以上の深みが全くなく惜しい。またたどたどしい散文で痛々しい。宇宙は広いのに蜆ばかりに目が行っているので心が窮屈である。モノに託してのびのび詠むようにしたい。

・かぷかぷと蜆が嗤い砂を吐く(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
→すべて「蜆」に収斂されて惜しい。読者は「蜆」を説明してほしいのではなく、作者が「蜆」を通して世界をどう見ているかを感じたいのである。そこを攻めてほしい。

・一筋の涙曲がりしシジミかな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→今回の句は観念的で惜しい。モノにしっかり託して実感ある世界を詠みあげてほしい。

・大橋を一緒に渡る蜆舟(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→中七が平凡で惜しいが、モノに託して詠む姿勢はよい。この方向で。

・しじみ汁やさしさ運ぶ母の味(ペンネーム「ここしお」さん 50歳)
→すべてが「蜆汁」に収斂され惜しい。「母の味」などは直接言わないほうがいい。宇宙は広いので「しじみ汁」から飛躍して詠みたい。

・唐橋の雨音沸かす蜆かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→全体的につきすぎで惜しい。

・朝未だき蜆桶からシンフォニー(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→出来事を省略して詰め込んだコト句で惜しい。モノ句へ転換したい「蜆桶拾い上げたる楽譜かな」など。

・しじみ汁針の歩みを遅らせて(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→中途半端な表現が惜しい。同じように時間をモノに託すのでも「しじみ汁ゆっくり回る地球かな」などとしてみたい。

・すれ違う新幹線や蜆舟(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→どうも感動が伝わってこないのが惜しい。そもそも実感のある世界を詠んでみてほしい。

・母しのぶ潮の香りのしじみ汁(ペンネーム「キートン」さん 60歳)
→「母しのぶ」など直接的な表現が惜しい。それを避けて詠むようにしたい。

・軽トラの声待ちわびてしじみ汁(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→何のことかよくつたわらず惜しいが「軽トラ・しじみ」はなかなかの素材。「軽トラの腹まだ熱き蜆かな」など。

・星屑が海に潜りし蜆かな(ペンネーム「俳句夢中おじさん」さん 63歳)
→説明的で惜しい。読者は説明してほしいのではなく感じさせてほしいのである。そこを攻めてほしい。

・故郷の味噌の香りのしじみ汁(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
→すべて「しじみ汁」に収斂され惜しい。ここから句にしたい。「ふるさとの鉄塔見えて蜆汁」など。

・蜆掻き竜宮城も浚いゆく(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→散文では句にならないので韻文にもっていきたい。「竜宮城拾い上げたる蜆かな」など。

・水鳥もジオラマのごと蜆漁(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→「水鳥」は冬の季語であるがそれは問題ではない。「も」が説明的で重いのが惜しい。「ジオラマの鳥のかたちの蜆舟」など。

・夕暮れや影絵のごとく蜆船(ペンネーム「おちえもん」さん 男性 69歳)
→比喩が効果的な場合とそうでない場合がある。効果的なのはやはりオリジナルな場合で月並みな比喩だと句が弱くなるので注意が必要である。「蜆舟くりだしてゆく影絵かな」

・川岸に迫るビル街蜆舟(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→川岸が不要である。「摩天楼ぶつかってゆく蜆舟」など大胆に詠みたい。

・懐かしき宍道湖の宿蜆汁(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→「懐かしき」と心情吐露したのが惜しい。素材を活かすなら「宍道湖のほとりの宿や蜆汁」くらいか。

・蜆採り掉さす空に千切れ雲(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→句が渋滞していて惜しい。「蜆採り棹さしこめる空の色」など、素材を整理したい。

・ゆらゆらと川上りゆく蜆舟(ペンネーム「遊泉」さん 73歳)
→すこし平凡で惜しいが軽い詠み方が味わい深い。

・満ち潮と砂の声聞く蜆船(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→理屈っぽくて惜しいが、句になっている。次回はもっと飛躍したい。

・味噌の香や湖畔の宿の蜆汁(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
→世界が平凡で惜しいが句になっている。次回はもっと飛躍したい。

・朝霧で墨絵のごとし蜆とり(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
→平凡で惜しいが句になっている。次回はもっと飛躍したい。

・宍道湖の朝の始まる蜆採(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→平凡で惜しいが句になっている。次回はもっと飛躍したい。

・しじみ汁太平洋をいとまごい(ペンネーム「ワイ」さん 53歳)
→下五に自己主張が強く出すぎで惜しいが、大きく詠もうとする姿勢はよい。

・蜆売澄んだ空気に通る声(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
→「蜆売り」を説明してしまっていて惜しい。すべて「蜆売」に収斂されるので、後半はそこから飛躍したい。

・上り線夕日手に乗せしじみ舟(ペンネーム「華みづき」さん)
→中七の表現が熟してないが、なかなか実感のある。この方向で。

入選B

・悩める子口をパクパクしじみかな(ペンネーム「たなばたちゃん」さん 21歳)
・沈んでるしじみ数えて元気だす(ペンネーム「金柑」さん 21歳)
・しじみ汁宿酔飛ばす小宇宙(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・夢に見る田螺と逢瀬蜆かな(ペンネーム「ともママ」さん 30歳)
・蜆様呑んだら頼るあなただけ(ペンネーム「マーフィーママ」さん 39歳)
・泥臭いプレーで勝る蜆かな(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
・蜆汁飲みほす舌に蜆くる(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 46歳)
・虫が付くしじみをじっと見つめる子(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・吾子思いみそ汁の底干し蜆(ペンネーム「たいの まこ」さん 50歳)
・常連と啜る女将のしじみ汁(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
・赤子抱く娘のお膳にしじみ汁(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
・母さんが蜆つまんで笑ってる(ペンネーム「桐山榮壽」さん 60歳)
・しじみ汁未来永劫味わえる(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・大空よなまりなれたかしじみ汁(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・ごしごしと背中こするや蜆採り(ペンネーム「匿名じいさん」さん 72歳)
・その底に小石の混じる蜆船(ペンネーム「かりん」さん 74歳)
・しみじみと縮みちぢみて蜆かな(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
・水門の内は蜆の墓場かな(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)

選者詠:谷村秀格

・大ぶりの蜆居すわる童子かな
・うつしき夢病んでいる蜆舟
・しじみ汁ななめに冷える浄土かな
・子蜆のわきつづけては神の足
・纏いゆく手足重たき蜆かな
・しんがりに嘘まぎれこむ蜆汁

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年4月21日(金)

第46回 お題「燕」(選と評 谷村秀格先生)
総評

私は人生を通して書も俳句もかなりの寡作(作品が少ない)である。
その理由は感受性の乏しさ・記憶力のなさ・横着さによるものである。
俳句は詩であり詩は芸術であることに異論はなかろうが、その親は「感動・衝動・実感」である。
ある程度正直に生きているつもりであるが、「感動した・発見だ」と思えるようなことは、ありそうであまり多くない。
あったとしても出会いや別れなどは感情的になりすぎて作品にならないし、日常ふと気づいた些細なことは、記憶の悪さとメモをとらない横着さですぐに忘れてしまう。
芸術家の端くれでありながら困ったものである。

一方で、息を吐くように作品を生み出せる人がいる。
長年それが不思議でならなかったが、最近ある方と話しをしていて合点がいった。
特に俳句は(1) 五七五(2) 季語という条件が満たされていれば一応成立するので、パズルのように言葉をあてはめてみたり、五七でつぶやいて残りの五音に適当に季語を足すなどの作り方をするそうである。
私もやってみたが、1分もしないうちに俳句の抜け殻のような句が2・3すぐできた。
30分もあれば100句ぐらいすぐできそうである。
・今日あたり君と会えそう(つぶやき)つばくらめ(季語)
・手をつなぐ君の笑顔や(つぶやき)燕くる(季語)
・新しき服をきてゆく(つぶやき)初燕(季語)

俳句の楽しみや作り方も人それぞれといえばおしまいであるが、これはつまり「俳句形式の恩寵(おんちょう)・おこぼれにあずかる作句態度」で感心できない。
これは俳句入門でもなんでもなく、取りあわせの悪い用い方である。
「仏つくって魂入れず」ということわざがあるが、その典型である。
中国最古の詩篇『詩経』の大序に「詩は志」とあるが、このような志の低いことでは詩としての俳句の未来はどうにもならない。

私はよく学校などに指導にいく機会もあるが、このような「形式の恩寵・おこぼれ」を利用するような指導は決して行わない。
芸術の親はあくまで「感動・衝動・実感」であるので、とにかくそこからこみ上げてくるものをぎこちなくとも表現してみることを勧めている。
時には、モノをしつこく観察したり、瞑想したり、歩きまわったり...。
「無意識からの実感ある世界をばかばかしいと思わずに掬い取ってみること」に心血を注いでもらうのである。
生みの苦しみとはこういうもので、このような経験こそが血となり肉となるのである。

さて、今回の「燕」であるが、全体的に常識にとらわれた発想が多く残念であった。
皆さんの天敵は自身の「先入観・固定概念・常識・意識・世間体」であろう。
そこをどうクリアしてゆくか課題である。新しい方からのご応募もお待ちしています。

大賞

「つばめ来る潮の香りの転校生」(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

季語は「つばめ来る」である。
「つばめ」だけでも「来る」イメージはあるが、わざわざ「来る」と動詞づけしたところに、日本に住む人々の「つばめ」に対する「強い期待感」が見て取れる。
南の国から満を持してやってきた益鳥「つばめ」と「転校生」を重ね見た句であろう。
「つばめ」の強い期待感や喜びと「転校生」のそれがよく調和しており、「モノのキャスティング」の上手さが光っている。
さらに「潮の香り」という「実感」をしっかりと詠み込んであることで、「さわやかさ・明るさ」などという「転校生」のリアリティがよく伝わり、読者を引き込み共感を生む。
どことなく「長身で文武両道の男子生徒」がイメージされる。
句の舞台は基本的に教室であるがそれに限定されず、「転校生」の背後に仏の後光のように「青空」「広い海」などの風景が重層的に立ち上がってきて美しい。
これも「つばめ・潮の香り」などの複合的な効果であろう。
俳句観にもいろいろあるが、「出来ゴト・日記・シナリオ」的な要素を「足し算や引き算」によって「17音に詰め込む」という方向は感心しない。
俳句は短歌とは全く性質が異なるので、長さが足りない分、どうしても舌足らずでぎこちない表現になってしまうからである。
しかしながら、どうしたことか世の中は短歌モドキのような「コト句」のオンパレードで嘆かわしい。
俳句のような短い定型詩では、「モノのキャスティング」、「モノの掛け算(提示)」によって、シナリオをイメージさせ、一瞥で世界をとらえる「モノ句」の方向を目指したいし、そのほうが、世界最短の定型詩としてのパワーが生かせるはずである。
作者は、若いながらも言葉の美に溺れることなく、俳句形式の本質に迫った立場で句を生み出しており素晴らしい。
提示よりも伝達にやや重きを置いている現在の甘さを克服すれば、将来期待される俳人にはわけなくなれるであろう。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句は出来事の省略(伝達)ではなく、モノの掛け算(提示)。

入賞

「タンカーを横切ってゆく初燕」
(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)

「初燕」のやってくる海辺の様子を詠み込んだ句である。
この句の見どころは「初燕」の軽やかさを、重厚な「タンカー」との対比によってより引き出しているところ。
もっといえばこの「タンカー」と「初燕」の関係は、「重・軽」の対比にとどまらず、「大・小/遅・速/人工・自然/海・空」などの対比をも生み出しており、それらのイメージを重層的に立ち上がせて、句の深いところで、宇宙の調和を感じさせてくれているところが見事で共感をさそう。
句の表面のシンプルさに比して句の背後の詩情が豊かな「つかず離れず」の一句である。
俳句で「説明」は嫌われるが、読者というものは説明してほしいのではなく、この句のように「感じさせてほしいもの」なのである。
「中七」がやや先入観にとらわれた安易な表現で惜しく、一歩踏み込んだオリジナルな実感を掬ってほしかったが、この句も大賞句と同様に「モノのキャスティング」が光った象徴的な一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
読者は句で「説明してほしいのではなく、感じさせてほしい」存在。

「つばくらめ忘れ物した映画館」
(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)

総評で多作について触れたが、多作の作者である。
以前、「自分で五句前後に選句して投句することも勉強だ」とお勧めしたところ、それをきちんと守って応募されている礼儀正しい方である。
多作の方にとって句を捨てることはつらいことであろうが、自身で句を選ぶプロセスを通して気づくこともあるはずで、それを将来への栄養にしていただければと願う。
やはり習いごとは何事も素直さが大事で、その先に未来があるのである。
句であるが、「つばくらめの季節に作者が映画館で忘れ物をした」という解釈が普通であろうが、「つばくらめが映画館で忘れ物した」とも解釈できる。
言葉の斡旋で見てみると「つばくらめ→忘れ物した→映画館」というふうに、上五中七の関係性に緊張感(非日常感)が出ているので、ここでは後者でとっておく。
どことなく、子どもの頃によんだオスカー・ワイルドの『幸福な王子』という小説(王子の像が燕を介して苦労人に自分の体の宝石や金箔を与えていってボロボロになり、ツバメはその手伝いで南へ帰りそびれて凍え死ぬが、二人は天国へ運ばれる)の燕などが思い起こされる。
「つばくらめ」が一体何をもっていて、何を忘れたのか、なぜ映画館にいたのか、象徴的な句なので解釈はさまざまであるが、かしこい鳥のイメージのツバメがうっかり忘れ物などをすることは考えられないし、その舞台が映画館であるということを考えあわせれば、作者のなんらかのもの悲しい心情を察して「つばくらめ」が忘れ物のふりをしてふいにハンカチをおいていったような、そんなイメージが湧きおこる。
いずれにしてもこのような象徴的な句をむやみに解釈すると、それだけで句が痩せてしまうのでこの程度にしておくが、「つばくらめ」の単なる明るさ・さわやかさではない「やさしさや人間的な一面」を垣間見させてくれたそのオリジナリティーが見どころであり、見事な点であろう。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
テーマの固定概念にしばられず、実感を詠む。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「カップ麺の巣から飛び立つ燕の子」
(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)

「カップ麺の巣」とはどういうことかな??と思い、作者のメッセージを詠んだのですが驚きました。
以下、作者のメッセージを抜粋しまとめてさせていただきます。
「数年前玄関先にあった燕の巣がカラスに襲われ崩壊しました。
巣から落ちて生き残っていた1羽をどうしようか動物園に電話で尋ねました。
すると『カップ麺の容器を巣のあったところに取り付け、雛を入れて親が来るのを待ってください』とのことでした。
親が来なければ諦めるしかないそうです。
1時間くらい見守っていたら親と思われる燕がきて、雛に餌を運んでくれるようになり、数日後無事に巣立ってくれました。
とても感動した出来事でしたが、その後我が家には燕は巣を作らなくなりました。」
燕の巣が壊れた・壊されたとき、そのような対処方法があるのですね。
句ですが、解説を詳しく聞かないとよくわかりませんから、やはりこのような出来ゴトを省略した句(コト句)は避け、モノをデンと据えたモノ句を目指すようにしたいですね。入賞めざして頑張りましょう!

入選句

特選

・襟足の四寸伸びて初燕(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→「襟足・燕」のイメージは少しつきすぎだが、なかなか気分のよくでた句。詠み方もポイントをしぼって軽くてよい。この方向で。

・初つばめドキドキ入る純喫茶(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「初・ドキドキ」がややつきすぎだが、実感がよく出た句で面白い。

・看護婦の一匙大きつばくらめ(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→全体的に詠み方は上手いのであるが、つきすぎが苦しい。俳句はシナリオではなくモノのキャスティングなので、出来事を省略して詠むような方向を改めたい。

・曼荼羅の飛び出してくる燕かな(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→「飛・燕」はつきすぎで惜しいが、応募句ではこれがよい。この方向で。

・つばくらめ表彰式は父と行く(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→ムードのよく出た句。実感がよく出ていてよいが、出来事を句にするような方向は避けたい。

・ウインチを巻き上げし音燕来る(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→何度かの投句から、私の俳句観について学ぼうとされる姿勢がよく伝わる。「ウインチ・巻」はつきすぎであるが、素材を活かすなら「ウィンチを巻きあげている初燕」「ウインチの巻きあげられて初燕」などのような軽い詠み方のほうがよい。

・初燕実家の母のEメール(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→モノに即した詠み方でなかなかの好句。この方向で。

・新鋭のパティシェの店つばめ飛ぶ(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→詠み方も上手くよく伝わが、それゆえもう一歩なのである。常識から飛躍したところを詠んでゆきたい。

・しゃべり行く学生服や初燕(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→「しゃべり・燕」はつきすぎであるが、詠み方は上手い。

・鋭角に雲を切り取る燕かな(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→ほぼ入賞であったが、類句類想の多そうな句で挙げにくかった。中七のような実感・詩的真実を大切に、次回に大いに期待したい。

・つばくらめ奥歯で割れる金米糖(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→どうもこれは離れすぎであるが、慣れた詠み方がよかった。

・てっぺんで喋りまくるや初燕(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→「燕・喋・てっぺん」とつきすぎだらけであるが、ここまで堂々と詠めるのは、これはこれで実感がある証拠である。この豊かな感性を先入観や常識にとらわれない方向で発揮されることが入賞への手がかりであろう。

・塗り替えし壁の白さや初つばめ(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→この句も入賞候補であった。白の実感がよく効いていて句の雰囲気にあっている。この方向で。

入選A

・燕の巣銘店探して路地裏へ(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
→どうも出来事よりの句でいただけないが、軽い詠み方がよかった。

・初燕同じ名前の寺探す(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→毎回詩心が十分にあることは見て取れるのだが、詩・短歌と俳句形式との間にある大きな違いに気づいていただきたいのである。そこさえつかんでいただければ、すばらしい句を生み出せる方だとお見受けする。キーワードはシナリオではなく、モノのキャスティングである。

・初燕ただ欠伸する熱帯魚(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→最近少々不調。誰にでもそういうときはある。総評にも書いたがどのような作り方でも一番大事なのは実感・感動・衝動なので、そこに正直に作句をすすめられたい。揚句は少し離れすぎであり作為的な印象。「熱帯魚のびきっている初燕」など。

・つばくらめ太陽浴びて空を飛ぶ(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→うれしいかなしいなど言わなくなったのはいいが、やはり直接表現やつきすぎに陥りやすい人である。「つばくらめ・太陽・空・飛ぶ」すべて「つばくらめ」に収斂される。「つばくらめ」といって連想されるすべての物は句に取り込むことはさけるようにしたい。それがコツといえばコツである。

・半衿を掛け替えており軒燕(ペンネーム「こうふく堂」さん 43歳)
→このような伝統的な作句方向でもいいのであるが、この句のように平凡に陥りやすいのが欠点である。どう非日常性を詠み込むか。それが課題であろう。

・十字路に白檀の風軒燕(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→「十字路・白檀・風・軒燕」自分の中では句が完結しているのであろうが、モノが多く詠み方がぎこちない。句中の素材を活かして詠み直したい。「十字路の左右あかるき軒燕」など。

・子燕や碧海臨む時計台(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→どうも平凡で作り物っぽいところが惜しい。実感・発見を詠みたい。「時計台の針やわらかきつばくらめ」など。

・燕シャッと切り裂く瀬戸の海(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→「つばめ・切・海」はつきすぎである。「燕」からイメージされるものは「燕」が引っ張ってくるイメージの範疇なので、それ以外のモノを詠み込むようにしたい。

・有給の夫の見てる軒つばめ(ペンネーム「大福ママ」さん」さん 53歳)
→事実なのだろうが「有給」があまり効果的に働いておらずただゴトに近くなっているところが惜しい。
俳句名人に一番近いところにいる一人であるが、あせらずオリジナルな実感ある世界を詠っていってほしい。

・つばくらめオセロゲームの有段者(ペンネーム「「雅」(みやび)」さん 54歳)
→下五がどうにも安易である。「つばくらめ・オセロ」はなかなかつかず離れずの関係。よい発見である。

・廃屋の声呼び覚ますつばくらめ(ペンネーム「くるみグマ」さん 61歳)
→観念的なところが惜しいが、作者の中に熱い詩心があることは見て取れる。あとは俳句形式への慣れであろうか。過去の入賞句など味わって感じを掴んでもらいたい。

・親燕鳴く雛を背に雨の中(ペンネーム「釣りキチおじさん」さん 62歳)
→語りすぎというか説明的というか出来事の句で惜しい。モノのキャスティング(提示)という感じをつかんでほしい。

・燕来て廃線に戻る子らの声(ペンネーム「俳句夢中おじさん」さん 63歳)
→この句もモノのキャスティング(提示)ではなく、シナリオ(伝達)に重きを置いた作り方で惜しい。
このような人は、ここから句の素材を活かして意味にとらわれず作りなおすとよい。「廃線を行く少年やつばくらめ」など。

・初燕琵琶湖をゆらすほどのもの(ペンネーム「うり・ピーママ」さん 68歳)
→下五が中途半端である。無理にどうこうしようとするのではなく、素材を活かして素直に詠み直してみたい。「つばくらめゆさぶっている琵琶湖かな」など。

・遊園地我がもの顔の燕かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→俳句は中七で崩れることが多いが、この句も中七が言い過ぎである。このように直接いわず表現したいのである。「遊園地縦横無尽の燕かな」など。

・留守多き駅の交番つばめ来る(ペンネーム「かりん」さん 74歳)
→全体的に説明的になところを避けたい。

・進水の五色のテープ初燕(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→どうもおとなしいので、思い切った句を望みたい。

入選B

・子が並び心惹かれるつばくらめ(ペンネーム「めい」さん 21歳)
・親燕人もセカセカ陽はゆらゆら(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・あつい夏青いツバメを鯉は超す(ペンネーム「分数大好き」さん 33歳)
・初燕声うらがえる得意先(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
・燕見上げつぶやくおかえりと(ペンネーム「あずき」さん 38歳)
・つばめ君友がお好きで懐かしい(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・雨上がり燕横切る猫の夢(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
・高く飛べ。我が子遠足心待ち(ペンネーム「広島はまたく」さん 43歳)
・ツバメ自慢おいらの家はスカイツリー(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・チッチチッチ夫婦燕に差し出す手(ペンネーム「たいの まこ」さん 50歳)
・軒下を平和と決めたつばくらめ(ペンネーム「やんちゃん」さん 55歳)
・初燕でんぐり返しで挨拶す(ペンネーム「sora」さん 57歳)
・虹のなか燕まわって一休み(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
・風神と燕のくぐる流れ橋(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・つばくらめ大空旋回さくら狩り(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・ただいまと巣から顔出すつばくらめ(ペンネーム「浮いたか瓢箪」さん 63歳)
・天を舞う幸せ燕に願かける(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・激流のしぶきキラリと燕飛ぶ(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・軒下から今年は巣立つか燕の雛(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・今年また戦場アリアのツバメたち(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・初ツバメ衣一枚薄くなり(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・古希の旅今年も来たよつばくらめ(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・立札の頭上注意や軒燕(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・母の居ぬ軒に今年もつばくらめ(ペンネーム「音爺」さん 70歳)
・廃線とともに廃車すつばくらめ(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
・南風と返信届けに燕来る(ペンネーム「柿原」さん 72歳)
・つばめ二羽一筆書きを山麓に(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・燕きて祝膳うれし疚後かな(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
・飛行ショー燕も負けじ宙返り(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・黄嘴のかしまし燕巣立ちかな(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・子育てに育メン顔のパパ燕(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
・残雪を飛び越えてくる初燕(ペンネーム「tokusann」さん 82歳)
・来て嬉し巣立って嬉し燕の子(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
・新築の軒でエチュード福燕(ペンネーム「華みづき」さん)
・ツバメの巣くだいて知った父の縁

選者詠:谷村秀格

・英国の鏡いろづくつばくらめ

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年4月7日(金)

第45回 お題「花」(選と評 谷村秀格先生)
総評

テレビ派・俳句道場のコーナーは4月から金曜日の放送となりました。
あなたの新年度からの新しい趣味のひとつとして「句の背後の詩情のスケールや豊かさを重視する」宇宙流俳句に挑戦していただければ幸いです。

また、今回から新しい試みとして、「がんばれ」コーナーを設けました。
これは、入賞にとどかなかった方の中から、詩情には乏しいけれど思わず「ユニーク!」と感じた句などを紹介させていただくもので、入賞へ向けて頑張っている方々を応援するコーナーです。
今までの放送では入賞3句のみの紹介でしたが、今回から全部で5句程度紹介できる計算です。
「がんばれ」コーナーに紹介された新人の方などが、今後どんどん詩情豊かな奥深い宇宙流の世界に入ってこられ、入賞に上がってゆくことを願います。

今回は「花」がテーマ。
新年度ということもあって新しいお名前も沢山拝見し、うれしかった。
句のほうであるが、さすがに「花」は、日本に住む人にとっての先入観が強いものらしく、月並み・平凡な句が多くて残念であった。
課題であるが、先入観にとらわれず、ピュアな視点でモノを見つめてみたいものである。

また、道場ではテーマの厳密性より句の詩情を優先しているが、「花」はお題の紹介のときに放送でも言ったように「桜」のことなので、「花瓶・花まつり・花ソーセージ・花束」などの句は、さすがに「花」のテーマから離れすぎているので、今回は選外にさせていただき、「桜」あたりまでで句になっているものを採った。

いよいよ新年度、火曜日の放送をご覧頂いていた方も、金曜日の放送をご覧いただいた方も、まずはお気軽に無意識からの表現を送ってみていただければ幸いです。
「次回のテーマは燕(つばめ・つばくらめ・初燕・軒燕など)」
あなたとの新しい出会いをお待ちしています!

大賞

「夕方の雨の音する花の幹」(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

「花」というのはご存じのように桜のことであるが、「花」という響きのほうが少し華やかなイメージである。
多くの人は「夕方の雨の音する/花の幹」と軽い切れがある句と解釈するのであろうが、そうすると、「夕方雨の音がし、目をやれば桜の幹が目に入った」というありふれた句になり、浅い。
そうではなく、上の部分すべてが「幹」にかかってゆく連体修飾の句として解釈したい。
そうすると、「桜の幹から夕方の雨の音がしている」という「詩的真実」の句になり、一気に深みが増す。
作者は「花の幹」に耳をやり、幹の内部に降り注ぐ夕方の雨の音を感じた。
なぜ「花」をめでるではなく「幹」に耳をやったのか、なぜ「幹」の中には「夕方の雨」が降り注いでいるのか、読者をひきつける。
いわば「花の幹」は作者の外にあるモノではなく、それと一体となった作者そのものであり、「夕方の雨」は、作者の切実な内面なのである。
冷たく降りしきる夜の雨に向かう作者の「今」、それは、新しい何かへの挑戦なのか。
よい結果にならないとわかっていながらも進んでいかざるを得ない作者の心境なのか。
いずれにしても、女性としての生き方を模索する十代の作者特有の繊細な感性や生きざまが見て取れて共感を生む。

言葉の関係性に着目してみても、この句の優れた点が見てとれる。
下図、1.「夕方の雨」くらいまでは平凡で、このままいくと単なる日常の風景で終わりそうであるが、3.4と下に向かうほど緊張感が生まれている。
これは、「夕方の雨」を「降っているコト」ではなく「音」でとらえていること。
またその「音する」のが「花」であること。
そして、それらすべてを句の最後「幹」の連体修飾としていること。
さらに、「幹」のあとには名詞止め(体言止め)による余韻が働いていることなどがあげられよう。
この関係性によって、ありふれた日常の言葉をつかいつつも快い詩的な高揚感がもたらされており、見事である。
1. 夕方の→雨
2. 夕方の雨の→音する
3. 夕方の雨の音する→花
4. 夕方の雨の音する花の→幹

また、この句の中心である「花」と他の言葉をイメージの対比で分析してみても絶妙である。
下図のように、どの語とのイメージの関係も「つかず離れず」になっている。
また、「花」は一般に「女性的」なイメージであるが、「幹」となると「男性的」でもあり、一句を通して知恵の輪を解いているかのような複雑なイメージの世界に誘ってくれ飽きない。
・「花」といえば一般的に「明るい」イメージであるが、「夕方」
・「花」といえば一般的に「晴れ」のイメージであるが、「雨」
・「花」といえば一般的に「視覚」のイメージであるが、「音」
・「花」といえば一般的に「花びら」のイメージであるが、「幹」

「楽しい、愉快だ、きれいだ」という句の世界もあろうが、やはり道場で頑張る皆さん、特に若い方には、掲句のようにしっかり生きているところが見て取れる句というものを目指してほしい。
文句なしの年度最初の大賞句である。
大賞おめでとうございます!次回もぜひチャレンジください!
<作句のポイント>
言葉の関係性に敏感になる。

入賞

「花の山始発電車のベルの音」
(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)

「花の山」とは桜の咲き誇る山のことである。
「ベルの音」といえば、春日八郎さんの「赤いランプの終列車」や三橋美智也さんの「哀愁列車」を連想するが、それらとは対照的な勢いのある句である。
地方の桜の名所のような「花の山」と、それにほど近い駅から聞こえる「始発列車のベルの音」が実に元気がよく、春の華やかな気分やわくわくする気分が過不足なく詠み込まれていて上手い。
「花の山」に向かって一気に突きすすんでゆくかのような迫力がある。
しかし惜しい点もそこで、そのストレートさが句を浅くしているともいえる。
咲き誇る「花の山」と、進みだす「始発列車」のイメージが重なっている感じも受けるので、作者の気分には合わないかもしれないが、「花散るや」などのほうが句の背後のイメージのバランスはよさそうである。
音に気持ちを託した印象的な一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
イメージの重なりを避ける。

「廃校の庭の余白に花吹雪」
(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)

人口減少で各地で学校の統廃合が進んでいるようである。
「廃校」となった学校を訪れたとき、ふと目にした光景だろうか。
特に感傷的になるでもなく、モノに託して詠んであるところが上手い。
「庭」は校庭なのか庭園なのか、いずれにしてもその一角だけに「花吹雪」が舞っている、その風景がなんとも象徴的である。
この句のポイントは「に」。
俳句において、このような助詞を使うと説明的になり難を感じることも多いのであるが、この句の場合、「余白の存在」にスポットライトが当たっているかのような印象で、他の場所との対比(明暗・陰陽・動静)が鮮明であり効果的である。
たとえば「に」を他に置き換えて比較してみればわかりやすい。
・廃校の庭の余白の花吹雪(平凡)
・廃校の庭の余白へ花吹雪(説明的・意図的)
・廃校の庭の余白や花吹雪(言い過ぎ・月並み)

人間の栄枯盛衰の象徴のような「廃校」と、人の世に関係なく古今なく悠遠な自然を一句に詠み込んだ考えさせられる一句である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください。
<作句のポイント>
主観は客観の奥に置く。

ユニー句 ※入賞に届かなかった句の中からちょっとホッとする面白い句をご紹介!

「花吹雪あちこちで舞うピコ太郎」
(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

世情を上手くとらえた面白い句です。今年はピコ太郎さん大活躍ですね。花見の宴会の出し物であちこちでピコ太郎さんの物まねをされている様子が目に浮かびます。俳句としては「ピコ太郎あちこちで舞う花吹雪」のほうが、ピコ太郎の舞う動きで花吹雪が導かれてくるようで詩情が高まりますかね。次回は入賞に向けて詩情豊かな句を目指してください!

「明日からは収穫三昧花の山」
(ペンネーム「竹原の人」さん 60歳)

句に込めたメッセージを詠むと、なんと私の高校時代の先生からの投句でした!この春に定年退職されたとのことで挨拶句のようなものでしょう。。。すなわち退職後は「収獲三昧」、すなわち「秀格をテレビで見つつ俳句三昧」ということでしょうか!うれしいですね!道場での選句は贔屓できませんが、入賞に向けての投句お待ちしています!

入選句

特選

・花の山膨らみ上がるロールパン(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)
→気分の良く出た句で上手い。中七が上五下五両方にとれる作りである。単なる取りあわせではなく、実感ある世界へ入ってこられることをさらに期待したい。

・逆光の仕事へ向かう花いかだ(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→なかなかの句である。こちらは実感の句である。「逆光の会社・逆境の仕事」としたくなるが、原句のように詠んだところが作者の実感であり支持したい。この方向で。

・花の香や築百年の土間の色(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→カッチリとした詠み方が上手いが同時に惜しいところである。上手く詠もうとすればするほど句を手堅く囲う方向へ意識がゆくので、本物の実感がおいてけぼりになっている印象である。頭でつくらず無意識からの表現を大切にしたい。

・花明かり送り人への手紙かな(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→ややつきすぎで惜しいがなかなか雰囲気の出た句である。このようなモノに託して象徴的に詠む方向へ進まれたい。氏の応募句の多くに見られるうれしい悲しいというような直接的な表現はさけたい。また詠みっぱなしにせず自分で5句程度に選句して出されたい。何度も申し上げるが自作を選ぶこと。それも勉強である。

・四次元の花散る散ると腕枕(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→上五が理屈っぽい言葉の斡旋で惜しいが、「花」と「腕枕」は雰囲気がよさそうである。無意識からの表現を大事にしてほしい。

・花冷えのラクダに長き睫毛かな(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→一見詩的な言葉の斡旋なのであるが、「花冷えの・ラクダ」「長き・睫毛」の関係性がどうも平凡である。またこの句はモノ句(モノに託している)のようでいてコト句(出来事を詠んだ句・睫毛がな長いというコト)の印象である。「花・ラクダ」の関係はよいのでそのあたりで詠み直してみたい。知l着眼点はよい。

・花の香のもたついているアキレス腱(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→「花の香」→「もたついている」→「アキレス腱」の関係性であるが、上五中七はなかなかだが、中七下五が足のイメージで平凡で惜しい。しかし無理に盛り込もうとせず「中七」など軽く詠んでいるところが上手い。この方向で。

・花ふぶき芝へ攻め入るオセロかな(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→「花ふぶき→芝へ→攻め入る→オセロかな」の関係性であるが、この句も下五への展開「攻め入るオセロ」の箇所が平凡で惜しい。オリジナルを詠もうとしている方向はよい。

・ゆらゆらと空のさんぽや花明り(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→やや平凡なところが惜しかったが、軽い詠みぶりが上手い。詠みっぱなしにせず自分で5句程度に選句して出されたい。それも勉強である。

・帯揚げをふんわり締めて花の寺(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→全体的にステレオタイプである点と、「花の寺」に行ったコトをのべたコト句であるところが惜しいが、気分の良く出た句である。

・三万のメガホン揺れる花盛り(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→野球の応援の様子と花盛りを重ね見た句で過不足のない詠み方で上手い。気分もよく出ている。この方向で。

・ひとひらの花に傾くベレー帽(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→「ひとひらの花」と「ベレー帽」にポイントを絞った詠み方が象徴的でよい。イメージの膨らむj好句である。

・花の雲ミニスカートの天使たち(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん)
→中七下五が安易な比喩に取られて惜しいが「花の雲・天使」はなかなか合いそうである。「天使」を比喩ではなく「天使」そのものとして一句仕立ててみたい。

入選A

・花明かり太陽の香の残る膝(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→「花明り」の時間性だけに中七となるのがかなり惜しいが、「太陽の香」は手柄。

・赴任地は花の名所や港町(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→上五中七で「述懐」がとにかくいけない。宇宙は広いのに自分のことや目先のコトだけを述べていて世界が狭く浅い。このような詠み方は宇宙流と対極であり、この道場ではお勧めできない。さらに言えば、「赴任地・名所・港町」すべて「土地」つながりでひどいつきすぎである。もっといえば原句では「花」の存在感が希薄なので、まだ「赴任地の名所の花や港町」のほうがよい。入賞経験者と記憶しているが、このような意味が通るだけの浅い句ではなく、しっかりとした奥深い象徴的なモノ句の世界に入ってきてほしい。

・天と地をひとつに結ぶ花の帯(ペンネーム「俳句夢中おじさん」さん 63歳)
→「帯・結ぶ」「結ぶ・天と地」とつきすぎで惜しい。

・新市街旧市街あり初桜(ペンネーム「夏みかん」さん 68歳)
→上五中七が意図的作為的で惜しい。市街地と初桜で句にしたい。

・学園の水面に写る花もよう(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
→「学園・水面・花」と月並みな素材なので再考したい。

・花万朶齢重ねて見ゆるもの(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→「花万朶」は沢山垂れ下がった桜の枝のことであるが、中七下五の「述懐」表現が惜しい。「花万朶齢重なる指の皺」など、モノに託したい。

・花の山笑っているこぶしかな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→「こぶし」が植物の辛夷か手のコブシかあいまいである。植物の辛夷なら季重なりが気になるので手のコブシとしたいが、怒りの象徴である「こぶし」が「笑っている」となると少々離れすぎのようである。まだ自然に「掌を握りしめたる花の山」などのほうが自然で象徴的である。

・花の舟ゆらりゆらりと我招く(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「花の舟・ゆらりゆらり」「ゆらりゆらり・我招く」とともにつきすぎである。また「招くというコト」を述べたコト句で惜しい。熱心な方なのでこのあたりを早くつかんでほしい。

・花筏風に揺れゆれ外つ國へ(ペンネーム「九十四のバーバ」さん 94歳)
→「揺れゆれ」がどうにも惜しい。俳句は短歌や詩とは一線を画した詩型なので、他の詩から借りてきたようなリフレインや視覚に頼った漢字ひらかなの組み合わせ表現は安易に使用しないことである。要は言葉に溺れないことである。「花筏もつれつつある異国かな」など。

・場所取りに食べ飲みなぜか花づかれ(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
→まだまだ俳句の世界を模索中の方なのであるが、この句は「俳味」が少々出ているところが救いである。いずれにしても「花疲れ」という季語を「上五中七」で説明しているのが惜しい。過去の入賞句など参考に韻文の世界へ入ってきてほしい。何より意味や言いたい事にもたれて作らないことである。

・花の闇塗りつぶしては新学期
→「闇塗りつぶす」「花の闇・新学期」はつきすぎであろう。しかし一句全体がなんらかの実感から始まっている作句態度がよい。イメージの方向をさけつつこの方向で。

入選B

・薄衣空いっぱいの山桜(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・さくら咲き紺の制服バスを待つ(ペンネーム「gingin」さん)
・路地裏の西日を背に負う春の花(ペンネーム「つっくん」さん 38歳)
・花の雨皮膚にくっつく憂いかな(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・花曇り単身赴任の夫帰る(ペンネーム「角森」さん 49歳)
・花便り100年目のワシントン(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 50歳)
・刑務所のダムのようなる花月夜(ペンネーム「狐穴(こけつ)」さん 50歳)
・機関銃ごとく地球に花吹雪(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
・廃校の窓に映して桜花舞う(ペンネーム「ぷろからー」さん 57歳)
・見舞う人見舞われる人花明かり(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
・我が息子目からこぼれる花の雨(ペンネーム「まりりん」さん 27歳)
・立ち止まり花見上げるはスマホかな(ペンネーム「まるたろう。」さん 27歳)
・花明かり泣いていいよね今だけね(ペンネーム「こうふく堂」さん 43歳)
・咲きほこれ花のように開花したい(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・もののけの走り去る風花吹雪(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 46歳)
・耳すまし満開なる空花の雨(ペンネーム「絵未古」さん 49歳)
・花と舞う娘かわいし眺む母(ペンネーム「たいの まこ」さん 50歳)
・花明り龍の背に乗り娘来る(ペンネーム「雅「みやび」」さん 54歳)
・花の雨紫式部絵巻かな(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・花の順色が増えたる日本地図(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
・満開の花夢みつつ千光寺(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
・墨染めの花越しにキス空人と(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
・待ちわびて一輪愛でる花見酒(ペンネーム「パキスタキス」さん 59歳)
・無人駅花ひとひら線路跡(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・団子屋も分け隔てなく花明り(ペンネーム「安田 蝸牛」さん 60歳)
・花の香に小枝揺らすや鳥の声(ペンネーム「釣りキチおじさん」さん 62歳)
・花だより天まで届け孫の夢(ペンネーム「八重桜」さん 66歳)
・見降ろせば架け橋渦巻き花筏(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・きまぐれにサクラ前線龍の道(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・花沸騰空の天女も酔いて舞う(ペンネーム「華みづき」さん 69歳)
・その反りは橋の匠や花の影(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・行く雲や須弥山よりの花だより(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
・花冷えに待ち人遅しコップ酒(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・花月夜踊る岩場の狸かな(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・落花一ひら一ひら土にとどくまで(ペンネーム「田中三四子」さん 76歳)
・花吹雪ほゝにふれるは花びらか(ペンネーム「手打達古」さん 79歳)
・俳句師の虚言妄言花嵐(ペンネーム「阪本竹宏」さん)

選者詠:谷村秀格

・まっとうな花の厚みの無精卵
・花のいろ飼いならしたる右心室
・窯出しの文字少年の花の門
・真言のころがってゆく花朧
・嗅ぎ分ける塔のかなたや花の陰
・東西に鍵穴見えて花埃
・花びらのやや傾きて神父かな
・さめざめと花の燃え出す喉仏
・軽トラや雲竜型の花吹雪
・靴底のまだ新しき花明り

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年3月28日(火)

第44回 お題「春雨」(選と評 谷村秀格先生)
総評

「宇宙流俳句」は、句の背後の詩情スケールの豊かな句、深い句をよしとする。
そのためには、象徴的な手法で臨むことが要求される。
象徴的に詠むためには、目先の出来事や自分の言いたいこと(コト句)ではなく、モノに託して詠むこと(モノ句)が求められる。
芭蕉の言葉でいうならば「ものの見えたる光」である。

俳句道場が始まって一年がたった。
俳句道場では、入賞10回で「俳句名人」に認定されるが、これが当初の予想以上になかなか大変なことで、いまだ現れてない。
沢山の応募句の中から特選以上に入ることはなかなか困難なことで、入賞はたったの三句であるからさらに難しい。
四月からの登場に期待であるが、高段者の方も多く、もしかすると夏までには何人かの名人が生まれそうな予感もする。

俳句道場のコーナーは火曜日でしたが、四月から毎週金曜日になります。
短いコーナーの中で、他の俳句観とは一線を画した「宇宙流」の俳句観を伝えていくのは大変なことですが、コーナーがさらに楽しく親しみ深く、奥深いものになるようマイナーチェンジを行いましたので、春からの新しい「俳句道場」をどうかお楽しみに!
いよいよ四月、新しいからからの俳句のチャレンジをお待ちしています!

大賞

「春雨や五センチ浮かぶ地球かな」(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)

まず、原句は「や・かな」と強い切れ字が二つあるが、「地球」を強調したいので、「春雨の五センチ浮かぶ地球かな」くらいにしたい。
この場合の「の」は「切れ字「や」の弱いバリエーションとしての用い方である。
この句の何よりの手柄は、「五センチ浮かぶ地球」。
こういう表現を比喩(暗喩・メタフォ)と思っている人は、「春雨が大地にあたってはね返っている様子」を「五センチ浮かぶ地球」と表現しているのだな、と解釈し安心するのであろうが、そうとれば、いかにも浅はかな印象である。
比喩は優れた詩の手法であるが、「五センチ浮かぶ地球」を比喩ではなく、そのまま受け取るところから出発したいし、そのほうが奥行きある解釈になる。
こういうところが、俳句が他の詩の技法ではかたづかない「さらなる何かの詩」であるゆえんなのである。
古来より「春雨」は、仲春から晩春、雨のたび草の芽木の芽をふくらませ、花を呼び、あらゆるものに命を宿らせるものとして人々に詠まれてきたが、こう詠まれてみると「春雨」のパワーというより、「地球そのものパワー」の一部が「春雨」となって湧き出でてきたように感じられ、新鮮である。
詠み方にやや難があったものの、圧倒的なスケール感と生命力をイメージさせる「詩的真実」に平伏さざるを得ない一句である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
何よりも、圧倒的な詩的真実を掬いとること。
その前では、文法や細かいことなど些細なことである。

入賞

「春雨や身体は3分の一魚」
(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)

面白い句である。
句意も明快で、「春雨の実感の中、自身の体の三分の一が魚であることを見出した・魚となった」という句である。
19世紀のドイツの発生学者ヘッケルの「個体発生は系統発生を繰り返す」を思いだす。
これは「ヘッケルの反復説」といわれるもので「とある動物の発生過程はその動物の進化の過程を繰り返す形で行われる」という説である。
「春雨」のやわらかさやその息吹く季節感が、どこか生命や進化の連続を意識させるのであろうか。
「春雨」→「身体」、「春雨や身体」→「3分の一」、「春雨や身体は3分の一」→「魚」、とフレーズの変容(意外性)もなかなかであるし、全体が「つかず離れず」なのは、「雨・魚」は全く違うモノでありながら「水」つながり、「人間・魚」も違う生き物でありながら「進化つながり」であるからだろう。
この句も大賞句と同様に、比喩(暗喩・メタフォ)と思っている人は、「水を得た魚のように雨を喜んでいる自分がいるようだ」などと解釈し安心するのであろうが、そうとれば、こちらもいかにも薄い味わいである。
この句も大賞句同様、そのまま受け取りたい。
すべての生き物をよみがえらせる春雨、その魔力のようなものを詠み込んだ「詩的真実」の句と思えばすんなりと納得がゆくであろう。
細かいことであるが、俳句は縦書きなので「3」は「三」としたい。
また、下五の「散文の切れはしのような舌っ足らずな表現」は韻文の俳句では成立しにくいので留意されたい。
道場初期から真面目に応募されている方であるが、今回は久しぶりにその独特の感性が光った。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
数字でも詩情が出せる。

「春雨や左まわりの風見鶏」
(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)

「春雨の中の洋館の屋根の上の風見鶏」とその動きにポイントを絞った詠み方で、実に象徴的である。
誰しも俳句で「何かを伝えるよう」「いいたいコトを間違いなく表現しよう」と苦心するのであるが、俳句は短いので、何かを「伝える」には言葉が足りず不自由である。
一方、「伝達」を手放した象徴的な詠み方であれば、その短さの威力が逆に発揮される。
私はかつて俳句はキャスティングだと言ったが、「春雨」と「風見鶏」を選択したところに作者の心情が見てとれる。
「左まわりの風見鶏」は、時間の逆送りのようでもあり、なんらかの屈折した心境の象徴であろう。
すべてのものをよみがえらせるやわらかに続くポジティブなイメージの「春雨」の中、「左まわりの風見鶏」に象徴されるおいてけぼりのような作者、季節感とは裏腹に過去を行ったりきたりするような作者の複雑な心境のようなものが感じとれてきて共感を誘う。
モノに託して気持ちを表現した一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句で心は直接表現しなくてよい。
モノとモノの選択に作者の心がある。

入選句

特選

・春雨のまっすぐ届く祖父の家(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→「春雨」と「祖父の家」のキャスティングの平凡さ、「中七のまっすぐ届く」が少しイメージを共有しづらく惜しいが、モノの世界で勝負しようという姿勢がよい。この方向で。次回も挑戦を!
・春雨や行き先滲む乗車券(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→雰囲気ある句であるが、「春雨・滲む」「行先・乗車券」とややつきすぎで惜しい。上五「春風」などのほうが合いそうである。次回も挑戦を!
・春雨やインク匂い立つ朝刊(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→詠みの上手い人なのだが、中七など最近どうも表現のテクニックに溺れている印象である。俳句は短いので作為が目立つと逆効果なのである。モノに即して詠む方向はよい。
・春雨や家族で回る展示場(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→全体がやや平凡で惜しいが、「回る」がよく利いていて、雰囲気の感じられる句である。
・ロッキングチェアに沈む春の雨(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→応募句の中ではこれがよい。「沈む」のが「作者」とも「春の雨」ともとれるが、「作者」の場合いかにも平凡なので「春の雨」ととりたい。ただし私見では部屋の中か外かはっきりしないところがイメージが中途半端なところがおしい。その意味では「春の雨」より「春の風」のほうが合いそうである。何より最近しっかりモノの世界(象徴性)に入ってこられたようで頼もしい。丁寧な感想を感謝。
・春雨の湖面に刻む化学式(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→「~が~に~する」と説明的なところが惜しいが、「刻む」に実感が感じられてよい。
・春雨や海の匂いの祖父の皺(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→「雨・海」、「祖父・皺」がつきすぎなことと、「祖父の皺」がディテールのようで、顔か手かなどポイントを逆にぼかしてしまっていて惜しい。まだ「祖父の顔」などのほうがイメージが湧きやすい。
・春雨や点滴落ちる部屋の中(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→「点滴落ちる部屋」がどうにも中途半端で惜しい。点滴の管が抜けて部屋に直接落ちている風景としては平凡だし、部屋の中で点滴をしている様子としても平凡、つまり「点滴・部屋」がつきすぎなのである。しかし「春雨・点滴」はつかずはなれずなのでそれの素材を活かして「点滴の匂いひろがる春の雨」などとしてみたい。「春雨・春の雨」は厳密には別の季語だが、一句を詩として立たせることが何より肝心。
・春雨やゆっくり歩く名札かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→応募句の中ではこれがよい。大きな時空を表す「春雨」と小さな「名札」のモノの対比がよく合っていて象徴的である。この方向で。
・春雨や虹の根元の娘を思う(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→「虹」も季語であるが、「虹の根元の娘」が何より手柄。無意識からの表現を大事にしたい。この方向で。
・取り敢えず肉を買い足す春の雨(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→「雨なので買い足す」とすぐに読み取れて浅く惜しいが、俳味の利いた軽い詠みがよい。俳句は出来事や気持ちを伝達するものでは「ない」ので、モノに託して象徴的に表現するようにしたい。そこを攻めてほしい。
・春雨の足跡長き喫茶店(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→「足跡長き」が少しイメージが湧きづらいが、気分の良く出た象徴的な句でよい。この方向で。

入選A

・春雨やもやしのひげ根摘む窓辺(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→雨で籠ってひげ根を摘んでいる、とすぐに読み取れ浅く惜しい。要はこの句は出来事をよんだコト句なのである。俳句は言いたいコトを伝えるものではなく、モノをデンとすえて、そのキャスティングでドラマそのものをイメージさせる詩型。そこを攻めてほしい。
・春の雨汽笛が響く瀬戸の島(ペンネーム「こうふく堂」さん 43歳)
→「汽笛・響く」もつきすぎであるが全体的に平凡で惜しい。「春の雨・汽笛」はつかず離れずなので、そこにポイントを絞って「春の雨しみこんでゆく汽笛かな」などと象徴的によみたい。
・春雨や影の吊らるるカタパルト(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→「春雨・カタパルト」は離れているようで、海上・水のイメージでつきすぎ。また中七がどうにもイメージしにくいところが惜しい。応募句の中ではこの句が象徴的なのであるが、どうも無意識からではなく理屈や頭でこしらえている印象である。それはモノの選択がどうも意図的なような気がするからである。自分の感性を信じて自然体で臨んでほしい。
・春雨に濡れペルソナノングラータ(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→ペルソナノングラータは、接受国からの要求に基づいて、その国に駐在する外交使節団から離任する義務を負った外交官のことというが、「春雨・濡れ」、「濡れ・ペルソナノングラータ」がつきすぎで惜しい。自分の世界を作ろうとしているところはよい。
・春雨や町内会の役終えし(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→コト句なのであろうが、なかなか実感があり好句である。印象としては「や」ではなく「の」としたいところ。
・遷宮のすみし大屋根春の雨(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→全体的に雰囲気はあるが、「遷宮のすみし」がいけない。いけない理由は簡単で作者の最も言いたいコトだから。言いたい事は俳句にならないのである。「春の雨出雲大社の柱かな」などのほうが自然であるところを感じてほしい。
・春雨やブルーシートが泣いている(ペンネーム「福山の湊」さん 61歳)
→「泣いている」という直接的な表現が惜しい。俳句では直接的な表現を避け、象徴的によみ、イメージの世界を豊かにしたい。全体的に「雨」つながりでつきすぎのようである。素材から再考したい。
・せせらぎの石に鳥下る春の雨(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→なかなか面白い句であるが、一句を通して「川」に収斂され惜しい。「鳥下る」は手柄。大胆に表現したい。
・春雨にけむる姿やさぎ一羽(ペンネーム「のぶさん」さん 70歳)
→句になっているが、すべて「鷺」に収斂されつきすぎで惜しい。大胆に表現したい。
・春雨濡る秀吉採りしノミの跡(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→気持ちはわかるが、言いたいコトは俳句にならないとあきらめることが大事である。無理に盛り込んでも窮屈な思いをするので「秀吉のノミ跡深き春の雨」くらいか。
・春雨や包む遍路の峠路(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
→「遍路」も春の季語であったと記憶するが、「春雨の着崩れてゆく遍路杖」くらうなら象徴的な句になりそう。大胆に表現したい。
・春雨や番傘の屋号てらてらと(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→「番傘の屋号の太る春の雨」など、もう一声である。
・春雨に手を振る君は向こう岸(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
→だらだらと文章のようにつづいてゆく感じで惜しい。俳句は散文ではなく韻文なので、定型の力を活かしたい。「春雨に手をふる君や○○」などとしたほうが座りがよさそう。
・春雨や第二ボタンと走り出し(ペンネーム「華みづき」さん)
→下五がとにかくいけない。目をつむっても「走り出す」とするところ。「走り出し」とすれば余情になると思われるかもしれないが、その余情はあくまで散文の余情であって、いくらつづく余情のようであっても韻文の余情ではないから本質的に違う。むしろ散文を強調して大きな傷である。「走り出す」なら逆に韻文で特選である。この差を感じてほしい。こういうところが俳句の恐ろしさである。

入選B

・大欠伸猫は爪研ぐ春の雨(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
・片栗粉回し入れたる春の雨(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
・メリケンの春雨たぎる球飛んで(ペンネーム「ブルージャスニン」さん 46歳)
・春雨や思い出話す粗大ごみ(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
・春雨やゆったりくつろぐティータイム(ペンネーム「絵未古えみこ」さん 49歳)
・春雨やフロントガラスの走り書き(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 50歳)
・春雨や老樹の蔭に猫二匹(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
・惜別のグラスに映る春の雨(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・春雨に恋した花々ひとひらふたひら(ペンネーム「ちっぷ」さん 57歳)
・春雨に相合傘の若き日よ(ペンネーム「ゆきんこ」さん 58歳)
・春雨も差し出す傘のなかりせば(ペンネーム「安田蝸牛」さん 60歳)
・春雨や動物園がごとき入学式(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・春雨や草木の根に力水(ペンネーム「釣りキチおじさん」さん 62歳)
・春雨や時代劇のワンシーン(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・兄送り老犬と散歩肩に春雨(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・春雨や梅か杏か揉める道(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・春雨や一期一会の無人駅(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・畳替え運を呼び込む春雨か(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・春雨や現れさうな山頭火(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・春雨や黄色い傘の子らの声(ペンネーム「音爺」さん 70歳)
・春雨に包まれ開く庭の花(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
・春雨や新葉にひとつエメラルド(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
・春雨や謎に迫りし阿修羅像(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
・抜け難し夜着の温みや春の雨(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
・春雨や黄色で並ぶ子らの傘(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・春雨やハッピーエンドの物語(ペンネーム「田中」さん 76歳)
・春雨やつじつま合わぬあのねのね(ペンネーム「真野」さん 71歳)
・春雨や夜空を見上げ命吸い込む(ペンネーム「カーター・ピーナッツ」さん)
・宇宙にはダーツのごとし春雨で(ペンネーム「ワイ」さん)
・pmも素直に平伏す春の雨(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)

選者詠:谷村秀格

・美しき天使その他の春の雨
・春の雨しきりにうたう夜汽車かな
・春雨のたちまちふえる天使かな
・春雨や泳ぎきったるギリシア文字
・春雨の皮膚脱ぎ捨てる都心かな
・春雨や背に傷のあるボールペン
・春雨のうらぶれている耳掃除
・図書館や微熱のごとき春の雨
・春雨の貫いてゆく地軸かな

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年3月21日(火)

第43回 お題「囀」(選と評 谷村秀格先生)
総評

俳句は宇宙を一瞥でとらえる象徴的な芸術である。
そのためにイメージの重なりがないほうがよいのであるが、それをチェックするのに「フレーズ間の変容・意外性」という観点からアドバイスを行ってみたので参考にされたい。

また今回は初応募の方が入賞されたりと大変賑やかであった。
最近の特選以上の句を眺めてもらえばわかるが、皆さんレベルが上がってきている。
何よりモノに即した象徴的なモノ句が多くなり、大変好ましい。
今後の入賞句は、さらに激戦となりそうな予感である。

春という新しい節目、「イメージの世界」を楽しむ俳句に、ぜひ一度チャレンジしてみて頂きたい。

大賞

「囀りにのたうちまわるホッチキス」(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)

「囀り・ホッチキス」というキャスティング、「のたうちまわる」という役者の動かし方に驚嘆した。
掲句は作者によれば「文房具さえも外に飛び出そうとする春の衝動を詠み込んだ句」とのこと。
句の表面の言葉どおりとれば「のたうちまわる」のは苦しみなので、「衝動」とはとれないのではないかという方もおられようが、それくらい強い衝動を詠み込んだ句と解釈できればすんなり納得がいく。
句の深層で、「ホッチキス」に象徴されるすべてのモノが生命力を得て動き出さんとしている様子、ひいては宇宙全体のダイナミズムのようなものを感じさせてくれ、共感を誘う。
真言密教の開祖である弘法大師・空海は、「体あるものはまさに心識を含み、心あるものは必ず仏性を具す(動物・植物・石など形あるものすべては心の働きを持っており、心を持っているものは、仏と成る性質を持っている)」ということを言われているが、それを想起させる。
何より、「囀り」↔「のたうちまわる」という意外性、そして「囀りにのたうちまわる」↔「ホッチキス」という意外性につぐ意外性の連続が見事である。
私は俳句において大事なことに「フレーズの変容(意外性)」を挙げているが、それをこのように見事に体現している句である。
この句はいわば「二ひねり」の句ということになろう。
小林一茶の有名な句「雪とけて村いっぱいの子どもかな」では、「雪」→「とけて」、「雪とけて」→「村」、「雪とけて村」→「いっぱい」、「雪とけて村いっぱいの」→子どもかな」と、どの言葉と言葉の関係性をとってみても予想(常識)の範囲内であり、「意外性(変容)」が全く「ない」ことが見て取れる。
これはつまり「ひねりなし」の句で、その分非常にわかりやすいが、イメージする必要がない読んだままの浅い句であることが見てとれる。
このような句の方向は「句の背後のイメージのスケールを重視する宇宙流俳句」とは対極なので、愛を詠もうが祈りを詠もうが何を詠もうが私は評価できない。
また、「句中の飛躍」という観点で分析すれば、「囀り」という大自然の大きな時間空間と、「ホッチキス」という生活の中の小さなモノという大小の対比の意外性がよく効いている。
それが「つかず離れず」であるのは、形態がなんとなく「くちばし」の印象つながりだからであろう。
これが「ホッチキス」ではなく「ボールペン」「ペンケース」などでは、少し離れすぎの印象である。
外に外に向かうのびやかな心境の感じられる一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
フレーズの変容を心掛ける。

入賞

「囀りや海のひろがる予約席」
(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 50歳)

背後の緑の山から聞こえてくる小鳥のさえずり、眼前に広がる紺碧の海に青い空、そしてテラスの白いテーブルの上に置かれた「予約席」の案内板、それを他席から眺めている作者、という風景、空間・聴覚・色彩・の織りなすハーモニーが美しい。
下五が「レストラン」であれば普通であるが、焦点を絞って「予約席」としたことで、より象徴性が高まり、詩情が出た。
この句の見どころは、春の風景の中心におかれた予約席の情感。
「予約席」という表現だけに、どんな人が来るのか、どのような用途かなど気になるが、人の出てこない風景だけに、単なる春の明るさやにぎやかさだけではない、そこはかとないさみしさ、もの悲しさのようなものも感じ取れてきて、読者の想像力を刺激する。
無意識からの素直な表現が光った一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
焦点を絞るほどに、象徴性が高まる。

「さえずりや彩りを増す三歳児」
(ペンネーム「じゅんこバズ」さん 36歳)

幼児の様子と春の楽しい気分を重ね見た句であろう。
こういう句において「彩りを増す三歳児」がよくわからないという方もおられるが、難しく考えることはなく、日常生活での言葉と同様にその言葉が示す「事情」を感じ取ればいいだけである。
例えば「会社に赤信号が灯った」という表現なら、信号そのものではなく「経営危機」が、「足が棒になった」という表現なら、本当の棒ではなく「つかれた様子」が感じ取れるように、「彩りを増す三歳児」なら、「三歳児の顔色や化粧や衣装」ではなく、「あれこれ自分でできるようになった様子・自立してゆく様子」が感じとれれば、鑑賞は成功であろう。
この句の上手いところはやはり、「彩りを増す」という表現。
これによって「自立に向かう幼児の雰囲気や喜び」を細かく語らず一瞥で伝え、「囀り」の雰囲気ともうまく響きあい見事である。
世話される一方であった幼児が、上手く話せるようになったり、上手く遊べるようになったり、上手く食べれるようになったりと、あれやこれや自立に向かって成長している様子が、音や色鮮やかな季節感とともにイキイキと伝わってくる。
句の意味からすれば、例えば「さえずりや自立に向かう三歳児」「さえずりやあれこれできる三歳児」などでもいいような気もするが、原句と比べ味気ない。
これは「彩りを増す」という表現が、「自立に向かう」・「あれこれできる」という意味以上に様々な含み(色彩美・明るさ・概念)を運んできていることを示している。
要するに、「自立に向かう三歳児」は、記号的表現(サイン・一つの表現が一つの結果を導く)であり、出来事を述べたコト句。
「彩を増す三歳児」は、象徴的表現(シンボル・一つの表現が複数の結果を導く)であり、モノの本質を引き出したモノ句になっているのである。
一句を貫く象徴効果が、書道のにじみやカスレ・飛沫のようなさまざまな「含み・味わい」を生み出し、句に豊かな詩情をもたらしているよい句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
無意識に浮かんだ象徴的な表現を大事にする。

入選句

特選

・新卒の男子囀るケーキカフェ(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→季語「囀り」というよりも字題で詠んだような句であるが、一句が詩として成立していて面白い。小鳥のさえずりとおしゃべりの様子を重ね見た句ととれなくもないが、句の意味がすぐに読みとれて浅く惜しい。やはり全体的にイメージがつきすぎなようである。入賞句などを参考にしてみてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・雲流れ象の背中に囀りや(ペンネーム「ともママ」さん 29歳)
→詠みがかなり甘く惜しいが、表現しようとしている世界は素晴らしいので採った。韻文・定型のリズムに慣れることが肝要である。過去の入賞句や古今の名句などを何度も詠み体に染みつけてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや犬のリードの新しき(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→全体的につきすぎで惜しい。特に「犬→リード→新しき」に全く「フレーズの変容・意外性」が見られないのである。詠み方は上手い方なのでそこを攻めていただければと願う。次回もぜひ挑戦を!
・囀るや嗽薬の匂いさせ(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→「嗽薬の匂い」は手柄だが、「囀る」と「嗽薬」が「ノド」つながりでつきすぎでどうにも惜しい。そういうところを気を付けたい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや開きっぱなしのレジスター(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→応募句の中ではこの句が姿がよいが、「囀り→開きっぱなし→レジスター」と「フレーズの変容」に乏しいのが惜しかった。毎回丁寧な感想を賜り恐縮。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや布団広がるテムズ川(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→応募句の中ではこれがよい。布団も季語だからどうのというのではなく、どうもパズルのようにつぎはぎして当てはめた句に見えるところが惜しい。この方の本領である無意識から湧き上がった独自の表現を期待したい。次回もぜひ挑戦を!
・さえずりや大仏殿の耳の裏(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→気分のよく出た句であるが全体的に平凡で少々惜しい。「さえずりや毘盧遮那仏の耳の裏」など。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや後ろ庇の野球帽(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→応募句の中ではこれがよいが、少し離れすぎの印象で、切れ前後の事情が読み取りづらい。モノに即して象徴的に詠もうとしているところは好感が持てる。次回もぜひ挑戦を!
・囀りの大地膨らむ熱気球(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→なかなか雰囲気の出た句であるが、どうも中七以降が平凡な表現であり惜しい。囀りと熱気球もともに「空」のイメージでつきすぎの印象。モノに即して象徴的に詠もうとされているところは大変よい。次回もぜひ;挑戦を!
・囀りや朝の市場の大まぐろ(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
→「まぐろ」が冬の季語であるというところではなく、「囀り」も「市場」も「声・音」繋がりでつきすぎで惜しい。モノに即して象徴的に詠もうとしているところはよい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りやシャトルバス待つアジア人(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→面白い句である。しかして「囀り・アジア人」が「音・おしゃべり」つながりでつきすぎで惜しい。この方もモノに即して象徴的に詠もうとしているところはよい。次回もぜひ挑戦を!

入選A

・母乳あげ朝日まぶしく囀りかな(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
→詠みが追い付いていないのが惜しいが、表現しようとしている方向はいい。やはり定型のリズム・韻文の雰囲気を掴んでほしい。過去の入賞句や名句を何度も味わってみてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りと指もつれたるセルフレジ(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→全体的にもたもたした詠み方で惜しい。、「指・レジ」はつきすぎだが、まだ「囀りや指もつれたるセルフレジ」などのほうがすっきりしそう。次回もぜひ挑戦を!
・さえずりに薄目をひらく阿弥陀様(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→全体的に平凡で惜しいがモノに即して詠もうとする方向はよい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りやキムチを食べて泣く子供(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→切れの前後の飛躍はよいが、中七下五があたりまえで惜しい。他人への講評も参考にして作句してほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りに羅針盤指す黙示録(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→どうも最近理屈で句を作っている印象である。俳句は無意識からこみ上げてくるものなので、パズルのようにめちゃくちゃに言葉をちりばめるものではないし、あちこちから難しい言葉を当てはめるものでもない。もう少し素直に実感ある世界を詠んでほしい。次回もぜひ挑戦を!
・闇の中さえずり届く交差点(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 47歳)
→全体的に観念的で惜しいが、自分の世界を工夫しようとしているところはよい。次回もぜひ挑戦を!
・囀や息吹き返す間歇泉(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→「囀・間歇泉」はつかずはなれず程度だが、中七が下五に対して非常に安易な表現で惜しい。要はあたりまえの言い方で「フレーズの変容・意外性」がないのである。モノに即して詠もうとしている方向性はよい。次回もぜひ挑戦を!
・囀や海の向こうのアメリカ車(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「囀・アメリカ車」はよいが、「海の向こうのアメリカ」は当たり前すぎて惜しい。そこを攻めてほしい。モノに託して詠もうとする方向はよい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや空地に朽ちたベビーバス(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→ご本人はイメージの重なりを避けたと言われるのであるが、全体的に平凡に感じられるということはやはりつきすぎで惜しい。「フレーズの変容」で分析してみると、「囀り→空地」「空地→朽ちた」「朽ちた→ベビーバス」、というように、→の前後で大した飛躍がない。もっといえば「囀り・ベビーバス」も「小鳥・赤ちゃん」という「小さい」つながりでつきすぎの印象である。このように見直してみると参考になるかもしれない。次回もぜひ挑戦を!
・囀りやタップダンスのシャンゼリゼ(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→中七以降が少し安易で惜しい。意外性・飛躍を詠んでみてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りの木霊する午後無人駅(ペンネーム「鯉こころ」さん 53歳)
→「囀り・木霊」は音のイメージの重なりで惜しい。「囀りやひろがる午後の無人駅」など、全体的に役者を詰め込みすぎている印象なので整理してよんでみてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや視界に息子の写真入れ(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→どうも全体的にイメージがわきづらく惜しい。「囀りの奥のほうへと写真立て」などのほうがイメージが広がりそう。ポイントを絞って軽く詠んでみてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや木椅子に褪せた文庫本(ペンネーム「そら」さん 57歳)
→「囀り・木」「椅子・文庫本」などの関係はイメージの重なりで惜しいが、気分の出た句であり、モノに即して詠む方向性もよい。上手い方である。飛躍を意識して実感を詠んでみてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りやカタンカタンと松葉杖(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→全体的に音のイメージの重なりで惜しい。次回もぜひ挑戦を!
・さえずりやコーヒー香る朝の道(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→全体的に平凡で惜しい。詠み方は上手い。次回もぜひ挑戦を!
・囀や銃口かくす少年ら(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→作者のかつての大賞句に「うすらひや拳かくして少年ゆく」があり、それをなぞったような句で惜しい。新しい可能性に挑戦してほしい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや瀬戸の島々淡きブルー(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→詠みが甘いが、おおらかな句で好感が持てる。「囀りや風抱え込む瀬戸の島」など。次回もぜひ挑戦を!
・囀や四つ葉さがしの女高生(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→全体的にどうもよくある風景で平凡で惜しい。写生口でも言葉口でも心象口でもよいので、ハッとした気づきを詠み込みたい。モノに即した詠み方は大変よい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや妻と眺める朝の庭(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→自然体な句なのだがやはり平凡。そこをどう解決するかである。詠み方の上手い人なので大賞句のように常識にとらわれず実感を丁寧に掬い取るようにしてみたい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りや金襴緞子夢の中(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→応募句の中ではこれがよいが、少々観念的で惜しい。次回もぜひ挑戦を!
・囀りのタワーマンション空高し(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→応募句の中ではこれがよいが、これは「囀り・空・マンション」と、空のイメージでつきすぎで惜しい。次回もぜひ挑戦を!

入選B

・春が来る囀り聴けば花が咲く(ペンネーム「コイココロ」さん 15歳)
・さえずりで遠きふるさと思い出す(ペンネーム「ふみさん」さん 23歳)
・さえずりで目覚められたらいいのにね(ペンネーム「あずき」さん 38歳)
・昼休み囀り聴こえしあの空へ(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
・囀りや過去の記憶と同調す(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・囀りに声ほころばせ通園中(ペンネーム「かじぃOT」さん 41歳)
・高原で小鳥のさえずり苦手です(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・囀りやご先祖様に水一杯(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
・さえずりや数億光年前の音(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・つばくろのさえずり間近みなみ風(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・森林浴囀り聞こえ恋の季節(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・見上げればみかんの輪切りさえずりのまね(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・囀りのドプラー音も覚めやらぬ(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・天高く孫のさえずり入学式(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・囀りはあちこちにあり野山かな(ペンネーム「トラノオ」さん 73歳)
・歩み止め手を伸ばし聞くさえずりを(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
・囀やメジロの群れの枝渡り(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・さえずりに農婦ひと時腰伸ばす(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
・囀りもショットなども上手くなり。(ペンネーム「浜辺の天使」さん 77歳)
・さえずりも恋の予感の響きなり(ペンネーム「やっちゃん」さん 57歳)
・女子会か庭に囀る雀かな(ペンネーム「大島」さん 72歳)
・やわらかな鳥の囀り子守歌(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)

選者詠:谷村秀格

・さえずりや円周率をかけのぼる
・さえずりを放つ前世や午後の海
・囀りや稜線長き母の眉

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年3月14日(火)

第42回 お題「土筆」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回も新しい方ふくめたくさんの投句をいただいた。
賑やかでとてもうれしく感じている。
全体的にも好調で特選以上の句はなかなか味わい深いモノ句が多かった。
やはり一番の課題は、宇宙は広いので「イメージの重なりをさけること」であろう。
詠んだ句の中に少しでも「イメージの重なり」を感じたのであるのなら、そこから再度ひねってみることである。
また過去の入賞句を「イメージの重なり」の観点から鑑賞されるのもいいであろう。
入賞句以上になると「イメージの重なり」が感じられないことがほとんどであるはずで、作句の参考になろう。
一人五句程度を目安に、多作の方は自身で選び直し、寡作の方は詠み癖をつけるようにしたい。

次回は「囀(さえずり)」という詠みやすいテーマ。
あなたからのご応募をお待ちしています。

大賞

「墨色のキリンの舌やつくづくし」(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)

「つくづくし」はつくしの古い呼び方である。
「つくづくし」の季節に動物園で「キリン」を見ていたときの句であろうか。
あまり知られていないようであるが、「キリンの舌」が濃いのは生物学的には日焼け防止のためという。
句はほのぼのとした春の気配の中、ふいに発見した「キリンの舌」の色の驚きを詠み込んでいて、余計なことを言わず、実に軽やか。
モノをしっかりと据えた「モノ句」であり、「キリンの舌」の独特の色彩とほのぼのとした春の風景で句に仕立てたセンスのよさを評価したい。
この句の見どころは、独特の空間把握と色彩美。
「つくづくし」に象徴される大地に広がる緑色・大空の青色と、頭上の空間に蠢く「墨色のキリンの舌」とが、単なる春らしさだけではない、マーブル模様のような美しくも怪しい非日常的な色彩美と動きを感じさせている。
「墨色」と「キリンの舌」は部分的にはつきすぎともいえるが、「カメレオンの舌」「長い」とは少し訳が違い、そもそも「キリンの舌」の色が濃いことがそこまで周知されているわけでもないようであるし、発見と受け取りたい。
イメージの世界では、陰陽・日常非日常の交じりあった宇宙の調和のようなものが感じ取れてきて、作者のゆとりある心境が共感を誘う。
よく、季語が句の中心にきていないといけないとか、題が句の中心になっていないといけないとかよくいわれるが、そんなことはない。
またこのような句において例えば「つくづくし」でも「桜咲く」でも成立するので、これは「動く表現」でよくないのではないかというようなこともよく言われるが、これも気にすることはない。
ネクタイや洋服の色違いを選ぶようなもので、赤でも青でも似合う時は似合うのである。
大事なのことは「一句そのものが詩として自立しているかどうか」これだけである。
余計なことをいわず発見をモノに託して見事に詠み込んだ句です。
大賞おめでとうございます。
<作句のポイント>
宇宙は調和、対比(調和)を意識する。

入賞

「土筆摘み夢中でまわる古本屋」
(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

「夢中でまわる」のが「土筆摘み」とも「古本屋」とも両方にとれ面白い。
宇宙流は、一瞥で広い宇宙をとらえようとする俳句観なので、このように言葉が限定されず働いているほうがいい。
この句の見どころは、「土筆摘み」に「古本屋」での本探しにと大忙しの作者の様子。
句の奥に、春の季節感とあいまって、宇宙をところせましと駆けまわらんとする作者の躍動的でのびやかな心境が感じ取れてきて共感を誘う。
中七の表現が少々安易な感じがしないでもないが、実感からの表現だろう。
出来事(シナリオ)を詠むのはなく、「土筆摘み」と「古本屋」というモノを全面に打ち出したキャスティングのみでこのように見事なドラマを作り上げていて上手い。
春の喜びを上手く詠みこんだ一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
中七を上五下五に働かせる。

「つくしんぼピアスの穴に抜ける風」
(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)

ピアスを外した軽装の女性が広い春の川原を歩いているような風景。
つくしが顔を出したそのあたたかな気配に、思わずふいに外に誘い出されたかのような句である。
この句の見どころは、女性特有の身体感覚を春のいきいきとした季節感にうまく絡めて上手く表現しているところ。
このフットワークの軽さに、作者の明るさやのびやかな気分が感じ取れてきて共感を誘う。
何よりこの「ピアスの穴に抜ける風」というディテールの発見が見事で、特に「に」の選択がいい。
こういう場合の格助詞候補としては「に・を・へ」あたりであろうが、ざっくり言えば、「に」は到達点、「を」は通過点、「へ」は方向性の印象でもあるので、普通なら「ピアスの穴を抜ける風」「ピアスの穴へ抜ける風」などとしたくなる。
しかしこう読むと「穴」よりも「抜ける」印象が強まるし、「ピアスの穴」なのになんだか「穴」が大きめに感じられ、風通しがよすぎる印象で具合が悪い。
作者のいうように「に」のほうが「ピアスの穴」そのもの、あるいは「穴」の小ささといったディテールが強調される印象があり繊細で詩的である。
これは「感じる世界」の話であり、大事なことである。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
一句の気分を大事にする。

入選句

特選

・つくしんぼ土踏まずから抜ける春(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→「春」の季重なりよりも「~から抜ける」が少々説明的で惜しい。しかし春の感触を身体感覚を通して上手く詠み込んでいる。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・バイク乗り風を切り裂く土筆かな(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
→「バイク乗り・風」、「風・切り裂く」のイメージの重なりが気になるが、春の気分が良く出ている。次回もぜひ挑戦を!
・土筆煮て今現代が遠ざかる(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→少々観念的で説教調なのが惜しいが、時間の巻き戻しのような非日常性が面白い。センスがいいので、モノ句の方向へシフトしてほしい方である。
・土筆生う海底火山起動せり(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→作り物っぽいところ、実感に乏しいところ、下五が言い過ぎなところが惜しい。ただし「つくしんぼ」と「海底火山」のチョイスは世界が広く面白い。「つくしんぼ海底火山の動き出す」などと詠み直してみたい。
・子午線の4万本目の土筆かな(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→今回の投句の中ではこれがよいが、少し観念的で作り物ぽい印象で惜しい。「キャスティング(モノの選択)」がいいので、「モノを動かす(この場合中七)」ほうにあまり力を入れなくてもよさそう。「子午線のゆるみきったるつくしんぼ」。「子午線のところどころにつくしんぼ」など。
・土筆野の流れる雲や狆穴子(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→面白いが、形つながりですぐに意図が読み取れ惜しい。「狆穴子・土筆」がつきすぎなので素材からの再考が必要。詠み方は上手い。次回もぜひ挑戦を!
・北欧の谷をざわつく土筆かな(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→上五中七がすべて下五にかかってゆくので、少し言い過ぎというか作り物っぽく惜しいが、空間の広がりが手柄。同じ素材で詠むなら「北欧の谷の匂いやつくしんぼ」あたりのほうが座りがよさそう。次回もぜひ挑戦を!
・つくしんぼ吹奏楽の風遠く(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→下五の詠みが少し甘いのが惜しいが、空間の広がりが感じられ、感覚的に宇宙の大きさを伝えている「宇宙流」の句で好句。
・鉄橋の轟音揺れてつくしんぼ(ペンネーム「水彩少年」さん 71歳)
→「鉄橋・つくしんぼ」が河原のイメージでつきすぎで惜しいが、穏やかな句が多い中、迫力というオリジナリティーで迫った切り口がよい。素材間が平凡になるところを気を付けたい。
・鼻唄のるんるん香る土筆かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→宇宙は広いのに春の気分一辺倒で惜しいが、投句された中ではこれが気分が出ていてよかった。
・土筆摘む水平線の見える丘(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→前回から一変、手堅い詠み方に戻ってきたが、「土筆・水平線・丘」つきすぎの印象で惜しい。この詠み方になると「平凡」を如何にさけるかが課題。上手い方なので「つかずはなれず」の関係性を探ってほしい。

入選A

・ツンツンと綴った便せん土筆かな(ペンネーム「ともママ」さん 29歳)
→類想が多そうなのが惜しいが、気分はよく出ている。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・朝目覚め背のびする息子つくしんぼ(ペンネーム「サクラ餠」さん 31歳)
→説明の句で惜しいがセンスがよい。モノをデンと据えてそこからドラマがイメージされるように詠んでみたい。「背伸びする子どもの影やつくしんぼ」など。次回もぜひ挑戦を!
・つくしんぼ畑一面大家族(ペンネーム「あずき」さん 38歳)
→「つくしんぼ・畑・大家族」がイメージの重なりで惜しい。すべて「つくしんぼ」に収斂される。素材からの再考をしてみたい。次回もぜひ挑戦を!
・団地にて伸び伸び育つつくしんぼ(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→「~にて」などと説明しないこと。しかし前から比べたら随分の句の雰囲気は韻文的になってきてよくなった。
・つくしんぼ地球オーケストラの楽譜(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
→観念的で実感に乏しいところが惜しい。また散文の切れはしのような詠み方は早急に改善したい。俳句は定型の力を活かすにこしたことはないのでまずはそこからである。素材の選択は上手いので「つくしんぼ楽譜はりつく地球かな」などと詠み直したい。次回もぜひ挑戦を!
・つくしんぼ視界の枠にはみ出たり(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「はみ出た」出来事の句(コト句)で惜しい。しかし「視界の枠にはみ出たり」は手柄、ここから、「つくしんぼ視界はみだす絵筆かな」など句にしてゆきたい。
・月面に立つ星条旗つくづくし(ペンネーム「菊池洋勝」さん 45歳)
→観念的で作り物っぽいところが惜しい。多くの句はつきすぎであるが、これははなれすぎの印象である。俳句は嘱目でも心象風景でもいいのであるが実感ある世界を詠むようにしたい。
・我思いし笑顔待ちたりつくしんぼ(ペンネーム「エミコ」さん 48歳)
→説明の句で惜しい。俳句は短いので説明に向いていないので、モノをキャスティングすることでドラマを想起させたい。入賞句など参考にされたい。次回もぜひ挑戦を!
・大空の音声拾うつくしんぼ(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→「大空の音声」が少しイメージがわきづらく惜しいが、詠み方も素材の把握もよい。この方向で。
・摩天楼ドアの向こうの土筆かな(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 50歳)
→必死でモノ句の世界に入ってこようとしておられるようである。この句はどうも「土筆がある」という出来事句(コト句)の印象で惜しい。素材の選択はよいので、散文の論理にとらわれず「摩天楼ゆさぶられたる土筆かな」など、モノをデンと打ち出して詠んでみたい。
・サントラに満つるスキャット土筆伸ぶ(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→「サントラ・スキャット」がつきすぎな印象で惜しかったが、「土筆」から飛躍せんとしたあり方には好感をもつ。
・宇宙へと触角伸ばす土筆かな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→観念的というか実感に乏しく惜しい。「土筆と触覚」は形態がつきすぎであろう。素材から再考したい。
・ぽつねんと夕日見つめる土筆かな(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→素材が平凡で惜しいが、多くの人が明るいイメージで句を攻める中、反対のイメージで迫ったオリジナリティを評価したい。
・里山の透き通りたる土筆群(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
→「里山・土筆」がつきすぎで惜しいが詠み方は軽くてよい。次回もぜひ挑戦を!
・妖精が登りたゆたうつくしんぼ(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→中七が重く惜しい。「妖精のたゆたっているつくしんぼ」など素直に詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・土筆摘みホームランボール見つけたり(ペンネーム「ベル」さん 59歳)
→宇宙は広いのに、目の前の出来事を詠んでいる(コト句)で惜しい。「ホームランボール・土筆」で詠み直したい。
・学僧の運ぶ御膳や土筆和え(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→平凡な出来事句(コト句)で惜しい。詠み方は上手い。「学僧の眉の太さや土筆和え」など素材を活かして象徴的に詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・つくしんぼうブルジュハリファと背くらべ(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→背比べしたコトを述べた出来事句(コト句)で惜しい。宇宙を広く詠もうとする姿勢はよい。
・つくしんぼゆるりゆるりと時空超え(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→後半観念的になり惜しい。気分はよく出ている。「つくしんぼゆるりゆるりと雲の影」など。
・川土手に天を突き刺す土筆かな(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
→中七下五はよくある表現であるが傷はまだ浅い。しかして上五がどうにも惜しい。「つくし・川土手」はどう考えてもつきすぎなので目をつぶっても「川土手」は外すところ。宇宙は広いので「川土手」のことばかり読まずつかず離れず飛躍したい。「万国旗天を突き刺す土筆かな」など。こういうところに俳句の妙味があるのであって、俳句は定型に季語さえ入れればよいというものではない。そこを攻めてほしい。
・つくづくしパレット襲う黄一色(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→少し思いが先行して黄一色が伝わらなく惜しい。次回に期待!
・宇宙との交信開始つくし伸ぶ(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→宇宙は広いのに、「宇宙との交信開始」したという出来事ばかりを詠んだコト句で惜しい。「宇宙」という言葉を入れても出来事の句はどうにもスケールが小さい。モノをしっかり打ち出したモノ句にもっていきたい。素材からの再考が必要。
・畦道に一人ぼっちの土筆かな(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→「畦道・土筆」がつきすぎで惜しい。この句も、多くの人が明るいイメージで句を攻める中、反対のイメージで迫ろうとした点は評価したい。
・つくしんぼう孫の足跡避けている(ペンネーム「だいさん」さん 74歳)
→面白い句なのだが、出来事を詠んだコト句なので浅く惜しい。言いたいことは俳句にならないので、モノをデンと据えて、そこからイメージが広がる詠み方を目指してほしい。次回もぜひ挑戦を!
・筆の花電子申告デビューかな(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→モノ句のようなコト句(出来事の句)であるところと「筆の花」が添え物のような感じで惜しいが、新しい素材を詠み込む心意気は大変よい。次回もぜひ挑戦を!
・被災地に和音奏でるつくしかな(ペンネーム「ハイカー」さん)
→今回は苦戦か。思いの先行した句で、すべて「被災地」に収斂される印象で惜しい。気持ちはわかるが句にはなりにくい。次回もぜひ挑戦を!
・地対空ミサイル配備や土手の筆(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)
→上五中七がなかなか面白い。「土手の筆」ではよくわからないので「つくづくし」などとしたい。このような句の方向性に可能性があるようであるが、題や季語の説明にならないよう気をつけてほしい。次回もぜひ挑戦を!

入選B

・つくしはね春にいっぱい出てくるよ(ペンネーム「マリオ」さん 8歳)
・つくしんぼ草むらの中シャンと立ち(ペンネーム「コロケロゲロス」さん 36歳)
・寄り添ってスギナのそばでよく尽くし(ペンネーム「ブラック松風」さん 36歳)
・食卓にほろり苦しとつくしんぼ(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
・土筆摘む甥の指には大きくて(ペンネーム「ケン太」さん 42歳)
・朝日浴び土筆のあたま螺髪あり(ペンネーム「こうふく堂」さん 43歳)
・待ち合わせ土筆見上げて巣穴出る(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
・母よりも祖母の思ひ出土筆摘む(ペンネーム「めぐみ」さん 67歳)
・土筆摘み土手と爪紅卵とじ(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
・つくしんぼ目線の先に親子の目(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・誕生日天まで昇れ土筆の子(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・老妻の夕餉の土筆春を知り(ペンネーム「秋伯」さん 72歳)
・一筋にいつまで青き土筆かな(ペンネーム「呆人」さん 75歳)
・土筆んぼもーすこし端で頭出せ(ペンネーム「めぐちゃん」さん 76歳)
・一籠の土筆和えると一握り(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
・うらうらと野辺に感喜の土筆坊(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
・初孫もこの春1年つくしんぼ(ペンネーム「のんちゃんママ」さん 60歳)
・つくしんぼむくむく背伸び天仰ぐ(ペンネーム「大島」さん 72歳)
・土筆摘む園児の笑顔春うらら(ペンネーム「今様浦島太郎」さん 79歳)
・つくしんぼ春の足並みとおせんぼ(ペンネーム「ワイン」さん)
・野の風に井戸端会議つくしんぼ(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
・うれしいやな今年も二人つくし採り(ペンネーム「ゆるりばあ」さん)
・つくしんぼロケットいっぱい夢高く!!(ペンネーム「カーター・ピーナッツ」さん)
・枯れ草の中よりつくし頭だし(ペンネーム「尾茂田」さん)

選者詠:谷村秀格

・双頭の土筆売れ出す砂糖壺
・体操部くだりきったるつくしかな
・乳母車文字の匂いのするつくし
・少年の肉もまれゆくつくしかな
・毛細管着崩れてゆくつくしかな
・つくし逝くそれぞれ母にもたれつつ
・つくづくし両手を垂れる宇宙神

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年3月7日(火)

第41回 お題「花粉症」(選と評 谷村秀格先生)
総評

例えば季語を「入れなければならないもの」という「教条(前提)」として扱っている人が多い。
こういうあり方は「形骸化した俳句」を生み出してしまう。
上記のように俳句を考えている人は「季重なり・無季」の句に出会っても名句を全く見抜けない。
文法や切れについても同様で、「正しさ」にこだわるから「一句の気分」というものが理解できない。
もういちど、自らの感性・あり方を見直し、素直な心で詩としての俳句を考えてみたいものである。

今回は「花粉症」という題で、沢山の多様なご応募をいただいた。
前回「Aと非A」を用いた解説をしたが、それに基づいて俳句表現の方向性のパターンを示してみると以下のように分類される。
Aを日常、非Aを非日常と置き換えてもよいかもしれない。

1. 非AはAによってあらわされる。
→われわれの目指す美。
例)花粉症でないものを花粉症によって表現した句。

2. AはAによってあらわされる。
→月並み平凡。
例)花粉症を花粉症らしく表現した句。

3. Aは非Aによってあらわされる。
→根なし草。
例)皿の上で太陽と半導体を出会わせ、花粉症を表現しようとするような句。

4. 非Aは非Aによってあらわされる。
→美の解体。アクロバット。
例)花粉症以外のもので花粉症以外のものを表現した句。

われわれが目指すものは、1の「非AはAによってあらわされる」であるが、応募句に圧倒的に多いのが、2の「AはAによってあらわされる」で、そこが課題であろう。

大賞

「マーチング空を突き刺す花粉症」(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)

「マーチング」は「行進・マーチングバンド」の意味を表す言葉。
「マーチングバンド」の意味でとっておく。
作者によれば「駅の改札を出てくる花粉症の人たちの様子を詠んだ句」ということだが、そうはとれない。
「元気よく演奏しながら行進する人々と、それをみている花粉症の人たちの様子」ととるのが普通であろうが、「空を突き刺す」のが「マーチング」とも「花粉症」とも解釈でき面白い。
「マーチング空を突き刺す」とは、音も伴って実に元気よく気分がいい。
その一方「空を突き刺す花粉症」とは「花粉症」の人の憎しみのようでもある。
いずれにしても、「花粉症」と「非花粉症」の人たちの対比が絶妙の俳味を生み出しているところがこの句の見どころ。
さらにいえば、そういうところから宇宙の陰陽・調和のようなものも句の奥に感じ取れてきて、イメージの世界が深く豊かな「宇宙流」で見事である。
「総評」を参考に述べれば、句の表面の言葉(マーチング・花粉症)は、「調和」を表現するためにあるという「非AをAであらわした」好句であるともいえよう。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
題を説明しない。

入賞

「大陸を渡る祖先や花粉症」
(ペンネーム「菊池」さん 45歳)

この句の場合の「祖先」は人類のことであろう。
現在の主要な説では、世界の全現代人の起源は、20万~5万年ほど前のアフリカ大陸に現れたホモ・サピエンスで、そこからユーラシア大陸に進出していったという。
昔は「花粉症」がなかったのかといえば、ヨーロッパや中国の昔の記述にそれらしきものもあるそうであるが、イメージとしてはやはり「現代」である。
そのようなはるか昔の人類と、現代人の象徴ともいえる「花粉症」との対比が面白い。
あるいは、アフリカから広がっていった人類の進化の果てが「花粉症」という意味にも解され、その滑稽さとしても味わい深い。
いずれにしても、過去現在の雄大な時空へ心遊ばせることのできるスケールの大きい句で、そののびやかさが共感をさそう。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
切れ字前後でしっかり飛躍する。

「ふわふわと流るる雲や花粉症」
(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)

「ふわふわと流るる雲や」という軽く平凡な打ち出しであるが、一気に悩ましい「花粉症」へと飛躍し、そのギャップと俳味で成功した。
花粉症は、花粉(抗原)に対してIgE抗体(抗体)を作り反応するものであるが、IgE抗体は本来は花粉というか寄生虫に対する抗体だそうで、現在の衛生的な環境下によってそのはたらきが変化したと考えらるそうである。
そのようなところに思いを馳せれば、生活レベルの向上にともない増加する「花粉症」に苦しむ現代人と、古今なく悠遠な大自然の対比のイメージは、進歩しすぎた人間生活へ警笛、ひいては現代人の生き方を問われているようでもあり、共感を誘う。
句を分析すれば、「ふわふわと流るる雲や」は『軽さ・自然』、「花粉症」は『重さ・人間生活』と、綺麗に「対比(飛躍)」があり、句の奥に宇宙の調和も感じ取れてくる対比の鮮やかな一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
イメージのギャップが詩情を生む。

入選句

特選

・花粉症ふさぎ込みしマトリョーシカ(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→「花粉症(なので)ふさぎ込んでマトリョーシカ(のようになった)」という言いたいコトの省略の句で惜しい。宇宙は広いのに、目の前の出来事や自分の言いたいことをいうというのはスケールが小さいのである。ここで目指す俳句は言いたい事や出来事やシナリオの省略といった出来事句(コト句)ではなく、モノをデンと据えそこから広がるイメージを大切にする「モノ句」。このあたりを掴んでほしい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症海を渡りし大仏様(ペンネーム「ともママ」さん 29歳)
→一読モノをデンと据えたモノ句のようであるが、「花粉症(なので花粉のない海外へと)海を渡った大仏様」という散文の省略にとられて惜しい。俳句は出来事や言いたいことがあってそれを省略して詰め込むものでは「ない」。モノをデンと据え、そこから広がるイメージを鑑賞したい。センスはよい。次回もせひ挑戦を!
・花粉症目前にある未来かな(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→出来事の句で惜しい。俳句の本体はイメージの世界なので、句の表面に「未来」というシ言葉を入れたからどうのというものではない。モノを据えそこからドラマをイメージさせるような句を目指してほしい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症休憩のない研修会(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「花粉症」と「研修会」の句で雰囲気は出ているのだが、宇宙は広いのに両方とも「人」周辺のことばかりで、そのイメージの重なりが惜しい。しかし、モノを据えて、そこからイメージされる世界で勝負しようという姿勢が感じ取れ共感を覚える。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症ジュラ紀の雨はあたたかく(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→私の「宇宙流の俳句観」をもっとも理解している方の一人である。「花粉症」は春なので「あたたかく」はつきすぎな印象である。「ジュラ紀の雨」は時空を広くとって手柄。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症電話の奥に波の音(ペンネーム「角森」さん 49歳)
→一読雰囲気はよいのであるが、「夏の季節が待ち遠しい」という句に解され残念である。まだ「花粉症受話器の奥の波の音」のほうが少しよさそう。次回もぜひ挑戦を!
・消印の波かすれをり花粉症(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→見事な発見の句であるが、「花粉症」は涙・鼻水なので、涙などで「にじんでかすれ」ているとも解され惜しい。なのでいっそのこと「消印の波に食い込む花粉症」などとガツンと飛躍したい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症ネジ見つからぬパーカッション(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→モノ句のような姿であるが「見つからぬ」という出来事を詠んだ「コト句」で惜しい。「花粉症ネジの重さのパーカッション」など素材を活かしてガツンと飛躍したい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症ドミノ倒しの青い空(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)
→「花粉症・青い空」は、やはり花粉舞うイメージでつきすぎの印象。中七は手柄。大胆に自分の世界を詠っていってほしい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症君の温度のマスク持つ(ペンネーム「ヨシ整体」さん 59歳)
→一読綺麗であるが全て「花粉症」に収斂され惜しい。類想も多そう。オリジナルを詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症シーラカンスよ目をさませ(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→下五がとにかく惜しい。「花粉症」と「シーラカンス」は絶妙のキャスティングであるので、それを活かして句にしたい。次回もぜひ挑戦を!

入選A

・花粉症あなたも迷う交差点(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 42歳)
→韻文の世界に少し入ってこられたようである。「花粉症・交差点」はいいキャスティングであるが、中七が言い過ぎで惜しい。「花粉症迷い込んだる交差点」くらいか。このようにモノを据えイメージの広がる詠み方を心掛けてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症マスクの下の独り言(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
→「花粉症・マスク」ともに季語でうんぬんというのではなく、宇宙は広いのに「口元」ばかり詠んでいて惜しい。そこを攻めてほしい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症経済論を書き挫く(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 45歳)
→「書き挫く」などとすぐに意図が読み取れる浅い出来事の句になっているのが惜しい。「花粉症・経済論」の素材はよさそうなので、それを活かして象徴的に詠み直したい。「経済論駆け抜けてゆく花粉症」など。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症山まるごとのテラリウム(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→一読象徴的なモノ句のようだが、「花粉症(なので杉)山(を)まるごとのテラリウム(のようにつつんでしまいたい気持ちだ)」という散文の省略(出来事)でできている句になっていて惜しい。「花粉症」と「テラリウム」はつかずはなれずの関係なので、ここからモノ句にしたい。「花粉症運ばれてゆくテラリウム」など。
・読みかけの風めくられて花粉症(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→「読みかけの風」でもいいのであるが、「風・めくる」はイメージの重なりだし、全体を通して中途半端なので、この場合は普通に「読みかけの本」などのほうがよさそうである。しかしそのオリジナルな気づきを大事にされる精神は評価したい。次回もぜひ挑戦を!
・花粉症ワイキキビーチ波立ちて(ペンネーム「泣き虫さん」さん 56歳)
→「花粉症」だから「ワイキキ」へ避難とすぐ読みとれて浅い。俳句は言いたい事を短くしたものでもないし、言いたいコトを詰め込むモノでもない。モノをデンと据えて象徴的に詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・駅弁の鰤の照り焼き花粉症(ペンネーム「ベルまま」さん 59歳)
→どうも全体的にちぐはぐで合わない。苦戦された様子がうかがえる。これはモノへの実感の有無、モノへの得手不得手なのか、次回に期待したい。
・花粉症夕陽やさしき顔で落ち(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→「花粉症と夕陽」「夕陽・やさしい」など、宇宙は広いのにイメージの重なりが多く惜しい。また下五「落ち」のような座りの悪さが、散文の残骸のようで私は生理的に苦手である。まだ「落つ」などのほうが座りがよさそうである。次回も挑戦を!
・風に乗り列島巡る花粉症(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
→花粉症を花粉症らしく説明した句で、総評の言葉でいえば「AをAらしく詠んだ句」ということになる。俳句は言いたい事の省略や出来事を切り貼りしたものではないので、モノをデンと据え象徴的なモノ句「非AをAで詠む」を目指してほしい。次回も挑戦を!
・青空に煙溶け行く花粉症(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→すべてが「花粉症」に収斂され惜しい。宇宙は広いのでイメージがかさならないように詠みたい。次回も挑戦を!
・花粉症ばつを合わせるへぼ将棋(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→全体的にどうも平凡、また中七が言い過ぎ。この度は苦戦された様子である。「花粉症・将棋」はぎりぎり句になりそうな関係なのでそのあたりで句にしたい。「飛車角の道ひろびろと花粉症」など。次回も挑戦を!
・星屑の遺伝子ひとつ花粉症(ペンネーム「柱時計」さん 74歳)
→伝統的な詠みぶりから一転新境地であるが、全体的に観念的で惜しい。俳句は嘱目でも心象でもこのように言葉からでもいいのであるが、宇宙は広いのでイメージの重なりには気を付けたい。「遺伝子・花粉症」が病気・理系のイメージでつきすぎなので、「星屑・花粉症」で句にしたい。
「星屑やところどころに花粉症」など。次回も挑戦を!
・花粉症の喪主の裏山杉木立(ペンネーム「東広島のなそじい」さん)
→「花粉症・喪主」は共に涙のイメージ。「裏山・杉木立」は共に山のイメージ。「花粉症・杉木立」は共に花粉のイメージなど、宇宙は広いのにあちこちイメージが重なりすぎていて惜しい。ひとことで言えばすべて「花粉症」に収斂される。なんとなく景色が広いところが手柄であるが、素材から再考したほうがよさそうである。過去の入賞句や選評を参考にされたい。次回も挑戦を!

入選B

・花粉症聞けばドイツの風と言う(ペンネーム「しののかあさん」さん 29歳)
・花粉症光を浴びたオアシスか(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
・鼻赤くゴミ箱白い花粉症(ペンネーム「あずき」さん 38歳)
・花粉症しわくちゃ顔に苦笑かな(ペンネーム「よこたん」さん 40歳)
・花粉症現代人につきまとう(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・花粉症伯母仮病だぶりっ子だ(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・花粉症全て浄化しさくらさく(ペンネーム「ひらめ」さん 49歳)
・出来合いの惣菜の卓花粉症(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
・現役の反射神経花粉症(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
・花粉症夢にまで見る宇宙船(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・ロボットも憂鬱になるや花粉症(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
・花粉症見えない苦手に反応し(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・ゴミ箱のティッシュはみだす花粉症(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
・悩ましき花の便りや花粉症(ペンネーム「釣りキチおじさん」さん 61歳)
・蘇る埋没林の花粉症(ペンネーム「俳句夢中おじさん」さん 63歳)
・花粉症我が身とは別世界(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・見渡せば大樹花粉の大合唱(ペンネーム「グラン グラン」さん 68歳)
・花粉症ルックで友は知らぬ顔(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・お別れの笑顔もかすむ花粉症(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・今年また猿もつらいよ花粉症(ペンネーム「のぶさん」さん 69歳)
・花粉症動物園のゴリラまで(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・日本に帰り患ふ花粉症(ペンネーム「浜崎」さん 71歳)
・木々芽吹く悪魔の色花粉症(ペンネーム「あしながおじさん」さん 72歳)
・花粉症自作自演のメロドラマ(ペンネーム「三休です」さん 77歳)
・花粉症文明の副作用かな(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
・花粉症マスクの裏にひとしずく(ペンネーム「カーターピーナッツ」さん)
・すすり泣き二度見するよな花粉症(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
・花粉症の妻のクシャミや大男(ペンネーム「ひなこ」さん)

選者詠:谷村秀格

・艦隊のまたあらわれる花粉症
・傾国や鳥つきあたる花粉症
・花粉症数列刻む肥後の国
・円高や海峡をゆく花粉症
・なだらかにバイク重なる花粉症

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年2月28日(火)

第40回 お題「雛」(選と評 谷村秀格先生)
総評

俳句の鑑賞は影絵の鑑賞に似ている。
影絵は指の形そのものではなく、映し出された影を鑑賞する。
俳句も表面の言葉(指そのもの)ではなく、句から感じとれるイメージ・印象の世界(影)が大事である。

「会社に赤信号が灯った」という言い方なら「信号機そのもの(言葉の表面)」ではなく「経営危機(イメージの世界)」が、「うつむいてただ小石を蹴りながら帰った(言葉の表面)」なら「さみしさ・屈折した心情(イメージの世界)」などがすぐに感じ取れよう。
今回の大賞句「月明かり出てはぬらぬら雛の家」でも、上記と同様、イメージされる何らかの事情をなんとなくでも感じ取ればいいだけなのである。
それは特に難しいことでもなんでもない。

それを逆に難しくさせている要因が、なんらかの前提がないと俳句を理解できないという立場で、「季語や切れや文法や意味・景色・映像」などで、句を鑑賞しようというあり方である。
これらは句の表面にメスを入れていくというやり方であるが、お気づきのように、大事なのは句からイメージされる世界なので、これではいつまでたっても、教科書的な句や出来コト句(省略の句)くらいしか理解できず、「モノ句(象徴的な句)」の世界には太刀打ちできない。

私は俳句は、「作る(理性)」ではなく「授かるもの・無意識からの湧出」と述べてきたが、例えば大賞句「月明かり出てはぬらぬら雛の家」のような表現が湧き上がってきた場合、句の表面にしか目が行かない人はバカバカしいと捨てるであろうし、反対にイメージの世界を鑑賞できる人は、「これだ!」となるであろう。
すなわち、鑑賞力と作句力は両輪なのである。

鑑賞力とは、見えるもの(句の表面のモノ・A)をとおして、見えないもの(イメージの世界・非A)を見ようとする力であり、作句力とは、見えるもの(句の表面のモノ・A)をとおして見えないもの(イメージの世界・非A)を伝える力なのである。

あるいは、Aを「日常」、非Aを「非日常」と考えてもいいかもしれないが、今回の入賞句はどれも、「非A(非日常)をA(日常)で表現した」ものであった。
入選の多くは「A(日常)をA(日常)で表現した」ものがほとんどであり、そこが課題である。
「非A(非日常)をA(日常)で表現するキーワードは、モノ句・象徴性である。
新しい方からのご応募をお持ちしています。

大賞

「月明かり出てはぬらぬら雛の家」(ペンネーム「あや」さん 48歳)

俳句の鑑賞や良し悪しを、季語・切れ・文法・意味という型から判断することは多いに危険であるし、俳句を理解するときにまずそういうところに目が行ってしまう精神は問題である。
例えばこの句、「月明り(秋)」「雛の家(春)」と季語が二つあるし、「月明り」で切れているのかいないのか、何か「出た」のか、なぜ「ぬらぬら」なのかなど、句の表面の型から教科書的に理解しようとしても、なんのことやらもうそれだけでお手上げである。
こういったところに、俳句の常識・先入観・型の限界が見えてくる。
さて、この句のよさは、「雛の家」という明るいイメージ(陽)のモノを「月明り」という夜の切り口(陰)から詠み上げることで、「雛の家」の第一義的な「明るい・賑やか」イメージから飛躍した「恐怖感・恐れ」のようなオリジナルな側面を詠み上げているところであろう。
その感触のようなものを「ぬらぬらと」が的確に伝えている。
固体としての「雛の家」が「月明り」を帯びることで「ゲル状の質感」変わってゆく「心象風景」、あるいは無生物であるはずの「雛の家」が、「月明り」を帯びることで「生物体」のように震えはじめている「心象風景」などから、それらに象徴される作者の不安な心境のようなものが句の奥に読み取れてくる。
「雛祭り」が女の子の成長を願う行事である一方で、医療の発達していない昔には幼い命が多く失われていたことに思いを馳せれば、子ども達にいつ迫るかもわからない病魔や事故など自分の力ではコントロールできない自然への恐怖感や不安感、畏怖の念というものを、親の立場で詠み込んでいる句のように感じられ、共感をおぼえる。
ただし、私の「宇宙流の俳句観」をよく理解していただいている方なので、あえて申し上げれば、私の感覚では「雛」は人形そのものというより上記のように行事の側面も強いので、いわば大きな空間を抱え込んでいるともいえる。
その観点からすれば、それに比して大きな「月明り」配するのは、季が「違う」ということではなく、大きいもの同士で「つきすぎ」に感じられ、少し気になる。
「季重なりだ季が違うだ」と金科玉条のごとくいわれるが、そのような俳句の知識的な観点ではなく、上記のように「イメージの重なりかどうか」で判断するほうが自然であるし、その意味でも「宇宙流」は俳句の知識に関わらず開かれた俳句観であると思っている。
まさしく「宇宙流は自然流」である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジ下さい!
<作句のポイント>
鑑賞力は作句力。型から鑑賞に入るのではなく、一句全体のバランスや気分を味わう。

入賞

「雛の日を思い六本鶏を買う」
(ペンネーム「雅」さん 54歳)

「雛の日」の句には、賑やかでたのしい印象の句が多いが、一読何かもの悲しい。
作者によれば「ふと三月三日という横棒の並んだ漢数字をみて、焼き鳥の串が浮かんで詠んだ句」だという。
しかして、俳句は作品そのものを鑑賞するものなので、作者の手を離れて鑑賞がはじまる。
「思い」とあるので、家に雛人形を飾っている印象の句でもない。
また六人家族だから「六本」というのでもなさそうである。
句意であるが、たとえば、「『雛の日』の今日、かつての家族が多く賑やかだった過去の『雛の日』を思い出して、思わず鶏をかつての人数分の六本買ってしまった」というような事情に読みとれる。
娘さんは学生で遠くに下宿していてなかなか会えないのか、もうお嫁に行ってしまったのか、仕事か何かで離れてなかなか会えないのかなど、読者の想像力を刺激する。
この句の見どころは、時間性。
現在の「雛の日」と眼前の「六本の鶏」から、現在の少ない家族の状況と、過去の賑やかだった頃の家族の状況の落差を描き出し、さびしげな気持ちを直接語ることなく、モノを通してイメージさせているところが見事。
「思い」と詠んであるので「雛の日」の存在感が希薄「とも」受け取れるし、文法的にも「思い・買う」という「出来ゴト」を述べた「コト句」のようにもとれるが、「雛の日」の新たな側面を浮き上がらせた「モノ句」と解釈したい。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句の評価に明るいも暗いも関係ない。大事なことはイメージの深まりと豊かさである。

「天領を訪ねて歩く雛の里」
(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)

「天領」は幕府の直轄領のこと。
観光で、どこかの天領を訪れ、そこで目にした雛まつりの風景を詠んだ句であろう。
この句の見どころは、晴天の広がる街並みを悠々と歩く作者ののびやかな心境。
どこぞの時代劇の主人公にでもなったかのような錯覚をおぼえさせてくれ愉快である。
ただし、「天領・雛の里」ともに土地のイメージでつきすぎなので、下五「雛祭り」などとしたい。
このほうが「天領」という空間、ひなまつりという「時間(暦)」、とはっきり住み分けて、句の焦点が明確になる印象である。
かっちりとした詠み方がここちよい一句でした。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
時間・空間を明確にする。

入選句

特選

・ひな祭り吹奏楽の降る校舎(ペンネーム「ルビー」さん 女性 17歳)
→「吹奏楽・校舎」はつきすぎ(宇宙は広いのにイメージが近い)で惜しいが、気分がよく出ている。この方向で。次回もぜひチャレンジを!
・曾祖母やシワに隠るる雛飾り(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 男性 36歳)
→「や」だと切れてしまうので「曾祖母の」としたい。「シワに隠るる雛飾り」が何よりの手柄で実感。この方向でよい。
・ひな祭り終え広すぎる湯船かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 男性 41歳)
→この句が最も気分が出ている。ただし一枚めくるとすぐに「さみしさ」が出てきて浅く惜しい。これは「モノ句」のようでかなり「コト句(出来ゴトの句)」に近いところからきている。上手い方なので意味の通りやすさにもたれず、実感をモノを通して詠ってほしい。
・青空の影ゆらゆらと流し雛(ペンネーム「あやまこみち(ペンネーム「女性」さん 48歳)
→「青空・流し雛」が、共に青・大きいというイメージの重なりで惜しい。そこだけ留意されたい。しかして大らかな句で好句。この方向でよい。
・割烹着白の眩しやひな祭り(ペンネーム「角森」さん 女性 49歳)
→中七の打ち出しが強すぎで「俳句の押し売り」気味で惜しいが、実感が感じられてよい。
・雛の夜やソムリエールの細き指(ペンネーム「狐穴」さん 男性 50歳)
→実感に乏しいというかどこか平凡で惜しい。しかし全体から醸し出される大人の魅力が手柄で、斬新である。
・紙雛の皆笑いたる万国旗(ペンネーム「一斤染乃」さん 男性 53歳)
→「笑いたる」がややつきすぎで惜しいが、「万国旗」を取りあわせ日本的なイメージから飛躍したグローバルなイメージを引っ張ってきているところが新鮮。視覚的にも「万国旗」と、「紙雛」のそれぞれの個性が重ね合わさり美しい。句の深層に平和への願いのようなものも感じ取れてきて、共感を誘う。
・雛の壇動きだしたる楽譜かな(ペンネーム「ハチベー」さん 男性 63歳)
→「雛・楽譜」はひな祭りの歌のイメージ、「動・楽譜」はダンスのイメージで、共につきすぎで惜しいが、斬新に詠もうと工夫してする跡がうかがえ共感を覚える。平凡からは何もうまれないのでどうなろうがこの方向で自分の世界を詠みあげていってほしい。次回もぜひチャレンジを!
・雛段や棚田の灯り海に入り(ペンネーム「きいたん」さん 女性 67歳)
→分かりやすいのだが、俳句の場合それが裏目に出ることも多い。「雛・棚」は同じ階段状のイメージでつきすぎで惜しい。「海に入る」は手柄。
・雛まつり袂抱える少女かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 男性 71歳)
→以前同じ方の入賞句に「鏡餅床の間に座す少女かな」があったと記憶しているが、今回の句はは「タダゴト句」に近く惜しい。それは、「鏡餅→少女」「ひな祭り→少女」でもわかるように、後者は圧倒的に女の子のイメージでつきすぎだからである。そこを留意されたい。多くの句を応募くださる作者の熱心さは驚嘆に値する。
・蒼天に近付く杜や千の雛(ペンネーム「柱時計」さん 男性 74歳)
→伝統的な詠み方や写生口の方が注意しなければいけないことに「タダゴト句」がある。自分の実感を詠んでいるつもりであっても、どこかで聞いたようなことや他人の実感を自分のものと思い込んでしまっていることが多い。また安定した表現を追求しようとするとどうしても平凡になる。そこをどう乗り越えて来られるか。上手い人だけにそこが課題である。
・まっすぐに雛人形の海ヘ向く(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→「雛人形・まっすぐ・向く」は、すべて「雛人形」に収斂されてくる印象で惜しいが、気分の良く出ていて上手い。
・雛の間や豆つぶほどの児の蹠(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→「児の蹠・豆粒」はイメージの重なりで惜しいが、最近、グッとモノの世界に入ってこられ前回は大賞を受賞された。俳句で説明しようとせず、モノに託すこの方向で詠まれたい。

入選A

・信号待ちふと見た窓にはひなまつり(ペンネーム「ともパパ」さん 男性 31歳)
→これではモノ句ではなく、出来ゴトの句になってしまい浅い。信号とひなまつりの素材を活かして「信号の赤ちらちらと雛祭り」などとしたい。次回もぜひチャレンジを!
・雛壇の裏の秘密の隠れ家で(ペンネーム「千月」さん 女性 32歳)
→下五に続いて「…した」が省略されているだけの出来ゴトの句で浅く惜しい。「雛壇の裏」という空間への切り口は手柄なので、その空間のスケールなどを伝えても面白い「雛壇の裏に集まるユーラシア」など。次回もぜひチャレンジを!
・ビオラの音頬溶けてゆく宵の雛(ペンネーム「ももじろう」さん 女性 34歳)
→「音・溶」「音・雛」がイメージの重なりで惜しい。また雛祭りの歌わらべ歌などのイメージが強いので、「ビオラ」がどうも合わない。ただし中七の感触には共鳴できるし、このようにオリジナルな表現を心掛けることを望みたい。次回もぜひチャレンジを!
・ひな祭り眩しい着物に口ずさむ(ペンネーム「よこたん」さん 女性 40歳)
→「ひな祭り・口ずさむ」はつきすぎ、「眩しい→着物」は安易な説明調で惜しい。いずれにしても「口ずさむ」というような「出来ゴト」の句は浅いので「モノ句(モノに託して詠む)」にしたい。次回もぜひチャレンジを!
・雛人形虚空見つめて座りおり(ペンネーム「ケン太」さん 女性 42歳)
→「雛人形・座」はつきすぎで惜しい。しかし余計なコトを言わず詠もうとしている姿勢はよい。できればモノを通して詠み象徴的な句にしてほしい。次回もぜひチャレンジを!
・雛祭り細道小石に躓けり(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 男性 45歳)
→中七が「細い道の小石に」という安易な散文の省略で惜しい。韻文にもっていってほしい。ただし「雛祭り」の常識にとらわれず、道中の切り口で向かっていったのは手柄。
・雛壇にウルトラマンも寝転びる(ペンネーム「菊池洋勝」さん 男性 45歳)
→「~に~も~した」と散文的・説明的である点、「出来ゴト」を詠んでいる点、「雛・ウルトラマン」はともに人形のイメージでつきすぎである点が惜しい。しかし「ウルトラマン」に象徴されるように新しい世界を詠み込もうとする精神を評価したい。「出来ゴト」の句というのは「平和を詠もうが愛を詠もうが善を詠もうが何を詠んでもすぐに意味や心が読み取れ浅い。実感を「出来ゴト」ではなく「モノを通して象徴的に表現」するよう心がけてほしい。過去の入賞句などを参考にされたい。
・羅針盤Nにこぎだす雛の夢(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 女性 50歳)
→「羅針盤・夢」はつきすぎというか観念的で惜しい。「漕ぎだす雛」は手柄。モダンな詠みというか自分の世界を目指してきているようで頼もしい。この方向で。
・鰥住み闇をさまよう忘れ雛(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 男性 51歳)
→全体的に観念的であるのとつきすぎで惜しい。そこを留意されたい。オリジナルな世界を詠もうとする方向はよい。
・ガリバーの訪ねし里や雛祭り(ペンネーム「大福ママ」さん 女性 53歳)
→実力者なのだか、今回は苦戦された様子。やはり「ガリバー・雛」はつきすぎで惜しい。いつものように実感ある世界をモノを通して表現してほしい。
・青空に綿雲集めひな祭り(ペンネーム「蓮子」さん 女性 55歳)
→モノをデンと置いているようであるが、「青空に雲を集めて雛祭りをした」という散文の省略形の出来ゴト句で惜しい。「綿雲」の発見は面白いのでそれを活かしたい。「綿雲のゆきかっている雛祭り」など。平凡ではあるがのびやかな感じは出そうである。
・息凝らし母の引きたる雛の眉(ペンネーム「ベルまま」さん 女性 59歳)
→文法的には「出来ゴト」の句であるが、印象としてはモノの力が結構強く出ていてかなり「モノ句」に近い。上五が説明的で惜しいので飛躍したい。「恵那山や母の引きたる雛の眉」など。
・路地裏の風にカタカタ雛飾り(ペンネーム「ヨシ整体院」さん 男性 59歳)
→全体的に平凡で惜しいが、「カタカタ」が面白く実感が感じられる。次回もぜひチャレンジを!
・雛壇や登りて仰ぐおぼろ月(ペンネーム「水彩少年」さん 男性 70歳)
→「~て~する」と説明的であるところと、「雛・おぼろ月」の季重なりが気になるのが惜しいが、中七に気分がよく出ている。
・ステレオに座して音を聴く雛一対(ペンネーム「あしながおじさん」さん 男性 71歳)
→全体的に「タダゴトの句」になってしまったのと、「~して~する」と説明的であったのが惜しい。目の前の風景をとらえる方向はいいので、どうタダゴトを避けるかが課題。
・千の風入れて微睡む雛人形(ペンネーム「大島」さん 72歳)
→「千の風入れて」と理屈で作っているところと「微睡む・雛」がややつきすぎの印象で惜しい。詠み方は上手いので実感をモノを通して詠むように心がけたい。次回もぜひチャレンジを!
・貝ひとつ置かれお歯黒雛かな(ペンネーム「みなと」さん 女性 74歳)
→こちらも全体が理屈で作られていて惜しい。俳句は右脳の産物なので、左脳で理屈・説明・言語操作などをしないことである。実感をモノを通して象徴的に詠むこれを心がけたい。次回もぜひチャレンジを!
・消え残る香になお白し雛の顔(ペンネーム「呆人」さん 男性 75歳)
→前半が観念的で惜しいが、雰囲気はでている。どうモノに託すかであろう。次回もぜひチャレンジを!
・ひなまつりカンヌの空やトォシューズ(ペンネーム「ベティ一ちゃん」さん)
→言いたい事があってそれを無理やり定型に押し込めてしまったので窮屈な姿をしていて惜しい。
「ひなまつり・トォシューズ」は、女の子のイメージでつきすぎなので、「ひなまつり・カンヌの空」の素材を活かして句にしてみたい。次回もぜひチャレンジを!

入選B

・ひな祭り女の子の日輝く日(ペンネーム「ハッピーエンド」さん 女性 10歳)
・窓の外青空や虹雛祭り(ペンネーム「あかぼんぼんばー」さん 女性 12歳)
・窓ぎわの小さなひなへ夢のせて(ペンネーム「なまいた」さん 女性 14歳)
・ひなさかりあはれ古る宮内に添ふ(ペンネーム「浪人生@前期終了」さん 女性 19歳)
・健やかなる春の祈りやひなの夢(ペンネーム「トコロテン」さん 男性 20歳)
・雛飾り瞳閉じれば背比べ(ペンネーム「ともママ」さん 女性 29歳)
・おひなさま慌てて片付け親心(ペンネーム「あずき」さん 女性 38歳)
・雛祭り父母少し若く見え(ペンネーム「夏川ゆう」さん 男性 40歳)
・ひな祭り心ときめく子ども達(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 男性 42歳)
・ひな祭り親アレルギー祝えない(ペンネーム「わた」さん 女性 43歳)
・笏持たぬ男雛の笑みや白々し(ペンネーム「花散る里」さん 女性 43歳)
・愛娘頬に桃さくひな祭り(ペンネーム「ハッピーエンド」さん 女性 47歳)
・雛人形箱の中で膝のばす(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 男性 47歳)
・ほほえみのさちあふれでるひなあられ(ペンネーム「エミコ」さん 女性 48歳)
・ひなまつりいつもわたしのたんじょうび(ペンネーム「ルンバ」さん 女性 48歳)
・たどたどしリコーダーの音ひなまつり(ペンネーム「ハラペコ」さん 女性 56歳)
・雛人形飾ろ飾ろとおもいつつ(ペンネーム「第六次成長期」さん 男性 57歳)
・成長し箱に眠ってる雛人形(ペンネーム「リュー」さん 男性 67歳)
・見おろせば雛だん若ゴイ紙コップ(ペンネーム「グラングラン」さん 女性 68歳)
・夫婦雛ランチのパスタで占いし(ペンネーム「ヒロリン」さん 女性 68歳)
・年重ね更に愛しく雛仕舞ふ(ペンネーム「おちえもん」さん 男性 69歳)
・1周忌隣は孫のひな祭り(ペンネーム「キートン」さん 男性 69歳)
・ひなまつり飲めや唄への大騒ぎ(ペンネーム「のぶさん」さん 男性 69歳)
・段雛やぼんぼり様のうなぎ綿(ペンネーム「古志清右衛門」さん 男性 76歳)
・雛達は老いを知らないすまし顔(ペンネーム「三休です」さん 男性 77歳)
・ひな祭り十二単の秘密かな(ペンネーム「テッちゃん」さん 男性 79歳)
・男の子内裏様より雛あられ(ペンネーム「善光」さん 81歳)
・若き日の父母恋慕い雛飾る(ペンネーム「太助」さん 77歳)
・足早に町並み訪ねる雛巡り(ペンネーム「野暮天西」さん 77歳)
・雛あられ焙る姑の鬼笑い(ペンネーム「ターサン」さん)
・ひな祭り飾る楽しさ納める寂しさ(ペンネーム「カーター。ピーナッツ」さん)
・雛人形射し込む陽かり母思う(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
・バアバよりお姉ちゃんなの!?お雛様(ペンネーム「安芸津のなそじい」さん)
・願ひきく如くに巡り雛流る(ペンネーム「宮爺」さん)

選者詠:谷村秀格

・つるしびな海の匂いの献血車

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年2月21日(火)

第39回 お題「薄氷」(選と評 谷村秀格先生)
総評

過日、光栄にも「宇宙流俳句」について講演をさせていただく機会をいただいた。
講演では、宇宙流の由来、人目や常識をおそれずひらめきを表現する大切さ、目先の出来ゴトを詠むのではなく、宇宙いっぱいにイメージの膨らんでゆくような象徴的な句を詠む楽しみについて語らせていただき、好評いただいた。

現在「俳句ブーム」といわれるが、私が懸念するのは、俳句を「季語・定型・文法・切れ字」といった「先入観」のメガネで俳句理解しようとする人が圧倒的に多いことである。
たしかに、できれば季重なりなどないほうがいいのあるが、まずそういうところを気にしてしまう「精神のありよう」というものはさらに問題である。
大事なのは「一句が詩として立っていること、そしてその『気分』がでているか」であろう。

さらにいえば、そのような観点で俳句をとらえたとき、少なくとも表記にまでこだわる理由はまったく分からない。
俳句は現在使われている仮名遣いで表されれば十分であるし、さらに100年200年先のことまで真剣に見据えるならば、将来も使われるであろう表記こそをなおさら選択すべきである。
にもかかわらず、若い世代の人たちまでもが真剣に「旧かなづかい」にこだわるのは、私見では「季語や旧仮名」に象徴されるような「仲間うちの型」の世界に俳句を押し込み、「懐古趣味的なファッション」としてとらえているような気がしてならない。
この現象は、このグローバルな時代において俳句を「狭く囲おうとする」方向に感じられ、残念である。

俳句が世界最短のすぐれた詩として、世界で評価されてきているのはどのような点なのか、そろそろ真剣に考える必要があろう。
そのとき、キーワードとなるのは、季語・定型・写生というような日本固有の観点よりも、その「短さからくる象徴芸術としての豊かさ」になってくるのではなかろうか。

俳句ブームがブームで終わることのないよう、宇宙流ではないが、広い世界へ向けて通用する俳句のあり方というものも真剣に考えてみたいものである。

さて、句であるが、入賞と特選の一部はレベル高く多いにもつれ悩んだ。
また、全体の印象であるが、俳句は韻文であって散文ではないのだから、意味が通る通らないという散文の論理にとらわれず、実感のままに無意識からの表現を詠んでみてほしい。
また、俳句らしさ、宇宙流らしさというところに置きにいこうとせず、自身の実感をモノを通して堂々と表現されることを優先されたい。
参考に私の17、8歳頃の作品をあげてみる。

・能面の砕けし音がすわりこむ
・耳小骨てらてら泳ぐアニミズム
・右ききの月走ったる午前午後
・耳色に染まるゲームが氷水

大賞

「うすらひや拳かくして少年ゆく」(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん)

美しくも意味深な句である。
「うすらい」という春へ向かう透明感ある季語に、理性と衝動が葛藤しているかのような「拳かくした少年」を取りあわせた句で、この両者の関係がなんとも言えない「詩情磁場」を醸し出した。
ドラマのワンシーンのようであるが、想像は読者にゆだねられさまざまに広がる。
「うすらい」だけにもろい存在なのだが、その「拳」は「うすらい」にふりあげられることも、割られることもないのであろう。
それは、美しくはかないものに対する少年のどういう心理なのだろうか。
手出ししたくてもできない自分を縛る母親の存在のようなものへの敵意の象徴なのか。
女性などへの屈折した心境、リビドーのゆなものを象徴したものか。
さまざまに想像がふくらむが、いずれにしても、大人への階段をのぼろうとする過程での少年の葛藤・複雑な心境のようなものを、モノに託して伝えているところが見事である。
作者は女性だけに、少年に自らのなんらかの心情を重ね見ているのであろう。
この句、文法的には「出来ゴト」を述べた「コト句」のようであるが、そうではなく、モノの存在をしっかり浮き上がらせた象徴的な「モノ句」になっているところを感じ取っていただきたい。
毎回応募いただいている方なので、モノ句やコト句についてはある程度、理解いただけているものと思うが、モノ句らしく置きに行こうとするのならば「ゆく少年」とするであろう。
しかし、そうすると名詞止めで少年が強調されすぎ、逆に作り物っぽい。
「少年ゆく」とするほうが、動き・残像のような印象が「うすらい」のはかない印象とマッチし、効果的である。
小手先の俳句らしさや宇宙らしさではなく、自身の実感や無意識からの感触を優先されたところが光った一句である。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句らしさ、宇宙流らしさではなく、自分らしさ(実感)を優先する。

入賞

「薄氷やパリのメトロの路線地図」
(ペンネーム「大福ママ」さん 53歳)

コーナー初期から存在が光っていた方であるが、ここしばらく苦戦されていた。
今回久々の入賞である。
以前の大賞句に「散りもみじ祖父の字踊るエアメール」があったが、その詠法に近く、眼前のモノを一つめくったところに大きな風景をなんとなくイメージさせる方法が得意のようである。
作者によれば「薄氷がパリのメトロの路線地図のように見え詠んだ句」ということであるが、「地図のごとき」などどいわず、地図の存在感をしっかり据えているのが大変よい。
作者の意図を聞くと「路線地図の存在が希薄ではないのか」と思われる方もいようが、作者の心の中に瞬間的に「路線地図」浮かんだというその実感を詠んだ句で問題ない。
「夜道、道に蛇がいたと思って家に逃げ帰り、翌日昼みてみたら縄だった」というような経験はだれにでもあると思うが、それと同じである。
昼に再度行ってみることをしなかったら、永遠に蛇だったと思いつづけているに違いないし、そのときの実感を蛇の句として詠んだものである。
縄は蛇に見えてはいけず、藁の塊に見えてはいけないというような「固定されたモノの見方・世界のとらえ方・先入観」こそが詩の敵なのである。
句であるが、「氷紋と路線地図」という、二つの模様のようなものを共通項として、「氷」「紙」
という質的にまったく違うものを取りあわせた飛躍と、あたたかな季節に向かってゆく雰囲気と「パリ」という街の「陽気な雰囲気」がよく合っている。
句からは、春に向かう楽しみや外国に向けて心おどらせている作者ののびやかな心境が感じ取れてきて共感を誘う。
句の背後のイメージの世界がのびやかなつかず離れずの宇宙流の一句でした。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
心象風景でも実際の風景でもいいので、感動をモノに託して表現する。

「薄氷やそよ風笑う膝の裏」
(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

なかなか面白い句である。
「薄氷」に「膝の裏」の風景をもってきているこのアングルが面白く、それでもっている句である。
これが例えば「膝小僧」では「薄氷」の繊細なイメージに比していかにもガサツで合わない。
「膝の裏」に「そよ風」であるから、春の気配に短いスカートを思い切ってきてみたのであろうか。
若い女性特有の身体感覚、それものびやかな明るさが上手く詠み込まれていて共感を誘う。
ただし「風笑う」というような方向性には注意したい。
ようは「俳句とはこんなもの」というような安易な素材や「置きに行く」方向が惜しいのである。
もっといえば、十代には他の世代にはない特有の感覚や生きざまがあるはずで、そこを是非モノに託して詠みあげてほしいのである。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
俳句はこういうもの、これで大丈夫というような安易な表現に注意する。

入選句

特選

・うすごおり繋いだ右手青い空(ペンネーム「ともパパ」さん 男性 31歳)
→まだまだ詠み方が甘いのであるが、一生懸命にモノで自分の世界を描こうしている姿勢に共感を覚える。作者の意図とは違うが言いたい事を盛り込むのが俳句ではないので、素材を活かして「薄氷右手漬け込む空の青」など。過去の入賞句など参考に何度も味わってみていただきたい。次回もぜひ挑戦を!
・薄氷握りしめたるソルトミル(ペンネーム「ももじろう」さん 女性 34歳)
→この句はモノ句なのかただゴトなのかが難しかった。氷の結晶と塩の結晶というところが少し意図的に感じられたのが惜しいが中七が上手く、この方向でよい。次回もぜひ挑戦を!
・薄氷の三平方の定理かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 男性 41歳)
→面白い句であるが、どうも実感に乏しいのが惜しい。詠み方の上手い人であるので余計心の在所が気になる。宇宙流はこんなものと置きにいかず、大胆に自身の感動をモノを通して表現してほしい。
・うすらいの心臓音に響く風(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 男性 45歳)
→熱心な方で、またこのコメントも真剣に受け取ってくださりうれしい。俳句に明るい句も暗い句もなく評価はイメージの豊かさと深度である。その意味でこの句は独特の心情を無骨ながらよく伝えている。後半に「心臓・音・響く」などイメージの重なりがあるようなところをひねりなおしていただければさらによくなりそうである。「うすらいの心臓音」は何よりの手柄で、それが実感。
・薄氷や黄身盛り上がるフライパン(ペンネーム「あや」さん 女性 48歳)
→ムードをよくつかんでいる。「黄身の盛り上がり」をみつけたのは手柄。この句は春へ向かうプラスイメージの畳みかけで作者はそれをよしとしたのであるが、何度も読んでみるとやはり同じイメージの重なりが少し気になったが、この方向で問題ない。
・物思いしてる地球や薄氷(ペンネーム「角森」さん 女性 49歳)
→このような読み方も悪くはないし、この句もよく雰囲気が出ているがともすれば観念的になるので注意が必要である。
・薄氷や忘れられたるネガフィルム(ペンネーム「一斤染乃」さん 女性 53歳)
→デジタル全盛で「ネガフィルム」もさっぱり見かけなくなったが、そのモノの本質を「薄氷」とのイメージの重層性で浮き上がらせてきている。最近グッとモノの世界に入ってきた作者である。この方向で追及いただきたい。
・薄氷や跳ね返りたる市の声(ペンネーム「ハラペコ」さん 女性 56歳)
→一見「薄氷」に「市」はどうも平凡で惜しいが、それが味にもなっており面白い。モノに即して詠もうとしていて好感がもてる。
・春氷標本みたいな色枯葉(ペンネーム「グラン グラン」さん 女性 68歳)
→素材がやや平凡で惜しいが、なかなか雰囲気の出た句である。「標本のごと」くらいで詠みたい。
・薄氷や空を切り裂く飛行雲(ペンネーム「水彩少年」さん 男性 70歳)
→これでいいのである。切り裂くのは飛行機であるというような固定した見方こそ危険である。詩の世界にしっかり入ってこられたようで大変喜ばしい。宇宙流にとらわれず、心象風景でも実風景でもいいので、世間体を気にせず、この句のように実感をモノに託して表現していただきたい。
・薄氷の羽透かしおる朝の月(ペンネーム「匿名じいさん」さん 男性 71歳)
→「薄氷の羽」が手柄。羽は鳥だけにあるとは限らない。薄氷にあってもなんら問題はない。このよう自身の確固とした実感の世界を詠ってほしい。この方向で。
・薄氷の遅れし音や機影二機(ペンネーム「柱時計」さん 男性 73歳)
→「薄氷の遅れし音」が手柄。その実感のままの表現でいいのである。俳句は韻文なので散文の論理にこだわってはいけない。この方向で。
・薄氷トランプほどの厚さかな(ペンネーム「テッちゃん」さん 男性 79歳)
→トランプの存在が薄いところが気になる。その存在をしっかりだして詠んでみたい。
・薄氷に映る月みてペダル漕ぐ(ペンネーム「華みづき」さん 68歳)
→少々説明的なのが残念だが、ペダル漕ぐ先が、空の方向にも感じ取れ、そこに心境が反映されていて共感を誘う。
・薄氷の薄日にちらととけゆきぬ(ペンネーム「田中」さん 75歳)
→理屈っぽいところが難点だが、詠み方は上手い。
・無限なる円周率や薄氷り(ペンネーム「ハイカー」さん)
→無限・円周率とイメージが重なりおしかったが、ムードや実感はよくでている。

入選A

・薄氷や秒速一の始点P(ペンネーム「緑雨」さん 女性 18歳)
→いろいろ試行錯誤している姿勢に共感を覚える。やはり十代というのは独特だと思うので、今しか読めないもの、今の生き方のようなものを先入観にとらわれず、俳句形式に置きに行くことなく、モノを通して詠みあげてほしい。そこに地平が見えてくると思う。
・薄氷やよちよち歩くランドセル(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 男性 36歳)
→一句のかもしだす気配が、ややちぐはぐなところが惜しいが、「よちよち歩くランドセル」というような表現は問題ない。今回はやや合わなかっただけである。
・パラフィンのかかる文庫や薄氷(ペンネーム「狐穴」さん 男性 50歳)
→前半が意図的で惜しい。「捨てられし本の表紙や薄氷」など。詠みは上手い。
・薄氷やただ消えてゆく飛行機雲(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 女性 50歳)
→中七がつきすぎで惜しい。「薄氷のゆらめいている飛行雲」「薄氷の胸の奥へと飛行雲」くらいか。「飛行機雲」では機体のイメージが強く出るので「飛行雲」として飛行機のイメージはぼやかせたい。全体的な句の方向性としてはこれでいい。
・薄氷や肌身離さぬ受験票(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 男性 51歳)
→「薄氷・受験票」はつきずぎだが中七でなんとかなりそうでもある。「薄氷や立てかけてある受験票」など。
・薄氷に閉じ込められた靴の跡(ペンネーム「鯉こころ」さん 女性 53歳)
→写生の方向の句でこれはこれでよい。この地平に開けてくる。私などなら少し素材が平凡なので、「薄氷にとじこめられて手紋かな」などとしたくなる。次回もぜひ挑戦を!
・薄氷や眉間のゆるぶ息ひとつ(ペンネーム「蒼そら」さん 女性 57歳)
→中七下五が言い過ぎな印象。「薄氷眉間の広き弥勒かな」など。次回もぜひ挑戦を!
・おそる恐る薄らい覗く小鳥かな(ペンネーム「ひなじいさん」さん 男性 62歳)
→実感が詠みに追い付いていない印象だが、独特の詠み方がこの人の面白さ。
・二重丸暦にひとつ薄氷(ペンネーム「ハチベー」さん 男性 63歳)
→やはり説明の句で惜しい。「カレンダーめくられている薄氷」など。
・薄氷去りゆく雲の一滴(ペンネーム「きいたん」さん 女性 67歳)
→「雲の一滴」が中途半端。「薄氷去りゆく雲の背骨かな」くらい。
・薄氷や猫寄り道の睡蓮鉢(ペンネーム「ヒロリン」さん 女性 68歳)
→宇宙は広いのにすべて睡蓮鉢の様子でおしい。飛躍がほしい。
・薄氷や朝のビル裏閑として(ペンネーム「おちえもん」さん 男性 69歳)
→出来ゴトをよんだコト句で惜しい。「マンションの影のはりつく薄氷」など。
・絵踏みめく鳥の足取り薄氷(ペンネーム「みなと」さん 女性 74歳)
→俳句はこういうものという先入観を捨てることである。常識にとらわれた世界で詩を表現するほと窮屈なことはない。のびのび実感をモノに託して詠んでほしい。
・日の光負われゆく子や薄氷(ペンネーム「呆人」さん 男性 75歳)
→素材が平凡なのとやはり出来ゴトを詠んでいるように感じられるところが惜しい。「日光に刺されし子等や薄氷」など飛躍したい。次回もぜひ挑戦を!
・きしきしと水面を染める薄氷(ペンネーム「三休です」さん 男性 77歳)
→水面と薄氷はイメージの重なりで惜しいが、感じはよく出ているし、つかみ方も面白い。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・薄氷を割りて忘るる友の顔(ペンネーム「浜崎」さん 71歳)
→説明的で惜しい。「薄氷のぶち割られたる友の顔」など。
・薄氷割って駆けてくランドセル(ペンネーム「大島」さん 72歳)
→説明的で惜しい。もっと句中に飛躍をつけたい。次回もぜひ挑戦を!
・薄氷やプールの底に眠る鯉(ペンネーム「善光」さん 81歳)
→素材がどうにもものたりないが、詠み方はカッチリして上手い。次回もぜひ挑戦を!
・月灯りぼんやり映す薄氷(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
→気分がよく出ている。次回もぜひ挑戦を!
・薄氷妻との絆マスク外る(ペンネーム「ターサン」さん)
→絆はやはり重すぎる。マスクも季語だが「薄氷マスクをはずす妻の声」くらいか。次回もぜひ挑戦を!

入選B

・はかないよ沈みゆく紅薄氷(ペンネーム「なまいた」さん 女性 14歳)
・うすらいの切なく響き梅香る(ペンネーム「トコロテン」さん 男性 20歳)
・薄氷を割ってスッキリ登校す(ペンネーム「ホットケーキ」さん 女性 25歳)
・うすごおりパリッと割った義理のチョコ(ペンネーム「かぶきもの」さん 男性 29歳)
・薄氷や頭の中のオーケストラ(ペンネーム「千月」さん 女性 32歳)
・あなたとは薄氷越しの別世界(ペンネーム「トミエ」さん 女性 33歳)
・薄氷枯れ葉と小石のスケートリンク(ペンネーム「あずき」さん 女性 38歳)
・早起きし心踊る薄氷(ペンネーム「よこたん」さん 女性 40歳)
・薄氷不機嫌なのか太陽は(ペンネーム「夏川ゆう」さん 男性 40歳)
・薄氷をパリパリパリと踏みしだき(ペンネーム「ケン太」さん 女性 42歳)
・薄氷春の訪れまだ遠し(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 男性 42歳)
・薄氷たやすく割りし今朝の空(ペンネーム「花散る里」さん 女性 43歳)
・ありがとう見納めなるか春氷(ペンネーム「ミッチー」さん 男性 44歳)
・満面の笑みより広き薄氷(ペンネーム「菊池」さん 男性 45歳)
・君の薄氷指でつんつん穴を明け(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 男性 47歳)
・薄氷や銀箔溶けて沈むなり(ペンネーム「エミコ」さん 女性 48歳)
・薄氷や割れ目は虹の出発点(ペンネーム「ひらめ」さん 女性 49歳)
・薄氷を乗り越え掴む春のイス(ペンネーム「萌ちゃんパパ」さん 男性 51歳)
・我が日記薄氷ほどのあつさかな(ペンネーム「雅(みやび)」さん 男性 54歳)
・薄氷をほんのりとかすプロポーズ(ペンネーム「りんの」さん 女性 57歳)
・春氷闇でパキツと鬼が踏む(ペンネーム「ヨシ整体」さん 男性 58歳)
・早朝に甕に張ってる薄氷かな(ペンネーム「リュー」さん 男性 67歳)
・薄氷のバレンタインに賭けた恋(ペンネーム「キートン」さん 男性 69歳)
・薄氷の日本の裏はカーニバル(ペンネーム「呑田」さん 男性 70歳)
・薄氷や宵の明星独り占め(ペンネーム「あしながおじさん」さん 男性 71歳)
・妻病めば家にうすらい張る如し(ペンネーム「古志清右衛門」さん 男性 76歳)
・薄氷をはらってあげたい鯉の池(ペンネーム「みのる」さん 男性 78歳)
・幼き日想い出映すうすごおり(ペンネーム「今様浦島太郎」さん 男性 79歳)
・うすごほりぴちゃり歩幅や笑う友(ペンネーム「熊田」さん 90歳)
・薄氷バリバリ歓声通学児童(ペンネーム「カーター・ピーナッツ」さん)

選者詠:谷村秀格

・うすらいや骨の形の置き手紙
・耳裏に菩薩まどろむ薄氷

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年2月14日(火)

第38回 お題「梅」(選と評 谷村秀格先生)
総評

俳句を詠むときは「すきやき主婦」にならないことが大事である。

「すきやき主婦」というのは私の例えであるが、大方以下のような話である。
とある主婦が買い物に出かけ、よい肉が目に入り、「すきやき」にしようと買って帰った。
しかし、家に帰ってみると、冷蔵庫の中にあると思いこんでいた新鮮な野菜はなく、調味料も残り少なった。
しかし、「すき焼き」を食べたい気持ちからなはれられず、ありあわせの食材と調味料で、家族と「すき焼き」を囲ったが、どうにもならない代物で、不評をかってしまった。
要は無理に「すき焼き」にしようとするのではなく、別の肉料理か何かに変更するのが最善だったという話である。

これは、「はじめの発想にとらわれず、素材を生かして詠み直すことが大切だということ」の例えである。
「こう詠みたい」という気持ちが先行するのはわかるが、それを優先させたために、世の中の句の多くが「すきやき主婦」のような結果に陥る。
そもそも俳句は、世界一短い定型詩であり、「物がいえない詩型」である。
それが他の詩型との圧倒的な違いなので、普通の詩や短歌や日記の延長で俳句をとらえてはいけない。

作者のいいたい『コト』を実現するように直し指導したところで、浅いことには変わりがない。
すき焼きの味付けがせいぜい砂糖からザラメに変わった程度で、不味い「すきやき」をしていることに変わりはない。
そのような句は、散文的であったり、すぐに省略が読み取れたり、舌たらずな表現であったりすることがほとんどである。

あなたも自分の詠んだ句が、「散文的・中途半端・舌足らず・安易な倒置・詠んですぐ分かる」などと感じたなら、言いたい『コト』や詠もうと思った出来『コト』から離れて、モノをデンと据えて素材から詠みなしてみるとよい。

さて投句の方であるが、入賞句は、モノが生きた象徴的なモノ句で感心した。
しかし今回の多くは、「梅を説明した句」「出来事を詠んだ句」「月並みな句」「ただごとの句」のいずれかで、残念であった。

俳句は年季のいる芸事である。
思い立ったが吉日、毎週の放送・総評・選評がある機会は世にほとんどないので、この機会を生かして「モノ・象徴・無意識の世界」へ入ってきていただき、句の背後の詩情が豊かな「宇宙流俳句」をわが物としてほしい。

大賞

「青空に輪郭描く梅の花」(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)

「青空」の鮮やかさをこれほどまでに鮮明に提示した句はあまりない。
「輪郭描く」のは、「梅の花」の隙間から覗く空の様子であろうし、作者の心でもあろう。
「青空」と「梅の花」で詠まれた句は多いが、「輪郭描く」という中七がとにかく全体によく調和していて、景色のノイズ(無駄なモノ・イメージ)を上手く取り除き、句の焦点を明確にし、幾多の月並みな「梅・空」の句を退けた。
句からは、対象と一体となった作者のあかるくのびやかな心境が感じ取れてきて共感を誘う。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
モノは「役者」。同じ「役者」(梅・青空)でも、その動かし方(輪郭描く)によって美が生まれる。

入賞

「梅蕾次々バスを待つ園児」
(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)

実際の風景であろうか。
それとも梅蕾がつぎつぎ膨らむ様子と、バス停につぎつぎバスを待つ園児が集まってくる様子を重ね見た心象風景であろうか。
いずれにしても、春の初めの雰囲気がよく出ていて、無理がない。
「梅蕾次々」「次々バスを待つ園児」から、「成長の期待感やあかるい未来への希望」などが感じ取れてきて、共感を誘う。
取りあわせのうまさが光った一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
季語を説明しない。

「夜の梅まっすぐ沈む古代魚」
(ペンネーム「あや」さん 48歳)

幻想的な句である。
このような句を解釈する場合、難解と切り捨てるのではなく、その句が示している事情を感じ取ることが大事である。
作者は宇宙にあまたのモノがある中で、作者は「夜の梅」と「古代魚」をわざわざ選択した。
「非日常的な古代魚」の感触を「夜の梅」がしっかりと受け止め決して観念的でない。
「沈む」のが「夜の梅」とも「古代魚」ともとれる。
それは、「夜の梅」の女性的な妖艶さ、昔から形を変えず命をつないでいる「古代魚」の男性的な神秘性が、重なりあって醸し出される非日常性であろうか。
「宇宙そのものの生命力・ダイナミズム」というようなものを、直接語ることなく、イメージさせているところが見事。
対象とひとつになろうとする作者の瞑想的な境地のようなものも感じ取れて、共感を誘う。
イメージの世界の非常に豊かな宇宙流の一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
モノを選択すればそれだけで心が表現できる。

入選句

特選

・梅の香やほぐれゆく快速電車(ペンネーム「ルビー」さん 女性 17歳)
→今回は素材の選択が少し平凡であったが、「モノ」に即した素直な詠みぶりで好感が持てる。
・理科室のなかに紅梅息づけり(ペンネーム「緑雨」さん 女性 18歳)
→「梅」そのもののパワーではなく、出来事を詠んでいるように感じられるところと、説明的なところがこの詠み方の弱さ。これは「けり」と強く詠むようなところで解決できる小手先の問題ではない。総評のところなどが参考になるかと思う。
・白梅や校歌に残る古き川(ペンネーム「茨城翔子」さん 男性 21歳)
→「川」の存在感が弱いのが残念、雰囲気や詠み方はよいので俳句の世界の固定観念にとらわれず詠んでみてほしい。次回もぜひご応募を!
・紅梅の開け放ちたる鼻腔かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 男性 41歳)
→よくわかる句である。どうも全体的に「匂い」でつきずぎのイメージでおしい。頭でつくらず無意識からの作句を心掛けたい。
・梅にさえ万券飛び交う賭博場(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 男性 44歳)
→「にさえ」が問題。直接気持を出さないことである。「賭博場万券飛び交う梅の花」など、モノをしっかり据えて詠みたい。
・紅梅のうごきだしたる鳥の影(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 女性 50歳)
→この方向でよい。「梅・鳥」ではつきすぎなので、「紅梅のうごきだしたる島の影」くらいならスケール大きく入賞候補か。
・紅梅や踊り子たちのくねる指(ペンネーム「大福ママ」さん 女性 53歳)
→「梅・くねる指」の取りあわせがややつきすぎで惜しいが、静的な「梅」に対して「踊り子」が躍動的で生きた。
・待合の窓右端に梅の花(ペンネーム「雅」さん」さん 男性 54歳)
→一歩違えば「タダゴト」となる句なので素材の工夫が必要であるが、「右」とディティールを詠み込んでいるところに作者のこまやかな心情がよく表れていて味わい深い。深い写生の句。
・梅の香にほぐるる朝の水の音(ペンネーム「sora」さん 女性 57歳)
→素材が平凡で惜しいが、「梅・朝・水」のイメージがおりなすさわやかさがよく出ていて上手い。次回もぜひご応募を!
・水琴の音を封じ手梅の花(ペンネーム「匿名じいさん」さん 男性 71歳)
→「封じ手」ではそこで句が切れてしまい散文の残骸になってしまうので、「水琴の音を封じて梅の花」としたい。少々説明的であるが、素材のよさが光った。
・海峡の梅ほつほつと雲剥がれ(ペンネーム「柱時計」さん 男性 73歳)
→写生の句で詠み方も上手いのだが、どうも素材が平凡でものたりない。「~と~した」と頭で作るのではなく、無意識からの表現を大切にしてほしい。
・丹塗りの褪せし鳥居や梅の花(ペンネーム「みなと」さん 女性 74歳)
→上の句と同じく上手い句なのだが、素材が平凡なのでそこを意識されたい。オリジナルを詠みたい。
・うらうらと天よりしだれ梅二月(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→この句も素材が少し平凡で惜しかったが、かなり入賞に近い無意識で詠まれた句である。対象とひとつになって季節感を心情に絡めてうまく詠み込んでいる。
・トラクター梅の香まみれて進みおり(ペンネーム「ハイカー」さん)
→トラクターと桜や梅はどこかで見たことある句で惜しいが上手い。見たことある句でもいいのだがオリジナリティを出したい。「トラクター右にかたむく梅の花」など。
・寒梅やいにしえの月と巡りあう(ペンネーム「叙菜」さん)
→下五から上五へまたはね返ってゆくようような詠み方で、句の幻想性がより生かされている。しっかりとした実体ある「寒梅」が観念的になるところを巧みにさけている。次回もぜひご応募を!
・兵馬俑足を早める里の梅(ペンネーム「笑いぐま」さん)
→梅に即して湧き上がってきた無意識の表現のままに詠まれた句で面白い。このような句が理解できないという人は、伝統的な俳句観にすっぽりと染まってしまっている証拠である。この句は、飛躍しすぎて意味がよくわからないのではなく、「兵馬俑・足・里・梅」とすべてが「土」のイメージでつきすぎでイメージがふくらみづらいのである。「兵馬俑かけのぼったる梅の花」など視点を上に向けて、つきすぎをさければ、句の背後のイメージの調和がとれることから、それがよくわかっていただけると思う。この方向でよい。

入選A

・空の青レンズ集まり笑う梅(ペンネーム「ともママ」さん 女性 29歳)
→言いたい事を凝縮しているので句になりにくい。総評の「すきやき主婦」のようにならないよう再考すればよくなる。「スマートフォンあつまってくる梅蕾」など。次回もぜひご応募を!
・河川敷キャッチボールも梅花から(ペンネーム「ともパパ」さん 男性 31歳)
→この句も同様。言いたい事を句にしようとしないこと。ここから俳句が始まると思って、素材を生かしてモノを据えて詠み直したい。「グローブの開ききったる梅の花」など。次回もぜひご応募を!
・青空や梅の芽たちの笑い声(ペンネーム「千月」さん 女性 32歳)
→比喩の本質はモノの力を浮き上がらせることにある。定型の力を活かして「梅の芽のほほ笑む空の継ぎ目かな」などくらいにしたい。次回もぜひご応募を!
・吉報に昨日より燃ゆ細腕の梅(ペンネーム「ももじろう」さん 女性 34歳)
→心象風景を大胆に詠んだ。問題は「燃ゆ細腕の梅」ではなく「吉報に」。ここが説明的でおしい。「腕細き梅燃えている電話かな」など、しっかりモノに託して詠めばイメージが膨らむ句になる。次回もぜひご応募を!
・駆け巡る梅の実囲む園児かな(ペンネーム「つっくん」さん 男性 38歳)
→「駆け巡る」のは「梅の実」ではなく「園児」だ。というのはこれまた伝統的な俳句観にすっぽりはまった固定概念。実感のある心象風景ととれば何ら問題はない。問題は「梅・園児」がつきすぎなこと。「駆け巡る梅の実おもき美少年」などとすれば、非日常的なイメージになる。次回もぜひご応募を!
・梅林神々しさを宿らせる(ペンネーム「夏川ゆう」さん 男性 40歳)
→言葉はキレイだが、句で書いてあること以上にイメージが広がらず惜しい。これが出来事の句の見分け方である。「神々の足のちらつく梅林」など、モノをしっかり据えてイメージが広がるように詠みたい。
・碧空に紅匂う梅の花(ペンネーム「ケン太」さん 女性 42歳)
→「空・梅」とつきすぎなことと、「~に~する」と説明的なのがおしかった。センスはよい。次回もぜひご応募を!
・涙かな濡れる思いに梅の花(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 男性 42歳)
→安易に詠まないこと。直接的な表現を避けること。気持ちを述べないこと。うれしいかなしいなど安易に形容詞を使わないこと。同じような句ばかり作らないことを心掛けてほしい。厳しいようであるが、そこをクリアすることが大事である。「梅の花もちあげてゆく涙かな」など。
・待ち受けや軽き指先梅の花(ペンネーム「ミッチー」さん 男性 44歳)
→「軽き指先(の先にある)梅の花」と、散文の省略形なのでここから素材を活かして俳句にもっていきたい。「携帯の待受画面や梅の花」など。次回もぜひご応募を!
・千波湖の梅には早き湖水満つ(ペンネーム「菊池」さん 男性 45歳)
→伝えたいことや気持ちが先行しすぎている句である。総評の「すき焼き主婦」を参考にしていただきたい。コンパクトな日記ではなく、俳句の本質(句の背後のイメージの豊かさ)を目指すのであれば、ここから俳句が始まると心得てほしい。とにかく「早いの遅いの」と説明しないことである。「湖の水まんまんと梅の花」など、素材を活かしてモノを据えて、出来事ではなく象徴的なモノ句にもっていきたい。
・ぎこちないバックミラーに梅の花(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 男性 46歳)
→軽く良いのだが、上五が思いが先行して伝わりずらい。「ふちどりてバックミラーの梅の花」など。
・節くれた母の手を取る梅一枝(ペンネーム「あやまこみち」さん 女性 48歳)
→出来事には共感できるが、俳句の芸術性とは別である。その観点で見たとき素材が平凡で惜しい。「梅一枝節くれている母の影」など。すこし「手」の上の出来事から離れて詠みたい。
・どこまでも蝋梅昇るや青き空(ペンネーム「角森」さん 女性 48歳)
→「どこまでも昇るや」と大げさにいいすぎたのが惜しい。自然に「蝋梅ののぼりつめたる空の青」などのほうが自然。
・予想屋のしゃがれた声や梅の花(ペンネーム「狐穴」さん 男性 50歳)
→取りあわせの句なのだが、全体的に平凡で惜しい。「予想屋・声」がイメージの重なりなのである。「予想屋の指の長さや梅の花」とすると、「予想屋」の指に美しい「花」のイメージが重ね合わさってイメージも重ならずオリジナリティが出る。
・梅の香の前頭葉を突き抜けて(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 男性 51歳)
→「前頭葉」は手柄だが、出来事の句になってしまって惜しい。「前頭葉突き抜けてゆく梅の花」などモノ句にしたい。
・旅立ちの君を背にし梅の花(ペンネーム「りんの」さん 女性 57歳)
→「背にし」と説明したのが惜しい。「背中や」としたい。
・梅咲くや園児手を振る散歩道(ペンネーム「ベルまま」さん 女性 59歳)
→素材が平凡でおしかった。「都心へと梅咲いてゆく園児かな」など。どこか飛躍したい。
・とび梅や参道の餅ほろ甘く(ペンネーム「きいたん」さん 女性 67歳)
→出来事の句で惜しい。ここから俳句にしたい。
・園内に梅の香広がる野点席(ペンネーム「グラン グラン」さん 女性 68歳)
→出来事の句で、少し盛り込み過ぎでおしい。ここから句にしたい。「梅の花肌にしみこむ野点席」など。
・梅一輪青い宙に融けてゆき(ペンネーム「水彩少年」さん 男性 70歳)
→一見「宇宙流」であるが、「融けていった」というコトを述べた出来事の句で、句の言葉以上のイメージの広がりがなく浅く惜しい。「梅一輪溶け込んでゆく空の芯」など、象徴的なモノ句にしたい。
・目を閉じて深呼吸する梅見かな(ペンネーム「パラパラ」さん 女性 70歳)
→出来事の句で惜しい。軽い詠み方はいいので、「少年の深呼吸する梅の花」など、モノを活かしてよみたい。
・盆梅や一輪咲きて時季を告げ(ペンネーム「音爺」さん 男性 70歳)
→「告げ」という出来事を詠んだ句で浅く惜しい。モノをきちんと据えて詠みたい。素材から再考したい。
・白梅や白無垢が行く雪道を(ペンネーム「古志清右衛門」さん 男性 76歳)
→季重なりや白かさなりよりも、出来事を詠んだ句で言葉以上にイメージが広がらず浅く惜しい。モノを生かして象徴的によんだモノ句にしたい。次回もぜひご応募を!
・朝やけに梅一輪の暖かさ(ペンネーム「三休」さん 男性 77歳)
→「暖かさ」と説明してしまい惜しかった。「朝焼けのしみこんでゆく梅の花」など。次回もぜひご応募を!
・空奪う梅の蕾の競いけり(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→こちらも出来事を詠んでいるコト句で言葉以上にイメージが広がらず惜しい。モノを据えてそのパワーで詠みたい。「梅蕾のみ込んでゆく空のいろ」など。
・梅林を借景にしてにぎり飯(ペンネーム「大島」さん 72歳)
→月並みな感じよりもこの句も「食べた」という出来事を詠んでいるコト句で、言葉以上にイメージが広がらず浅く惜しい。
・赤ん坊の大きなあくび梅の園(ペンネーム「いちぢく」さん)
→詠み方は上手いのだが、どこかで見たことあるような月並みな句でおしかった。オリジナリティを大事にしたい。
・肥後の梅陽指し半分地蔵尊(ペンネーム「華みづき」さん)
→散文の省略形で韻文になっていないところに気づいてほしい。ここから俳句にしたいが素材が平凡なのでそこから再考したい。

入選B

・梅香りほほえみ一輪春だより(ペンネーム「トコロテン」さん 男性 20歳)
・臥龍梅香りにつられまた迂回(ペンネーム「ホットケーキ」さん 女性 25歳)
・雪残る頂上の下梅の香(ペンネーム「かぶきもの」さん 男性 29歳)
・梅の実のバージンロードや母の味(ペンネーム「しののかあさん」さん 女性 29歳)
・梅薫る地球の空に国境なし(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 男性 36歳)
・太宰府の無念晴らせよ梅東風よ(ペンネーム「花散る里」さん 女性 43歳)
・梅の花うっかり目覚め笑みせる(ペンネーム「エミコ」さん 女性 48歳)
・降雪に負けじと咲う飛梅よ(ペンネーム「ひらめひ」さん 女性 49歳)
・梅の香と流るる音符春宣言(ペンネーム「のりり」さん 女性 56歳)
・掲示板柏手の音梅ゆれる(ペンネーム「ヨシ整体」さん 男性 58歳)
・姿見に見て欲しい梅裾模様(ペンネーム「かずママ」さん 女性 61歳)
・月明かりそろそろ見ごろか梅の花(ペンネーム「ひなじいさん」さん 男性 62歳)
・改札に梅の一輪急ぎ旅(ペンネーム「ハチベー」さん 男性 63歳)
・初春にほのかに香る梅林に(ペンネーム「リュー」さん 男性 67歳)
・紅梅やカメラ持つ人見下ろせり(ペンネーム「ヒロリン」さん 女性 68歳)
・紅梅のわかき息吹や二人ずれ(ペンネーム「おちえもん」さん 男性 69歳)
・白雪にメジロたわむる梅の花(ペンネーム「キートン」さん 男性 69歳)
・白梅や酒仙たりまた詩仙なり(ペンネーム「呑田」さん 男性 70歳)
・庭先に春の訪れ梅香る(ペンネーム「あしながおじさん」さん 男性 71歳)
・青天や紅梅光る侘び住まい(ペンネーム「テッちゃん」さん 男性 79歳)
・正月花片づけできぬ梅一輪(ペンネーム「渡辺」さん 79歳)
・探梅に迷ふて夢の道に出る(ペンネーム「浜崎」さん 71歳)
・孫の受験春を呼んでと梅の枝(ペンネーム「小方」さん 74歳)
・合格の祈願へ梅の三分咲き(ペンネーム「田中」さん 75歳)
・卒寿越え新居よウフフ梅一輪(ペンネーム「クトシのバーバ」さん)
・梅林見地球を感じる紀州路(ペンネーム「やまざる」さん)
・梅見月日南カープ世の行方(ペンネーム「楽弓」さん)
・ほころびる梅花漂いにぎりめし(ペンネーム「泣き虫さん」さん)
・雨あがり光るしずくや梅笑う(ペンネーム「三浦」さん)
・そよぐ風ほのかにかほる梅の花(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
・梅の白風つかめるや空の青

選者詠:谷村秀格

・梅の花かつがれてゆく母船かな
・取水口音を抜かれし梅の花
・ゆっくりと肉くわえゆく梅の花

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年2月7日(火)

第37回 お題「受験」(選と評 谷村秀格先生)
総評

回を重ねるごとに新しい方からの応募をいただきうれしい限りである。
しかし今回は「受験」という概念的なお題で難しく、宇宙を大きく掴むのに皆さん苦戦されたようである。
しかして、入賞句や特選あたりのいくつかは、「受験」というお題をを説明することなく、「受験」のイメージから離れたものを取りあわせ、宇宙を広く掴んだ見事なものであった。
このお題でこれだけ詠めるようであれば、他にどんな題が出てきてものびやかに詠めることであろう。
入選A入選Bのあたりの句は、お題を説明してしまった句、平凡な句が多かった。
どんなお題でもそうだが、宇宙を広くつかむためには、お題を説明せず、飛躍したイメージのモノを取りあわせることが大事である。
新しくご応募された方、上達を望まれる方は、入賞句や特選句あたりを何度も詠んで、感じを掴んでいただければと思う。
入賞に入るのは大変なことであるが、このホームページ上でも入選Aあたりまではなんとか評を書くように尽力しているので、毎週のように選評が出るこの貴重な機会を生かして、ゆっくりとしかし確実に俳句をわがものにしていっていただければと願う。

大賞

「受験日や百ピースめの空の青」(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)

受験日という季語でもある大きな時間・空間に、ちいさなパズルの一ピースを取りあわせた句で、そのパズルの最後の一ピースが空の青い部分だという。
この句の見どころは、受験日の心境をパズルというモノにたくしてうまく伝えているところ。
パズルの完成、そしてその空の青色、ひいては実際の空の青色がリンクしてゆくようなイメージに、受験合格への祈りや確信、ゆとりある心境のようなようなものが自然に読み取れてきて共感をさそう。
この句の上手さは、まずお題「受験」を一切説明していないこと。
「受験」というお題は概念的なので、どうしても、「受験」周辺のモノや出来事を詠みたくなるのであるが、そこから離れ「パズル」というある意味対極にあるモノを取りあわせ、宇宙を大きくとらえようとしたそのスケール感が見事である。
次に「時間性」。
「受験」といえば長きにわたる受験勉強なのであるが、パズル完成までの時間性を取りあわせることで、「受験」の概念の中の「時間性」の部分を暗に浮き上がらせてきているもの上手い。
さらには、先ほども述べたが、「百ピースめの空の青」から「実際の空の青」のイメージを導いているところも見事。
これは、「受験日」と取りあわさったことによって導かれてくる俳句形式の魔力で、象徴機能やイメージの機能を上手く味方につけた詠み方である。
このように解説すれば、このようにテクニカルな面がいろいろ見えてくるのであるが、作者は無意識に作句したものであろうし、それが大事である。
前にも申し上げたが、俳句は短いので下手に頭や理屈や意識で作ろうとするとそれが目立ってしまい逆効果。
その意味で、多作多捨が大事なのである。
すなわち捨てるべきは、頭で作った句、意味が通る句、理屈でつくった句、言葉を飾った句など、意識で作った上手い句ということになる。
名句です。
大賞おめでとうございます。
<作句のポイント>
モノの力を信じて、イメージの離れたもの(つかずはなれずのモノ)を取りあわせる。

入賞

「受験の日右から踏み出すスニーカー」
(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)

滑りにくいから「スニーカー」というような野暮な解釈ではなく、「スニーカー」という軽やかさが句に明るさをもたらして、よく合っている。
この句の上手いところは、気持ちを説明することなく、「踏み出すスニーカー」というモノや動作によって、受験へ向かう人の自信あふれる颯爽とした雰囲気をうまく伝えているところ。
句の明るさや軽やかさとあいまって、「いけるぞ」という作者ののびやかな心境が共感を誘う。
ただし上五「受験の日」とすると、どうも散文的になり、句全体の詠み方が舌足らずで甘く感じられるので、「受験日の」くらいに整えたい。
作者によれば、上五より「中七の字余りが気になる」とのことであったが、私見では、自然に聞こえ違和感はない。
俳句において大事なのは、句全体から立ち上るイメージなのであって、小学校の算数ではないのだから音数を厳密に気にする必要はない。
むしろこの句の場合、音数が気にならないというセンスをつかんでほしい。
かろやかな一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
身体の一部に着目し、象徴的に詠んでみる。

「受験日のざくりレタスに入れる指」
(ペンネーム「あや」さん 48歳)

受験生をもつ母親(自身)の受験当日の様子を詠んだ句。
レタスも季語であるが、この句の場合特にその重なりは気にならない。
「ざくり」という強い音は、わが子への強いエールを表しているのであろうか。
受験日のはらはらドキドキした心境を「ざくりレタスに入れる指」という普段の行為によって鎮めようとしているのであろうか。
あるいは受験日という特別な日だけに、普段は気にもとめない「指が入った瞬間の感触」が気になったのであろうか。
いずれにしてもその祈るような心境を、直接表現することなく、「受験」のイメージからしっかり離れた「レタスに入れる指」に託して詠んだところが見事。
それによって宇宙を広くとらえることにも成功しているし、読者をひきつけ想像力を刺激する。
ただし、このような詠み方は今風なのであろうが、どうも舌足らずに感じる。
ということは散文の省略形ということであり、俳句形式の韻文としての特徴を生かしきっておらず甘いともいえる。
よって、「受験日のレタスざくりと入る指」などとしてみたい。
こうすると「受験日のレタス」と「ざくりと入る指」という二つのモノの存在がしっかりと浮き上がってきて、より象徴的になる。
また「入れる」と直接意志を出すより、「入る」と少し距離を置いて客観的に詠んだほうが、モノの力が際立ってくる。
ぜひ繰り返し読み比べてみていただきたい。
象徴的な句よい句です。
入賞おめでとうござます。次回もぜひご応募下さい!
<作句のポイント>
「入れる」より「入る」、動詞は客観的に表現してみる。

入選句

特選

・神様の出動多し試験の日(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)
→無意識にできた句であろう。「出動多し」という表現がいかにも作者独自の無作為の素朴な言い回しで面白く俳味がある。句全体から立ち上がる作者のおおらかさ明るさのびやかな心境はいかにも「宇宙流」で好感を覚える。下半身は題が受験なので「多き受験の日」くらいにしたい。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・受験日の缶コーヒーのタブの冷え(ペンネーム「緑雨」さん 18歳)
→こちらも同年代の方。この句は「受験」と「コーヒー」はイメージの重なり(つきずぎ)で惜しいが、こまやかな視点が生きた。課題は短歌の上の句のような詠みを克服することであろうか。次回もぜひ挑戦を!
・受験地やポツリ見上げる北極星(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→素材としてはよいのだが詠み方が追いついておらず惜しい。「北極星見つめられたる受験生」
など。次回もぜひ挑戦を!
・鉛筆を尖らす受験前夜かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「鉛筆」と「受験」がつきずぎ(イメージの重なり)で惜しいが、雰囲気がよく出ているし詠み方も上手い。次回もぜひ挑戦を!
・指先の恋が曲がりし受験かな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 44歳)
→俳句は韻文なので、散文的文法的文脈的に句を受けとってはいけない。また、句に難解も何もなく、句が示している事情を感じ取ればいいだけのことである。この句、受験生の満たされぬ心境が独特の表現でうまく表されている。次回もぜひ挑戦を!
・避難所に灯りを燈す受験生(ペンネーム「角森」さん 48歳)
→宇宙は広いのに「避難所」のことばかりで世界が狭く惜しい。出来事には共感するが、俳句の芸術性は出来事ではなくイメージの豊かさと深度。詠み方は上手い。次回もぜひ挑戦を!
・受験子の空埋め尽くすオセロかな(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→「受験子」に「空埋め尽くすオセロ」と、まったく異質な取り合わせで、数式・公式・定理などで頭いっぱいの理系の受験生の様子を上手く伝えていて上手い。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・受験生餃子のひだを細やかに(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→「受験生」と「餃子」は少々離れすぎてしまってイメージが湧きづらく惜しいが、取りあわせの妙が感じられる。この方向でよい。次回もぜひ挑戦を!
・受験子や空貫きし天守閣(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
→素材が少し月並みなのと詠み方が少し荒いのが惜しい。同じ素材であれば「受験子の空をつらぬく天守閣」などのほうが素直な印象。モノを生かそうとする姿勢はよい。次回もぜひ挑戦を!
・受験生鉛筆削る小さき肩(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→宇宙は広いのにすべて部屋の中のイメージで惜しいが、雰囲気もよく伝わるし直接表現もなくうまい。はじめの意味にとらわれずもっと大胆な飛躍を試みたい。次回もぜひ挑戦を!
・吊革を握る手白し受験生(ペンネーム「ベルまま」さん 58歳)
→いまいちイメージが湧かないとこが惜しいが、直接表現をさけモノを詠もうとしている姿勢はよい。この句の場合「白き」の方が自然。次回もぜひ挑戦を!
・お受験や瞳に映る青い空(ペンネーム「パラパラ」さん 70歳)
→実感が感じられないというかただゴトになって残念。もう少しディテールを詠み込んでリアリティを感じたい。素朴な読み方は上手い。「お受験や瞳の隅の空のいろ」など。次回もぜひ挑戦を!
・すいすいと小鳥泳ぐや受験生(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→実感に乏しいのが惜しいが、応募句の中では、この句がもっとも「受験」のイメージから離れて宇宙を広くつかもうとしていてよい。次回もぜひ挑戦を!
・真夜中の柱時計や受験生(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)
→素材が月並みでつきすぎの印象なのが惜しい。モノを据えて詠もうとしているところはよい。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・受験子の地球の中へ立て籠もり(ペンネーム「クトシのバーバー」さん 94歳)
→部屋なら普通で句にならないが、飛躍して「地球」ときた。受験など奇妙なことが行われるのも地球ならでは。今後もこのような若々しく飛躍ある句を期待したい。次回もぜひ挑戦を!

入選A

・凍える手秒針忙しく働けり(ペンネーム「しののかあさん」さん 29歳)
→イメージが湧きづらく惜しい。お題をしっかり入れて詠みたい。「秒針のまだ忙しき受験生」など。次回もぜひ挑戦を!
・天高く鉛筆転がし桜咲く(ペンネーム「ともパパ」さん 31歳)
→お題をしっかり入れて詠みたい。「シャーペンの空に食い込む受験生」など。
・君先に待ちて笑顔の受験かな(ペンネーム「千月」さん 32歳)
→雰囲気はよく伝わる。「君とまた待ちあわせする受験場」など。
・受験日合格祈る父と母(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 41歳)
→平凡なので、離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・w受験赤文字だらけ予定表(ペンネーム「ひらめ」さん 49歳)
→感じはよく出ている。はじめの発想にとらわれず素材を生かして句にしたい。「予定表はみだしている受験生」など。
・受験票マトリョーシカの白い色(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→離れすぎの印象で惜しいが、取りあわせの工夫を試みる精神はよい。
・受験待つ石の冷たき金次郎(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→「受験」と「金次郎」はやはりつきすぎでおしい。飛躍を試みたい。
・夢ひとつ越えては登る受験生(ペンネーム「りんの」さん 57歳)
→少々上半身が観念的で惜しい。また「夢・受験」は平凡なので、離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・決戦の靴や真白に固結び(ペンネーム「ハチベー」さん 63歳)
→決戦などと直接表現しないこと。そのような直接表現をさけ「受験子の固く結べる靴の紐」などとすれば、象徴的な句になる。
・細道のお地蔵様にも受験母(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
→下五がよくわからないのがおしい。言いたい事は句にならないので、無理に盛り込まず、また最初の発想にとらわれず、素材を生かして作りなおしてみること。「地蔵尊ならんでおりし受験生」など。
・受験絵馬寡黙に反す少女かな(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→「受験絵馬と反らす」はつきすぎでおしい。雰囲気はよくでている。この方向で。
・その朝の仏壇光る受験かな(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→「朝・受験」「仏壇・光る」「仏壇・受験」とイメージが重なりすぎていて惜しい。そもそも仏壇と受験のとりあわせは「願」のイメージでイメージが近い。素材からの再考が必要。
・受験や孫にこやかに帰りける(ペンネーム「古志清右衛門」さん 76歳)
→感じはよくでていて共感できるが、どうにも平凡なので、離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・アラームの声遠のくや受験生(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→「アラームの声」がどうもイメージが湧きづらい。「終了のベルなりびびく受験かな」などだが平凡なので、離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・寒風に向かひて迫りくる合否(ペンネーム「ふじっこ」さん 43歳)
→どうも意識的に作っているのと中七以下が観念的で惜しかったが、慣れている。現代仮名づかいで書くようにしてほしい。
・制服にリンゴこすりて受験の子(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→リンゴと受験と季語が二つあるのがこの場合は少し違和感があるが、雰囲気のよく出た句。
・受験子の言葉少なに戻りけり(ペンネーム「浜崎」さん 71歳)
→詠まれている世界が平凡なのが惜しい。離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・受験すみゲームの窓を全開に(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→散文的で惜しいが俳味ある面白い句。
・グリーン車の夢見つ受験の夜行バス(ペンネーム「華みづき」さん)
→散文的かつ説明的で惜しい。象徴的な韻文にしたい。「受験生運ばれてゆく夜行バス」などだが、平凡なので離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・戦いのマントは飛べり受験生
→面白いのだが、上五中七が観念的で惜しい。やはり「受験と戦い」はつきすぎなので離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。
・武器持たぬ受験会場幼子ら(ペンネーム「ハイカー」さん)
→「武器・受験」は戦いのイメージでやはりつきすぎで惜しい。離れたモノを取りあわせたい。素材からの再考が必要。

入選B

・雪心勉強心親心(ペンネーム「あかぼんぼんばー」さん 12歳)
・フーと息吹くとうとう次は受験生(ペンネーム「なまいた」さん 14歳)
・魅せてやる!青春捧げた努力花(ペンネーム「三原のジョジョ」さん 18歳)
・雪の道そっと進むべき受験生(ペンネーム「トコロテン」さん 20歳)
・受験票変わらぬ心卵焼き(ペンネーム「ともママ」さん 29歳)
・真っ黒に染まるノートが睡眠薬(ペンネーム「げんげん」さん 32歳)
・受験生親の不安に引っ張られ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・お守りとキツネうどんや結ぶ春(ペンネーム「ミッチー」さん 44歳)
・胸はりて無となり前向き受験かな(ペンネーム「エミコ」さん 48歳)
・教え子に我が夢託す勝負の日(ペンネーム「ジャスミン」さん 51歳)
・受験生タコのサイズが証明書(ペンネーム「雅」さん 54歳)
・受験生ナンバープレート歴史本(ペンネーム「スマートパパ」さん 54歳)
・桜咲く梅も菜花も空澄みし(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・受験生神も仏もひっさげて(ペンネーム「せいこう堂」さん 55歳)
・滑り止めの靴の重みや大受験(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・難問が解けた膝には消しカス積り(ペンネーム「アリッサム」さん 62歳)
・日本を背負うその日がいま決まる(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・受験終へ眠りは深く夢開け(ペンネーム「つぐみ」さん 67歳)
・蘇る受験戦争若き日を(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・さあ受験君の明日への一里塚(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
・夢叶う受験日の朝吹雪舞う(ペンネーム「キートン」さん 69歳)
・厳寒を越えて芽吹くや受験生(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
・古希だけど合格するよこの試験(ペンネーム「可ずえ」さん 72歳)
・壁を越え大学受験夢かなう(ペンネーム「あしながおじさん」さん 72歳)
・今年こそ将来決める桜咲け(ペンネーム「野暮天西」さん 77歳)
・受験日にポッケにカイロ親ごころ(ペンネーム「泣虫」さん)
・春を待ちうどん置く手に母の愛(ペンネーム「チェリーブラッサム」さん)
・人の世は正解探しの受験生(ペンネーム「やっちゃん」さん)

選者詠:谷村秀格

・高き帆や洗いざらしの受験生
・子午線のたるみきったる受験生
・五線譜の上ぞろぞろと受験生

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年1月31日(火)

第36回 お題「節分(豆まき・鬼やらいなど)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

「宇宙流の俳句観」では、宇宙全体を感覚的に把握するのに「モノとモノ」との関係性を非常に重視する。
モノひとつでは、なかなかとりつくしまがないのであるが、モノが二つになると、それによってイメージの方向性が明確になり、囲碁の布石ではないが、作者がどう宇宙をとらえているのか、その「こころ」がみえてくる。
いわば、「モノとモノ」との関係性によって、「イメージ」が生まれ、その「イメージ」の先に「こころ」が見えてくるのである。

俳句における「心の置き場所」は、このように深い位置にあるのが自然な姿なのであって、句の表面で心や気持ちを直接表現するものではないのである。
句の表面で直接のべたり、表現すると、「宇宙は広いのに、目の前の出来ゴトばかりを話したり、自分の気持ちばかりのべることになる」ので、どうしても浅く、味わいのない句になってしまう。
出来事をのべたり、直接表現したり、言葉を飾ったりすることなく、モノとモノの関係性で、のびのびと宇宙をとらえるようにしたい。

「モノ↔イメージ↔こころ」の関係。
これを頭に入れておいていただければ、句の骨格が理解いただけてくるのではないかと思う。

さて今回も前回につづき、大変沢山の応募、そして新しい方からの投句を頂いた。
入賞にも新しい方の名前があがり、大変賑やかになってきた。
何事でもそうであるが、一度に飛躍は望めないので、目先の結果にとらわれず、毎週の選評を参考に、少しづつ詩心を磨いていただければと願う次第である。
毎週一人五句程度を目安に継続いただきたい。

大賞

「節分や少し短きワンピース」(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

春を迎える女性の心理を上手く詠み込んだ一句。
「節分」と実感のこもった「少し短きワンピース」のとりあわが絶妙で、これによって、春に向かう女性の喜びや成長・期待感のようなものが上手く伝わってくる。
春に向けた衣替えで、去年着たワンピースの丈が短く感じられたという成長期の女性の句ともとれるし、去年は短いと感じなかったワンピースを今年は短いと感じた作者の趣味の変化(心の変化)ともとれるし、春に向かう季節だけに、ワンピースの丈の短さに健康的な色気を感じた句などともとれる。
いずれの解釈によっても、句の奥に「期待感・前向き・健康的・あかるさ・かろやかさ」などがすんなりイメージでき、そのまた奥に作者の宇宙いっぱいに広がってゆく「のびやかな」心境が感じられてきて、共感を誘う。
料理は素材が六割とも七割ともいわれるが、実感のある素材(モノ)の世界を詠み、イメージの世界の詩情が大変豊かな「モノ句」であり「宇宙流」の一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句もモノが七割。小手先の詠み方よりも、モノを大切に詠む。

入賞

「両耳に食い込む輪ゴム鬼やらい」
(ペンネーム「ベルまま」さん 58歳)

よくわかる句である。
鬼の役をしているのは作者であろう。
「両耳」「輪ゴム」では何のことやらであるが、「鬼」が出てくると、一度に句の全貌があきらかになる華やかな仕掛けも面白いが、何より「両耳に食い込む輪ゴム」とその実感をうまく伝えているところが見事。
これによって、子どもたちのために耳にお面のゴムの痛みを感じつつも、一生懸命鬼の役を務める作者の様子がありありと目に浮かぶし、そんな作者のやさしさやあたたかさが共感を誘う。
自身の身体感覚を客観的に表現するだけで、これほどリアルに風景がイメージされるというよい例である。
ただし中七「食い込む輪ゴム」は「輪ゴム食い込む」として、句の調子を整えたい。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
身体感覚を客観的に表現してみる。

「節分や空に新居の柱建て」
(ペンネーム「華みづき」さん)

爽快な句である。
作者によれば、家を建てるぞという思いで詠んだものということであるが、素直に家を建てている心象風景・あるいは実風景としてとっておく。
この句の見どころは、春に向かう季節の中、これから出来上がってゆく家の風景に託して、未来への明るさ希望・人生の期待感などをうまく詠み込んであるところ。
「節分」という体感的上ではなく暦上(理論上)感じる「春」と、「柱建て」の取り合わせだけに「早く新しい家に住みたい」というような「はやる気持ち」がうまく詠み込まれていて共感を誘う。
ただしこの句、「新居」と「柱建て」というように、宇宙は広いのに、イメージの重なりがあるところが少し惜しい。
よって、たとえば「新居」を取って、「節分の空いっぱいの柱建て」「節分の空もち上げる柱建て」くらいにしてはどうか。
そうすることで「柱建て」にポイントがしぼられて、より「柱建て」の実感がでるのではないだろうか。
風景と気分のよくあった一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
イメージの重なりを避ける。

入選句

特選

・クレヨンの明るき面や豆をまく(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「クレヨン」がよく効いていていきいきとした雰囲気がよく伝わる。
・節分や狂い始める電波時計(ペンネーム「処方外来」さん 44歳)
→中七が少し安易で惜しいが、「節分」のイメージを説明せず、「節分」と「電波時計」の取りあわせが上手い。
・ポケットの中まで覗く鬼やらい(ペンネーム「角森」さん 48歳)
→上五中七に実感がよく出ていて共感できる。
・節分や耳の潰れし格闘家(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→豆まきの句というよりは、季節と格闘家のとりあわせの句としたい。意志や希望が感じられて共感を誘う。
・節分や鬼引き籠もる鬼ヶ島(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
→理屈の句なので少し惜しいが、俳味の感じられる句。
・節分の木の実啄ばむ地球かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→この句の場合「地球」は少し安易だが、大きな句。
・節分の夜空に響く孫の声(ペンネーム「沖田」さん 74歳)
→「声」「響く」とイメージがかさなったのが惜しいが気分やスケール感がでたのびやかな句。次回もぜひ挑戦を!
・節分の声途絶えゆく奥の院(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→「節分の声」が少し中途半端な表現であることと、全体的に実感ではなく、観念的というか頭でこしらえた印象の句で惜しいが、雰囲気も詠み方もうまい。
・山海を抱く地殻や恵方巻き(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
→この句は少しモノが多くごちゃごちゃした印象で惜しいが、この方向でよい。
・豆をまく右肩に鬼従えて(ペンネーム「雅」さん 54歳)
→「豆まき」と「鬼」がつきすぎであるが、「鬼従えて」が面白い。
・節分や雑草もさもさ動き出し(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→全体的に安易な印象で惜しいが、この句の場合、動き出したというコトを詠んだコト句ではなく、モノの存在が浮き上がったモノ句になっており、この方向でよい。
・鬼やらい琵琶湖をゆらす若聖(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→少し全体のモノ同士のイメージがちぐはぐであるが、取りあわせを工夫する姿勢が感じられてよい。

入選A

・節分の玄関すべてしづかなり(ペンネーム「緑雨」さん 18歳)
→出来事をよんだコト句で惜しい。コト句というのは「宇宙は広いのにそのコトだけしか詠んでいない」のでイメージの広がりに乏しく浅い。これは「しずか」とか言葉の美しさで解決する問題ではないので、そこを攻めてほしい。旧仮名はどうか勘弁してほしい。
・ツンとした夜に響けり鬼は外(ペンネーム「ともママ」さん 29歳)
→「ツンとした夜」が作者の実感で手柄。「豆まきの豆ツンとした夜に刺さる」など。次回もぜひ挑戦を!
・鬼は外手からこぼれる大豆かな(ペンネーム「かぶきもの」さん 29歳)
→「鬼・手・大豆」とイメージが近くて惜しかった。お題のイメージから離れたものを取り込んで宇宙を広くつかみたい。次回もぜひ挑戦を!
・節分の翌日庭に鳩集う(ペンネーム「千月」さん 32歳)
→「節分の翌日」は「立春」。「豆・鳩」のただゴトで惜しい。お題のイメージから離れたものを取り込んで宇宙を広くつかみたい。次回もぜひ挑戦を!
・病床に豆集めたり鬼やらい(ペンネーム「菊池」さん 45歳)
→出来事をよんだコト句であるのと、「豆・鬼」のイメージの重なりが惜しい。「病床の窓ひろびろと鬼やらい」など。次回もぜひ挑戦を!
・節分の風ひるがえす蕾かな(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→「蕾」が少し抽象的で惜しいがよくなってきている。「節分の風のつぼみやのどぼとけ」など。
・銃弾の街に響くや鬼は外(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→豆鉄砲ではないが「銃」と「豆」はつきすぎの印象で惜しい。しかし取りあわせの工夫を試みる精神はよい。
・鬼やらいスタッカートの星の空(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→「鬼やらい」と「スタッカート」はつきすぎでおしい。「星空の星のちらつく鬼やらい」くらいのほうがまだ自然な印象。
・宇宙から碧き地球へ豆を撒く(ペンネーム「ゆうな」さん 56歳)
→散文的なところが惜しいが雄大な風景に心遊ばせていて楽しい。次回もぜひ挑戦を!
・鬼やらい福はのんびりやって来る(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→「鬼」「福」のイメージが近いのが惜しいが、面白い句である。次回もぜひ挑戦を!
・豆撒きや床に遺るる傷の数(ペンネーム「ハチベー」さん 63歳)
→印象的な句。傷をもう少し具体的に言いたい。「爪跡の残る柱や鬼やらい」など。次回もぜひ挑戦を!
・節分の星座も移る地軸かな(ペンネーム「つぐみ」さん 67歳)
→全体的につわたりづらいのが惜しい。大きく詠もうとする気持ちはいい。次回もぜひ挑戦を!
・年の数四つ角探し豆袋(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
→少し理屈で作ってあるのが惜しいが雰囲気がよくでている。
・節分や春の気配か草芽吹く(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→「節分・春の気配」などイメージが重なっているのが惜しいが、嫌味なく詠んである。
・節分の風をかわして福のぞく(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)
→理屈の句であるのと、「節分・福」とイメージが重なっていて惜しい。取りあわせを工夫したい。
・裃の横綱凛々し鬼やらい(ペンネーム「テッちゃん」さん 79歳)
→「凛々し」と直接言ってしまったのが何より惜しい。そこを工夫したい。次回もぜひ挑戦を!
・節分や分水嶺で吉方に(ペンネーム「いまいち」さん 60歳)
→「節分・吉方」はやはりイメージのかさなりで惜しい。「節分や分水嶺の雲の影」など
・節分に負けじと膨らむ庭の梅(ペンネーム「村上」さん 80歳)
→「節分・梅」の季重なりよりも、「負けじと」とが直接の表現で惜しい。まだ「節分やふくらんでゆく梅の影」などのほうがよい。次回もぜひ挑戦を!
・学童の鈴ならし行き節分草(ペンネーム「佐藤」さん 81歳)
→ただことというかありふれた風景なのが惜しい。オリジナルを詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・大仏の手のひら駆ける鬼やらい(ペンネーム「笑いぐま」さん)
→少々観念的であるが面白い。

入選B

・豆撒や赤鬼後ろ髪引かれ(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
・鬼は外帰宅した父鬼の役(ペンネーム「ふく猫」さん 41歳)
・節分に鬼を無くして本能寺(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 41歳)
・厄明けを祝いて食む豆年の数(ペンネーム「花散る里」さん 43歳)
・噛む豆の一粒ごとに泣き笑い(ペンネーム「ミッチー」さん 44歳)
・鬼役をできる幸せ節分よ(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 46歳)
・皆揃わず静かな豆まきエコとなり(ペンネーム「エミコ」さん 48歳)
・納豆を投げつけられて鬼粘る(ペンネーム「アホ踊り」さん 48歳)
・宇宙から豆まきしたし鬼退治(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
・鬼の面はづして仏間に豆をまき(ペンネーム「そら」さん 57歳)
・福巻の七色の春待ち遠し(ペンネーム「かずママ」さん 61歳)
・鬼はそとうちには笑顔の福六人(ペンネーム「伸蔵」さん 62歳)
・節分や七福神をまるかじり(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・ディサービス節分豆まき童心に(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
・近所に豆が飛び散る節分や(ペンネーム「aniesu」さん 67歳)
・豆まきやフードに着地小宇宙(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
・節分や萌はじめたり風かほる(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
・鬼やらい老いし夫婦に音も無き(ペンネーム「めたぼり庵」さん 70歳)
・豆の数増えて歯が泣く節分や(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
・豆撒きや宇宙の果てへ邪鬼飛ばす(ペンネーム「音爺」さん 70歳)
・升半分祖父に残して豆を撒く(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
・豆まきも世相を映すテトラかな(ペンネーム「藤原」さん 51歳)
・自国愛優先の大統領に邪気払い(ペンネーム「磯田」さん 57歳)
・節分や豆では追えぬ鬼ばかり(ペンネーム「浜崎」さん 71歳)
・節分や心の鬼を弾き出す(ペンネーム「大島」さん 72歳)
・声かける追われた鬼に「お入りよ。」(ペンネーム「太助」さん 77歳)
・夜の海声を重ねて豆を撒く(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
・おにはそと初孫のわらいつぼにはまる(ペンネーム「藤田」さん)
・かたまりて節分の鬼焚火かな(ペンネーム「ハイカー」さん)
・豆まきやおにもいっしょに遊びましょ(ペンネーム「久美子」さん)

選者詠:谷村秀格

・節分や西にかたよる深海魚

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年1月24日(火)

第35回 お題「雪」(選と評 谷村秀格先生)
総評

今回は新人の方の投句も、全体の投句も多くうれしい悲鳴であった。
特選以上の句は大激戦であったし、入賞三句の選句は苦労した。
一日で選句して評を書き上げるというのもなかなか大変である。

そんな中、大賞は「スケールの大きい秀格好みの宇宙流の句」、入賞二句は「美しい句」、「無意識からの句」とバラエティに富んだ。
特選もモノをきちん据えた象徴的なモノ句ばかりで、番組で紹介したい句もたくさんあった。
入選句は、今回は句が多かったので、AとBに分けて掲載したが、このあたりも、以前より断然よくなってきているのが見て取れる。

新人の方は、コツを掴まれるのに時間がかかるかもしれないが、毎週選評がもらえる機会はそうないので、目先の結果にとらわれず、自分の評や他人の評をよく読んで、実感のこもった象徴的なモノ句を目指して詩心を磨いていただければと思う。

応募の句数に制限はないが、一度にレベルアップは望めないので、つぎつぎ浮かぶ人は5句程度に絞って送っていただければと思うし、なかなか思い浮かばない人も「詠み癖」をつけるため、やはり5句程度を目標に送っていただければと思う。

句の応募欄に「句に込めた思い」を書くところが必須項目としてあるが、句の選には直接影響しないので、ない人は「なし」でもいいし、心象風景を句にした方やふと浮かんだ句などの場合もその旨簡単に書いていただければよい。

俳句は国語や日本語の世界ではない。
しっかり生きている人なら誰でも詠める「無意識の芸術」「宇宙と一体となる芸術」である。
季語や文法にとらわれず、まず実感をおおらかに詠んでみること、そして「ポチッと送信」してみることを習慣に、自身の新しい可能性にぜひ継続的にチャレンジしてみていただければと願う次第である。
あなたからの新しいご応募をお待ちしています。

大賞

「深雪の凸凹のなき地球かな」(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)

「深雪」と「地球」を重ね見たスケールの大きい「宇宙流」の句。
てらいのない自然体な詠み方も句全体の大らかなイメージによくあっている。
「凹凸のなき」が「深雪」に対してやや平凡ではあるが、「凹凸のなき」が「深雪」とも「地球」ともとれ、イメージが膨らむ。
何者も踏み込んでいないふんわりとした清々とした雪景色と、「地球」全体を重ね見ることで、句からイメージされる世界に、平和や人々の笑顔や心の清らかさのようなものが感じ取れてきて、共感を誘う。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
中七と上五、下五に働かせる。

入賞

「店先に花を選びぬ深雪晴れ」
(ペンネーム「ベルまま」さん 58歳)

この句の場合、花を季語と解釈する人はいないであろう。
「深雪晴れ」というのは、雪の積もった朝、すっかり晴れた様子。
白い雪景色と青い空という風景の中、色鮮やかな花をチョイスしている様子は色彩的にも美しい。
また「深雪晴れ」という雪のち晴れという時間を連想させる風景の中、「花」を選ぶ様子は、作者の陰から陽への気分の変化を上手く詠み込んでいて共感を誘う。
ただし、中七「選びぬ」では行為完了的なニュアンスだし響きが少々強いしなるので、「店先の花を選べる深雪晴れ」など、柔らかくしかつ行為継続中の雰囲気をだし、リアリティをもたせたい。
入賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください。
<作句のポイント>
動作は継続中のニュアンスをだし、リアリティをもたせる。

「粉雪やさらさら解けし化学かな」
(ペンネーム「ルビー」さん 17歳)

句は模擬試験で化学の問題を解いているとき、窓の外をみて浮かんだ句という。
初心者なので詠み方には難点もあるのだが、それを通り越して実感・無意識に詠んである点を大いに評価したい。
何より「さらさら」という感触が粉雪の質感とも、化学の問題が解けてゆく様子ともとれておもしろい。
「さらさら」が、時間を早送りする擬音のようでもあり、自動書記のように神がかって勝手に問題が解けてゆく様子のようでもある。
句の奥に、世の中を達観したかのような心境が感じ取れてきて共感を誘う。
ただし最初にのべたように、「や」「かな」と切れ字が二つあるところは一つにしたいし、「粉雪」と「化学」は理科つながりでイメージの重なりになるのでもう少しイメージを飛ばしたいし、「解けし」というと「化学を解く」ほうに偏るので、「粉雪がとける」とも読みとれるようにしたいので、「粉雪のさらさらとける定理かな」くらいにしてみたい。
俳句形式にまだ慣れていないところはあるが、最近の若い作者にありがちな倒置や韻や旧字体や枕詞などのような「言葉の美」「懐古趣味」に溺れることなく、「実感・無意識」のままにのびのび詠んでいる姿勢が大変気持ちよく、その将来性に多いに希望をもちたい。
まわりの雑音に惑わされることなく、これを機会に自分の実感を信じて詠み進めていってほしいすばらしい感性である。
入賞おめでとうございます。次回もぜひチャレンジください。
<作句のポイント>
俳句には型もルールもない。自分の感性を信じてのびのび詠む。

入選句

特選

・新雪の足元のびて北の空(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
→詠みが少し甘いのが残念であったが、この方向でよい。「新雪や足ののびゆく北の空」など。
・雪煙フライトロードの続く空(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→眼前の風景をうまくとらえた。雪・空・フライト、ロード・続く、などちらちらイメージが重なったのがおしいが、盛り込もうとせず軽く詠んでうまい。
・雪や繰り返し読むラブ・レター(ペンネーム「角森さん」さん 48歳)
→大雪の降り続く様子と、ラブレターを何度も「繰り返し」読む様子がうまく合っている。恋の句というものは思いばかりが先行して出来事をなぞったり、気持ちを直接表現したりして、浅くなりやすく句にしにくいのであるが、うまくモノに託して詠んまれている。
・湯上りの乳房の汗や雪の窓(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→なかなかの句で、女性の色気をうまく表現してあるが、モノが多くて少々盛り込み過ぎなのと、意外に世界が平凡なのが惜しかった。
・粉雪や数字浮き出す時刻表(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→詠み方はうまいが、数字ど時刻はイメージの重なりで惜しい。そこを再考したい。
・眠りたるジャングルジムや雪明り(ペンネーム「ハチベー」さん 63歳)
→なかなか詩的な風景だが、「眠りたる」「雪明り」が少しイメージが近かった。「座り込むジャングルジムや雪明り」あたりだとオリジナリティが出そう。
・雪舞うや天寿の母の紅の色(ペンネーム「夏みかん」さん 68歳)
→「天寿の母」が少し舌足らずで惜しかったが、モノに託して詠もうとしている句で好感がもてる。次回もぜひチャレンジを!
・光芒や雪を巻き上げ列車来る(ペンネーム「音爺」さん 70歳)
→しっかりとした詠み方で迫力を上手く伝えているが、上五があまり効いていないのが惜しかった。
・バスの旅雪を蹴散らす松江道(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→旅の楽しさがよくあらわれているが、下五が上五の風景にもどるような印象で惜しかった。まだ「友の声」などのほうがよい。
・粉雪の水の面に消ゆ大河かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→粉雪と大河の取り合わせはよいが、水面と大河がイメージの重なりで惜しかった。読み方はよい。
・晴天に仁王のごとき雪だるま
→一読「仁王のごとき」が印象的で面白いのだが、溶けてゆくのをこらえている様子というのがすぐに読み取れて浅く惜しかった。

入選A

・まっさらの雪に重さを残しけり(ペンネーム「かぶきもの」さん 29歳)
→感じはよく出ているのだが、句の後半が観念的で惜しい。「まっさらの雪におかれし手紙かな」など。次回もぜひチャレンジを!
・そとのねを包んで積もるぼたん雪(ペンネーム「ミッチー」さん 44歳)
→説明的で惜しい。すべてぼたん雪のイメージに収斂されそう。次回もぜひチャレンジを!
・君逝きて一人見上げる雪空よ(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→気持ちはよくわかるのだが、このような句は思い入れが強い分、重い句になるので気を付けたい。「よ」などがついたら要注意である。「友逝くやひろがってゆく雪の空」くらいか。
・自転車のサドルに小さき雪だるま(ペンネーム「狐穴」さん 50歳)
→眼前の景色を素直に詠んでいて好感がもてる。この方向でよい。次回もぜひチャレンジを!
・郵便や雪に足跡置いていく(ペンネーム「やんちゃん」さん 55歳)
→雪の一風景を象徴的に詠んでいてうまいが、誰の足跡か明確にしたほうがイメージがひろがりそう。「郵便夫雪においてく足の跡」など。
・年寄りの家に小さき雪だるま(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→雰囲気の出た句。「年寄り」が直接的すぎる印象。「茅葺の家」などとしたいが平凡になるので、「平成の家に小さき雪だるま」などでは。
・北国に降り重ねるや今朝の雪(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→分かりやすいのだが、それはイメージの重なりでもある。すべて「今朝の雪」に収斂される印象。もっと別のイメージを取り込んで世界を大きくよみたい。
・風花や墓石にひらり訪ねをり(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→風景は見事なのだが、詠みが甘く惜しい。「風花のなでゆく墓の頭かな」など。
・トンネルに吸はるる尾灯雪時雨(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)
→この句も風景は美しいのだが詠みが舌足らずで惜しい。「トンネルに尾灯消えゆく雪時雨」など。また旧仮名使いは必然性がないのでやめること。
・雪晴れや富士山眺む野天風呂(ペンネーム「テッちゃん」さん 78歳)
→気分のよい句であるが、大きいモノばかりかりで対比が効かず、句のイメージが逆に小さくなってしまったのが残念。次回もぜひチャレンジを!
・吾の負けよ碁盤の上のぼたん雪(ペンネーム「ハイカー」さん)
→上五がとにかく惜しい。どうして野外に碁盤があるのだというような野暮なことはおいておいて「碁盤の上のぼたん雪」は詩的真実としてとても美しく象徴的なのでそれを生かしたい。「しずみゆく碁盤の上のぼたん雪」なら大賞。

入選B

・雪が降る空から舞い散る子供の夢(ペンネーム「ハッピーエンド」さん 10歳)
・雪景色その横顔を引き立てて(ペンネーム「みささぎ」さん 20歳)
・雪ん子や暗号降らす通学路(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
・雪だるま並びてまもる道祖神(ペンネーム「クローバー」さん 36歳)
・積もるほど 街から音が消えていく(ペンネーム「ととん」さん 36歳)
・雪だるま淡い友達寂しけり(ペンネーム「まこちゃ」さん 36歳)
・曇る窓冬を見送るなごり雪(ペンネーム「まーぼー」さん 39歳)
・せまり来る雪は時間をもどし行く(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 46歳)
・高台より眺める景色雪模様(ペンネーム「エミコ」さん 48歳)
・雪解けの陽にねむりゆく羅針盤(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
・初雪やテールランプの赤い数珠(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
・検査日に玄関脇で光る雪(ペンネーム「雅」さん 54歳)
・しんしんと雪積もるは無人駅(ペンネーム「りんの」さん 56歳)
・初雪を丸めてまるめてポケットの中(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
・何もない過去も未来も雪の中(ペンネーム「プリンセス まさ」さん 63歳)
・積雪にこわごわ歩く幼孫(ペンネーム「なよばーば」さん 66歳)
・雪しまく肩甲骨を固まらせ(ペンネーム「めぐみ」さん 67歳)
・雪女郎期待はづれの美貌かな(ペンネーム「呑田」さん 70歳)
・注意報新聞覗く雪ポスト(ペンネーム「ふー」さん 70歳)
・名残雪去りゆく友を偲び泣く(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
・雪山を背に漂白の旅まかせ(ペンネーム「大島」さん 72歳)
・雪しんしん城下の町を丸うしぬ(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
・初雪やうなじ黒子のみえ隠れ(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん)
・雪の夜明日は雪かきストレッチ(ペンネーム「レッド・ポストマン」さん)
・大雪の化石を溶かせシン・ゴジラ(ペンネーム「笑いぐま」さん)
・雪国に入り窓側を母に譲る(ペンネーム「浜崎」さん)
・寒いです雪やこんこん楽しいな(ペンネーム「わた」さん 43歳)
・久方に夜の静まり朝の雪(ペンネーム「がんべん」さん 51歳)
・雨 アラレ雪の元素はH2O(ペンネーム「スーパーゆぅちゃん」さん 51歳)
・闇抜けて雪まじり風滲む墨(ペンネーム「そら」さん 56歳)
・雪の朝孫の足跡頼もしく(ペンネーム「イチロウ」さん 64歳)

選者詠:谷村秀格

・さしだせる雪の燃えだす電話線
・曼荼羅の隅騒がしき雪の花

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年1月17日(火)

第34回 お題「鏡餅(鏡開き)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

複数句応募される方などは、快心の作と思っている句や思い入れのある句、工夫を凝らした句などは採用されず、なんとなく出来た句であるとか、出来たのでまあ出してみようというような肩の力の抜けたような句が採用されることに驚く。
しかしこれが俳句なのである。
俳句は気の利いたことを言ったり、工夫を凝らしたりすれば、短さ故そればかりが目について鑑賞の邪魔になるという不思議な詩型。
であるから、モノに託す・実感・無意識の表現が大事になってくる。

さて、今回のお題は「鏡餅」であったが、いつもよりレベルが高かった。
特に入賞句などは、どれを大賞にするか多いに悩んだ。
特選句についても今回は象徴的な「モノ句」が多く心強かった。
今後もこのような方向を期待したい。

何はともあれ新年である。
あなたの素直な実感のある一句をお待ちしています。
ぜひ俳句にチャレンジを!

大賞

「鏡餅ひわれて海を見渡せり」(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)

力強い句である。
神様へのお供え物であり新年の象徴である「鏡餅」と、眼前に広がる大きな「海」を取りあわせた空間的スケールの大きい「宇宙流」の一句でもある。
「ひわれて海を見渡す」というところに作者の実感が感じられるし、「見渡せり」と力強く言い切った表現も、「鏡餅」のどっしりとした姿や「ひわれた」ごつごつとした肌、冬の「海」の雰囲気によくあっている。
例えば「見ておりぬ」などでは、どうにも物足りない。
句を味わっていると、新年の風景だけに「強い決意」や「何かに向かっていこう」という作者の「挑戦的で前向きな意志」が感じ取れてきて、共感を誘う。
この句、「見渡せり」という出来事を述べた「コト句」であり、また「~して、~せり」と説明的で浅い句なのではないかと思われる方もおられようが、それらはあくまで国語的部分的な解釈。
一句全体を「感じた」とき、そのあたりのことは全く気にならない「鏡餅」と「海」のモノの存在感がよく活きた「モノ句」である。
モノに託して心境を上手く伝えた一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
句の全体にあった表現を心がける

入賞

「鏡餅大漁旗のはりついて」
(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)

新春の漁船を詠んだ句。
漁船に飾られた「鏡餅」の白、大漁旗の赤や黄などの原色、そして空の「青」など、一読して句全体の色彩の調和が美しく、一気に句の奥の世界に入り込むことができ、「宇宙の美や調和」を感じ取ることができる。
この句「はりついて」がポイントで、ここに作者の強い実感が見て取れる。
たとえばこれが「鏡餅大漁旗のはためいて」などでは月並みでつまらない。
「大漁旗」が「はりつく」のは、「空」であろうか「作者の心」であろうか。
物理的に「大漁旗」が空にはりつくのはおかしいことかもしれないが、いわばこれが「詩的真実」。
我々はそういう句が運んでくるイメージを味わえばいいだけのことであるし、いずれの解釈によっても「大漁旗」の鮮やかさが印象的で「いきいきとした前向きな雰囲気」が感じとれ共感を誘う。
いわば、この句の鮮烈なイメージは、漁師の方々のみならずすべての人々への幸せや繁栄をねがう心でありエールなのである。
象徴的な取り合わせが光った一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
物理的なつじつまより、無意識からの表現を大切にする。

「鏡餅床の間に座す少女かな」
(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)

「正月の床の間に少女が座ったところで何が詩なのだ」と思われる方もおられよう。
そのような方は、俳句は「短い中でできるだけ伝えるもの」「何か気の利いたことをいうもの」「いいたいことをいうもの」と思われているのであろうが、違う。
俳句はむしろ「短さを生かす詩型」であって、何かを詰め込むとか、風景を切り取るとか、長い出来事を短く表現するというような不自由な詩型ではないのである。
それらのことがしたければわざわざ短い俳句を持ち出さなくても、短歌や詩や日記や写真などで表現すればいいのである。
俳句の短さが一番活かせるのは「象徴的手法」であって、これによって一瞥で宇宙までをもとらえることができるのであるが、この句はそれがよく働いている。
まず、「鏡餅」が「床の間に座して」いるのかと思えば、「少女」が「座している」という意外性が面白い。
また「鏡餅」と「少女」の取り合わせが絶妙で、つかず離れず美しいイメージを導き出しているところを存分に味わいたい。
それは「鏡餅」の神聖さと「少女」のピュアな心のイメージの重なりが織りなす美であり、「鏡餅」の白と「少女」の肌の美しさが醸し出す美のであるともいえるであろう。
「鏡餅」と「少女」が重ね合わさるような、いわば「鏡餅」が「少女」に変身するかのような印象も感じられ、幻想的である。
句の表面の空間は限定された「床の間」であるにもかかわらず、句からイメージされる世界は、透明で果てしない空間的広がりが感じられ、そのすがすがしく清々とした雰囲気が共感を誘う。
新年の気配を上手く詠み込んだ一句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
非日常はイメージされる世界に置く。

入選句

特選

・耳たぶに雲間のひかり鏡餅(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→少し観念的で惜しかったが、女性特有の感性で「鏡餅」を詠み込み、「鏡餅」から離れたモノを取りあわせ世界を広く把握しようとした「宇宙流」の句で発想はよい。次回もぜひ挑戦を!
・足袋裏の白並びたる鏡餅(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→「足袋・白・鏡餅」と少しつきすぎな印象であるところが惜しかったが、「足袋裏」の形が並ぶ様子と「鏡餅」のイメージを重ね合わせた句で座敷の雰囲気がよく出ていて上手い。
・行く雲を待たせて鏡開きかな(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)
→「~して~した」と説明的で惜しかったが、「雲を待たせて」という表現がユニークで素晴らしい。
・鏡餅重ねて隠す参考書(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「重ねて隠す」と動詞が重なり説明的で惜しかったが、「鏡餅」と「参考書」の取り合わせは上手いので「鏡餅重ねられたる参考書」など、もう一段階軽く詠んでいただけると入賞に近づく印象。次回もぜひ挑戦を!
・晴天やひび割れ多き鏡餅(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→「ひび割れ多き」という出来事の側面が強く感じられるコト句の印象で惜しい。一段軽く「晴天のひび割れている鏡餅」などでは如何。
・歳神の言葉巧みな鏡餅(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 41歳)
→中七が作為的・説明的で惜しい。「歳神・鏡餅」の季重なりではあるが全体的には面白い一句。
・鏡餅フォークソングをこの胸に(ペンネーム「阿呆」さん 44歳)
→下五が自己陶酔的で惜しい。「鏡餅」と「フォークソング」はギリギリ離れすぎの印象だが、そのチャレンジ精神がよい。
・荒波に日矢差しゆくや鏡餅(ペンネーム「カープ女子黒ちゃん」さん 50歳)
→この句の場合、「差しゆくや」と複合動詞に切れ字がついて、句の印象が重くなり惜しい。「荒波や日の吸われゆく鏡餅」など少し軽くしたい。モノに託して詠もうという姿勢はとてもよい。次回もぜひ挑戦を!
・鏡開きマトリョーシカの赤き衣(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→部屋の中のモノ同士、かつ大きさも同じものの取り合わせで飛躍に乏しいのが惜しいが、オリジナリティを大事にする方向はよい。
・子ら去りて小さくなりし鏡餅(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→「子どもが独立していったので鏡餅を小さくつくるようになった」という出来事の句(コト句)にとられるのが惜しい。「鏡餅自体が膨らんだり縮んだりする」という詩的真実を詠み込んだモノ句の方向に解釈されるようであれば入賞候補か。
・幼子に重ねし頬や鏡餅(ペンネーム「ハチベー」さん 63歳)
→「~に~する」と説明的なところが惜しい。「幼子の頬重ねたる鏡餅」など、素材を生かして軽く詠みたい。
・大山の地鳴りのごとく鏡割り(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→「地鳴り」と「鏡割り」はつきすぎの印象で惜しい。この句の場合「大山の地鳴りのごとき鏡餅」などのほうが合いそう。

入選

・鏡餅真っ白い背中が変化中(ペンネーム「ハッピーエンド」さん 10歳)
→宇宙は広いのに鏡餅のことだけ詠んでいて惜しい。「鏡餅変化のつづく空の色」などのほうがよい。次回もぜひ挑戦を!
・鏡開き緑茶の色はふかくなる(ペンネーム「緑雨」さん 17歳)
→すべて部屋の中のものだけの取り合わせで飛躍に乏しいのと、「緑茶→色→濃い」とフレーズの変容がないので平凡になってしまって惜しかった。センター試験を受けてこられたそうでお疲れ様でした。合格をお祈り申し上げます。
・二段腹鏡開きを待つ私(ペンネーム「しののあかさん」さん 29歳)
→ユニークだが、出来事の句なので浅く惜しい。象徴的な句にもっていきたい。次回もぜひ挑戦を!
・初孫や鏡開きに半開き(ペンネーム「ホーク」さん 30歳)
→「半開き」が安易で惜しかった。「初孫」と「鏡開き」の取り合わせはよさそうなので、「初孫や鏡開きの空の色」などと大きなモノをもってきて宇宙を象徴的につかめば、よい句になりそう。次回もぜひ挑戦を!
・鏡餅なき相棒や背を丸め(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→なんらかの思いや出来事をいいたいのであろうが、俳句は短いのでそれができない。言いたいことは詠めないとあきらめることが俳句上達の秘訣。「鏡餅運ばれてゆく犬の顔」など。次回もぜひ挑戦を!
・かがみもち切るとき父の威厳見る(ペンネーム「まこちゃ」さん 36歳)
→「見る」という出来事を詠んだ句なのが惜しい。「鏡餅みつめておりし父の背」など。モノ句にもっていきたい。次回もぜひ挑戦を!
・鏡割古びた思考回路消す(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→「消す」という出来事を詠んだコト句なので浅く惜しい。「シナプスのどこか消えたる鏡餅」などモノ句ももっていきたい。
・鏡餅飛んで火を吹くバハムート(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 44歳)
→飛躍しすぎであることと、中七の表現が安易なのが惜しいが、取り合わせを工夫する姿勢はよい。
・鏡餅子どもの無事を確かめる(ペンネーム「角森」さん 48歳)
→「確かめる」という出来事をのべたコト句で浅く惜しい。
・鏡開き一皮剥けたカメレオン(ペンネーム「ひらめ」さん 49歳)
→「鏡餅」と「カメレオン」は少しイメージが離れすぎの印象だが、こういう斬新な取り合わせを試みる姿勢はよい。次回もぜひ挑戦を!
・鏡開き空吸い込みし笑い声(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
→「鏡開き」に「空」は合うが、「空」に「笑い声」はつきすぎで惜しかったがこの方向でよい。
・鏡餅トンカチで割る愉しさよ(ペンネーム「さんご」さん 53歳)
→言われていることはわかるが「楽しさよ」といわれてしまっては「楽しさ」意外に解釈の自由が与えられず「俳句の押し売り」になってしまい惜しい。「鏡餅割られつつあるアジアかな」など大胆に象徴的に詠み、解釈は読者にゆだねたい。次回もぜひ挑戦を!
・鏡餅あぐらをかいて笑い声(ペンネーム「雅(みやび)」さん 54歳)
→「~して○○」と説明的で惜しい。「ひらかなのすわりこんだる鏡餅」などモノを打ち出して象徴的に詠みたい。
・ひび入りてなお丸くあり鏡餅(ペンネーム「ゆうな」さん 55歳)
→宇宙は広いのに「鏡餅」の様子ばかりを説明していて惜しい。「アスファルトひび割れている鏡餅」など宇宙を広く詠み込みたい。次回もぜひ挑戦を!
・子等がもつ竹竿の先鏡餅(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→モノ句のようであるが、「竿先に鏡餅があるというコト」をのべたコト句で浅いのが惜しい。
・鏡餅青かびの味ぜんざいで(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
→言いたいことはなかなか句にならないし、句はべて「鏡餅」周辺のモノばかりで世界が狭く惜しい。何か別のものと取りあわせて大きく詠むようにしたい。
・お昼寝中妻と老犬鏡餅(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
→モノ句のような姿をしたコト句で浅く惜しい。「老犬と妻の重なる鏡餅」など。
・鏡餅朝の白さや障子越し(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)
→全体的に「白」のイメージが重なりすぎで惜しい。「鏡餅ふちどってゆく朝の風」など。部屋の中ばかりでなく宇宙を大きく取り込んで詩にしたい。次回もぜひ挑戦を!
・鎮座して神を導く鏡餅(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→おっしゃるとうなのだが、すべて「鏡餅」の一言に収斂されるので惜しい。「鏡餅」以外のモノと取り合わせ宇宙広くつかみたい。次回もぜひ挑戦を!
・ひび割れて鎮座まします鏡餅(ペンネーム「音爺」さん 70歳)
→この句の上の句と同様で、すべて「鏡餅」の一言に収斂され惜しい。「鏡餅」以外のモノと取り合わせて宇宙広くつかみたい。
・鏡餅妻の笑顔のやさしさよ(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
→「やさしさよ」と心情を吐露したのが惜しい。せめて「鏡餅ほほ笑んでいる妻の顔」くらいか。
・道場の気合い響くや鏡餅(ペンネーム「テッちゃん」さん 78歳)
→「気合」という表現が中途半端な印象で惜しい。「道場の掛け声響く鏡餅」など。次回もぜひ挑戦を!
・おほかたは男手のなき鏡割(ペンネーム「うり・ぴーママ」さん 68歳)
→「男手のなき」という出来事を述べたコト句で惜しい。次回もぜひ挑戦を!
・子も孫も行けば一人の鏡餅(ペンネーム「クトシのバーバ」さん)
→「一人」という出来事をのべたコト句で惜しい。
・里帰り鏡開きも既に過ぎ(ペンネーム「田中」さん)
→「過ぎた」という出来事を述べたコト句で浅く惜しい。

選者詠:谷村秀格

・少年の影のかたちや鏡餅
・島影のふくらんでゆく鏡餅

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2017年1月10日(火)

第33回 お題「初夢」(選と評 谷村秀格先生)
総評

あけましておめでとうございます。
今年も詩情スケールの大きい「宇宙流」俳句を皆さんと楽しく詠んでいけたらと願っています。

さて、初詣ではないが、新年最初の俳句道場ということで、「俳句の女神様」について考えてみたい。
「俳句の女神様」は私の見立てであるが、「俳句の女神様」と仲良くできれば、良い句が生まれる」のではないかというのは素直な発想である。
モノを据える・働かせる、実感・発見を詠む、説明しない・理屈をのべない・心情吐露しない・出来事(コト句)を詠まないなど、コツ的なこともないわけではないが、「俳句の女神様」のお力を借りることができれば、何も気にする必要はなくなろう。

ではどうすれば「俳句の女神様」と仲良くしてもらえるのか。
それは、俳句にとらわれず明るく楽しく生きることではないか。
俳句のことをすべて分かっている「俳句の女神様」からすれば、下手に俳句に一生懸命で得意になっている人たちより、人生そのものをのびのび明るく楽しく生きている人達ともっと仲良く遊びたいと思うに違いない。
そんな人が素直に俳句を詠もうとするとき、俳句の女神様は微笑みをもたらしてくれるのではないか。

私は「俳句は無意識の芸術」とも言っているが、言葉や文法や技術や工夫や勉強・個性をだそうとすればするほど、その非常にシンプルで短い詩型はそれを裏切って、逆に意識的で作為的で没個性的なものになってしまうのである。
そのことを思えば、上記の話もあながち極論とはいいきれない。

俳句は日本語の世界ではなく、盆栽・造園・骨董・茶道など、宇宙と一体となる東洋の文化そのもの。
宇宙は広いのであるから、あなたの本当の幸せを見出し楽しく生きていることが、ひいてはよい俳句づくりにつながってくるということは一つの真理のような気がする。

さて、新年最初の俳句道場のお題は「初夢」。
今回も新しい参加者を含め沢山の投句を頂いた。
このおめでたくも抽象的なお題をどう詩情豊かなモノ句にもってゆくか楽しみであった。
入賞句は、どれもモノの力と実感がともなったオリジナリティあふれる象徴的な句であった。
入選句以下はやはり、出来事の句(コト句)が多く残念。
コト句というのは出来事が理解できればそれ以上にイメージが広がらないので、何の出来事を詠もうと、いくら言葉をかざろうとも詩情世界が浅いのである。
「句中の飛躍(対比)」を生かして宇宙を一瞥にとらえた宇宙流の象徴的な句にもっていってほしいと願う。

大賞

「初夢や助手席で聴く波の音」(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)

作者によると、「日の出を待って車中で仮眠の間に見た初夢に触発されて詠んだ句で。冬の浜辺だが、何故か温かい時間がすぎていった」とのこと。
私はふと、百人一首に「由良の門を渡る舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな(由良川の瀬戸を漕ぐ船頭が櫂をなくして漂うように、行く先が分からない恋の道行きである)」という曽禰好忠(そねのよしただ)の歌が思い浮かんだ。
初夢というと、一富士、二鷹ではないが、畳の上に敷いた布団で見るような伝統的な和風のイメージが強いが、そこに冬の海辺の車中というトレンディドラマのワンシーンのような空間を取りあわせて詠み込んだところがオリジナルで新鮮。
俳句は短いので言葉や頭でこしらえると、テクニックや作為が鑑賞の邪魔になってしまうが、この句は実感ある世界を無意識に詠んだ無作為の句なので、すんなりと句の奥のイメージの世界に入っていけ自然体である。
男女二人のシーンが連想されるが、実体のない初夢とリアルに繰り返す波の音の取り合わせは、美しくもどこかしらさびしくはかなげで、誰(運転席)と行ったのか、なぜ海辺なのか、どのような関係なのか、どんな夢をみたのか、これから二人はどうなるのかなど、読者の想像力を刺激してやまない。
句の奥に人生への期待とはかなさのようなものも連想されてきて、共感を誘う。
「聴く」「音」と少しイメージが重なっているところが惜しいが、そこまで気にならない。
初夢を若々しく詠みあげた一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
俳句は無意識に詠む。

入賞

「初夢や茜に染まるケアハウス」
(ペンネーム「あや」さん 48歳)

「ケアハウス」は高齢者養護施設のこと。
作者によると「鮮烈な茜色の朝日に染まる「ケアハウス」に触発されて詠んだ句」とのこと。
「初夢でケアハウスを見た」とか「ケアハウスの人が見た初夢」などと無理に句意を拾うのではなく、「私は、「初夢」と「ケアハウス」の取り合わせのイメージを味わいたい。
ぼんやりとした「初夢」に「茜」色のイメージがよく合っているし、「茜」色に染まる具体的な「ケアハウス」は、日常の風景の中の非日常的な瞬間を見事に提示しており、風景としても美しい。
「初夢」にぼんやりかぶさる「茜」色は「期待感・明るさのイメージ」をうまく引き出しているし、高齢者が余生を過ごしている「茜にそまるケアハウス」は、「人生の憂楽のまざった複雑なイメージや心情」を上手く伝えている。
句の奥には、期待感や明るさだけではなく、人生の憂楽やすべてを包み込む大いなる宇宙意志のようなものまでもが感じとれてきて、共感を誘う。
よくハンバーグなどの料理で卵などが「つなぎ(接着剤のような機能)」として使われたりするが、この句においては、上記のように「茜」がさまざまなイメージを引き込みつつも、つかずはなれず詩情の調和を保つ「つなぎ」のような役割を果たしていて見事である。
「茜に染まる」は作者の実感そのものなのであるが、説明せず余計なことをいわず実感を素直に表現したことが成功している。
また、「初夢」という明るく期待感あると方向性のことなる「ケアハウス」を取り合わせているところもうまい。
例えばこれが「初夢や茜に染まる幼稚園」など、初夢の期待感と子どもたちの将来性を重ねみた句とすれば、宇宙はいろいるな調和で成り立っているのに、「期待感」「将来性」という同じ方向のイメージの取り合わせで、詩情が大変浅くなってしまっているところを感じてみてほしい。
命や人生を上手く詠み込んだ一句です。
入賞おめでとうございます!次回もせひご応募ください!
<作句のポイント>
相反するモノを取りあわせるとき、つなぎとなるイメージをうまく取り込む(この句の場合「茜」色)

「初夢や後ろ姿の妻香る」
(ペンネーム「雅さん」さん 54歳)

「寝る直前まで台所でおせち料理を作っていた妻の後ろ姿がそのまま夢に現れた実体験を詠んだ句」とのこと。
この句のポイントは「や」の切れ字。
作者の句意にこだわるのであれば、「夢の中の妻」ととれるように、「切れ字」を使わず、「初夢の後ろ姿の妻香る」とするほうがよいのであるが、それではいかにも味がないと感じられたのか、「や」をチョイスされているところに詩心の豊かさを感じる。
このほうが、「初夢」の中の「妻」を詠んでいるとも、「初夢」から覚めた目の前の「妻」が「女性的な魅力を放っていた」様子を詠んだ句とも両方に解釈できて、断然味わい深い。
俳句は「宇宙と一体となる術」なので、その短さを生かして宇宙をとらえるために、意味にとらわれず、よりイメージが広がるように詠む方がよいのである。
また、「初夢」に「妻」を美しく重ね見たり、「後ろ姿」「香る」などの表現もしゃれている。
新年そうそう妻ととも過ごせる喜びを上手く伝えていて、共感を誘う。
妻への愛を素直に詠んだ一句でした。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください!
<作句のポイント>
意味にとらわれず、よりイメージが広がるように詠む。

入選句

特選

・初夢の続く新聞休刊日(ペンネーム「かつたろー。」さん 41歳)
→全体の姿はよいのであるが、「休刊日」という出来事をよんだコト句で浅くなった。「初夢の運ばれてゆく新聞紙」など。
・初夢やシルクロードを渡る象(ペンネーム「角森」さん 48歳)
→美しい景色が印象的だが、どうも実感がともなっておらず、月並みというか類想がありそうなところがおしい。「初夢やゆっくり進む象の群れ」など。
・初夢や涙の跡残りし夜具(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
→美しい雰囲気であるが、破調が作為的であることと、宇宙は広いのに夢・涙・夜具すべてベットの上の出来事で世界が狭くなってしまったことが惜しい。「初夢の窓にはりつく涙かな」など。
・初夢や月の山河を駱駝行く(ペンネーム「ベルまま」さん 56歳)
→宇宙流で大きく詠もうとされている姿勢は好感がもてるが、少し観念的で惜しかった。
・初夢や蒼天を飛ぶ日本地図(ペンネーム「浜崎」さん)
→宇宙流を意識した大きな句でなかなかであったが、夢・天、天・飛ぶなどイメージの重なりで少し説明的なところが惜しかった。「初夢や日本地図の深き空」など。
・初夢や赤富士赤ヘル赤児たち(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
→初夢にかけて縁起がいいし、カープや赤子に希望や思いを託してうまい。しかしやはり、イメージしなくともすぐに共感できるということは詩としての深さがないということで惜しい。俳句にTPOがあるとすれば、これほど新年にふさわしい句はないという意味であげておく。
・初夢の俳句道場一途なる(ペンネーム「ありんす」さん)
この句も、先の句と同様、俳句にTPOがあるとすれば、これほどふさわしい句はないという意味で、例外的にあげておく。

入選

・初夢のあとのシーツの冷たさよ(ペンネーム「緑雨」さん 17歳)
→「冷たい」という出来事を詠んでいるコト句なので浅く残念。「よ」が重たく作為的。コト句は、出来事に共感できる人には伝わるが、できない人には伝わらないし、出来事が理解できればそれ以上の詩の奥の世界に潜り込めないので何を詠んでもとにかく浅い。それを詩にもっていこうとすると言葉を飾ったり倒置を使ったり気の利いた言い回しをしたくなるので注意が必要である。よって俳句のような短い詩型ではモノに託して象徴的に詠む方がよいのである。同じような素材でも「初夢のつづく冷たきシーツかな」などとモノ句の方向で詠む方が読者には入り込みやすいと思うのだが如何。
・初夢やギター片手に一休み(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 41歳)
→「初夢」と「ギター」はわるくない取り合わせだが、「一休み」が言い過ぎで「一休みしたという出来事を詠んだコト句になってしまって浅く残念。「初夢の捨てられているギターかな」など。素材を生かして詠み直したい。また句は人にに見せる前に5句程度に絞って出すようにしたい。それも勉強である。
・初夢や唇蒼き麒麟かな(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 44歳)
→「や」「かな」の切れ字が二つあるなどは細かいところ。俳句で広い宇宙をとらえるためには、イメージが重ならないほうがいいのであるが、想像上の動物の「麒麟」と抽象的な「初夢」ではイメージが近すぎるところを気にしてほしい。「初夢をキリンの舌の長さかな」など。
・初夢や曇りガラスに指なぞり(ペンネーム「はぎまる」さん 46歳)
→素材はよさそうだが、「なぞり」などというものだから出来事の句になり浅かった。「初夢の曇りガラスの手紋かな」など、しっかりモノに託して詠んでみたい。
・初夢や多島に迷うカモメかな(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 50歳)
→「初夢」と「カモメ」の取り合わせは合いそうだが、宇宙は広いのに、多・迷う、島・カモメ、などイメージが重なった分スケールが狭くなったのが惜しい「初夢のニューロンきしむカモメかな」など。
・初夢や最終夜行バスの中(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→詩的なのだが、「バスの中」であるコトを詠んだ出来事の句なので浅く惜しい。イメージのふくらむモノ句にしたい。「初夢の駆け出してゆく夜行バス」など。
・初夢やアンドロメダを股にかけ(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
→宇宙流を意識した句で壮大なのだが、「股にかけた」という出来事を詠んだコト句なので浅く惜しい。「初夢のもつるるアンドロメダ銀河」などモノを据えて詠みたい。
・初夢の舞台に飛び込む妻の声(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
→初夢を(みている)舞台に妻の声が飛び込む、という説明・出来事の句で浅く惜しい。入賞句に同じく妻を詠んだ句があるが、モノに託して詠むようにすると一気に深みがでてくる。
・初夢の日記綴りて傘寿かな(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→「~して~になった」と説明してしまって残念。説明ではなくモノをしっかり提示して詠みたい。「初夢の日記重たき傘寿かな」など。また句は人にに見せる前に5句程度に絞って出すようにしたい。それも勉強である。
・初夢の朝のカフェオレくるくると(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→雰囲気のよく出た句で風景も新鮮だが、読みが少し甘いのが惜しい。「カフェオレの渦震えだす夢はじめ」などと整えたい。
・初夢にカ舞吼カープの滝登り(ペンネーム「まさ」さん 76歳)
→「に」とすると説明的になるので、せめて「初夢や」としたい。
・初夢や社交ダンスの三拍子(ペンネーム「クトシのばーば」さん)
→「三拍子」が少し安易で惜しい。「足の音」くらいか。
・空見上げ初夢めぐる鯉心(ペンネーム「ももじろう」さん 34歳)
→「見上げ」というと説明的になるので、せめて「初夢の空かけのぼる鯉心」くらいか。
・夢の中出逢った頃の君と僕(ペンネーム「ひらけ!ごまだれ」さん 36歳)
→「初夢」がお題なので、上五はせめて「初夢や」くらいにしたい。
・初夢や白い天井目は真っ赤(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→よく伝わらないのが惜しい。「初夢の天井白き口の中」など、素材を生かして詠み直したい。目と夢はイメージが近いので口にかえた。
・初夢に指先踊る恋成就(ペンネーム「つっくん」さん 38歳)
→下五は言い過ぎ。「初夢やちらつく君の指の先」くらいか。
・初夢はつけっぱなしの笑い声(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 46歳)
→素直に「初夢の迫ってきたる笑顔かな」などのほうがよさそう。
・初夢や回文枕に子を想う(ペンネーム「ひらめ」さん 49歳)
→「想う」という出来事をのべたコト句なので浅く惜しい。「初夢のやわらかなりし子の背中」など、モノ句にもっていきたい。
・初夢に願いを込めて日本一(ペンネーム「おだわらひろし」さん 52歳)
→気持ちはよくわかるが詠みが甘く惜しい。「日本一目指すカープや夢はじめ」など。
・初夢を秘めて凡事やあほきそら(ペンネーム「そら」さん 56歳)
→工夫しておられるが盛り込み過ぎでよく伝わらない。「初夢に秘めし願いや空の青」など。また歴史的仮名遣いを用いる必然性はないので現代仮名遣いで書くことをお勧めする。
・初夢にまだ見ぬ孫の寝息かな(ペンネーム「ハチベー」さん 63歳)
→言いたいことはわかるのだが、いいたいことでいい句は詠めないので惜しい。再考が必要。
・初夢やほどほどが良し三なすび(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→説明はしないほうがよい。「初夢」「なすび」はつきすぎなので、再考が必要。
・初夢や切なき余韻なぞりをり(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→雰囲気は出ているのだが、「初夢」も「余韻」も抽象的なので、具体的なモノと取りあわせたい。「初夢の覚めつつありて指の先」など
・初夢や五人の孫と月旅行(ペンネーム「あしながおじさん」さん 71歳)
→素直な詠み方で好感がもてるが、旅行したという出来事をのべたコト句で浅く惜しい。「月面に孫の集える夢はじめ」などか。
・初夢や月への移住着々と(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)
→雰囲気は出ているのだが、「着々と準備しているという出来事」をのべたコト句で浅く惜しい。
・初夢や考妣が三和土にて笑顔(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→雰囲気はでているのであるが、尻切れトンボのような詠み方と、宇宙は広いのに家の中だけの飛躍であったのが残念。
・初夢やのらねこたちと夢語る(ペンネーム「叙菜」さん)
→素直な句で実感が伴っているのがよいが詠みが甘いのが惜しい。初夢や
・川の字にバンザイの犬初の夢(ペンネーム「笑いぐま」さん)
→少し詠みが甘いところが惜しいがこの方向で。「川の字に並べる犬や夢はじめ」など。

選者詠:谷村秀格

・四万十の空の匂いや夢はじめ
・初夢や隅の欠けたる曼荼羅図
・初夢の男漕ぎだす洗面器

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2016年12月20日(火)

第32回 お題「クリスマス(聖夜)」(選と評 谷村秀格先生)
総評

お題は「クリスマス」でレベルが高かった。
はからずとも、入賞三句は下五がみな「聖夜かな」となってしまったのであるが、大賞句は「詩的真実」、入賞句は「生命への感動」と「女性の繊細な心理」という引っ張ってきている世界は多様。
共通していることは「自分の実感・発見」をしっかり詠んでいるということであった。
大小や内外などの対比で詠んでも「宇宙流」らしき句にはなるが、ただ取りあわせただけの句では、根なし草の「宇宙流」。
自身の「実感・発見・衝動」が伴ってこそ、本物の「宇宙流」俳句である。

さて、年内の「俳句道場」はこれが最後となりました。
今年は、いわば『宇宙流の俳句観』について、周知とご理解をいただいた年でした。
来年は、皆さまのさらにのびやかな『宇宙流俳句』と、入賞10回での「広島俳句名人」の誕生を期待しています。
忙しい中ご投句いただいた皆様、ご覧いただいた皆様、ありがとうございました。
心より感謝を申し上げます。
来年も谷村秀格のテレビ派『俳句道場』を御覧くださいますようにお願い申し上げます。
どうぞよい年をお迎え下さい。

大賞

「配送車路地駆けめぐる聖夜かな」(ペンネーム「ヒロリン」さん 68歳)

「聖夜の配送車を詠んだところでそれがどうした。なぜ詩なのだ」という方もおられよう。
しかし何度も申し上げているとおり、句において大切なのは句からイメージされる世界であり、句の表面は、あくまで句の奥の世界(イメージ)への扉でしかない。
クリスマスツリーのように句の表面を飾りたてたところで、それ以上の詩情がなければ浅い句であり、句の表面が平凡であっても、句の奥の世界がイメージ豊かであれば、味わい深い句となるのである。
作者は「クリスマスムードで皆が楽しむ中、一生懸命仕事する配送車への感謝を詠んだ」という。
「聖夜」に、普通目に留まりそうもない「配送車」を選択したところに、作者の偽りない実感がこもっているし、結果として「聖夜」のイメージから離れた「配送車」が取りあわさったことで、宇宙を広くつかんだ「宇宙流」の句にもなった。
また、俳句は短く「感謝の気持ち」など言いたいことは盛り込めないのであるが、「路地駆け巡る」というせわしない動的な様子と、静的な「聖夜」を対比させた景色を提示することによって、暗に「働いている人もいる」→「ありがとう」という思いを伝えんとしているところも見事。
作者の句意に依らずとも、「聖夜」という神秘的・非日常的・静的な時空の下での灯りの点滅と、路地を忙しく巡る「配送車」の停車と発進を繰りかえす動きの様子を重ね見たダブルイメージの句としても上手いし、「聖夜」の街で発信と停止を繰りかえす配送車は、街の血液のようでもあり、非生命体であるはずの街に生命が宿っているようにも感じられてきて、その「詩的真実」が共感を誘う。
句の表面はいたって平凡であるが、象徴的でさまざまに解釈できるよい句でした。
大賞おめでとうございます。
<作句のポイント>
気持ちや言いたいことは句に取り込まず、モノに託す。

入賞

「乳飲み子の握り返す指聖夜かな」
(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)

選句をしていて感じるのは、自身の実感や発見のない句は弱いということ。
俳句は言葉の世界ではないから、頭や理屈で作ってはいけない。
この句、何より自身の実感ある世界を思い切って詠んであるところがよい。
実感があるということは、それだけ対象とひとつになっているということであり、宇宙を一体となっているということでもある。
中七の字余りがあまりにもリズムやひびきが悪いが、その点を指摘されることをおそれず、自身のたしかな実感を信じて投句したその判断、それを大いに評価したい。
図らず、やむを得ず、字余りになってしまうところが字余りの価値なのであって、言葉のリズムを整えるためとか、韻を踏むためあえて破調にするというようなことはあってはならない。
すくなくとも無意識からの衝動を大切にする「宇宙流の俳句観」ではそのような小手先のテクニック・言葉のテクニックは受け付けない。
作者によれば、聖夜、寝ている赤子の手にそっと指を差し入れたとき、握り返してくるその力強さを詠んだ句という。
聖夜という、神聖なイメージが重なりあうことで、句の背後に、生命の神秘性や連続性、命への感動・感激のようなものが伝わってきて共感を誘う。
実感を見事に詠み込んだ一句です。
入賞おめでとうございます。
<作句のポイント>
言葉の美ではなく、とにかく実感を大切に作句する。

「シャンプーの残り少なき聖夜かな」
(ペンネーム「緑雨」さん 17歳)

入賞経験豊かな若い作者。
このところ句の表面の小手先の言葉の美や作為に溺れ入賞を逃してきたが、今回はしっかり実感・発見・衝動あるモノの世界を詠み込んできて久しぶりの入賞となった。
私からの過去の苦言を教訓に精進してくれたようでその進歩をうれしく思う。
俳句はネオンに彩られた街路樹のような美ではなく、盆栽のようにそのモノの存在を通じて自然や宇宙をイメージさせる世界に近い。
少なくとも私の俳句観はそうで、だからこそ「宇宙流」なのである。
この句のよさは、「残り少なき」という自身の実感・発見をしっかり詠み込んでいること。
人によっては「残り少なき」という出来コトを述べたコト句だという方もおられるかもしれないが、それは文法的・国語的・理性的な解釈であって、詩的解釈ではない。
たしかに「シャンプーの残り少なき大晦日」などとすると、「少ない」というコトが全面に出てきた「コト句」になりイメージが広がらず浅い。
しかしこの句の場合は、女性にとって特別な日でもある「聖夜」だからこそ、「シャンプーの残り少なき」に象徴された微妙な心理が豊かな詩情となって迫ってくるわけで、モノの力の生きた象徴的なモノ句と解釈したい。
その女性心理は、切なさか寂しさか期待感か、句が象徴的である分、句の奥の解釈は読者の手にゆだねられ広がってゆくが、どの解釈によってもドラマ性ストーリー性が感じられ、感情移入でき美しい。
「聖夜」という大きな時空と「シャンプー」という身近な小さいモノの「大小の対比」によって宇宙の壮大さを象徴的にとらえた宇宙流の句にもなっている。
女性心理をモノに託して詠んだよい句です。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
モノのディテール(発見)を大切にする。

入選句

特選

・若き父窓に重なるクリスマス(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→「若き父親が「窓に映ったという景色だが、余計なことを言わず、心に留まった景色を詠んでいてよい。この方向で。次回もぜひ挑戦を!
・クリスマス空席のあるうどん店(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→モノに託した詠み方で好感がもてる。「クリスマス」と「うどん店」の対比も意外性があるが、少し離れすぎの印象で惜しかった。
・クリスマス縁側狭し世界地図(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)
→「クリスマス」と「世界地図」の取り合わせは少し近いが悪くない。しかし「狭し」が説明でよくなかった。ポイントを絞りたい。類句があるかもしれないが「クリスマス広げられたる世界地図」などのほうが自然でよさそう。
・海照らしくるカードやクリスマス(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→雰囲気はよくでているし、海とクリスマスの取り合わせの調和もいいし世界もひろい。ただし上五が少し観念的で惜しい。「クリスマスポストカードの海の色」など、クリスマスと海を生かして詠み直したい。
・旅先でふと足湯する聖夜かな(ペンネーム「かつたろー。」さん 40歳)
→「聖夜」のイメージから離れた「足湯」の取り合わせが面白い。しかし「旅先」と「足湯」はイメージの重なりで惜しい。「足湯する足にはりつく聖夜かな」など、意外性を盛り込んで解決したい。
・犬小屋にそそぐホワイトクリスマス(ペンネーム「角森」さん 48歳)
→雰囲気のいい句。しかし「そそぐ」「ホワイトクリスマス」は雪降るイメージでつきすぎ。そこをなんとかしたかった。
・クリスマスローズ窓辺の娘たち(ペンネーム「カープ女子 黒ちゃん」さん 50歳)
→これも雰囲気のよい句だが、やはり「クリスマスローズ」と「窓辺」はつきすぎ。つきすぎだが「クリスマスローズもたれる窓ガラス」あたりならなんとかなりそう。
・クリスマス屋根裏にそっとチーズ片(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→全体的には象徴性があっていいのだが、「そっと」が出来コトの世界でいけない。言いたいことは句にならない。せめて「クリスマス屋根裏部屋のチーズ片」など、出来事ではなく景色にしたい。
・オハイオへ送る数の子イブの空(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
→実感がよく出ている好句なのだが、盛り込み過ぎでコト句の雰囲気になったのが残念。
・レジ打ちの衣装色付くクリスマス(ペンネーム「雅」さん 53歳)
→発見を上手く句にしているが「色づく」と「クリスマス」が付きすぎで惜しい。「レジ打ちの制服軽きクリスマス」など。
・ワンホール口いっぱいのクリスマス(ペンネーム「きいたん」さん 67歳)
→実感を素直に詠んでいて好感がもてる。私の感覚では中七下五がユニークなので、上五を食べ物以外の別のモノにしたい。「天井や口いっぱいのクリスマス」など。このほうが象徴的になる。
・電飾の灯る地球やクリスマス(ペンネーム「呑田」さん 69歳)
→宇宙流の方向へのチャレンジでかつ上手く詠んでいるがどこか作為的なところが惜しい。「地球」が安易というかやりすぎか。「電飾をまとう地軸やクリスマス」くらいのほうが作為なく自然な印象。
・ゆるキャラの反りの激しきクリスマス(ペンネーム「みなと」さん 74歳)
→発見を詠んでいて好感がもてる。ただし「反りの激しき」がいまいちよく伝わらないところがず惜しい。

入選

・キャンドルの奥に輝くプレゼント(ペンネーム「かぶきもの」さん 29歳)
→お題がクリスマス(聖夜)なので、もう題に近いところを詠んでほしかった。余計なことを言わずモノや景色で詠もうとしているところはよいのでこの方向で。ただし今回はすべて部屋の中のモノでばかりでスケールが狭かった。「星雲の奥にはりつくクリスマス」など。宇宙は広いので大きく詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・降り積もる雪が綺麗なクリスマス(ペンネーム「詩人たこらいす」さん 41歳)
→どうもこの方は「綺麗だ」とか直接言いすぎる。それを改めることがレベルアップのポイント。モノに託して詠みたい。
・まるい空菩薩微笑むクリスマス(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 46歳)
→作為が先行していて惜しい。「クリスマス杖の折れたる地蔵かな」など。作為なく句にしたい。
・指揮棒のオーロラ紡ぐクリスマス(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→雰囲気はよいのだが中七が観念的で惜しい。「指揮棒の空に食い込む聖夜かな」など。
・ゴム長を1つ抱えてクリスマス(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→「ゴム」である必然性がよくわからないのが惜しい。少しつきすぎだが「長靴の少し増えたるクリスマス」くらいか。
・大三角ビルの谷間のクリスマス(ペンネーム「ヨシ整体」さん 58歳)
→雰囲気よい句だが「大三角」が伝わらない。「クリスマスビルの谷間の星座かな」など素直に詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・雑踏に踏まれるかみの聖夜かな(ペンネーム「ハイカー」さん 59歳)
→「かみ」が何をさしているのか、「踏まれる」のかよくつたわらない。再考が必要かも。
・クリスマス夜空と見紛ふ翁山(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)
→「見紛ふ」が直接的で惜しい。出来コトの句になる。また固有名詞はわかる人にしかわからないので注意が必要。次回もぜひ挑戦を!
・もれ聞こゆミサの調べやイヴ夜空(ペンネーム「おちえもん」さん 69歳)
→雰囲気はよいのだが、「もれ聞こゆ」→「ミサ」など全体が平凡なのが惜しい。独自の発見を詠み込みたい。次回もぜひ挑戦を!
・クリスマスイヴに届くやプロポーズ(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→全体的につきすぎでおしい。素材からの再考が必要。
・聖夜祭私小説めく遠灯影(ペンネーム「藤後」さん 81歳)
→詩情は句の表面(言葉)ではなく、句からイメージされる世界に置きたい。「私小説読み返したる聖夜かな」などと素直に詠みたい。次回もぜひ挑戦を!
・クリスマスコンビニケーキのピースサイン
→下五が発見なのだがそれを入れると詠みが甘くなるので避けたい。まだ「コンビニに並ぶケーキやクリスマス」などのほうがいいのでは。次回もぜひ挑戦を!
・聖夜降る白雪如し子の心(ペンネーム「桜雨」さん 16歳)
→盛り込み過ぎで惜しい。「聖夜」の存在感も薄い。「少年の心室広き聖夜かな」などモノに託したい。次回もぜひ挑戦を!
・クリスマス寒空澄ます冬雀(ペンネーム「みささぎ」さん 20歳)
→「クリスマス」「冬雀」「寒空」の季重なりよりも、「澄ます」が伝わらないところが惜しい。「クリスマスすきとおりたる空のいろ」など。次回もぜひ挑戦を!
・親思い 一人で過ごす聖夜かな(ペンネーム「もえ」さん 21歳)
→俳句では思いはよみこめないのでモノに象徴させたい。「両親の写真みている聖夜かな」など。次回もぜひ挑戦を!
・まだかなと雪と気持ちの積もるイウ゛(ペンネーム「つっくん」さん 38歳)
→俳句は直接表現しないほうがよい。モノに託したい。「雪のいろたしかめている聖夜かな」など。次回もぜひ挑戦を!
・クリスマス夜景と喧嘩するつもり(ペンネーム「夏川ゆう」さん 40歳)
→世の中にはたしかに尻切れトンボのような下五の句も多いのであるが、私見では切れが感じられずモヤモヤ感だけが残りすっきりしない。まだ「クリスマス喧嘩している夜景かな」のほうがよい。
・夜明けて魔法の消えるクリスマス(ペンネーム「はぎまる」さん 46歳)
→出来事の句で浅いのが惜しい。「魔法陣忘れられたるクリスマス」などなんとかモノに託したい。
・一光り寝顔3つのクリスマス(ペンネーム「あやまこみち」さん 48歳)
→伝わらないのが惜しい。素直に「子供等の寝顔の並ぶ聖夜かな」などのほうがよい。
・クリスマスオーロラ降りそぐ孫囲む(ペンネーム「モーリー」さん 63歳)
→どうも抽象的なのが惜しい。整理すると「クリスマス孫にオーロラ降り注ぐ」となるが、どうも月並みなので素材から変えたほうがよさそう。次回もぜひ挑戦を!
・緯度違い水着姿のクリスマス(ペンネーム「aniesu」さん 67歳)
→理屈で作った句で惜しい。無意識で作為なく作りたい。次回もぜひ挑戦を!
・世は騒ぐ孤独男のクリスマス(ペンネーム「リュー」さん 67歳)
→言いたいことは句にならないので上五は不要。とすれば「クリスマス一人で過ごす男かな」などとなるが平凡なので素材から再考が必要。
・クリスマス原爆ドームにLED(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
→「LED」があるというコトを詠んだコト句になるのが惜しい。「クリスマス口開く原爆ド-ムかな」くらいか。

選者詠:谷村秀格

・RHマイナスバイク駆け込むクリスマス
・泣きやまぬ獣の骨やクリスマス
・新幹線伸びきっているクリスマス

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2016年12月13日(火)

第31回 お題「冬眠」(選と評 谷村秀格先生)
総評

光栄なことに教育委員会や小学校などからのご依頼で、俳句の授業に伺わせていただくことがある。
そこでお話しさせていただくとき、私はよく句を料理に例える。
そのポイントを紹介してみるので、作句・鑑賞の参考にしていただければ幸いである。

<俳句とは>
→宇宙と一体となる芸術

「器と料理の関係」
・器→季語・定型・切れ(理性)
・料理→詩情・イメージ(感性)
※俳句で大事なのは「料理(詩情)」、皿が重なっていようが欠けてようが問題ない。
「調理(作句)」
・動機→衝動・実感(大切)
・目指す味→モノの本質を引き出す活かす。宇宙を感じる。詩情がある。
・材料→モノ(一つもしくは複数)
・調理→フレーズの変容(意外性)
※俳句はモノの世界(無作為)であり、言葉や文法をあやつる世界(作為)ではない。
「食べる(鑑賞)」
・読む・味わう・感じる(感性)
「おいしい料理」
※モノA×モノB=X(エックス)。モノA・Bの味を超越した味わいX。イメージの広がり。
・共感。宇宙と一体となる。味わい深い、調和がとれている、オリジナル、詩情がある。
「まずい料理」
※モノA+モノB=AB。モノA・Bの味がそのまま残っている。
・非共感。ありきたり。モノが生のまま。味が浅い、バランスが悪い、平面的、偏り。
「その他」
・心は込めなくとも、モノの選択時に心は働いている。
・季語にだけ力やイメージの広がりがあるのではなく、全てのモノに力やイメージの広がりがある。

今回のお題は少し難しく「冬眠」であった。
大賞句は切り口が面白く、入賞の「衣装ケース」の句は冬眠の季節感を上手く人間生活の中に見出し、「鯨」の句は無意識表現や詩的真実がタブーに勝った一句であった。
特選句は「宇宙流」の句が多かったが、イメージが湧きずらいものなどが多かった。飛躍の塩梅というかバランスのとり方が課題であろう。
入選句は、出来事を詠んだ通称コト句が多く、どうモノに託し象徴的に詠むかが課題であった。
年末で忙しくなってくるが、こういうときこそ投句のチャンス。
思い浮かんだ方は無料なので気軽にチャレンジしてみていただければ幸いである。

大賞

「冬眠の秒読み近し種子島」(ペンネーム「柱時計」さん 73歳)

俳句で宇宙を一瞥でとらえるためには、モノや言葉が働いているほうがいいのであるが、この句もうまく働いている。
ロケットとは一言も述べられていないのであるが、「種子島」「秒読み」でそのイメージを引っ張ってきているところが上手いし、また「秒読み」が「冬眠」とも「種子島から飛び立つロケット」の両方にかかっているで面白い。
「冬眠中」のことを詠んだ句は多いが、冬眠間近のそわそわした空気感を詠み込んだ切り口もユニークである。
句を味わうと、人間たちの叡智の結晶であり多大な予算がかけられたロケットが無事発射できるかどうかのソワソワした様子や、無事に冬が越せるかどうかソワソワしている動物達の様子が思い描かれてくる。
普通の感覚ではロケットの打ち上げと「冬眠」は一切関係のないことなのであるが、句の奥でリンクしているかのように感じられてくるところが見事。
それがこの句の「詩的真実」なのである。
人間も自然の一部であることを感じさせる一句です。
大賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
中七を上五下五に働かせる。

入賞

「冬眠の鯨連なる北極海」
(ペンネーム「ひなじいさん」さん 62歳)

壮大な光景と非日常感が迫ってくる一句。
「冬眠」「鯨(冬の季語)」「北極海」と ひどく冷たいイメージばかりが重なっているようであるが、作為なく無意識のまま詠んであるので、句の表面の世界から句の奥のイメージの世界にスーと入っていけ、句の表面のごたごたしたとことが気にならない不思議な句である。
「冬眠」に「北極海」という国外の場所をぶつけた「切り句」から生じる非日常感や、「冬眠」しないはずの「鯨」が「冬眠」している「詩的真実」を詠み込んでいるところも上手い。
この句、意味がどうこうというのではなく、このありそうでないような、なさそうであるような風景から連想される日常と非日常の二つ空間の存在がもたらすスケール感のようなものを純粋に味わいたい。
私の言葉に「芸術家とは日常世界と非日常世界を旅し、旅させることのできる人のことを言う」というのがあるが、そのような印象の句である。
無意識からの表現が光った一句でした。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
ぱっと浮かんだことや「詩的真実」を大事にする。

「冬眠や衣装ケースの底に闇」
(ペンネーム「かつたろー。」さん 40歳)

冬の服を取り出すためかなにかで、衣装ケースの底をみたとき、浮かんだ句であろう。
余計なことをいわず、実感のよくともなった自然体の句で共感できる。
俳句(宇宙流)というものは、宇宙と一体となる芸術なので、一句に宇宙をどう象徴させるかが大事なのであるが、生活空間の中の「衣装ケース」の「底」と、自然界の大きな時空としての「冬眠」の取り合わせ(小大、内外)で、感覚的に宇宙の壮大さを伝えているところが上手い。
「冬眠」と「底の闇」がややつきすぎ(イメージの重なり)のようでもあるが、この句の場合、その分句がよい意味でイメージが伝わりやすくなっているともいえる。
ただし「底に闇」とすると「底に闇があるというコト」というコト句の方向に行きやすくなるので、ここはしっかりモノに託して「底の闇」としておきたい。
人間生活と自然界をうまく詠み込んだ一句でした。
入賞おめでとうございます。次回もぜひご応募ください。
<作句のポイント>
抽象的な季語には、具体的なモノを取りあわせ、イメージのとっかかりをつくる。

入選句

特選

・冬眠す築き始めたピラミッド(ペンネーム「あや」さん 48歳)
→「冬眠」は静止のイメージでるが、「築き始めた」という動的なイメージを取り込もうとしているところがよい。しかしこの句の場合、「冬眠」に「築く」・「ピラミッド」は少し飛躍しすぎた。宇宙流はテクニックで言えば、大小、内外、日常非日常の対比の側面もあるが、そのバランスが難しい。テクニックよりもまずは実感ある世界を心掛けていただきたいと願う。
・冬眠や柱時計の子守歌(ペンネーム「角森」さん 48歳)
→素直な詠みぶりでよい。この句は少し月並みで残念であるがこの方向でいいのである。無理に変わったことを詠もうとするのではなく実感ある世界を表現してゆく先に、いい句は生まれてくると心得ていただければと願う。
・胸奥に冬眠しおり青い鳥(ペンネーム「モリババと40人の盗賊」さん 51歳)
→「青い鳥」の童話、すなわち幸せが近くにあるという話のイメージが強く、それをなぞった句に取られてしまって大変不利であった。その童話さえなければなかなか詠みの上手い句なのであるが、芸術なのでオリジナルの世界を詠んでいただくことを願う。
・シリウスの唄に微睡む冬篭り(ペンネーム「ハチベー」さん 63歳)
→なかなか自然体で上手い句であるが、シリウスと冬篭りが冬のイメージ、微睡むがどうも暖かい季節のイメージで少しちぐはぐな印象で惜しい。そこを研究していただきたい。
・野良仕事終えし農機具冬眠す(ペンネーム「匿名じいさん」さん 71歳)
→素直にモノに託して詠んだ句でよい。ただし「野良仕事終えし」は「農機具冬眠す」のイメージに収斂されるのでいわずもがななところが惜しかった。もうすこし農機具そのものをディテールなどを詠み込みたい。「農機具の腹やわらかに冬眠す」など。
・冬眠や古代ギリシャの海平ら(ペンネーム「ありんす」さん 81歳)
→宇宙流を意識した句。この句もピラミッドの句と同じで飛躍しずぎでイメージの世界のバランスが崩れているのが惜しい。作者は神話をイメージしていたようであるが、まだ「冬眠やギリシャ神話の海の色」などのほうがイメージが湧きやすい。
・冬眠やトランプさんの眉上がる(ペンネーム「ギザギザ仮面」さん 44歳)
→この句も飛躍を試みている姿は買うが、飛躍のしずぎでイメージ沸きづらく惜しい。また固有名詞は分かる範囲の人ににか通じないので使い方は注意されたい。
・冬眠や友は笑って退院す(ペンネーム「大福ママ」さん 52歳)
→切り口が上手い。冬眠という静止に向かう季節感と退院という躍動に向かう友人との対比。おしいのはどうも月並みであったことと、出来事を詠んでしまったこと。「冬眠や退院したる友の顔」などモノ句にもっていって象徴的に詠みたい。
・冬眠の蛇足軽き山ガール(ペンネーム「パラパラ」さん 70歳)
→「冬眠」「蛇」であるが、「蛇穴に入る」という季語があるので惜しい。「蛇穴に入る足軽き山ガール」など。次回も挑戦を!
・フォッサマグナの真ん中に冬眠す(ペンネーム「浜崎」さん 71歳)
→フォッサマグナは東日本と西日本の境目となる地帯で中央地溝帯とも呼ばれるところ。宇宙流を意識された句でうれしいが、出来コトの句になってしまって惜しい。「冬眠やフォッサマグナの街の音」など。次回も挑戦を!
・冬眠の畑の柵の破れかな(ペンネーム「うり・ぴーまま」さん 68歳)
→素材が月並みなのが惜しいが、余計なことをいわずモノに託して詠んだ句でこれでよい。このような句の地平にいい句が見えてくるのである。実感を大切にしたい。

入選

・血液に星の光や冬眠す(ペンネーム「緑雨」さん 17歳)
→前回はモノによく即した句でよかったが、今回はまた句の表面を飾ってしまって残念。俳句は盆栽に近い世界なので、クリスマスツリーのように木を直接飾ってはよくないのである。その煌きはイメージされる世界に置くようにしたい。「血液のところどころや冬眠す」などのように詠む方がイメージがよくわくと思うのだが如何。
・冬眠ちゅう奏でた恋は“F”まで(ペンネーム「普通にありちゃんが好っきー」さん 46歳)
→この句も工夫されているのだが、前の句のように言葉を飾ってしまっていて残念。やはり出来コトの句なのでモノ句にして象徴的に詠みたい。「冬眠の這い出してゆくアリアかな」など。
・冬眠の蛙川には星の群(ペンネーム「一斤染乃」さん 53歳)
→文法的にはモノ句のようであるがコト句で浅いのが惜しい。「冬眠の続いておりし星の群れ」など。
・古時計冬眠開始高らかに(ペンネーム「雅」さん 53歳)
→これも告げたというコトを詠んだ出来コト句で浅い。添削だろうが改作だろうがモノに象徴させたい。「冬眠や顔の重たき古時計」など。
・冬眠や栗鼠の直径十センチ(ペンネーム「ハラペコ」さん 56歳)
→10センチであるコトを述べたコト句で惜しい。とにかくコト句というのは、そういうコトかとわかればそれ以上にイメージが広がらないので浅い。恋を詠もうが平和を詠もうが自然を詠もうが子供を詠もうがとにかく出来コトの句であれば一律浅い。モノ句にもっていって象徴的に詠みたい。
・冬眠の始まる空透き通り(ペンネーム「蒼そら」さん 56歳)
→切り口が上手い句だが、下五が流れた。「冬眠の始まる空の匂いかな」などしっかりと詠みたい。次回も挑戦を!
・はるかなるオランダの地に恋の冬眠(ペンネーム「グラングラン」さん 68歳)
→「オランダ」は「はるか」なので言わずもがな。「オランダ」と「冬眠」で句になれば面白い。
・冬眠や枯れ枝歌う子守歌(ペンネーム「水彩少年」さん 70歳)
→中七は少し無理がる感じだし、上五と下五もイメージがだぶっている様子。宇宙流をテクニックと考えず、自分の実感を詠んでみるところから始めることが大事である。それが何よりも勝る。
・冬眠や親熊聞きたる子のいびき(ペンネーム「みささぎ」さん 20歳)
→この度はすべて冬眠周辺の素材で宇宙が狭くなったのが惜しいが、心象風景を素直に句にしていてよい。若い作者であるがこの方向を期待したい。上手いこと言おうとか言葉をキレイに使おうとか考えないこと。次回も挑戦を!
・冬眠はしないが脂肪を蓄える(ペンネーム「米が好き」さん 24歳)
→これは理屈の句で惜しい。モノに象徴させてイメージが広がるように詠んでほしい。次回も挑戦を!
・冬眠があけても固い財布紐(ペンネーム「リリーアルビデオ」さん 36歳)
→これも理屈の句で惜しい。モノに象徴させてイメージが広がるように詠んでほしい。「冬眠や折りたたまれし長財布」など、次回も挑戦を!
・冬眠り春の訪れ待ち遠し(ペンネーム「みちゆき」さん 38歳)
→素直であるがすべて「冬眠」のイメージに収斂されるところが惜しい。「冬眠の動き出したる地球かな」などでイメージさせたい。次回も挑戦を!
・雪月夜冬眠始める冬の花(ペンネーム「青い鳥」さん 38歳)
→雰囲気ある句だが、さすがに「雪・夜・冬眠・冬」とイメージが重なりすぎているので、素材から練り直したい。次回も挑戦を!
・冬眠かゆっくりしたいだめですか(ペンネーム「わた」さん 43歳)
→出来コトの句で残念であるが、不思議と実感が出ていて好感がもてる。全体の解説など参考にして、象徴的なモノ句の方向へシフトしてほしい。次回も挑戦を!
・受験生なのに我が子は冬眠中(ペンネーム「ナマケモノ」さん 50歳)
→面白いが出来コトの句で惜しい。言いたいことは俳句にならない。全体の解説など参考にして、象徴的なモノ句の方向へシフトしてほしい。次回も挑戦を!
・冬眠を決め込む母よ浮寝鳥(ペンネーム「蓮子」さん 55歳)
→面白いが出来コトの句で惜しい。言いたいことは俳句にならない。全体の解説など参考にして、象徴的なモノ句の方向へシフトしてほしい。次回も挑戦を!
・酔っ払い午前さんには妻冬眠(ペンネーム「モーリー」さん 63歳)
→面白いが出来コトの句でそれ以上にイメージが湧かず惜しい。言いたいことは俳句にならない。全体の解説など参考にして、象徴的なモノ句の方向へシフトしてほしい。次回も挑戦を!
・庭の木々春をこがれて冬ごもり(ペンネーム「みのる」さん 78歳)
→すべて「冬ごもり」のイメージで惜しい。「庭の木の空に広がる冬ごもり」など、句の中に飛躍がほしい。次回も挑戦を!
・戦人銃を取らずに冬眠(ペンネーム「深野」さん 95歳)
→平和の句であれ、恋の句であれ、子供の句であれ、出来コトの句というのはそれ以上にイメージが広がらないので惜しいのである。言いたいことは俳句にならないので、モノをデンと据えて象徴的に詠みたい。「冬眠や重なってゆく銃の音」など。

選者詠:谷村秀格

・冬眠や指のかたちの小銭入れ
・冬眠やざらついている舌の上

入賞入選の皆様おめでとうございます。

放送日:2016年12月6日(火)

第30回 お題「大根」(選と評 谷村秀格先生)
総評

「季重なりは大した問題ではありません。」
「私は俳句の文法というようなものはどこまでも軽蔑します。」
「文法は軽蔑しませんが、特に俳句の文法といってことごとしく論をやる人を軽蔑するのであります。」
これらは、「客観写生」「花鳥諷詠」を提唱したことでも知られる俳句界の巨人、高浜虚子が大正初期に雑誌ホトトギス紙上に「六ヶ月間俳句講義」として連載した中での言葉である。
季重なりについてはもう言わずもがなであろうが、文法なども普通の感覚で考えればよいということである。
私見でも、細かな文法・用法など気にする必要は全くなく、のびのび詠んでいただけたらと考える。
俳句は古文の授業ではないので、その厳密性を順守する必要は全くないし、韻文の俳句に厳密な文法などありそうでないものなのである。
私の句でも文法を指摘されるものもあるが、一句が韻文として詩として立っていることや、そのときのリズムや響き、雰囲気を優先している。
もちろん添削や指導においても例外ではない。

しかし、現代においても、季語や文法について少しでも違和感があろうものなら、鬼の首でもとったかのように言われることは困ったものである。
こういうことが句の本質より優先されてしまうのは、国語の授業の弊害も大きいと思われる。
そもそも俳句は奥深く、鑑賞が難しい。
そこに客観性をもたせようとすると、どうしても「季語は何か、定型か、切れはどこか、文法はどうか」というような、とおりいっぺんの指導しかできない。
それはそれで仕方ないところもあるが、それが多くの人にとって俳句入門を兼ねてしまっているところが問題である。
季語の季節を理解し、文法が理解できる生徒が評価され、句作の動